とりあえず色々試した結果、レオンに付随するもの(衣服、小物など)は自由に生成可能だと分かった。
イメージ次第で衣服を着替えることもできるが、脱いだ衣服をそのまま維持するには「レオンと別の個体として残す」イメージが必要。意識せずに脱ぐとレオンの身体から離れたとたん魔素に戻って霧散してしまう。
ついつい面白くなっていろいろとさせたため、レオンはすっかり拗ねてしまった。
子供の用に頬を膨らませて三角座りで部屋の隅に蹲っている。
わかりやすい「拗ねました」「構ってください」ポーズ。
「全く。今のお前は俺の従魔なんだぞ?主人の希望を叶えるのが仕事だろう?」
ドカリとベッドに腰かけながら声だけかけてやる。
放置してやってもいいが、まだまだやらせたいことがあるからな。早く立ち直らせねば。
「でも、心は俺なんだぞ?ようやくアスカと共にいられるようになったのに……。これじゃあ俺、着せ替え人形?実験体?じゃん」
「自己認識がきちんとしているようで何よりだ」
「ひっでえ!!」
「前世の自分のしでかしを思い出せ。側にいることを許してやっただけありがたいと思え」
「またそれ!!……………そりゃちょっとばかし暴走したなって反省してるけどさ。アスカだって悪いんだぜ?」
「はあ?俺の何が悪いっていうんだ?」
アスナが切々と訴える。
要は、「俺がアスナを受け入れすぎたから」独占欲が湧いたというのだ。
「だってさ、俺んちの親は金はくれるけど愛情はくれなかったし。冷え切ってたんだよ。周りは俺をもてはやすか避けるかだし。対等に扱ってくれたのは飛鳥だけだったんだ。
お前、俺が何しても『らしくない』とか言わなかったろ?そのままの俺を受け入れてくれたから。お前の傍でだけ息ができる気がした。本当の俺のままで居られ
アスナを伴い家族用の居間に。座り心地の良いお気に入りのソファにドカリと腰をおろせば、入り口でアスナが茫然としていた。「?どうした?来ないのか?」一応声をかけてやると、しみじみとこんなことを言い出す。「……いや、なんつーか今さらなんだが、アスカって高位貴族なんだなあと思ってさ……。すごい邸だし、家具もゲームのまんまっていうか。お貴族様って感じ」「レオンに憑いてたんだろう?アイツのところで見慣れているかと思ったが」「いや、だってアイツは王族じゃん。家っていったって、城だしさ。当たり前みたいな?」その気持ちは分かるかもしれない。城というイメージ自体が豪華で当たり前、というか。城だから、で全て納得できてしまうというか。「……やっぱり、アスカはアスカなんだけど……飛鳥じゃねえんだな」思わぬ寂しげな様子に面食らってしまう。「だから最初からそう言っているだろう?お前だってアスナだが阿須那じゃない。俺たちはもう別の世界を生きているんだ」改めて口にした言葉。その内容とは裏腹に、存外優し気な響きになってしまったのはどうしてだろう。俺はこの15年、アスカ・ゴールドウィンとして生きる中でそれを実感してきた。だけどアスナ、お前は違うんだな。阿須那のままで飛鳥をずっと求め続けてきたのか。アスナが自嘲のような笑みを漏らした。「……俺は生きてるっていっていいのか分かねーけどな!」明るい口調とは裏腹に、その瞳の色は暗い。思わず俺がこう聞いて
訂正しよう。俺にとてもかわいい従魔ができた。そう、いっそこのままでいいんじゃないか?むしろこのままの方が全方向に幸せな気がする。俺はアスにゃんをモフり倒しながらにやける顔を抑えることができなかった。最高だ。もうこいつを手放せる気がしない。再度腹に顔を薄めぐりぐりしていると、「にゃあん!」ひときわ高い声でアスにゃんが鳴いた。とたん、むくむくむくっと腕の中の身体が大きくなり、その重量がそのまま俺の顔の上に。「んんーーーーっ!!」ジタバタと押しのければ、真っ赤になったアスナが大慌てで俺から離れた。「ご、ごめん…っ!」何故か前かがみになっている。って……おい、まさか……「……何デカくしてやがる。変態め!せっかくアスにゃんを堪能していたのに、勝手に戻るな!」ムスっと抗議してやると、股間を押さえたまま真っ赤になって涙目で反論された。「いや、あんなんされたら無理でしょ?!アスカ、分かってる?あの猫も俺なんだぞ?アスカは猫を可愛がったつもりだろうが、実際は俺の手や身体を撫でまわして腹に顔を埋めてぐりぐりしたんだぞ?!完全にセクハラ!好きな奴にされたら誰だってこうなる!!あれ他の奴にしたら誘われたと判断されるぞ!」「それくらい耐えろこのケダモノめが!」「ごみクズでも見るような目で俺を見るなよ!不可抗力だろ?!」「………さっさと戻せ」「そんなすぐには無理だって!お前だって分かるだろ?!」「…&hellip
