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第816章
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植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第887話
「ただ甘やかすんじゃなくて、学習の難易度を上げて、もっと多くのことを学ばせるってことです。彼は俺の息子ですから。俺と同じように、困難にぶつかってこそ、成長できるんです」「わかりました。今後、蓮くんの学習面での進捗は、ご報告いたします」「はい。今夜、俺が手配した外国人講師が到着します。後で連絡先をお渡ししますね。彼は天才クラスを率いて、国際ハッカー杯プログラミング大会に出場する予定です」奏は静かに言った。これは彼が蓮のために用意した未来への道だった。蓮が世界でトップレベルになることを願っている。それは蓮に大金を稼いでほしいという意味ではなく、彼自身の目標だと信じているから。父親として、その目標を実現できるよう全力で支えたい。「奏さん、あなたは間違いなく素晴らしいお父さんですよ。残念ながら、蓮くんはまだ若すぎて、その想いを理解できないんですね」責任者は感慨深げに言った。「でも、彼もいつか大人になったら、きっと分かってくれると思います」「そうだといいんですが」今の奏は、蓮に理解されることよりも、ただ憎しみを手放してくれることを願っていた。「奏さん、私はこの後、学院の会議があるので、先に戻ります。何かあれば、またご連絡ください」責任者は時計を見ながら言った。「わかりました。お見送りします」二人は個室を出た。レストランのホールを通りかかった時、奏はつい視線を巡らせた。そしてすぐに、とわこを見つけた。ちょうどその時、とわこもまるで気配を察したかのように顔を上げた。ただ、彼女の視線は奏ではなく、奏の隣にいる人物に向けられていた。「おっさんじゃん」瞳は奏の隣にいる男を見て、ぼそっと言った。「あの人、どこかで見たことあるような気がする」とわこはほんの一瞬その顔を見ただけで、すぐに目を逸らした。奏の熱い視線が刺さるようで、体が火照ってくるのを感じていた。「え？奏の隣のあのおっさんを？」瞳はジロジロとその男を観察した。「ぽっちゃりで、頭も寂しい感じだけど、ほんとに見たことあるの？」「うん、多分ある。でもどこだったか思い出せない」とわこがそう言い終えた時には、奏はすでにその男を出口まで見送り終えていた。しばらくして、奏が戻ってきた。「とわこ、彼戻ってきたよ。もしかしてこっちに挨拶に来るかもよ？」瞳は目をキラキラ
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第886話
とわこは頭が痛くなってきたので、こめかみを押さえながら言った。「本当にないなら、言ってくれればいいのに。なんでわざわざ彼に言うんですか？」マネージャーは恐縮した様子で言った。「申し訳ありません！以前、とわこさんと奏さんが一緒にいらしてたので、きっと特別な関係なんだろうと思いまして。それに、お友達がちょっと感情的になってたので......」とわこはすぐに彼の話を遮った。「この魚、一皿いくら？」「すでに奏さんのお会計に加えさせていただきました」マネージャーはにっこりと笑って言った。「どうしても気になるようでしたら、奏さんにお代をお振込みいただいても構いません。この料理のお値段は120万円になります」とわこ「？？？」この店の名物が美味しくて、外の店より高いのは知っていたがまさかこんなに高いとは思わなかった。マネージャーはとわこが固まっているのを見て、すぐに説明した。「この魚は、普通のとはまったくの別物なんです。極上品中の極上品でして、うちの店でもここ数年、こんなに綺麗なものが獲れたことはなかったんです」とわこは深く息を吸い込み、彼に軽く手を振って言った。「わかりました」マネージャーが下がったあと、瞳が申し訳なさそうに言った。「今回の食事代、私が出すね！まさかこんなに高いとは思わなかったよ。前に裕之と一緒に来たときはそこまでじゃなかったのに」とわこ「奢るって言ったのは私なんだから、私が出すよ。瞳、そんなにこの魚が食べたかったのって裕之と関係あるの？」瞳は気まずそうに笑った。「別にそういうわけじゃないよ。