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エピローグ

Author: 桃口 優
last update Last Updated: 2025-07-01 03:43:25

 プロポーズともとれる言葉を僕が言ってから、六ヶ月後のことだ。

 僕と彼女は、今彼女の荷物が入った段ボール箱を僕の家で一緒に開けている。

 あれからやることがたくさんあって、あっという間に月日が過ぎていった。でも、やっとすべて終わり、同棲を今日から開始することになった。

 まず、彼女のお母さんにたいしては、行政の支援手続きが完了し今後の方針も決まった。

 一度で全ての手続きが済めば楽なのに、行政への相談はかなり時間がかかった。

 でも市役所福祉支援課の担当者に現状を話すと、親身になり様々な提案をしてくれた。

 その結果、彼女のお母さんは障害認定を受け、介護老人施設に行くことになった。所謂『老人ホーム』と呼ばれるところだ。

 彼女はその話を聞いた時、驚いていた。

 今まで当たり前のように一緒に住んでいたのだから、驚くのも無理はないと僕は思った。どんな人でも、突然離れ離れになるとわかると、気持ちは乱れてどうしていいかわからなくなるだろう。

 そして、そこまで病状もひどくないと彼女からは見えていたのだろう。

 でも、担当者の人はただ老人ホームに入れてしまえばいいという考えではなかった。

 その人は認知症の人の介護は長期戦になることが多いと、大変さと家族のすることを具体的にわかりやすく説明してくれた。

 そのように対応してくれたから、彼女はしっかりと支援方法を受け入れ、納得できたのだろう。

 二人っきりで家にずっといると、どうしても外の人と話す機会が少なくなってくる。そうなると考えはどうしても偏ったり、狭くなってくる。客観的な視点が必要だと僕は思い、前に行政に相談しようと彼女に言ったのだ。

 彼女は、定期的にお母さんに会いに行くと言っていた。

 次に彼女の元カレのことは、あのあとすぐに警察に行った。

 彼女は被害届を出し、元カレに接近禁止命令がだされた。

 僕は彼女がどのようなことをされたか警察に話している間ずっと彼女の手を握っていた。

 少しでも支えになればと思い、そばにいた。

 でも、警察に相談しただけでは彼女を守れないと僕はわかっている。

 だから彼女の了解を得てから、彼女のスマホを買い替えて電話番号を変えてもらった。また、今彼女がいる同棲先の住所は誰にも教えなかった。

 さらに元カレが同棲先をなんらかの方法で知り突然押しかけてきたとしても、彼女には絶対に会わせず追
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  • 君を救えるなら、僕は   エピローグ

     プロポーズともとれる言葉を僕が言ってから、六ヶ月後のことだ。 僕と彼女は、今彼女の荷物が入った段ボール箱を僕の家で一緒に開けている。 あれからやることがたくさんあって、あっという間に月日が過ぎていった。でも、やっとすべて終わり、同棲を今日から開始することになった。 まず、彼女のお母さんにたいしては、行政の支援手続きが完了し今後の方針も決まった。 一度で全ての手続きが済めば楽なのに、行政への相談はかなり時間がかかった。 でも市役所福祉支援課の担当者に現状を話すと、親身になり様々な提案をしてくれた。 その結果、彼女のお母さんは障害認定を受け、介護老人施設に行くことになった。所謂『老人ホーム』と呼ばれるところだ。 彼女はその話を聞いた時、驚いていた。 今まで当たり前のように一緒に住んでいたのだから、驚くのも無理はないと僕は思った。どんな人でも、突然離れ離れになるとわかると、気持ちは乱れてどうしていいかわからなくなるだろう。 そして、そこまで病状もひどくないと彼女からは見えていたのだろう。 でも、担当者の人はただ老人ホームに入れてしまえばいいという考えではなかった。 その人は認知症の人の介護は長期戦になることが多いと、大変さと家族のすることを具体的にわかりやすく説明してくれた。 そのように対応してくれたから、彼女はしっかりと支援方法を受け入れ、納得できたのだろう。 二人っきりで家にずっといると、どうしても外の人と話す機会が少なくなってくる。そうなると考えはどうしても偏ったり、狭くなってくる。客観的な視点が必要だと僕は思い、前に行政に相談しようと彼女に言ったのだ。 彼女は、定期的にお母さんに会いに行くと言っていた。 次に彼女の元カレのことは、あのあとすぐに警察に行った。 彼女は被害届を出し、元カレに接近禁止命令がだされた。 僕は彼女がどのようなことをされたか警察に話している間ずっと彼女の手を握っていた。 少しでも支えになればと思い、そばにいた。 でも、警察に相談しただけでは彼女を守れないと僕はわかっている。 だから彼女の了解を得てから、彼女のスマホを買い替えて電話番号を変えてもらった。また、今彼女がいる同棲先の住所は誰にも教えなかった。 さらに元カレが同棲先をなんらかの方法で知り突然押しかけてきたとしても、彼女には絶対に会わせず追

