「上がって」
「ここは、エミリオの家?」 私はエミリオに手を繋がれて、家に連れてこられていた。 「連れ込むようで気が引けるけど、リナをほっとけなくて。お茶ぐらいしかないけど、そこに座ってて」 「お邪魔……します」 もう、何も考えられずに、言われるがままに倒れ込むように座る。 エミリオは、温かい紅茶をだしてくれた。 「どうぞ、熱いから気をつけて」 「━━ありがとう、いただきます」 コクンと頷き、紅茶を口に含む。 ほんの少しだけ、生き返った気がした。 「リナ、何かあった? 俺には話せない?」 エミリオは優しい。 本当は誰かに聞いて欲しい。 でも、それは単なる甘えに過ぎない。 「リナが言いたくないんだったら、もう聞かない。でも、落ち着くまでここにいて。本当に…死にそうな顔をしてるから。心配だから」 「どうしてそんなに優しいの? 私は、エミリオの思っているような人間じゃない!」 もう限界だった。胸の内に一人で抱え込むのも、つらくて、誰かに聞いてほしかった。ただの自分勝手な願望なのは分かってたけど… 一度口に出すと、後から後から気持ちが溢れ出して、もう止めることができなかった。 いつの間にか、エミリオに全てを打ち明けていた。 ルーカスと付き合っていたこと、 今日ルーカスが婚約したこと、 どうしようもなく辛い気持ちを……。 エミリオは、私が話し終えるまで、ただ黙って聞いてくれた。 時々 「そっか」 「つらかったね」と、慰めの言葉をかけてくれながら。 その一言を聞くと、自分でも驚くほど気持ちが救われた。 あぁ、私は、こんな風につらかったね、大変だったね、と、誰かに言ってほしかったんだ。 どうしようもなく孤独で寂しかったんだ。 エミリオは、私の話が一区切りしたのを見計らうと、真摯な姿勢で話し始める。 「リナ、ごめん‼︎」 エミリオは、私に軽く頭を下げる。 「エミリオ、何を謝っているの?」 「俺、ほんとは、ルーカスさんとリナが、付き合っていることを知ってたんだ」 「え……?」 衝撃な告白に思わず絶句する。 「俺、リナのことが気になっていて、何度か食事に誘って、それで……。 リナが、俺に気がないことは分かってたよ。あぁ、これは脈がないなぁ、って思っててさ。 でも、なかなか諦められなくて。 そんな時に、ルーカスさんに声をかけられたんだ。てっきり仕事の話かと思ってたら 違って。 あんなに真剣なルーカスさんを初めて見たよ。だから、驚いた。 ルーカスさん……、リナの事をどう思ってるのか、と、俺にしつこく尋ねてきたんだ。 いくらルーカスさんでも、プライベートな事を話す義理はないと思って。 そんなこと、興味本位に尋ねるなんて失礼だろって言い返したんだ。 でも、違ってて……。 ルーカスさん、なんか、すごく悩んでた。 自分は、どうしてもリナとこのまま付き合うことはできないって。 俺はなんだよそれって思ってさ。 俺の事も調べたとか言うから……なんか、怖いなと思って、立ち去ろうとしたんだけど。 リナのことを本気で大切にしてくれるなら、どうか、リナを支えてくれないかって頭を下げたんだ。 ビックリしてさ、何度も理由を聞いたんだけど、答えられないって。 俺の気持ちよりも、そういうことはリナの気持ちも大事だろって言ったんだけど。 リナを大切にして欲しいの一点張りでさ、話にならなくて。 でも、俺もリナのこと諦められなかったし、そんなこと、ルーカスさんに頼まれなくても大事にする!って突っぱねたんだ。 そしたらルーカスさん……、あの綺麗なルーカスさんの顔が、歪んでた。 とても、苦しそうだった……。 この事は、リナには絶対に言わないでくれって 口止めされていたんだ。 リナ……、リナの中には、まだルーカスさんへの気持ちが残ってるんだろ? ルーカスさんとリナの間に、何があったのか知らない。 でも俺は、こんなだけど、もしも、もしも、少しでも俺のこと気になってくれるなら、うちへ来ないか?」 