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第35話

Author: 雲間探
彼は浴室の方を見ていたので、茜が言った。「ママがお風呂に入ってるの」

「そうか」

「お前がママにここで入るように言ったのか?」

「いいえ、ママが自分で服を持ってきたの」

智昭はそれ以上何も聞かず、茜と少し話をして、早く休むように言って部屋を出た。

玲奈は浴室で物音を聞いて、智昭が来たことはわかったが、何を話していたのかは聞き取れなかった。

茜はまだ完治していないし、薬の影響で眠くなりやすい。時間も遅かったので、玲奈はシャワーを終えると、一緒にベッドに横になった。

茜は玲奈の胸に潜り込み、肩に顔をすり寄せた。「ママ、いい匂いで柔らかい」

ママの胸が一番心地いいと思った。

優里おばさんの抱擁よりも気持ちいい。

でも、玲奈が優里を好まないことを知っていたので、口には出さなかった。

茜はすぐに眠りについた。

玲奈も疲れていて、間もなく眠りに落ちた。

病気になってから、茜は特に布団を蹴飛ばすようになった。

心配が習慣になっていたのか、玲奈は昔のように、一晩中何度も目を覚まして、その都度布団をかけ直し、風邪を引かないことを確認してから、また安心して眠りについた。

その夜、玲奈はよく眠れなかったが、夜明けとともに目が覚めた。

茜はまだ眠っていて、玲奈は静かに起き上がり、窓際に行くと、予想通り智昭が下でジョギングをしていた。

彼は通常1時間ほど走ってから戻ってくる。

玲奈は身支度を整え、着替えを済ませてから、キッチンに降りて朝食の準備を始めた。

30分後、残りの仕事を田代さんに任せ、茜に熱が戻っていないことを確認してから、上階に戻って鞄と車のキーを取り、家を出た。

彼女が出てまもなく、茜が目を覚ました。

あちこち探しても玲奈が見つからず、尋ねた。「ママは?」

田代さんは「奥様は用事があって出かけられました」と答えた。

茜は口をとがらせた。「そう……」

田代さんは笑って「でも奥様は出かける前に、朝ごはんを用意してくださいましたよ」と言った。

茜の気分は少し良くなった。

まだ完治はしていないものの、気分は良く、お腹も空いていたので、身支度を整えて朝食を食べに降りた。

しばらくして、智昭も降りてきた。

玲奈の姿が見えないことに気付き、田代さんに尋ねた。「妻は?」

「ああ、奥様はお出かけになりました」

智昭はそれを聞くと、それ以上何も聞かなかった。

……

一方。

玲奈は家に戻り、軽く食事を
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Comments (1)
goodnovel comment avatar
岸本史子
不倫のくせに嫌がらせのように現れるな、茜も自己中のバカ娘に育っちゃって玲奈ママの失望ははかりしれないし、愛が冷めた旦那より実の娘の方が失望は大きかろうしね。
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