水鏡の星詠

水鏡の星詠

last updateLast Updated : 2025-08-02
By:  秋月 友希Updated just now
Language: Japanese
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 幼い頃、森で過ごし、自然との深い結びつきを感じていたリノア。しかし成長と共に、その感覚が薄れていった。ある日、最愛の兄、シオンが不慮の事故で亡くなり、リノアの世界が一変する。遺されたのは一本の木彫りの笛と星空に隠された秘密を読み解く「星詠みの力」だった。リノアはシオンの恋人エレナと共に彼の遺志を継ぐ決意をする。  星空の下、水鏡に映る真実を求め、龍の涙の謎を追う。その過程で自然の多様性に気づくリノアとエレナ。  希望と危険が交錯する中、彼女たちは霧の中で何を見つけ、何を失うのか? 星が導く運命の冒険が今、動き出す。

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Chapter 1

プロローグ ①

 リノアは幼い頃、初めて自然の声を聞いた。それは母親と一緒に森を訪れた日のことだった。森の奥深く、陽光が木々の隙間から柔らかく差し込む場所で、リノアの母はリノアの手を引きながら歩いていた。

「リノア、ここで少し待っていて。お母さんが戻るまで動かないでね」

 母の声は優しかったが、どこか切迫した響きを帯びていた。母はリノアを太古から存在するオークの木の根元に座らせ、膝に手を置いて微笑んだ。

「お母さん、どこに行くの?」

 リノアが尋ねると、母は首を振って答えた。

「すぐ戻るから、ここで待っていて。約束だよ」

 そう言って、母はリノアに背を向け、木々の間へ消えていった。背中が遠ざかるにつれ、リノアの小さな胸に不安の波が寄せ始めた。

 リノアはその言葉を守り、静かに待ち続けた。

 太陽が少しずつ傾き、森に長い影が伸び始める。オークの木の根はごつごつしており、苔の柔らかな感触が彼女の手をくすぐった。

 鳥のさえずりが遠くに聞こえ、心地よく感じる。しかし母が戻って来ないことで、リノアの心の中に不安の感情が芽生え始めた。

「お母さん、どこ?」

 リノアが小さな声でつぶやく。

 涙がこぼれ落ちそうになるのを必死にこらえながら、リノアは周囲を見回した。森は静かで、ただ風が木々を揺らす音だけが響いている。母の気配はない。

「お母さん!」

 我慢しきれず、リノアは立ち上がり、母が消えた方向へ駆け出そうとした。その瞬間、耳元で声が響いた。

 「リノア。まだ、ここにいた方がいいよ」

 驚いたリノアは足を止め、辺りを見回した。

「誰?」

 姿が見えない。風の音と川のせせらぎなど、自然の音だけが聞こえる。

 聞いたことのない声だ。だけど温かくて、どこか懐かしい響きがする。

「もう少しだけ、ここにいて」

 声が再び森に響き渡った。姿は見えないが、確かにそこにいる。リノアは目を細めて周囲を見回したが、やはり何も見つけることはできなかった。

「どうして? お母さんのところに行きたい」

 リノアが訴えると、声は静かに答えた。

「ここにいたら安全だから。僕たちが君を守ってあげる。お母さんも心配しなくて良いよ」

 その言葉にリノアは不思議な安心感を覚え、彼女は再びオークの根元に座り込んだ。

 目の前には小さな川が流れ、水面が陽光を反射してキラキラと輝いている。

 リノアは手を伸ばし、水にそっと触れた。ひんやりと冷たく、柔らかな感触が指先に広がっていく。

「あっ」

 小さなリスが木の陰から顔を出している。一緒に遊びたいのかもしれない。リノアをじっと見つめている。リノアの唇に小さな笑みが浮かんだ。

「大丈夫みたいだ。ここでお母さんを待ってよう」

 彼女はそう呟いて、身体を自然にゆだねた。木々のざわめき、川のせせらぎ、風のそよぎ―― それら全てがリノアを優しく包み込んだ。

 風が、まるで歌を唄うような音を立てている。

 だが、その平和な時間は突然の異変によって破られることになった。村の方角から火の手が上ったのだ。黒い煙が空に広がっていく。

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