「ほら」腕を広げてやれば、戸惑ったような瞳が俺を見つめる。傍に行きたい気持ちと、行ってはダメだという気持ちがせめぎ合っているようだ。一瞬俺に手を伸ばしかけ、諦めたようにその手を引くアスナ。俺は首をかしげ、少しだけ笑って見せる。「来ないのか?ハグしてやると言っている」「アスカ!!」ドカン、と大きな犬が飛び込んできた。受け止めそこね、アスナごとベッドに倒れ込みながら俺は笑った。「アハハハ!なんだよ、クソイケメンが。お前、単なるガキじゃねーか。俺はお前の母親じゃねえんだぞ?」「うん。知ってる」くすん、と俺の胸元でアスナが鼻を鳴らす。……泣いてんのか?俺はそんなアスナの頭を黙って撫で続けた。……そうか。俺の15年とこいつの15年は違うのだ。俺はこっちに来て「悪役令息アスカ」に生まれ変わっていたのには驚いたが、すぐさま「好きに生きてやる」と決め、好き勝手に生きてきた。両親は2人とも俺に愛情をふんだんに与えてくれたし、好き勝手に生きることを許してくれる。だから……自分で言うとアレだが、前世でできなかったことを全部やって生きてきたんだ。でもこいつは唯一のよりどころを失い、絶望と後悔の中で生きてきた。俺に再開することだけをひたすらに願って、必死で世界を超え、俺を探し続けた。グッ、と喉が詰まった。熱い塊がこみあげてくる。愛おしい。ああ、なんて奴だ。ここまでされてほだされない奴がいるか?絶対にこいつから逃げると決めた前世の俺も、こいつを憎んだ俺も……それでもこい
とりあえず色々試した結果、レオンに付随するもの(衣服、小物など)は自由に生成可能だと分かった。イメージ次第で衣服を着替えることもできるが、脱いだ衣服をそのまま維持するには「レオンと別の個体として残す」イメージが必要。意識せずに脱ぐとレオンの身体から離れたとたん魔素に戻って霧散してしまう。ついつい面白くなっていろいろとさせたため、レオンはすっかり拗ねてしまった。子供の用に頬を膨らませて三角座りで部屋の隅に蹲っている。わかりやすい「拗ねました」「構ってください」ポーズ。「全く。今のお前は俺の従魔なんだぞ?主人の希望を叶えるのが仕事だろう?」ドカリとベッドに腰かけながら声だけかけてやる。放置してやってもいいが、まだまだやらせたいことがあるからな。早く立ち直らせねば。「でも、心は俺なんだぞ?ようやくアスカと共にいられるようになったのに……。これじゃあ俺、着せ替え人形?実験体?じゃん」「自己認識がきちんとしているようで何よりだ」「ひっでえ!!」「前世の自分のしでかしを思い出せ。側にいることを許してやっただけありがたいと思え」「またそれ!!……………そりゃちょっとばかし暴走したなって反省してるけどさ。アスカだって悪いんだぜ?」「はあ?俺の何が悪いっていうんだ?」アスナが切々と訴える。要は、「俺がアスナを受け入れすぎたから」独占欲が湧いたというのだ。「だってさ、俺んちの親は金はくれるけど愛情はくれなかったし。冷え切ってたんだよ。周りは俺をもてはやすか避けるかだし。対等に扱ってくれたのは飛鳥だけだったんだ。お前、俺が何しても『らしくない』とか言わなかったろ?そのままの俺を受け入れてくれたから。お前の傍でだけ息ができる気がした。本当の俺のままで居られ
