四時間くらい空の旅を楽しんでいたら、空が暗くなる頃にジャックス王国に到着した。
明日の朝、今後についての会議をするらしい。俺達家族にはベッドが四台ある城の客室が割り振られていたようで、部屋に入るとアルとナタリアが笑顔で抱きついてきた。
「パパっ! お帰りなさいっ!」
「ダディお帰り!」
愛しい家族の頭を撫でまわし、俺は鎧を脱いだ。
その動作が、物語に出てくる|一仕事《ひとしごと》終えて家に帰った騎士のように思えた。 自分とはかけ離れた別の人間になった気がして、少し歯痒かった。少し疲れたのでベッドに横になった。
すぐさま布団を掻き分け、ナタリアが潜り込んでくる。 あっという間に俺の右腕が枕にされてしまう。 二の腕にほっぺたの柔らかさを感じた。嫌な予感がする。
アルを見ると、悪戯を考えている子供のような表情を浮かべていた。「私もっ!」
アルがベッドに飛び込んできた。
俺の体は押しつぶされ、車に|轢《ひ》かれた蛙のような情けない声が漏れる。 俺の左腕も枕にされてしまった。 頭を擦り付けてくるので、角が当たって痛い。 二の腕の皮が|捲《めく》れていなければいいのだが。「ねえダディ、闇皇帝はどうだった? どうやって倒したの?」
「しりゃにゅいぢぇいっしゅんぢゃっちゃよ」
※|不知火《シラヌイ》で一瞬だったよ「えぇー! やっぱりダディは強いんだね! 闇の中のドラキュリオはママでも勝てないって聞いてたから、少し不安だったんだよね」
「ナタリアちゃん、パパは誰にも負けまちぇんよっ!」
コメ:不知火なんて使えねえだろ!w
コメ:子供の前でカッコつけようとすんなwww コメ:判決を言い渡す。美女独占罪で死刑! コメ:ナタリアたん可愛いんじゃあ【二万円】 コメ:僕はアルちゃんに一票!【一万円】 コメ:羨ましくてムカつくから勇太に不知火食らわせたるわ。で、不知火ってどうやんの? コメ「にゃちゃりあしゅみゃにゃい! おりぇは……」 ※ナタリアすまない! 俺は……「ダディ、何してるの? あ、ディーを紹介するね! この子、あたしがダディやママと一緒に居ると、恥ずかしくて会いに来れないみたいだから!」 コメントから散々脅されていたので全力の謝罪をしようと思ったのだが、ナタリアは気にしていない様子だ。 それどころか、ディーと話す機会をくれるらしい。 ナタリアに話しかけられたディーは、表情に不満を浮かべて嫌がっている。 ナタリアに腕を掴まれたディーは、観念した様子で俺の前にやって来た。「ひゃじみぇみゃしちぇ。にゃちゃりあにょぴゃぴゃぢぇしゅ」 ※初めまして。ナタリアのパパです「うむ、話には聞いている」 ……それだけ? この少年は、挨拶をしたら挨拶を返すという礼儀を知らないのだろうか。 自己紹介をされたら自分も返すという当然の事が出来ないのだろうか。 ナタリアがディーを紹介するという事は、俺やアルと一緒の時にも会いに来て欲しいという表れでもある。 それほどに、ナタリアは初めて出来た友人を大切に思っているのだろう。 握りしめた俺の右手がプルプルと震えている。勇太:さて、一発くれてやりますかね。 コメ:ナタリアちゃんより強いディーに? コメ:一発貰うのはお前だけどなwww コメ:尾行がバレた上に、ガキにボコボコにされる情けない父親の姿を見せたいのか?w コメ:とりあえず会話を広げようぜ?「じーきゅんは、きょにょちきゃきゅにしゅんぢぇりゅにょ?」 ※ディー君は、この近くに住んでるの?「さあな」 ……さあな? 俺は、「はい」か「いいえ」で答えられる簡単な質問をしたはずなんだけど。 まさか斜め上の回答を貰うとは思わなかった。 二人で楽しく遊んでいた所を邪魔してしまったのは、俺が悪いと思う。 ディーが機嫌を損ねても仕方ないだろう。 でも、今後ナタリアと友達として付き合っていくのなら