「え?」 衝撃的な告白に、頭が混乱していた。 言われた意味が分からず、自分の気持ちなど考えられずに的外れなことを言っていた。 「私…契約が…終身雇用で…」 自分でも、何を口走っているのかと驚いたほど。 「あぁ、違約金か、 それは、俺がなんとかする。 リナも、このままあそこにいるのはつらいんじゃないか?」 「私……エミリオの所で雇ってもらえるの?」 エミリオは真っ赤になりながら言葉を続ける。 「あぁ、言葉が足りなかったよな。そうじゃなくてっ、 リナ、好きだ! その、うちへ来ないかって言うのは、一緒になろう。 結婚しよう、リナ ダメ?かな 少しづつでも、リナが俺のこと好きになってくれるよう努力する。無理してルーカスさんのこと忘れなくてもいい。だから……。リナ?」 泣いてはだめ、 止まって、お願い止まって、 と何度も唱えるのに身体は言う事を聞いてはくれない。 後から後から涙が溢れてきて、 自分ではどうしようもなくて、 心の中がぐちゃぐちゃだった。 エミリオはそんな私を見てオロオロしていた。 ぎこちなく私を抱きしめてくれて、 そっと優しく背中を撫でてくれる。 私はエミリオの胸に顔を埋めて、子供のように泣きじゃくった。 私はいったい今までルーカスの何を見てきたのだろう? エミリオから聞いた内容によれば、ルーカスは 何か理由があって別れを決心したみたいだ。 浮気が原因じゃない 私が原因じゃない そのことが嬉しいのか、悲しいのかも分からない ただ、ルーカスは私との別れを選んだ 私の気持ちなど一切聞いてくれずに その事実が重荷のようにのしかかる もう…疲れた… 苦しい…寂しい…助けて エミリオの優しさに甘えて、 エミリオにしがみつく エミリオはこんな私を受け入れてくれる この苦しみからもう逃れたい エミリオの優しさが心地良くて、 ずっとこのままいたくて、私は━━。 そうして、そのまま私は、 エミリオと一緒に 朝まで過ごしていた。体調も回復した頃、私はレナルドお兄様から呼び出しを受けた。 どんな時も表情を崩さないお兄様にしては珍しく、厳しい顔つきをしていた。 部屋の空気も重く感じられ、挨拶もなく用件を述べ始めたことに、私は言いようのない不安を感じた。 「サラ、あれだけ忠告したのに、君には伝わらなかったようだね。 ━━サラ、もう商会を君には任せておけない うちは信用が第一なんだ。 君たち二人揃って仕事を放棄して、何をやっているんだ! ルーカスのことは……君の耳にも入っているよね、健康上の理由だから仕方ないとして、君の軽率な行動は見過ごせない。 まるで、ルーカスに隠し子がいるかのように尋ねて回ったそうだね? 噂が私の耳にも届いたよ。 あぁそれから、君がルーカスを略奪したとか、今はどこかの富豪の愛人だとか色々とね。 いったい、きみは何がしたいんだい? この商会を潰す気なのか!」 「それはっ」 「何も言うな、聞け」 「この商会は私が引き継ぐ。 残念だけど仕方がない。 これ以上醜聞を広めることはできない。 今後、ゴーテルの名を名乗ることは許さないわかるね? ここからの発言は、兄としてだ。 サラ、身体のことは……女性にとってはつらいことだろう、 後継ぎが産めないことは致命的だ。 せめてもの家族の情として、 連れ戻すことはしない。 傷モノのお前の行き場は、限られてくるからな。 それなりの金額は渡す。 だが、そこまでだ。 後は自分でなんとかしろ。 あれだけ仕事がしたいと、女でも自立できると言っていたお前なら、大丈夫だろ? ルーカス達には、生活に困らないように援助をするつもりだ。 こちらにも責任の一旦はあるからな。 お前は二度と関わるな。」 口を挟む隙を与えず言い終えたレナルドは、言い忘れたことがあると付け加える。 「父上に泣きついても無駄だ」 「お父様も…同じ意見なの?」 「父上は、お前に甘い。父上が許したとしても、勘違いするな! 数年して私が当主になったら、すぐに追い出す。 家の汚点のお前を置いておけない。 つけこまれて、足元をすくわれかねない」 「レナルドお兄様……」 「私には━━もう……妹はいない」 レナルドは、一瞥することもなく立ち去った。 こんなにあっさりと縁を切られるとは、思わなかった……。 何をしても許
