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第387話

Author: 雲間探
食事を終えると、茜は玲奈について青木家に戻った。

その夜、彼女は敦史から電話を受け、翌朝彼女と礼二をゴルフ場に招待したいとの連絡があった。

玲奈は了承した。

ただ、敦史から送られてきたゴルフ場の住所を見たとき、彼女は一瞬ためらった。

そのゴルフ場は、ちょうど藤田家の所有地だった。

彼女は以前そこを訪れたことがある。

しかし、一度了承した以上、今さら断るわけにもいかない。

土曜の朝早く、彼女は車で出発した。

玲奈と礼二がゴルフ場に到着したときには、敦史と晴見、義久たちはすでに来ていた。

彼らの姿を見て、敦史たちは笑いながら「着いたか」と声をかけた。

「はい」

玲奈はうなずいた。

敦史が尋ねた。「ゴルフはできるのか?」

玲奈はうなずいた。「少し習ったことがあります」

玲奈と礼二、敦史たちは軽く挨拶を交わしたあと、ゴルフをしながら会話を始めた。

少しして、玲奈がクラブを片づけていると、遠くから二人が近づいてくるのが見えた。

それは智昭と優里だった。

普段のレジャーでは、智昭と優里は必ず辰也や清司を誘っていたが。

今日は辰也と清司の姿はなく、彼たちだけだった。

優里と智昭は、ゴルフ場のスタッフから敦史が来ていると聞いて、挨拶に来たのだった。

優里はまさか玲奈と礼二までいるとは思っていなかった。

智昭は一礼し、敦史に声をかけた。「海東さん」

敦史は政宗とも親しい仲だった。

ここ数年、政宗が地方にいるため、以前ほど連絡は取っていなかった。

政宗の縁だけでなく、仕事上でも智昭と敦史には接点があり、お互いに顔見知りだった。

「おや、智昭か」

敦史は笑って言った。「こんな朝早くからゴルフか?」

「ええ、ちょっと体を動かしに」

晴見と義久は、このゴルフ場が藤田家の所有だと知っていた。

彼らも時々ここでゴルフをしていたが、智昭に会うことは滅多になかった。

まさか今日、玲奈がいるタイミングで鉢合わせるとは思わなかった。

皆、玲奈と智昭の過去を知っていたが、玲奈がまったく気にしていない様子を見て安心していた。

だが、礼二はどこか機嫌を損ねた様子だった。

智昭が敦史たちと話している間、玲奈も礼二も黙っていた。

智昭は自ら礼二に挨拶した。

礼二は渋々返事をした。

それを見て、敦史は笑いながら言った。「長墨ソフトと藤田グループ
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Comments (2)
goodnovel comment avatar
masakos31
優里を連れて現れないでほしい。楽しい雰囲気が台無し。優里玲奈の論文を読んで理解できたのかな? 何も言ってこないけど、クズ智昭に分かるように教えてもらったのかな? 不倫している事を大御所達が知っていても、個人的な事だから口は出せないよね。 クズ不倫カップルが現れると空気が汚れる。
goodnovel comment avatar
山下道子
駄目だ、ホント智昭のクズ行動にストレス。あらすじどうりで、すべての行動は玲奈を想っての伏線だとしてもよかったーってならない。もう、愛人ビッチ女ともども痛い目にあえばいい
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