  • 君を救えるなら、僕は   三十章 「君よりも、君のことを」

    「僕は、華菜よりも、華菜のことを大切にし愛するよ」 僕はさっき閃いたことを早速言葉にした。 僕は、言葉にするスピードも前の僕に比べたら早くなったと自分で感じることができた。 もちろん、聞いた相手が嫌な思いをしないかはまずしっかり考える。 でも、華菜についてたくさん考えたことで、スピード感が身についたのかもしれない。 自己成長をしっかり確認できた自分を、心の中で褒めた。自分自身を褒めることは、おかしなことじゃないから。それは、他者だけができることではない。 そして、褒めることのハードルが、多くの人は高すぎる気がする。 小さくても、大きくても、あることができたことに変わりないのにわざわざ褒めない理由を作らなくていいと僕は思う。 一方で、たとえ人を救う力がなくても、『言葉』の力を信じたい気持ちがどうしても僕の心の中にあるようだ。 『自分の考え方や生き方を変えることは、簡単にはできなくてもっと難しいことだよ』と前に彼女が話していたことが、今ならよくわかった。 でも、難しいだけで、できないわけではきっとない。 時間がかかっても、僕は彼女のために変わる。「私よりも??」 彼女を見つめると、少しどういう意味かわかっていない感じをしていた。 まだ僕は順序立てて話すことは、課題が多いようだ。 でも、いつも『完璧』である必要性はないと思った。僕たちは『完璧』でないからこそ、もっと頑張ろうと思えるのではないだろうか。また、足りないところがあるからこそ、人は誰かと補い合いたいと思うのだと思う。それを行動に移すかはその人次第だけど、一度は助けてもらいたいと思ったことがある人がほとんどではないだろうか。「うん。まずは、今更だけど僕は話すのが下手でごめんね。どういう意味かというと、僕が僕に向ける思いや愛情と同じ分だけ、華菜に注ごうと僕は思った。その量には、意味がちゃんとある。まず、自分を愛することをできない人は、愛するということはどんなものかわからなっていないのかもしれない。わからないから他人も愛することができない。一方、自分以上に誰かを愛することは、無理をしていると僕は思った。さらにその思いの大きさに、相手も申し訳なく感じると思う。『愛』を簡単に言葉で表現することはとてもできないと思う。『愛』は、様々な形があるから。きっと正解はない。ただ自分の愛の形を客観的に

  • 君を救えるなら、僕は   二十九章 「僕は、不幸に思わない」

    「華菜がそばにいてくれれば、何が起きても僕は不幸と思わないよ」「私がそばにいれば?」 彼女は、手を口にあてていた。 驚くことを僕はわかっていた。彼女は今まで自分がそばにいることで人を不幸にしてきたと思っているから。 でも、驚かせるだけじゃなく、僕には今回お話をすることで変えたいものが明確にあった。 ただ結論を伝えれば、会話とはよいものではないと僕はわかった。結論に至った流れやその理由も合わせて伝えることで相手は安心できる。「華菜は僕にとって『天使』だよ。出会った時から華菜はずっと僕を照らしてくれている。うまくできないことが多い僕にとって、華菜は本当に光って見えた。それはきっと『堕天使』が心に棲みついているためだけじゃない。華菜自身が確かに輝きを放っていた。華菜は気づいていないかもしれないけど、これまで僕は何度も何度も華菜に救われてきたから。それは大きなことから小さなことまで様々なことがあった。だから、そばにいると誰かを不幸にしてしまうなんて悲しいことは言わないで。華菜は、僕を何度も救って幸せにしてきたことは、紛れもない事実だよ」「悠希」 彼女は涙を流しながら、僕の名前を呼ぶ。「それに、たとえ自分にとっては人生は『苦しみ』であっても、他の人が同じように見えているかわからないよ。相手の心は深く関わらないと見えないから、『苦しみ』は表面的には見えないと思う。または、心まではわからなくても、華菜が頑張って生きてる姿に勇気をもらえている人はいるかもしれない。心のうちを知った僕にも、華菜は今も輝いてみえるよ。そして、僕の一番の『幸せ』は、華菜といることだ。『僕のそばにこれからもいてくれない?』とお願いをするよ。僕の人生に華菜がいないと想像しただけで、胸がすごく痛くなる」 彼女のことをたくさん知った。 でも彼女はやっぱり神秘的で、『天使』という表現がぴったりだと今でも僕は思っている。「『天使』だなんて、褒めすぎだよ」 彼女の顔は、一瞬で真っ赤になった。 その後で彼女は、僕の話したことをゆっくりと受け止めていった。「本当にずっとそう思ってるんだから」 僕は彼女の疑問に思うことに答えながら、そう言った。「そうだったんだね。私なんかをそんな風に思ってくれていて本当にありがとう」「『私なんか』とか、自分を下げる言い方をしなくていいんだよ。華菜は立派に