ルーカスが突然いなくなって、商会の雰囲気全体が沈んでいた。 私が追い出したのではないか、とか陰口も飛び交っていた。 商会のことを放棄することが増えていた自分は、完全に皆からの信頼を失っていた。 以前なら、自分の陰口を耳にすることなどなかったのに……。 ルーカスがどこに行ったのか、気にはなるものの、日々の仕事が滞ることがないように黙々と処理した。 責任者の自分がいるから回っているが、これが逆だったら業務に支障がでていただろう。 そう、以前自分がいなかった時のルーカスの大変さが身に染みて分かった瞬間でもあった。 そこで、ふと先ほど紅茶を用意したことを思い出す。 ルーカスの分を用意していた時の名残りだった。 気分転換に少し休憩をしようと、 カップを取りに向かった。 室内に入ると、誰かが用意していたカップに何か入れているのが見えた。 「何してるの?」 ふいに声をかけると、帽子を被ったその人物は、飛び上がらんばかりに驚いた様子で、慌てて走り出て行った。 不審に思い後を追いかける。 「待って!ちょっと」 走り去る後ろ姿を見失わないように、必死に追いかけた。 こんなに脇目もふらずに走ったのは、人生で初めてかもしれない。 これ以上走るのは無理かもしれない。 体力の限界を迎えそうな時に、 運よく逃走者が転倒した。 起き上がろうとしているところを、必死で後ろから掴もうとした。 その拍子に、被っていた帽子が脱げ落ちた。 隠れていた黒い髪が流れ落ちる。 見覚えがある人物だった。 「あなたは━━メグミさん?」 「あーあ、見つかったわ、ざーんねん、ほんとに悪運の強い人ねあなたは」 「どういうこと、どうしてあなたが商会にいるの?何してたの」 「はははは!何って?ほんとにおかしなお嬢様ね。 あーあ、思ったより元気そうじゃない もっと苦しんでると思ったのに あなたなんかいなくなればいいのに━━ 死ねばいいのに」 よく知りもしない相手から、明確な殺意を向けられて、頭が真っ白になった。 「なーにその顔は?分からない?でしょうね、でも先に奪ったのはあなたでしょ」 「奪う?」 「そうよ、ダーニャが死んで、チャンスだったのに 唯一の子のナタリーを取り込んで、フェリクスの遺産を独り占めする計画だったのに、横から急に入りこんできてさ!
「二人に協力してほしいことがあるの」 私は、全てを打ち明けることにした。 政略結婚から逃れる為に、ルーカスと婚約を結ぶことになった経緯も含めて。 軽蔑されることを覚悟の上で。 そして、自分の行いを悔いて、ルーカスの為にも、リナを探していることを。 最初は、リナの父親へコンタクトをとった。リナに大切な話があるから、居場所を教えてほしいと。 リナは、心機一転出て行ったと、もう構わないで欲しいと一蹴された。 何度もおねがいしたけれど、 用件は自分が伝えるからの一点張りだった。 結局、連絡先は教えてもらえなかった。 仕方なく調査してくれる人を雇った。そして、リナが隣街に住んでいることが判明した。 子供がいることも。 いてもたってもいられずに、教えられた近辺に尋ねて回った。 引っ越してきたのは何年前か、 子供の容姿など、とにかく情報が欲しかった。あれからリナがどうなったのか、気になって仕方がなかった。 タイミング悪く、リナには会えなかったけれど。 「誰にも邪魔されずにリナと話をしたいの。もしも、リナと連絡が取れたら、この邸の部屋を借りてもいいかしら?」 「サラなら、いつでもこの邸は自由に使っても大丈夫だよ。 