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緑と白の魔女 3

last update 最終更新日: 2025-06-26 08:44:01
アレックスが出て行って、私は少女の手を握った。

「ライチ、ここまで一人で来たのね? あなたになにもなくてよかった」

「子供は絶対家から出るな!って、言われたけど……レベッカの話を思い出したの。あたしは約束を破ってここに来た」

「わ、わたし?」

「レベッカ、アパートに変な探偵がいるって言ってたでしよ?腕はいいけどって」

「ええ、馬車の中で言ったわね」

「ウィンザー通りにもね、探偵がマカロニ……犬を探してた。変人だけど腕はいいって大人たちが話してた」

「そうだったの……よく思い出したわね」

ライチ、なんだかすごい子だわ。そしてやっぱりアレックスはおかしな探偵なのね。

* ****

学校の裏山の入り口に、大勢の男たちがランプを手に集まっていた。

「狼か?」

低くて長い遠吠えが遠くから聞こえた。その声は恐ろしいような美しいような……調和したハーモーニーのようにも聞こえる。

「大丈夫だ。ずいぶんと山奥からだ」

「ああ……山に反響して、近くに聞こえてるだけさ」

「ああ。狼に遭遇したなんて聞いたことがない。さて……ジョーイを見つけるぞ! 東側にはいなかったんで、次は手分けして西を探すぞ」

ウィンザー通りの組合の男たちや、ウエストリバーの教師たち。ロープやシャベル、刺股などを持ち出している者もいる。

「悪いな……あのアホタレが」

ジョーイの父親は皆に頭を下げる。

「今夜は雲もない。満月も綺麗に出ている。きっと見つかるさ」

恰幅のいい男が、ジョーイの父親の肩に手をポンと置く。

「こんなときはお互い様だろ」

「なぁ、アレックス商会の兄さん見たか?」

  全員が横に首を振る。

「いや。声かけたのかい?」

「いいや。急に現れてな。あの探偵、ジョーイの部屋を見てきたって言ってたなあ」

「部屋を? 意味あるのか?」

シャベルを持った男は首を横に振る。

「あいつ動物専門だ。うちの犬、まだ見つからないみてぇだけどな。まぁ、今はいい。休憩も済んだし、俺たちもおっぱじめよう」

適当なことを各々ぼやき、男たちは獣道に再び進んで行った。

同時刻、学校の裏山を一匹の大きな獣が駆け抜ける。見たことのない紫黒色の毛並みは月の灯りで輝いてみえた。大きな耳と口。

真っ赤に光る眼-

狼だった
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