ついに街に入った。 建物の影に隠れたり、|塀《へい》に張り付いたりしてナタリアの後をついて行く。「おじさんおはよう! 後で買いに来るかも!」「おっ、ナタリアちゃん! お出掛けかい? 今日はサンドリザードのいい肉が入ったから楽しみにしてな!」 ナタリアと屋台のおじさんが親しげに会話している。 おそらく頻繁に買い物をする店なのだろう。 対象の行動パターンを把握するのに重要な情報を手に入れた。勇太:こちらアルファー、サンドリザードの串焼きが食べてみたい。 コメ:ブラボー了解。腹ペコ名探偵は任務を続けろ。 コメ:デルタ、ナタリアたんが可愛い!【一万円】 勇太:デルタありがとう! コメ:もういいってそれ!w 城から街の外まで続く真っ直ぐな大通りを、|遮蔽《しゃへい》に隠れつつ慎重に尾行を続けていく。 すると、何かに気づいたナタリアが建物の角を曲がって路地裏に入った。 俺は、その建物の壁に背中をつけ、片目だけ出して様子を確認した。 そこには、手を振ってナタリアを呼ぶ少年の姿があった。 おそらく、アレがディーという俺の娘についた虫だろう。 ナタリアと同じく中学生くらいの年齢に見える。 センター分けの短い銀髪は清潔感を感じさせ、大きなライムグリーンの瞳が美しい。 闇皇帝に匹敵する整った容姿をしている。 少し吊り上げた口角がニヒルな笑みを作り上げ、白いシャツに白いパンツが王子様のような雰囲気を出している。コメ:イケメンやんけ! コメ:美男美女のカップルだね。 勇太:みんなには、あの男がまともに見えるんですか? 名探偵ユートルディスしか気付いてないのか? コメ:どういうこと? コメ:爽やかな好青年て感じだが。 勇太:シャツのボタンを二つも外して胸元を|曝《さら》け出してる。アレは不良だ! コメ:勇太くんて、すげえ馬鹿なんだねw コメ:言い掛かりで草 ディーの元にナタリアが駆け寄る。 ディーは、ナタリアが上から手を乗
魔王の調査が始まってから三週間が経過した。 ダメ元でやってみた商品紹介は大不評だったし、城下町探索ツアーも二日で飽きられた。 特にイベントが起きない城での配信は、企画力の無い俺にとって厳しいものであった。 アルとナタリアのファンだけが残り続けてくれている。 あの二人がキャスターだったら、花のある配信になるのだろうが。 以前アルは、産まれてから一カ月で大人の姿になったと言っていたが、ナタリアは少し背が伸びたくらいでそんなに変わっていない。 愛らしい少女のままだ。 俺とアルの子供なので、ここからは人間のようにゆっくりと大人になっていくのかもしれないとアルが言っていた。 親としては、成長を見守れるので嬉しい限りだ。 成長といえば、教育ママと化したアルが、ナタリアにお金の使い方を覚えさせるべきだと言い出した。 金貨を渡して好きに買い物をさせれば、金の価値が分かるようになると。 人間の世界で暮らすナタリアにとって、知らない人と接する事も重要であり、俺やアルが近くにいない状態で色々と経験させるべきだというのが、アルの意見だった。 俺は、一人で行動をさせるのは危ないのではないかと心配したが、プァルラグを瞬殺するナタリアに何か出来るような人間がいる訳がないと説得された。 そんなこんなで、ナタリアは一人で出かけるようになり、寝る前に彼女が何を経験したのかを聞くのが日課となった。 驚くべき事に、初めて買い物に出かけたナタリアは、その日の内に友達を作って帰ってきた。 同じくらいの身長で、ディーと名乗る男の子だという。 道端で腹を空かせて|蹲《うずくま》っていたディーに、屋台で買った肉串を分けてあげたのがきっかけで仲良くなったらしい。 彼はいつも一人らしく、おそらく孤児だと思われる。 ナタリアが一人で外出すると、必ず声を掛けてくるみたいだ。 俺やアルと一緒にいる時は姿を見せない不思議な少年である。 毎日のように二人きりで遊んでいるらしい。 友達が出来たのは喜ばしいのだが、俺としては見過ごせない状況である。