言いたいことを言ってしまえば、後は用はない。「じゃあ、俺は失礼する。アスナ、あんまりレオンに絡むなよ。適当なところで切り上げて来い」じゃあ、と手を上げ去ろうとすれば……「えええ?!ちょっと!俺を置いていくつもり?俺、アスカの従魔なんだよね?!一緒に居なきゃでしょ!」慌てたようにアスナが俺に手を伸ばしてきた。「いや、いくら私から引きはがしたとはいえ、これまでこの従魔くん、私に憑りついていたんだよ?置いていくの?」レオンの顔にも「信じられない」と書いてある。「お前らさっきまで二人で盛り上がっていただろう?俺はもうお前らに伝えるべきことは伝えた。だから後はふたりで存分にやり合ってくれ」「ただし後が面倒だから二人とも手は出すなよ?」と付け加えれば、金と黒が揃って呆れたような眼を俺に向けてきた。「……なんだ?何か文句でもあるのか?」憮然として告げれば、ふたりとも額に手をあて疲れたように首を振る。「……いや、もう俺もこいつに用なんてねえよ。てか、アスカより優先することなんてないからな?!」「私も従魔くんにはもうかかわりたくはないかな……。アスカとは話が別だけれどね?」そっくりの仕草と表情。お前ら意外と気が合うんじゃないか?チッ、と舌打ちを一つ。しばらくレオンに任せてやろうと思ったのに、残念だ。仕方なくアスナを連れて行くことにする。「ほら、アスナ。行くぞ。といっても、学園にまだお前の席はないから&
俺はぐいっとレオンを引き剥がした。パッパッとレオンが触れていた箇所をこれみよがしに払ってみせる。「ふう。つれないなあ、アスカは」「ふん!嫌ならさっさと婚約破棄すればいい。俺に必要以上に近づくな。俺を見るのもやめろ。背筋が寒くなる。助けてやった恩は忘れるなよ?そのうち帰して貰うから」レオンはおどけた仕草で「降参」と両手を上げて見せた。「君に嫌われなくないからね、了解。助けてくれたことには感謝しているんだよ?……ありがとう、アスカ。じゃあ、改めて今後の話し合いをしようか?そこの……アスナだったかな?……私と似すぎていて怖いね。まるで双子だ。彼と話をしてみていいかい?」「アスナ、話していいぞ」解禁したとたん、アスナが吠えた。「おい、お前!」一瞬で俺に駆け寄り俺をその腕に抱え込むと、レオンに向かってけんもほろろな態度で言い捨てる。「俺をアスナと呼んでいいのはアスカだけだ。分かってるよな?俺の力があればお前などどうとでもできるんだぜ?いいか、お前はアスナに近づくな。アスナは俺のものだ」「はあ?!俺が誰のものだって?」ギロリと睨んでやれば、焦ったように慌てて言いなおす。「……アスナは俺の主人だ。アスナに近づいていいのも触れていいのも俺だけだ。分かったか?」まあ、色々言ってやりたいことはあるが、レオンを牽制してくれることに関しては異論はないので大人しくしておく。一方、アスナに脅されたレオンはといえば、怯えるどころかなんとクスっと笑みを漏らした。「……うーん。なかなか好戦的だね?」そして真正面から、平然とレオンに反論したのである。「私に憑りついていた頃の君なら私をどうとでもできたかもしれない。でも、もう無理だよね?だって君はアスカの従魔なんだもの。立場上、アスカは君が私を傷つけることは許さないと思うよ?それにね、一応私はアスカの婚約者だ。従魔の君とは違う。アスカに触れる権利はあるんだよ?」「レオン、あくまでも『一応』の婚約者だ。俺に触れる権利なんぞ、俺は認めていない」「はいはい。じゃあ言い直すよ。少なくともそこの従魔君よりは。これでいい?」アスナと呼ぶなと言われたことを逆手に取り、しつこいほどにアスナは単に俺の「従魔」なのだと強調するレオン。案の定、アスナがムッとしたようにレオンに食って掛かる。「ふん!俺はアスカと一蓮托生
運命?!俺は思わず顔をしかめた。「どこの乙女だ?!勘弁しろよ。こんなクソみたいなもんは運命じゃねえ。悪縁っつーんだよ」切っても切れない縁。どこまでも俺を追ってきた執念深さは、まさに悪縁と呼ぶにふさわしい。悪役令息の俺と、俺に執着し、俺のためなら世界を超え誰を犠牲にしてもいいというお前。もつれにもつれ、拗れまくった俺たちだからこそ、運命だとかいうよりも悪縁というほうがしっくりくる。泥臭いそんな縁だからこそ、俺はそれが愛おしいと思ったんだ。お前を許し、受け入れてもいいと思えたんだぞ?なんてことは言ってはやらないけどな。「酷いなあ。でもいいよ。