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第6章:4

Author: 社菘
last update Last Updated: 2025-09-03 18:00:43

ロレインの体に手を這わせるシルヴァンの目つきが変わるのが分かった。もう完全に狼になれる能力の証であるオッドアイの瞳を隠すことなく晒している、緋色と金色の瞳にじわりと欲が浮かぶ。

服越しにでもシルヴァンの体温が伝わってきて、胸から腹部にかけてロレインの体を確かめるように這っていく大きな手の感触にロレインの唇からは熱い吐息が漏れた。

「ん、ふ……」

「……あなたは、レグルス王国にいた時は騎士でしたよね?」

「はい、そうですが……」

「しっかりと筋肉がついているわりに、女性の服を着こなせるほどしなやかで肉感がある」

「あぁ、ん……っ」

「オメガになれるポテンシャルは、十分かと」

薄い素材の夜着が心許ないと思ったのは初めてかもしれない。シルヴァンの重厚な声と熱がロレインに降り注いできて、一瞬で全身に血が巡る感覚がした。

ロレインはシルヴァンの元に嫁ぐまで男として生活してきたので、自分の体が子供を産めるように変わるなんて想像もできない。

シルヴァンとの子供を自分の体に宿せるなんて想像もできないし恐怖すら感じるのに、それを嬉しいと思ってしまう自分がいる。

できることなら自分がシルヴァンの子供を産みたいのだと、そう思ってしまったロレインは無意識にシルヴァンの手に自分の手を重ねていた。

「……物欲しそうな顔をしないでください、ロレイン」

「へぁ……?」

「俺の子種がほしいと、この奥が期待していますか?」

「んひゃ……っ」

ぐっと腹部を指で押されると、ロレインの口からは甘い嬌声が漏れた。変な声が出てしまったと口を塞いでも遅く、シルヴァンが嬉しそうに微笑んでいる顔が目に入った。

「ロレイン。正直に答えてほしいのですが……」

「な、んですか……?」

「あなたは、男を受け入れたことは?」
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