四時間くらい空の旅を楽しんでいたら、空が暗くなる頃にジャックス王国に到着した。 明日の朝、今後についての会議をするらしい。 俺達家族にはベッドが四台ある城の客室が割り振られていたようで、部屋に入るとアルとナタリアが笑顔で抱きついてきた。「パパっ! お帰りなさいっ!」「ダディお帰り!」 愛しい家族の頭を撫でまわし、俺は鎧を脱いだ。 その動作が、物語に出てくる|一仕事《ひとしごと》終えて家に帰った騎士のように思えた。 自分とはかけ離れた別の人間になった気がして、少し歯痒かった。 少し疲れたのでベッドに横になった。 すぐさま布団を掻き分け、ナタリアが潜り込んでくる。 あっという間に俺の右腕が枕にされてしまう。 二の腕にほっぺたの柔らかさを感じた。 嫌な予感がする。 アルを見ると、悪戯を考えている子供のような表情を浮かべていた。「私もっ!」 アルがベッドに飛び込んできた。 俺の体は押しつぶされ、車に|轢《ひ》かれた蛙のような情けない声が漏れる。 俺の左腕も枕にされてしまった。 頭を擦り付けてくるので、角が当たって痛い。 二の腕の皮が|捲《めく》れていなければいいのだが。「ねえダディ、闇皇帝はどうだった? どうやって倒したの?」「しりゃにゅいぢぇいっしゅんぢゃっちゃよ」 ※|不知火《シラヌイ》で一瞬だったよ「えぇー! やっぱりダディは強いんだね! 闇の中のドラキュリオはママでも勝てないって聞いてたから、少し不安だったんだよね」「ナタリアちゃん、パパは誰にも負けまちぇんよっ!」コメ:不知火なんて使えねえだろ!w コメ:子供の前でカッコつけようとすんなwww コメ:判決を言い渡す。美女独占罪で死刑! コメ:ナタリアたん可愛いんじゃあ【二万円】 コメ:僕はアルちゃんに一票!【一万円】 コメ:羨ましくてムカつくから勇太に不知火食らわせたるわ。で、不知火ってどうやんの? コメ
「よし、逃げるぞ!」 王様の口から、王とは思えないセリフが聞こえた。 闇皇帝を倒した後の事は、何も考えていなかったようだ。 ランデルが部屋を飛び出し、王様が後に続く。 俺は体が重くて走れないので、異変に気付いた黒い騎士に見つかったら捕まってしまうだろう。 この心配が杞憂に終わるといいのだが。 ゆっくりと歩いているが、今のところ人の気配は無いようだ。「どういうことだ!」「こ、これは!」 玉座の間から叫び声が聞こえた。 王とランデルが眷属に囲まれているのかもしれない。 ようやく追いついた俺は、二人を囮にして逃げる事を考え、壁に隠れながら様子を伺う。 部屋の中央で周りを見渡す王様と、訝しげな表情で黒い鎧を抱えるランデルの姿が見えた。 先程まで壁沿いに立っていた眷属達の姿が見えない。 その場所には、黒い鎧が散らばっている。 闇皇帝キディス・メイガス・ドラキュリオが死んだ事で、その眷属も一緒に消滅したのかもしれない。 城の外に出てみると、空は青く澄み渡っていた。 光を遮っていた闇のカーテンは消滅しており、陽光が街を照らしている。 ドラキュリオ帝国が滅びた事を表していた。「王よ、どうせなら闇皇帝のコレクションを持ち帰りませんか?」「それもそうだな! ランデルよ、天馬車に詰め込むのだ!」 不穏な会話が聞こえた。 立場のある二人が空き巣のような真似をする筈がないと耳を疑ったが、ジャックス王国最強騎士とその王様は、剣を抱えてエッサホイサと往復を始めた。「おいランデル! 金貨もあるぞ!」「やりましたな!」 暗殺のような形だったが、戦争に勝ったと考えれば勝者の権利を享受しているにすぎないのだろう。 だが、ホクホク顔で走り回る二人を見ると、犯罪の片棒を担がされたような気持ちになる。 空き巣というより、これは強盗殺人かもしれない。 天馬車に限界まで剣を詰め込んだ重鎮二人が、やり遂げた顔で額の汗を拭いている。