俺は運命だって思ってるから。これからずっと一緒ならなんだっていいんだ」「……うーん」そろそろレオンが目を覚ますか?俺はアスナに離れているよう指示し、レオンの横にしゃがみ込んだ。そっと肩に手をかけ揺すってみる。「おい、大丈夫か?」パチ……パチ……。数度の瞬きののちにレオンの碧い光彩が姿を見せた。「…………アスカ?私は……どうしたんだ?」額に手を当て、ぼんやりした目で頭を振るレオン。「……おかしな夢を見た」おぼつかない口調で言いながらゆっくりと起き上がるのに手を貸してやる。「ありがとう。ああ……なんだか頭がぼうっとする。何があった?何故私は倒れていたの?」うむ。どうやらアスナに乗っ取られ
さて。どうしようか。アスナが抜けた衝撃で気を失い床に倒れているレオンハルトを眺める。起こしたほうがいいのだろうか。アスナに魔力をかなり使われたようだし、しばらくこのまま寝かせておく?いや、音声遮断を解いて護衛たちを呼び、連れ帰ってもらうべきか?しかし、こうして見てもアスナとレオンはよく似ている。髪色が違うから印象は違うが、基本的な顔の造りはほぼ同じだ。不思議なものだな。ちら、とアスナを見れば、俺が何を考えていたのか察したようだ。「なんか自分と同じ顔を見るって変な気分だな」と苦笑した。「お前が前世であれだけモテたのも納得だ。なにしろ異世界の王子様と同じ顔だったんだからな。元々こっちに生まれるはずだったんじゃねえの?レオンと双子とかでさ」適当に言った言葉だったが、ふと自分の言葉になにか引っかかりを覚えた。「…………いや、あり得るな。お前の異常なスペックってある種作り物めいてたし。お前は元来こっちに生まれるべき魂だった、なのに間違えてあっちに生まれちまった。だからみんな異様にお前に傾倒しやがったんじゃねえか?小学校んとき避けられてたのだって、嫌われてたっつーよりもどちらかというとカッコよすぎて遠巻きに崇められてた、に近かったし。そう考えると、レオンとの異常な親和性にも説明がつくんだよ。あんだけ馴染んでたのにも納得できる」「……それはわからないけど。確かに俺はどこか『違う』って思ってた。世界にとって俺は異質な存在なんじゃないか、って。漠然とした違和感っていったらいいのかな?飛鳥だけなんだよ。俺に普通に接してくれたの。飛鳥だけが特別だった。お前といる時だけは俺が世界に存在することを許さ
とりあえず、アスナの設定はこうだ。アスナは「高位精霊」実体のないアスナは、自分とそっくりの外見を持ち魔力の相性まで良いレオンハルトを見つけ、その身体を自分のものとしようとしていた。俺はアスナと交渉し、アスナの身体を魔力で実体化してやる代わりにアスナを俺の従魔にした。今後アスナは俺の従者として常に俺に付き従うことになる。元はと言えば、俺関連でこっちの世界に来てレオンに憑りついたともいえるのだが、そこは伏せておく。前世の云々、ゲームで云々と言ったところでどうせ理解できまい。アスナを高位精霊とした方が理解しやすいだろうし、レオンに恩も売れる。一石二鳥だ。アスナにもこの設定を言い聞かせ、余計なことは言わないよう念を押しておいた。「いいか?前世だとか俺を追ってきたとか言うなよ?言ったら即その身体を取り上げるからな。お前と俺は今日初めてここで会った。分かったな?」「えー?じゃあ、『アスカに手を出すな』って言っちゃダメ?」「手を出されるつもりはないが、お前にそれを言う権利はない。黙ってろ」「……仕方ない、分かったよ。俺は下僕だしな。アスカに全て従うよ。これでいいだろ?」肩を竦めて見せる姿は、前世のアスナそのもの。なんだか妙な気分だな。言っている内容は別として、まるで昔に戻ったみたいだ。ふと浮かんだ考えをブルブルと頭を振って吹き飛ばす。「あのな、確認しとくぞ?見ての通り、俺の外見も性格も前世の俺とは違う。お前とは違うんだよ。俺は飛鳥ってわけじゃない。前世の記憶があるだけだ。飛鳥は死んだんだ。分かってるよな?」「……うん。アスカが思う以上に分かってるよ。言われなくても俺が一番分かってる。…………俺がどれだけ後悔してどれだけ絶望したと思ってるの?」