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第1143話

Author: 夜月 アヤメ
「でも......なんか落ち着かないの。誰かに見られてたんじゃないかって......」

侑子はそわそわと不安げな様子だった。

「侑子姉、しっかりして。今パニックになったらダメよ。

今のところは大丈夫。あのばあさん、意識不明なんだから。誰にもバレるわけないって」

華が階段から落ちたのは―

決して、ただの事故ではなかった。

八時間前の深夜。

華は突然、眠りから目を覚ました。

「思い出した......若子、妊娠してるんだ。修の子......そうだ、修に知らせなきゃ......絶対に、知らせなきゃ......」

そう言って、華は布団をめくり、ベッドを降りた。

電気も点けず、真っ暗な部屋をそっと出ていく。

廊下は薄暗く、灯りはぼんやりとしかついていなかった。

方向感覚が鈍り、どこへ行けばいいのか、すぐには分からなかった。

しばらく彷徨った末、ある部屋の前に辿り着いた。

左右を見渡しながら、ぶつぶつとつぶやく。

「修は......どの部屋だっけ......?」

記憶があやふやで、完全に混乱していた。

そんな時だった。

ふと、隣の部屋のドア越しから、誰かの声が漏れてきた。

「まったく眠れない、なんであんな女が修と同じ部屋にいるの?離婚までしたくせに、よくもまあ面の皮厚くできるよね。ほんっと、下品でだらしない」

「マジであり得ないって。女として終わってるよね」

安奈が怒りに満ちた口調で続けた。

「それに、あのクソばばあ、ボケてるって話だけど、私にはわかる。絶対わざとだよ。あのばばあ、あの女と修さまをくっつけようとしてるんだよ」

「何考えてるか分かんないよね」侑子も憤りながら続けた。

「前は私のこと、松本と勘違いしてたんだよ。それでも我慢して側にいたのにさ、今さら本物思い出して、こっちは放置?ありえないでしょ」

「侑子姉、落ち着いて。ボケてるんだから、明日になったらまた忘れるかもよ?そしたらそのまま『若子』って言わせといて、修さまと結婚させてって頼めばいいじゃん。あの人が言えば、修さまだって逆らえないんだから」

「でも、もし明日もちゃんと覚えてたらどうするの?あのクソババア、また松本の味方に戻るかもしれないじゃん!」

侑子は机を叩かんばかりの勢いで怒鳴った。

「私、あいつの一番つらいときにずっと支えてきたのに!修、ほんとひどすぎ
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Comments (4)
goodnovel comment avatar
ayako
雅子、また出てきたか。修をまだ諦めてない所はウザいけどナイスタイミングで侑子と安奈の会話を聞いてくれたから、役には立ってくれるかも? 華が目覚めて証言できるのが1番いいけど、認知症の老人の証言は信ぴょう性に欠けるとか言われないか心配。 修、雅子にははっきり断れるのだから侑子にも同じ態度できっぱりはっきり拒絶して!!またはっきりと出て行かせないで「好きにすれば」とか言っちゃったから、きっと華の身危ないよ!!絶対にあの2人と華だけで居させないで!!
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barairose88
修!華さまの転落事故、「た、助けて、誰か」の叫び声ですよ。 冷静に考えたら、もうその場にいた杏奈&侑子の仕業、関与としか考えられない… 若子は違和感がありながらも、辛くて今は状況が判断出来ない… そこは修がしっかり冷静に確認し、見極めなければ!! 犯罪者2人の会話を聞いていた雅子、満を持しての登場となりましたね。 きっと先ずは侑子を潰すために動くと想定されます。 そこは徹底的、断罪して欲しい。 そして華さま、早く目覚めて!! 修に真実を伝え、若子の頑な心を解きほぐし…また幸せな団欒を迎えて欲しい。 そしてそしてあの2人を収監してください!
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シマエナガlove
西也といい 侑子と従姉もだけど 人の命軽く見てる ましてや高齢者だよ 骨折でも命落とすのに 階段から落とすとか 殺意ありあり 別荘に監視カメラあるんだから 本宅にもあるでしょう 若子怪しい思ってるなら 監視カメラ確認して欲しい
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