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第508話

Author: 雲間探
玲奈は体温を測り、無理をしてしばらく待っていたが、智昭が戻ってくる気配はなく、ほどなくして、またぐったりと眠りに落ちた。

再び目を覚ました時、智昭はまだそこに座って本を読んでいる。

目覚めた玲奈は、ぼんやりと自分の方向を見つめているが、視線は自分に向いていないことに気づくと、智昭は立ち上がり、汗で濡れた玲奈の額に手を当てて尋ねた。「どうした?」

実は二人は長い間、お互いの身体に触れていなかったのだ。

玲奈は智昭に触れられることに慣れていなかった。

体温を測ってくれていると分かっていても、玲奈は智昭の手を払いのけ、無言で首を横に振った。

ただ智昭がまだいることに驚いていただけだ。

電話に出た後、智昭は屋敷を出て行ったのだと思っていた。

また大量の汗をかいたから、ようやく熱が下がり始めた。

体がベタついて不快だったから、玲奈は再び清潔な服に着替え、食事をして少し休んだ後、また眠りについた。

次に目を覚ました時は、もう午後だった。

この時になって、玲奈の熱はようやく下がった。

また、智昭はもう部屋にいなかった。

部屋には玲奈だけが残され、とても静かだった。

その時、サイドテーブルに置いたスマホにメッセージが届いた。

礼二からのメッセージだった。今の体調はどうだって。

玲奈は礼二と少しメッセージのやり取りをしたが、彼には仕事があったから、長くは話さなかった。

スマホを置くと、部屋の全景が玲奈の目に入った。

今までは風邪で気が回らなかったが、目を覚まして初めて、智昭の部屋は前と何も変わっていないことに気づいた。

例えば、玲奈がよく使っていたスキンケア用品などもそのまま残っている。

さっきここで着替えをした時も、クローゼットに玲奈の服が智昭のものと並んで、ちゃんと掛かっているのに気づいていた。

「気分が悪いのか?」

その声を聞いて、玲奈は自分が知らず知らずのうちにぼんやりしていて、智昭がいつ部屋に戻ったのかも気づかなかったことに気付いた。

玲奈は視線をそらし、首を振った。「ううん、熱は下がった」

智昭は短く「うん」と言って、「さっき知った」と続けた。

玲奈は少しためらったが、それ以上は何も言わず、ベッドを降りて、クローゼットから普段着を選んで着替えして、スマホを持って部屋を出た。

智昭は玲奈の後ろ姿を見て聞いた。「どこへ行く?
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Comments (137)
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りひと
桜花舞さん 優里がしつこく食い下がってたのかも?
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山本山
陽子さん 妄想にお付き合いありがとうございます! お姫様抱っこはいつだった??サッパリです。 冬の描写はありましたね。Xmasのあとかな? 瑛二の苺飴で嫉妬するんだから(決めつけ) 礼二には無茶苦茶嫉妬してそうですね(決めつけ)
goodnovel comment avatar
ソメイヨシノ
TAMAMIさん ずっ〜と好きだったとしても クズ女と付き合うは無いわ! 本妻からしたら 許しがたい行為 訳ありで付き合った? だから何ですよ 誰も頼んでない。 元鞘だとは思いますがね。 簡単には戻って欲しくない。 当て馬イケメンズの活躍も見たい(笑)
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