邸のことはいいんだけどさ、込みいったことを聞くけど、サラはその人と会ってどうしたいのか聞いてもいい? まぁ、私も人のことを言えるほど綺麗な人生送ってないんだけどね」 「━━償いをしたくて」 「償い? サラ、 厳しいことを言うようだけど、その人はサラに会いたくないんじゃないかな。 それでも、会いたいと言うのならば、その人をこれ以上傷つけないようにする努力は必要だと思う。 この先、同じように後悔することがないように」 「えぇ、分かってるわ。 もう、これ以上後悔したくないの。 だから、どうしても彼女に会いたいの!」 固い決意を込めた瞳で、フェリクスを見つめる。 フェリクスは、サラの強い意志を汲み取ると、これ以上止めても無駄だと判断した。 「そう……そこまで決意しているのなら、仕方ないね、応援するよ。 でも、一人で勝手に突き進まないで。 相談して。 いつでも話は聞くから。」 「ありがとう、フェリクス」 いい加減だと思っていたフェリクスだけど、親身になって相談に乗ってくれる一面に胸を打たれた。思わず目が潤ん
✳︎✳︎✳︎ 「何をしている!」 「これは、調べているんです」 「手に持ったものを渡すんだ!」 「それはできません」 「これは何だ!何をいれたんだ!お前は誰だ?」 「何を騒いでいるの⁉︎」 騒がしい声が聞こえてきて扉を開けると、ルーカスとデボラが言い争っていた。 ルーカスは、嫌がるデボラの手首を掴んで、スプーンを取り上げようとしていた。 「ルーカス、デボラの手をはなして!」 ルーカスの手を振り解こうと近づいた瞬間、ルーカスは後ずさった。 まるで、ほんの少しでも私に触れられるのを拒否するように。 嫌われてることは知っているけれど、さすがに傷つく。 「デボラ、来てたのね。大丈夫?どうしたの、そのスプーンは……」 見覚えのあるスプーンをみて、デボラが何をしていたのか理解した。 そして同時に、そのスプーンが変色していることに気づき動揺する。 デボラは無言で頷く。 「ルーカス、デボラは私達を助けてくれたのよ!これは飲んではいけないわ!」 「サラ、また君は……。はぁ、 前にも言ったよね、新しく人を雇う時は教えてと」 新しく雇う? 以前ルーカスは、デボラのことを見かけたから、知らない人がいると驚くと言ったのではないの? 忘れているのかしら。 「飲んではいけないって、君が用意したものだよね?」 「た、確かに私がさっき用意したものだけど、おそらく私が離れた後に、誰かが何かしたのよ!」 「何かしたって、まるで毒でも入ってるみたいに言うんだね」 「多分、毒…かもしれない… 私も驚いてるわ、でも誓って私は何もしてない!」 「はっ!やってないか、犯人の常套句だね。 やはり自作自演か… 少しは改心したのかと、あやうく騙されるところだった。 もう同じ空間にいるのも耐えられないよ! 失礼する」 「ルーカス!」 立ち去るルーカスが少しよろめく。 心配で手を伸ばそうとしたけれど、振り払われる。 ルーカスの顔色が悪い。 よろめくルーカスの様子に既視感を覚えた。 まるで、体調不良だった時の自分のようだ。 大丈夫かしら。 やっとルーカスと挨拶くらいは交わせるようになっていたのに……。 唯一の接点だったのに。 いったい誰が毒を入れたの? 「サラお嬢様、お飲みにならなくて良かった
✳︎✳︎✳︎ ある日のこと。 この日は、珍しくルーカスと鉢合わせた。 極力顔を合わせることがないように、必要な書類などは誰かに橋渡しを頼んでいた。 「お疲れさま」 「あぁ」 無視するわけにもいかないので、挨拶をした後立ち去ろうとした。 「サラ」 呼び止められて、ドキッと心臓が跳ね上がる。 何か文句を言われるのかもしれない。 思い当たることが多すぎて、耳を塞ぎたかった。 逃げるわけにもいかないので、姿勢を正して向かい合う。 すると、射抜くような視線を向けられた。 ルーカスの目をまともに見ることができずに、すぐに視線をそらす。 「新しく人を雇う時は、僕を通すか、一言連絡してほしい。 