LOGIN冷戦が始まってから半月、5歳年下の彼から卒業アルバムの写真が送られてきた。 「姉ちゃん、この中でどの女の子が一番可愛いと思う?」 私は一瞬で目についた子を指して送り返した。 「ハハ、同じこと考えてたな!」 少し後、彼とその子が正式に付き合い始めたという報告写真が、私のSNSのタイムラインに流れてきた。
View More悠真サイドストーリー 今日もまた、お姉ちゃんと喧嘩してしまった。 いつも通り、彼女は一言も僕をなだめようとはしない。 僕たちの喧嘩は、いつも僕が一方的に怒りをぶつけるだけだ。 お姉ちゃんは、僕の言葉をまるで気にしていないように見える。 だけど、喧嘩をすることでようやく感じられるんだ。 彼女が僕の隣にいること。彼女が僕のものだってことを。 喧嘩が終わると、結局また僕から謝りに行く。 彼女を失うのが怖いからだ。 今回もいつも通り、MINEで歩み寄ろうと思ったのに、彼女は完全に無視してきた。 半日待っても既読がつかないなんて、ひどすぎる! 怒りのあまり、彼女をブロックしてしまった。 だけど、ブロックした瞬間から後悔が押し寄せた。 もしかして、彼女が僕に何か伝えようとしていたのを逃してしまったのでは? だから翌日、こっそり彼女をブロックリストから外した。 これで、彼女が何かメッセージをくれたら、ちゃんと見られる。 でも、どれだけ待っても彼女からの返信はなかった。 10日以上経っても、一言も。 試しに卒業写真を送ってみた。 僕のカッコいい姿を見れば、少しは僕のことを思い出してくれるかもしれない。 それだけじゃ足りないと思って、こう付け加えた。 「この中で、誰が一番可愛いと思う?」 彼女に危機感を与えたかったのだ。 「僕を放っておくと、他の子を好きになっちゃうよ」って。 でも彼女は、ただ淡々とこう聞いてきただけだった。 「新しいターゲットってこと?」 久しぶりにメッセージを交わしたのに、そんなそっけない反応…… 僕は意地になって「そうだよ」と返した。 僕だって需要があるんだ。彼女だけが僕を軽く見ているだけなんだって、証明したかった。 再び彼女と顔を合わせたのは、卒業祝いの飲み会だった。 わざと彼女の病院の近くにあるバーを選んだのだ。偶然を装って会えるかもしれないと思って。 だけど、僕がいない間、彼女は随分楽しそうにやっているようだった。 酒を飲んで笑っている。あんなに酒を飲まない人だったのに。 僕がいない方がそんなに楽しいのか? 彼女の気を引こうとして、わざと瑠奈と親密な様子を見せた。 瑠奈はいい演技をしてくれた。僕が頼んで少し多めにお金を
一度誰かを意識すると、不思議とその人に何度も会うものだ。 彼女もそうだった。 いつも一人でいるか、せいぜい数人の友人と一緒にいる彼女。 変わらないのは、どんな時でも淡々としたその表情だ。 ある日、教授が急用で、隣のクラスの授業と合同になったことがあった。 大教室に集められた学生たちの中に、また彼女の姿を見つけた。 その時初めて知った。 彼女は同じ学年で、隣のクラスだったのだ。 だけど、彼女は私のことを覚えていなかった。 あの日、トレーをひっくり返してしまった時のことも、全く。 それが何とももどかしかった。 正直、私はこれまで異性に困ったことなんてない。 周りにはいつだって誰かがいる。 でも、彼女に対して自分が抱いている感情が一時的な興味なのか、それとも本気なのかが分からなかった。 彼女に惹かれる理由が「好奇心」なのか、「恋」なのか――それすらも曖昧だった。 その後、実習や研修で忙しくなり、彼女と会うこともなくなった。 そして、少しずつ彼女への思いも薄れていった。 それでも時々、あの時もっと勇気を出していれば――そんな後悔が胸をよぎることもあった。 だからこそ、もう一度彼女に会えた時は本当に驚いた。 ドアの向こうに立つ彼女。 あの淡々とした表情は変わらないけれど、目元にはわずかな哀しみが宿っている。 こんな偶然があるなんて。 この研修に参加して、本当に良かったと思った。 「Hello,I'm very hungry and can't stand Western food. Can I borrow some food from you?」 (こんにちは。お腹が空いて西洋料理が耐えられないの。何か食べ物を分けてもらえない?) 「俺、日本人だから日本料理が少し作れるよ。よかったら一緒に食べる?」 もちろん、彼女は私のことを覚えていない。 でも、それでいい。最初からやり直せばいいだけだ。 お盆の夜、わざと彼女を誘い、一緒に酒を飲んだ。 ただ、彼女の酒量があまりに低いのには驚いた。 たった二杯で酔いつぶれるなんて……まるでお酒を飲んだことがない人みたいだ。 彼女が夢の中でつぶやいた言葉を聞いて、さらに驚いた。 「悠真……悠真……」 その名前を聞