ただ、ちょっと情緒不安定になっちゃって！」「大丈夫。感情は出しちゃったほうがスッキリするよ」とわこは皿を彼女の前に差し出した。「食べなよ！男が甘やかしてくれないなら、私が甘やかす」瞳は魚を一切れ取って、とわこのお椀に入れた。「じゃあ奏にお金振り込む？」「食べてからでいいでしょ！」彼女は奏が今このレストランにいることを思い出し、これ以上トラブルは避けたかった。「次からご飯行く時は、このお店は避けよう。彼がここにいるってわかってたら、選ばなかったのに」とわこが浮かない顔をしているのを見て、瞳はつい本音をもらした。「実はね、彼の車が外に停まってるのを見かけて、わざと来たんだ。誰と来てるのか、気にならない？まさか一人で食事してる
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第885話
高級レストランの前を通りかかったとき、瞳の目が外に停まっている一台の高級車に釘付けになった。「とわこ！ここで豪華ランチしよっか！」ひらめいたように、瞳が言った。とわこはスマホを見ながら、軽く返事した。「いいよ、私がおごる」瞳は車をレストランの正面に止め、降りてから駐車場の係員にキーを渡した。ようやくスマホをしまったとわこが、レストランを見上げて言った。「ここか。前に来たことあるよ。味、なかなか良かった」「え、いつ来たの？私は滅多に来ないよ。ここって値段高いし、予約してないと看板メニュー食べられないんだよね」とわこは少し考え、表情が微妙になった。「前に奏と一緒に来たことあるの」「なるほどね！あの人なら、そりゃ高い店ばっか行くよ。付き合ってた頃、きっとこの街の高級レストランは制覇してたんじゃない？」「そこまではないよ。彼が気に入ってたのは数えるほどだったから」瞳はすぐにピンときた。なるほど、奏が今この店で食事してるのは、この店が彼のお気に入りの一つだから。だからさっきあの車がここに停まってたのか。別に偶然を装って鉢合わせしたいわけじゃない。ただ、彼が誰と食事してるのか、気になっただけ。店内に入っても、ホールに奏の姿はなかった。まあ、そうだよね。彼って昔からプライバシー重視で、こういう店に来ても絶対個室を選ぶ。窓際の席に案内され、ふたりが座ると、店員がメニューを差し出した。「看板メニュー、ありますか？」「申し訳ございません。看板メニューは事前予約が必要でして」と、店員は笑顔で答える。でも今の瞳は、なぜか無性にこの店の看板メニューが食べたくなっていた。「予約してないのに食べてるお客さんもいるじゃない？」「そ、それについては私にはちょっと......通常は予約が必要でして......」「じゃあ、もし奏が急に来て、看板メニュー出してって言ったら、断るの？」その問いに店員は怯えたようにぺこぺこ頭を下げ、そのままマネージャーを呼びに行ってしまった。「瞳、そこまで食べたいの？」とわこは彼女の手を握って心配そうに言った。「予約して、後でもう一回来ようよ。ね？」「今、食べたいの」我ながらわがままだって分かってる。でも感情のコントロールが効かない。やがて、マネージャーがやって来た。とわこに視
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第884話
そこには、「とわこ、最後のチャンスをくれ！」と書かれていた。彼女は深く息を吸い込み、スマホをそっと置いた。「最後のチャンス」って。そのメッセージが彼女の心をきゅっと締めつけた。瞳の泣き声が脳裏をよぎる。あの時、離婚を決意した彼女の覚悟。日本を去るときの潔さ。でも、裕之の再婚が決まった瞬間、あの感情がまた崩れ落ちてしまった。誰だって、かっこよく生きたい。だけど、この世で人を狂わせるものがあるとしたら、それはきっと「愛」以外にない。奏は館山エリアの別荘を出て、スマホを取り出し、Lineを開いた。とわこからの返信は、なかった。でも彼には確信があった。とわこはメッセージを読んでいる。返事がなくても、焦らない。もう、彼を脅かす存在も出来事も、何一つない。計画を練って、じっくり待てばいい。翌日、瞳は館山エリアの別荘を訪れた。両手いっぱいにお菓子とプレゼントを持っていた。三浦が笑顔で言った。「こういうの、懐かしいわね。昔に戻ったみたい」とわこは、瞳の表情が一瞬ぎこちなくなったのを見逃さなかったが、すぐに話を振った。「瞳、ちょっと蒼を見てくれる？