  • 君を救えるなら、僕は   二十八章 「『堕天使』に優しさを」

    「華菜の心に棲みついている『堕天使』の話だけど」 僕はこの話もしっかり二人で話し合い、お互いの考え方を知りたいと思っている。 相手の考え方がわかっていないと、困っているときに求められている行動をすぐにとれないから。 彼女は、僕の言葉を聞いて、ビクッと体を震わせた。 僕は、彼女が何に怯えたか予想がついた。 彼女はきっと僕と同じようなことを思っている。「大丈夫だよ。華菜が今想像したような話じゃないから」「えっ!?」「華菜は心に棲みついている『堕天使』を追い出すことを躊躇っているよね? 大丈夫。僕は追い出そうと言わないから」「どうして私の気持ちがわかって、さらに悠希もその考えを受け入れてくれるの?」 彼女はいつものように不思議そうな顔をしていた。 その顔を見ながら、僕はハッとした。彼女は不思議そうな顔が|様《さま》になるのではなく、不思議そうにしている仕草や表情が素敵に見えるのだ。それは『堕天使』が心に棲みついているからだけではないだろう。『不思議』が似合う人はきっと多くはいない。それも彼女の魅力の一つだろう。 そのことをまた彼女に話そうと思うと、胸がワクワクしてきた。「それは、華菜はどんなに辛い話を僕にしている時でも、一度も『堕天使』のことを悪く言う言葉を言っていなかったから。原因は『堕天使』にあるだろうに、僕はそこになんだか違和感を感じた。確かに追い出す方法は現時点ではわかっていないけど、積極的に追い出す方法を探している感じも見られない。そこまではわかったけど、その理由までは僕にはわからなかった。華菜が追い出すことを躊躇っている理由を教えてくれないかな?」「悠希の考え通りで、私は『堕天使』を心から追い出したくないと思っている。その理由は、追い出した後のことを考えるからだよ。私は、『堕天使』、いやこの子の存在を消されたくない」「それは、どういうこと??」 僕は『堕天使』を彼女の心から追い出せば、彼女も苦しまなくていいと思っていた。『堕天使』のその後のことまでは考えたことはなかった。「確かにこの子はたまたま私の心に棲みついただけだよ。でも、もし私が追い出してしまえば、神様はきっと弱っているこの子を必死に探し、完全に殺すと思う。『堕天使』は一般的には『悪』と勝手に決めつけられ、いてはいけない存在とされている。でも、たったそれだけの理由で殺