もしかしたら大げさかもしれないけれど、長い間まともに自国の料理を食べていなかった私にとって、晴臣の料理はまさに人間の宝だった。 そんな彼と私は、いわゆる「ご飯仲間」になった。 私は食材を持参し、彼が料理を担当する。それを何度か繰り返すうちに、私たちはすっかり打ち解けた。 「透子、俺と付き合わないか?」 あまりに突然の告白に、私は驚きすぎて口の中の料理を噛むのも忘れて彼を見つめた。 「ほら、俺たち同じ仕事だし、話も合う。それに君、俺の料理が大好きだろ?君ってお金もかからないし、顔も悪くない。俺とならお似合いだと思うけどな」 真剣な表情の彼をじっと見つめて、本気なのだと理解した私は、落ち着いて首を横に振った。 「ごめんね。私、ちょうど恋愛が終わったばかりで、新しい関係を始める自信がないの」 「それって悠真さんのことか?」 「えっ……なんで彼の名前を知ってるの?」 彼は不思議そうな笑みを浮かべた。 「君、この前、俺の家で酔っ払って寝ちゃっただろ?そのとき寝言で彼の名前を呼んでたんだ。正直、羨ましいよ。そんなに長い間、君の心に残るなんて」 思い出した。あの日はお盆で、本来なら家族が集まるべき日だった。 でも、家族から遠く離れた私たちは、酒を飲んで寂しさを紛らわせていたのだ。そのとき、私は酔いつぶれて寝てしまい、悠真の名前を口にしていたらしい。 「彼のこと、本当に好きだったの?」 「……前はね。でも、今思えば、好きというより悔しかっただけだと思う」 私の答えを聞いて、晴臣は静かに頷き、それ以上何も言わなかった。 「じゃあ、晴臣はどうなの?こんなにイケメンなのに、忘れられない元カノとかいないの?」 「元カノはいないよ。でも、大学の頃からずっと片思いしてる子が一人いる」 「ええっ、マジ?この顔で片思いなんて、何で告白しないの?」 晴臣は私をじっと見つめ、穏やかな笑みを浮かべると、それ以上は何も言わなかった。 その様子を見て、私はそれ以上踏み込むのをやめた。 これは、私が異国で迎えた初めてのお正月だった。 いつもなら両親や悠真と一緒に過ごしていたけれど、今年は違う。 今年私の隣にいるのは、晴臣だけだった。 「明けましておめでとう、晴臣」 「明けましておめでとう、透子」 異国の
海外での生活は自由で快適な面もあったけれど、正直言って、環境の違いにはなかなか慣れなかった。 食事に至っては、もう絶望的だ。 朝ごはんは、命よりも硬いパンに、風味が奇妙なバターを塗って食べる。 私の指導教授は嬉しそうにそれを頬張るけど、私にはどうにも理解できない。 昼は、大量の緑色の野菜と数個のプチトマトが入ったサラダ。 夜は魚や肉が出てくるけれど、なんと血が滴っている状態。 そんな中、私の唯一の救いが「ラー油」だ。 まるで宝物のように大事に保管していて、特別な日だけ、ほんの少しだけご飯に混ぜて食べる。 留学生たちがみんな飢えた狼のように食べ物を求める気持ちが、今では痛いほどわかる。 日本料理店もあるにはあるけど、味はいまいちで値段は高い。 このままでは、私は異国の地で飢え死にしてしまうのではないか――そんな不安が頭をよぎる。 夜風が心地よく、高層ビルの明かりが遠くに輝き、車の音が行き交う中、私は一人で見知らぬ街を歩いていた。 けれど、胸に残るのは広々とした虚無感と、底のない孤独だけだった。 ふと、悠真と一緒だった頃を思い出す。 あの頃、私たちは手をつないで街を歩きながら、何気ない会話を楽しんでいた。 けれど今では、彼の隣にはもう私はいないし、私もこんな遠い国の街を一人で歩いている。 たまに両親と長電話をすることがある。 電話越しに聞こえる彼らの声を聞くと、不思議と心が落ち着く。 この世界がどれほど傷だらけでも、誰かが私のためにその傷を繕ってくれる――それだけで十分だと思える。 外国の病院では、新しい知り合いもできた。 アレックス――彼の元々の名前は神楽坂晴臣(かぐらざか はるおみ)。彼も私と同じ年の医師だ。 私たちはそれぞれの病院を代表して研修に来ているので、自然と意気投合した。 晴臣は、ユーモアに溢れていて、真面目な性格の持ち主だ。 彼のトレードマークは、よく仕立てられたスラックスと白シャツ、そして黒の革靴。 そこに白衣を羽織ると、彼の端正な顔立ちがさらに際立つ。 正直に言うと、私は「顔」で選ぶタイプだ。 研修医の頃に悠真と付き合った理由だって、それが大きい。 だから、彼のような人と友達になるのは、もはや当然の流れだった。 それに、彼の料理の腕前は顔に