昨日、自分の顔に引っかき傷をつけちゃって、まるで子猫みたいなの」瞳はとわこと一緒にベビーベッドに向かい、蒼の顔を見ると思わず吹き出した。「わ、かわいすぎる！どうして片方の頬だけ、あんなにきれいにひっかき傷が？ホント、子猫ちゃんみたい」「爪はそんなに長くないのにね」とわこが不思議そうに言った。「たぶん、自分のほっぺがプニプニしてて、触ると気持ちいいんじゃない？ふふ」瞳は蒼の頬を指でちょんちょんと突いた。蒼のくりくりした大きな瞳が、じっと瞳を見つめた。その視線に、瞳の心はとろけそうになった。「ねえ、とわこ、蒼って奏にそっくりじゃない？毎日この子を見てて、奏のこと思い出さない？」「まあ、正直、そういう時もあるよ」「ほんと子どもって可愛すぎ。蒼を見てると、私もう母性が溢れちゃって！もし私があんたの立場だったら、きっと働きたくなくなるわ」とわこはその話題がそれ以上進まないよう、そっと話を変えた。「瞳、ちょっと買い物に行かない？明日から出勤だから、新しい服買いたいの。ついでに蒼にも何着か見たいし」「いいね！私もちょうど服が欲しかったし。裕之の結婚式に着ていく服、
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第883話
マイク「それでも大丈夫だよ。お兄ちゃんのイケメンぶりなら、女の子の方から寄ってくるさ。もし彼女ができなくても、彼氏はできるかもね」レラ「......」蓮は無表情のまま、箸と茶碗を置いて立ち上がった。「くだらない」蓮が席を立つと、とわこも食事を終えて席を外した。時差のせいで、少し体調が優れなかった。彼女は寝室に戻って荷物を片付け、ベッドに横になった。スマホを取り出して、瞳に「帰国した」とメッセージを送ろうとした。しかし画面を開いた瞬間、まず目に飛び込んできたのは奏からの大量のメッセージだった。彼女は一瞬戸惑いながらも、すぐにトーク画面を開いた。そこには、今日レラがドリームタウンで楽しんでいる写真が、何十枚も送られていた。どの写真の中でも、レラはとびきりの笑顔だった。心から楽しんでいる様子が伝わってくる。とわこは全ての写真を見終わった後、特に綺麗に撮れていた数枚だけ保存して、あとはトーク画面を閉じた。何を返せばいいか分からなかった。空港で別れた日のことが、まるで昨日のことのように思い出される。あの時の痛みを、そう簡単に忘れられるはずがない。彼女は代わりに瞳へ電話をかけた。「瞳、私、帰国したよ」電話の向こうで、瞳はびっくりしたように声を上げた。「えっ、もう家に着いたの！？」「うん。急に決めたことだから、事前に言ってなくてごめんね」「じゃあ、明日会いに行くね！あ、そうそう、今日、レラがニュースになってたの見た？」瞳は感心した。「奏、今回本当に大盤振る舞いだったよ！チケット半額で、相当な損失してるはず。全部、レラを楽しませるためなんだよ。今日、半額チケットを買えた人たちは、みんなネットでレラに感謝してるよ」とわこはニュースを見ていなかったが、瞳の話を聞いても、特に何も感じなかった。奏が金に糸目をつけないことなんて、今に始まった話じゃない。でも、自分が欲しいのは、お金じゃなかった。「とわこ、裕之の家、本当に結婚の準備してるの」瞳の声が少し沈んだ。「全部が夢みたい。私、あのとき離婚なんてしなきゃよかった。衝動的すぎた。日本に戻らず、あのまま外国にいた方がよかったのかも」「じゃあもう一回海外に行って、少しリフレッシュしてきたら？」とわこが提案した。「ううん逃げても意味ない。結婚式が終わってか
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第882話
奏がやって来た。みんな驚いた。とわこが彼を嫌っていること、会いたくもないこと、奏自身が一番よくわかっているはずだ。プライドの高い彼が、どうしてわざわざ自ら恥をかきに来たのか？奏は車のドアを押し開け、足を踏み出した。彼が門の前に立つと、子遠が別荘から足早に出てきた。「社長、もうお帰りください」子遠は門を開けて彼の前に立ち、気まずそうに言った。「彼女、社長には会いたくないそうです。僕も追い出されました」と言っても、そこまで深刻な話ではない。とわこは、子遠に「罪滅ぼし」を命じたのだ。今日、ドリームタウンにレラを連れて行った件は、奏を追い返せば水に流すと。それをあえて大げさに言ったのは、奏に早く立ち去ってほしかったからだった。