突然見慣れない人がいると、驚くじゃないか。 あぁ、それとも僕への嫌がらせで知らせないのかな? こっちは君と違って、お遊びで仕事している訳ではないんだよね。 お気楽なものだよね? 気が向いたときだけ働いて、都合が悪くなったらいなくなって。 こっちはその間必死で働いているというのに! せめて一言何か言うことはできないのか? 必死に探し回る僕を見て嘲笑っているのか? 君の署名が必要な書類があったののに……。 悪趣味だね……。まぁ、もっとも、君に何を言っても無駄だろうけど。 あぁ、それにその雇った人には、君は あまり好かれてないみたいだね。 飼い犬に手を噛まれるともいうしね。 せいぜい気をつけることだね」 「ちがう! 彼女は、従業員ではないわ━」 まただわ。 ぐらりと身体がよろめいた。倒れそうになるのを、近くにあった棚に手をついて支えることができた。 ルーカスは、ぴくっと片眉をあげて不審そうな顔をしている。 「はぁ、都合が悪くなったらそういう演技をするのか。 君って本当に……。」 「これは、本当に気分が……」 答え終わる前に、ルーカスは見向きもせずに退室した。 演技ではないのに……。 ルーカスの言っていた見慣れない人というのは、デボラのことだろう。 デボラは、表情に表さないだけで優しいのに。 何も知らないくせに。 あぁ、知らないのはお互いさまか。 いまさらどうしたらいいの……。 こんな私なんて、追い出せばいいのに! 立場上追い出せるはずないか。 分かりきってることなのに。 あぁ、気持ち悪い……。 一度、診
「バタフライピー? あぁ、もしかして彼女は、月のものの最中ではないですか?」 「えぇ」 先程、マリの着替えの介助をしたので間違いない。どうしても不安感が拭えなくて、この邸のメイド達だけに任せることができなかった。特に怪しい動きを見せる者はいなかったので、そこまで監視する必要はなさそうだった。 月経による貧血なのかしら……? 「バタフライピーには、子宮収縮作用があるのです。 アントシアニンという成分が、含まれていましてね。妊娠や月経中に飲みすぎると、出血が止まらなくなる恐れもあるのですよ。 なるほど、それが原因とも考えられますね。 旅の疲れも重なったのかもしれないですね。 しばらく安静に休ませてください。 それではお大事に」 「ありがとうございます」 一人で納得した様子で、医師は立ち去って行く。 長く呼び止める訳にもいかず、お礼を言って見送った。何の根拠もなく疑うのはよくない。まずは、自分で確認することが先決。 さっそく図書室の入室許可をもらい、バタフライピーについて調べてみる。 結果、医師の言っていた通りの内容が書かれていた。 飲食物の成分にまで、気が回らなかった。自分の落ち度に、気が滅入る。 異国の食べ物が口に合わずに、体調を崩すこともあると、聞いたことがあるのに……。マリには可哀想なことをしてしまった。やはり、ここまで連れてくるのではなかったわね。早く回復するといいのだけれど。 不可抗力だったのに、人為的なものではないかと、疑ってしまった自分に嫌気がさす。 あの時のマリの言った言葉が、少しひっかかるけれど……まだ、話せる状態ではないものね。 元気になった時にでも、詳しく尋ねてみましょう。その時は、笑い話になっているといいのだけれど。 ✳︎✳︎✳︎ 数日後。 マリの容態は、芳しくなかった。その為、このままここに留まるよりも、帰国したいというマリの強い希望を聞き入れることにした。 本来なら、回復してから帰国するつもりだったのだけれど。 無理のないように、休憩をとりながらゆっくりと進んだ。 帰り着いたのは、当初予定していた1ヶ月はとうに過ぎていた。 マリは、療養を兼ねて実家へと帰すことにした。 早く元気になってほしいわ。 この出来事は、何年も後に思い出すことになる。 ✳︎✳︎✳︎ 「サラ!よく来てくれ