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第323話

Author: ちょうもも
雪江はあまりに露骨な問いかけに、表情を曇らせた。

そのとき、莉子が口を挟む。

「おばさん、正直言って、姉婿が外で誰と付き合っていたかなんて、私たちはとっくにわかっています。

お姉ちゃんが今いない以上、この件もそろそろ決着をつけるべきじゃないですか?

うっかりこの石川さんと姉婿の関係が世間に知られたら、やっと落ち着いた世論がまた大騒ぎになるかもしれませんよ」

琴乃は突然、机をバンと叩いた。

表情は険しく、かすかに怒りが滲む。

「あなた、私を脅してるの?」

雪江はにこやかに笑いながら言った。

「脅すなんて......ただの補償よ。悠良はこの何年か子どもを産まなかったとはいえ、史弥と七年も一緒に暮らしてきた。なのにこんな幕引きじゃ......

もし本当に何かあったら、このお金で、メディアだって白川家が悠良に対して義理を果たしたって思うんじゃない?

そうすれば、後々余計な口を挟まれずに済むわ」

琴乃の顔の筋肉がぴくぴくと引きつる。

これではまるで恐喝だ。

だが、今の白川家の立場では強く出るわけにもいかない。

小林家が何かを暴露すれば、再び白川家は窮地に立たされる。

だが、1億円......1千万じゃあるまいし。

琴乃は少しでも減額しようと、茶碗の蓋を指先で弄びながら、淡々と口を開いた。

「問題を解決したい気持ちはお互い同じだけど、1億円はさすがに多すぎるわ。2千万でどうかしら?」

雪江は冷笑した。

「今回の件、白川家の損失は1億円どころじゃないでしょ?」

「人が落ち目のときに追い打ちかけるのね!前から言ってたでしょう、あの娘は疫病神だって。

誰が娶っても、その家は不幸になるのよ!」

琴乃は怒りで体を震わせ、今すぐ使用人に二人を追い出させたくなった。

そのとき、玉巳が口を開いた。

「お金が欲しいなら、はっきりそう言えばいいのに......

悠良さんを口実にするなんて、小林家がこんな汚い真似をするとは思わなかったわ」

莉子は悠良が嫌いだったが、それ以上に玉巳が気に入らない。

玉巳が史弥と悠良の関係に割り込まなければ、悠良は伶と関わることもなかっただろう。

それどころか、今ごろ伶と莉子が一緒になっていたかもしれない。

莉子はすぐさま玉巳に噛みついた。

「石川さんはまだ白川家の嫁じゃないでしょう?

名分すらないのに、こ
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