「レラのことは、怒ってなかったか？」奏が聞いた。「全然。レラはまだ子どもですし、たとえ何かやらかしても、とわこが本気で責めるわけないですよ。ご心配なく」子遠はそう言ってから、説得した。「とわこはもう帰ってきたんです。これからいくらでもチャンスはあります。今、無理する必要はないかと」奏の整った顔に、冷たい表情が浮かぶ。「つまり、俺が彼女に何かすると思ってるってことか？」「とわこがレラを困らせたりしないことぐらい、社長もわかってるでしょう」「僕は黙ってますけど、バカじゃないですからね。今、社長がここにいる理由、分かってますよ」子遠は心の中でこう思った。奏は子遠に鋭い視線を送り、そのまま無言で車の方へと戻った。そして、勢いよくドアを閉めると、バンという音を残して、黒いロールスロイスは闇の中へと消えていった。別荘の中では、みんなダイニングに集まり、温かいディナーを囲んでいた。「ママ、私たちこっそり遊びに行っただけだったのに、まさかパパに会うなんて思わなかったの」レラは必死に説明した。「パパって呼んでないよ？ママとお兄ちゃんの言うこと、ちゃんと聞くって約束したから！」とわこはもう怒っていなかった。「レラ、学校にはもう慣れた？」「みんな私のこと好きだから、まあ大丈夫！」レラはそう言いながら、急に話題を変えた。「男の子に『彼女になって』って言われたけど、私が怒って泣かせちゃった」「えっ？」とわこは思わず聞き返した。「レラ、ちゃんと断るのはいいけど、怒鳴ったりはしない方がいいよ」
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第881話
子遠は頷いた。「うちの社長の性格知ってるだろ？とわこにバレることなんか、全然怖がってないよ」楽しい一日が、あっという間に過ぎていった。夕方、奏はみんなを夕食に連れて行こうとした。レラは今日は一日中園内で遊び、とても楽しんだ分、お腹もペコペコだった。だから奏のおごりという話には、何の異議も唱えなかった。そのとき、マイクのスマホが鳴った。マイクは携帯を取り出し、画面を見て、すぐに「シーッ」というジェスチャーをした。「とわこからだ。みんな、ちょっと静かにして！」そう言って電話に出た。「とわこ？レラとビデオ通話したいのか？今は外だから、家に戻ってからかけ直すよ」「もう帰国したよ。今、家にいる」とわこの声は落ち着いていた。「今すぐレラを連れて帰って来て」マイクは一瞬固まった。驚く間もなく、とわこは電話を切った。「マジかよ」マイクは顔を赤らめ、心臓がドクドク鳴った。「とわこが帰ってきた！今、家にいるって！レラを今すぐ連れて帰って来いって命令された！絶対なんか気づいてる！」子遠の心臓の鼓動も一気に早くなった。「でもさ、声のトーンは意外と優しかった気が......」マイクは自分に言い聞かせるように言った。「まだ気づいてないかも......とにかく、先にレラを連れて帰るよ。みんなはご飯行って！」そう言って、マイクはレラを抱き上げ、足早に駐車場へ向かった。子遠は心配して、奏に言った。「社長、僕も一緒に行って、とわこの様子を見てきます！」三人はあっという間に視界から消えた。奏はスマホを開いた。今日はレラの写真をたくさん撮っていた。写真に写るレラの笑顔は、彼の灰色だった世界を、ぱっと明るく照らしていた。館山エリアの別荘。とわこの突然の帰国に、蓮は大喜びだった。実はこれは急に決めた帰国だった。みんなを驚かせたくて、誰にも知らせていなかったのだ。マイクがレラを連れて戻ると、レラは一目散にとわこの胸に飛び込んだ。「ママ！やっと帰ってきた！すっごく会いたかったよぉ！」とわこはレラを優しく抱きしめ、笑顔で言った。「ママもすっごく会いたかったよ。弟が元気になったから、すぐに帰ってきたの」マイクと子遠は、その笑顔を見てようやくホッと胸を撫で下ろした。「マイク、今日レラをどこに連れてったの？」とわこの顔から
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第880話
