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第12話

Author: 毒リンゴ
晴樹はじっとスマホの画面を見つめていた。しかし、「追加許可」の通知は、いつまで経っても来なかった。

葉月は、自分と寧音のことを知っているのか?

そんなはずはないはずだ。

彼は部屋を見渡した。ここは、葉月との新居として準備していたマンションだ。

家電から家具、窓に貼られたステッカーまで、どこを見ても葉月の痕跡はなかった。

彼は手のひらは汗でぐっしょりと濡れている。胸のざわつきが、もうどうにも止まらない。

そのとき、ドアが開いた。入ってきたのは、寧音だった。

「部屋にこもってばかりだから、みんな心配してるのよ」

晴樹は彼女を鋭く見つめる。「教えてくれ。葉月はどうやって、あの結婚写真を手に入れた?」

「ほんとに知らないの」

寧音の目に涙が浮かぶ。「写真は、サブ垢で投稿しただけだったの。まさか誰かに見られるなんて」

「見せろ、そのアカウント」

彼女が投稿した写真は、ホテルで葉月が目にしたものと同じものだった。

晴樹は一言も発せず、ひとつひとつ丁寧に写真を見ていった。最後の一枚まで確認し終えた。

「晴樹、どうしたの?葉月はもう……」

「この写真は偽物だ」

寧音が動きを止める。

「偽物じゃなきゃ困る。いいか、よく聞け」

晴樹の表情は暗く、眼差しに凄みが宿っていた。寧音は思わず背筋を伸ばした。

「……わかった」

晴樹は立ち上がり、ドアの方へ歩き出した。「寧音。葉月が戻ってきたら、君は俺の妹に戻るんだ」

バタン、とドアが閉まった。

寧音は机に手をついて、やっとの思いで立っていた。

そして低く冷笑を漏らした。

妹ね。

残念だけど、葉月の目には、寧音が晴樹の妹でいられる余地なんて最初からなかったのよ。

すべて元通りになる?そんな夢、見てる方がどうかしてる。

晴樹が部屋を出ると、家族や親戚たちが一斉に詰め寄ってきた。

「どうなってるの?晴樹?」

「話してくれよ、親戚中から電話きてるんだ」

「なんで寧音と結婚写真なんか撮ってたんだ?」

飛んでくる質問の嵐に、晴樹のこめかみがズキズキと脈打つ。

「写真はフェイクだ。葉月が誤解してるだけだ。辞職して俺をブロックして……説明もできない」

二度目の言い訳。それは、自分自身にも言い聞かせるような言葉だった。

「葉月もひどいわよね。あの家族環境じゃ、ほとんど孤児みたいなもんだし。私たち
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