  • 君を救えるなら、僕は   二十七章 「僕が、君を守る」

    華菜は、今まで誰にも頼らず、一人で自分自身を守ってきて本当にすごいよ。人は強くないから、なかなかできることではないよ」 僕は、彼女を褒めた。 褒められたり認められると心が温かくなるから。 彼女がこれまで自分自身を褒めてこなかった。その分を今日から僕がたくさん褒めようと思った。「まあ無自覚なんだけど」 彼女は、乾いた笑顔を浮かべた。 僕はその表情さえも変えたくて、さらに言葉を紡ぐ。「そんなことは関係ないよ。これまで生きていてくれてありがとう。華菜がどこかで人生を諦めていたら、僕は華菜に出会うことすらできなかったんだから」「私に出会えて本当によかった?? 私は悠希に大したことできていないし、迷惑ばかりかけてきた気がするけど」 彼女も僕と同じで、自分に自信がないと今ではよくわかる。 彼女は神秘的だけど、僕とよく似ているから。「僕は、華菜に出会えて幸せだよ。それは誰に何を言われても、覆らないことだよ。華菜のおかげで様々な考え方も知れた。華菜に出会わなければ、今の僕はいない」 彼女は、僕の言葉に耳を傾けている。「そして、これからは僕も華菜を守るよ。華菜はもう一人ぼっちじゃないよ」「悠希も守ってくれるかあ」 彼女は僕の言葉を受け入れるかのように、ゆっくり繰り返していた。「まずは、前に少し話した話だけど。僕が華菜の安心できる場所になるよ。前にそのことを言った時、どうなるかまでは話していなかったよね?」「そうね」 彼女の表情が少しだけ柔らかくなった。「僕には、いつでもなんでも辛いことを言っていいよ。ただ僕がそばにいるだけじゃない。僕は華菜の全てを受け止めるから。何があっても裏切らないし、僕だけは華菜の味方だよ。それだけじゃ華菜も申し訳なくだろうから、僕もこれからも華菜には隠し事はせずになんでも話すようにする」「お互いに心のうちを見せ合うのね」「そうそう。あと華菜は『自分自身を嫌い』と言ってたよね? それなら僕がそれ以上に華菜を好きになる。暗い感情さえも、僕がそばにいることで変えてみせるから」 僕はそのまま話を続ける。「次に、前に華菜が言っていた『親の世話』について詳しく教えてほしい。具体的にどんなことをしているの?」 僕は今までそのことに触れてはいけない気がしていた。聞き方によっては相手を傷つけるかもしれないから。でも、それは言い訳

  • 君を救えるなら、僕は   二十六章 「彼女が恐れていたこと」

    「私の負けね」 彼女は、突然そう言った。「負け??」 僕は正直何の話なのかわからなかった。もちろん僕は彼女と勝負をした覚えがない。「そう。悠希の観察力と私に対する思いの大きさに、私は根負けしたのよ。だから、私が恐れていることを教えるよ。でも、その前に悠希に謝りたいことがあるんだけどいい?」「謝りたいこと?? いいけど、何か華菜は悪いことをしたかな」 考えてみたけど、僕にはすぐには浮かばなかった。 むしろ、僕は彼女のために大したことはできていないと思っている。 僕がもっとしっかりしていれば、彼女を救えるはずだ。「今まで悠希を一切受け入れず、屁理屈ばかり言ってごめんなさい。私がそんな態度ばかりとるからだから、悠希はかなり困ったよね」 彼女は深々と頭を下げた。「そんなこと気にしなくていいよ」 予想外な展開の話ではあったけど、そんなことは本当に小さなことだった。 むしろ、彼女と話すことで僕は新しい考え方を知ることもできた。 僕から感謝の気持ちを伝えたいぐらいだ。「私がそう振る舞ったのは、恐れているものが大きく関係している。私が恐れているのは、『私の力のせいで悠希が不幸になること』だよ。私が今まで悠希に言ってきた言葉はすべて嘘よ。いや、本心ではなかったと言う方が正しいかな。きっと本心をそのまま言えば、悠希に悪影響がでてくると思った。心の中では悠希が言ってくれた言葉一つ一つがどれも本当に嬉しく感じていた。感動も何度もした。何をしてもダメな私に、何度も何度も真剣に向き合ってくれて感謝の気持ちしかない。こんなに私を愛してくれる人は、きっと今後いくら探してもいないだろうと思った。だからこそ、私はどうしても悠希を不幸にしたくなかった」「不幸にすることと、本心を言わないことはどんな関係があるの?」 僕には、まだ彼女の話がうまくつながっていない。それでも彼女の手を、いや心の扉を今つかみたいと思った。 今なら開けられる気がした。「私が、悠希の言葉を素直に受け入れるときっと悠希とさらに仲を深めることになる。二人の距離が近くなると、私の力のために悠希が不幸になる可能性がぐっと高くなるから。私が今まで不幸にしてきた人は、私と関係性が深くなった人が圧倒的に多いから」 僕はその言葉を聞きながら、彼女の母親や彼女の従姉妹で今はもう亡くなってしまった美琴が頭にすぐ

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