次のアトラクションに到着すると、入口にはまたもや長い列ができていた。レラは自然とVIPレーンへ向かい、列に並ぼうとした。だが、奏が娘を列に並ばせるはずがない。今日は屋外の気温も心地よく過ごしやすいとはいえ、長時間並ぶのは疲れるし、そもそも彼は並ぶのが大嫌いだった。彼は大股で歩み寄り、レラの腕を引いて優しく言った。「パパがそのまま中に連れてってあげるよ」レラは眉をひそめて言った。「それって、割り込みってこと？」奏は一瞬の迷いもなく頷いた。マイクは拳を握り、次に何が起こるのかすでに予想していた。その時、子遠が奏のそばにやってきて、1時間前に起きた出来事を耳打ちした。「割り込みなんて大っ嫌い！さっきも意地悪なおばさんが割り込んできたから、追い払ったんだよ！なのに自分がそれやったらおかしいでしょ？」レラは並ぶのが嫌いとはいえ、自分の信念を曲げるようなことはしたくなかった。娘の気持ちを理解した奏は、それでも彼女に辛い思いをさせたくなかった。そこで即断した。「割り込みはしない。じゃあ、パパが今日の営業を止めて、レラだけをここで遊ばせてあげよう」責任者の顔が一瞬で固まった。週末の一日営業中止がどれほどの損失か、社長は分かっているのか？開業してからまだ三ヶ月、利益の回収すら終わっていないのに。子遠は最初から奏がこうすることを予想していた。奏は人混みが苦手なのだ。今日ここに来たのも、レラが遊びたいと言ったから。仕事の視察だったら、部下に任せていただろう。レラは呆然とした。両親が不仲になる前、パパはいつもこうして何でも言うことを聞いてくれた。懐かしい、愛されていた感覚が蘇る。だけど、どこか不安な気持ちも混ざっている。「わたし......ひとりで遊ぶのはやだ。他の子と一緒に遊びたいの」レラはどもりながらも、列に並ぶと主張した。奏はレラを無理やり引っ張ることはしない。娘に並ばせず、かつ罪悪感を与えない方法を探すしかなかった。彼は横にいた責任者のところへ行き、対策を相談した。一方、マイクは子遠を引っ張ってこっそり愚痴をこぼした。「これ、とわこにバレたら絶対怒られるやつだわ」子遠は苦笑いした。「ごめん、とわこに知られたら、僕からちゃんと説明するから」「お前が説明しても意味ねーよ。結局
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第879話
子遠の真剣な表情を見た責任者は、深く息を吸い込み、すぐに頷いた。何をすべきか、ようやく理解したようだった。すぐに、例の西野は責任者に連れられ、その場を離れることになった。連れていかれながらも彼女は大声で怒鳴っていた。「このクソガキ！覚えてなさいよ！ただじゃおかないから！」レラはその背中に向かって、ぺろっと舌を出し、変顔をした。西野が去ると、騒然としていた場はたちまち落ち着きを取り戻した。「レラ、もう大丈夫だよ。あの人、もう来ないから。怒らないでね？」子遠が笑顔でなだめた。「ぜんっぜん怒ってないよ。恥ずかしいのはあの人でしょ、私じゃないもん。」そう言ってレラはマイクの手を引き、元の場所に戻って列に並び直した。彼女の前にいた小さな女の子が、レラに向かって親指を立てた。「お姉ちゃん、すっごくかっこよかった！」レラは誇らしげに、太陽のような笑顔を見せた。その頃、責任者はすぐさま奏に電話をかけていた。「社長！お嬢様が園内にいらっしゃってます！」あの子が社長の大事なお嬢様なら、絶対にこのチャンスを逃してはならない。スマホの表示を確認し、相手が誰かを確かめると、奏は低く重たい声で答えた。「娘が？」「そうなんです。子遠秘書が社長のお嬢様だとおっしゃってました！間違いないかと！社長もこちらへ遊びに来られませんか？」「子遠が娘を連れてドリームタウンに行ったのか？」このことをまったく知らされていなかった奏は、驚愕した。子遠め、俺に何の断りもなく娘を連れて出かけるとは。なんて奴だ。「そうですそうです！そのお嬢様、背が高くてスラッとしてて、長い黒髪がすっごく綺麗で、お目目もぱっちり！まるで昔テレビで見た子役スターみたいでした！」奏の心はすでにドリームタウンへと飛んでいた。「今すぐ向かう」一時間後、奏は車を飛ばし、ドリームタウンに到着した。責任者に案内されて、レラが今遊んでいるアトラクションの場所へ。それは、レラが一番最初に並んだアトラクションだった。既に一時間近く待っていた。三十分後、ようやく順番が来て、レラが嬉しそうにアトラクションから出てきた。だが、奏の姿を見た瞬間、笑顔がピタッと止まった。「レラ、俺は今日は視察でここに来たんだ」奏は苦し紛れの言い訳を口にした。レラはすぐにウソを見抜いた。「今
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