戦闘が終わると、兵士達が街道に散らばる緑の死体を一箇所に集め始めた。 ゴブリンの死体は食べる訳にもいかず、放置しては腐敗による悪臭や他のモンスターを呼び寄せる原因にもなる為燃やすしかないらしい。 魔法使いが火を放つと、肉の焼ける嫌な臭いが広がった。 立ち昇る黒い煙がどこか怨念を含んでいるようで、背筋に寒気を覚えた俺は、その光景を見続ける事が出来なかった。「わっ……私は、パパの顔って可愛い? ……と思いますけどねっ!」 アルが気を遣って俺を励ましてくれたが、あんまり頭に入ってこなかった。 コメ:おい! 何か言うことがあるんじゃないか? コメ:ふぅ。 コメ:勇太、見えてるんだろ? コメ:リーダーどこー? コメ:ふぅ。 コメ:緑色の勇太が居たなー? んー? 勇太:オレ ゴブリン オマエラ スマン コメ:馬鹿馬鹿しくてワロタwww コメ:しょうもなw コメ:俺は結構好きwww 俺の心に大きな傷を残した悲惨な事件があった気がするが、何事もなかったかのように行軍が再開された。 馬車が森を抜けると、小高い丘の上に聳え立つ巨大な城と、その麓に栄える街並みが見えた。 これからは城下町に行く機会が増えるだろうし、タイキンさんのように商品紹介なんかをやってみるのもいいかもしれない。 城での生活は長くなりそうだが、視聴者が楽しめるような企画を考えていくつもりだ。 『王様にドッキリをしかけてみた』なんてどうだろうか? 不敬すぎて首を刎ねられるかもしれないな。 さっきのゴブリンリーダーのように。 馬車は跳ね橋を渡り、巨大な城門を潜り抜ける。 そのまま街中を通り、緩やかな坂道を登っていく。 石畳の広場で馬車が停止した。「これより王に面会する! 部隊は解散せよ!」 兵士達が俺に一礼しながら去って行く。 中には俺に握手を求める者までいた。 いよいよ、新しい生活の始まりを感じる。
中に入ると広場になっており、赤い絨毯が敷き詰めてられていた。 もしかすると、この世界の城は全てこのスタイルなのかもしれない。 壁沿いに黒い騎士が立っており、壁には光を取り入れる為の窓が無い。 入り口と反対側に一段高くなった場所があり、骸骨が集められたかのような意匠を施された禍々しい石の玉座が配置されていた。「ジャックス王ヨ、久しいナ! また少し老けたのではないカ? 死が恐ろしければいつでも眷属にしてやるのだゾ?」 広場全体に響き渡る声。 石の玉座に無数の蝙蝠が集まると、蠢く黒い塊は人になった。「だーっはっはっはっは! 冗談を言うな! ドラキュリオ皇帝、急な頼みで申し訳なかった! 寛大な配慮に感謝する!」 ジャックス王は、その光景がさも当然かのように会話を始めた。 親交が深いのか、仲が良さそうに見える。 とても今から殺し合いを始める雰囲気とは思えない。 闇皇帝キディス・メイガス・ドラキュリオは、誰もが見惚れる完璧な容姿をしていた。 緩やかに波打つプラチナブロンドの長髪、吸い込まれるようなシャンパンゴールドの瞳、白磁のような肌、そして非の打ち所がない造形美。 紫色の燕尾服が、スラリとした長身を際立たせている。 欠点があるとしたら、ねっとりとした話し方がナルシストっぽくて気持ち悪いところだろうか。コメ:はぁ……闇皇帝様……しゅきぃコメ:なんというイケメン!コメ:勇太がゴミに見えるなwwwコメ:ゴブリンとヴァンパイアを比べてやるなってw勇太:見た目はそうですけど、あの喋り方キモくないですか?コメ:おまいうコメ:だから張り合うなってwwwコメ:蟻が象に挑むようなもんだぞw「早速本題に入りたいのだが、内容が内容なのでな。落ち着いて話せる場所に案内して貰いたいのだが?」「いいだろウ! 私のコレクションでも見ながら話さないカ? たまには自慢させておくレ!」 王が言う本題とは何なのだろうか。
強い風を感じて目が覚めた。 いつの間にか椅子の上で横になっていたようで、目の前にはランデルと王様が座っていた。 前後左右に揺れている感覚があるが、箱馬車の中にでも居るのだろうか。 白い車内に赤い椅子とメルヘンチックだ。 どうやら、気絶している間に連れ出されてしまったらしい。 ふと視聴者数を見ると、四千人に減っていた。 最近は、何もなくても二万人前後が見てくれていたのだが、アルとナタリアが周りに居ないとここまで少なくなってしまうみたいだ。 一時期、一桁台にまで落ちてコメントが無くなってしまった事を考えれば、俺だけの配信でもこれだけ集まってくれるのは素直に嬉しいのではあるが。コメ:お、起きたか?コメ:大変な事になってるぞ!コメ:外見ろ外!コメ:勇太くん、リセットせなきついで?コメ:今回はさすがに死んじゃうかも。コメ:早く外見ろ! なんだかコメントが騒がしい。 目の前のランデルも王様も和やかに会話をしているというのに、何故リセットする必要があるのだろうか。 寝転がりながら窓を見ると、今日の天気は快晴のようだ。 こういう日は、俺の心も晴々とした気持ちになる。 少し肌寒いが、青々とした空がとても綺麗だ。 さぞ景色も輝いて見えることだろう。 起き上がって窓の外を見てみると、俺は空に居た。「にゃんぢゃきょりゃあああああああ!」※何だこりゃあああああああ! 木も、街も、山すらも小さく見える。 切り立った岩山、青々とした平原、森の中に佇む奇岩、上空から見る世界は壮大で、言葉に出来ないほど美しい。 時折雲を突き抜け、景色が流れるように変わっていく。 なかなかスピードが出ているようだ。 ……どうしてこんな事になっているのだろうか。「ユートルディス殿、お目覚めですかな?」「勇者よ、まもなくだぞ。気を引き締めよ!」コメ:だから言ったじゃん!wコメ:睡眠時三
「ハゲちゃん、お城に着いたらベッドで寝れるかな? あたし、またフワフワしたい!」「城のベッドは、もーっと柔らかいじゃろうな。しばらくは毎日気持ちよく眠れるのうナタリア」「本当? あたし楽しみ!」 ジークウッドの街でベッドを経験してから、ずっとこんな感じだ。 初めてベッドに横になったナタリアは、寝そべりながら空に浮いているみたいと感動していた。 俺達は今、森の中を走っているのだが、ここを抜けたら城が見えてくる。 闇皇帝ドラキュリオを倒すには色々としがらみがあり、準備期間中は城で過ごすことになるというランデルの話を聞いたナタリアが期待に胸を膨らませているのだ。 このまま順調に進めば、昼過ぎには城に到着するだろう。 俺としては、ベッドよりも国お抱えのシェフが作るご飯の方が気になっている。コメ:当たり前の幸せすら与えてやれない勇太を許してあげてねナタリアちゃん……。コメ:こっから一年近く城で暮らすんだっけ?コメ:近くにダンジョンとか無いのか? 同じ場所で同じ日常を見続けるのはきついぞ?コメ:いやいや、勇太が戦えるわけ無いだろwコメ:ゴブリンてスライムより弱いんだっけ?コメ:ワロタwww コメントの言う通り、俺も長期間冒険が出来ない事を危惧している。 変わり映えの無い毎日という、俺が捨てたものを見せてしまう事になる。 この世界に来る前とは違い、今の俺にはアルとナタリアという家族がいる。 つまらない日常とはならないだろうが、それは俺にとってであり、視聴者からすると退屈かもしれない。 俺が選んだラドリックという世界にも、タイキンさんが活躍しているようなダンジョンは存在している。 元々、タイキンさんのような配信をしたくてこの世界を選んでいるからだ。 城の近くにダンジョンがあるかは分からないが、俺に倒せるのはスライムくらいだろう。 いや、スライムすら倒せないかもしれない。 ゲームのようにレベルという概念があればいいのだが、それが無い以上は難し