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第470話

作者: ぽかぽか
「さっさとやれ。明日には俺が望む結果を見せてもらう」

「かしこまりました」

冬城は携帯電話を中井に渡すと、そのまま何も言わず二階へと上がっていった。

書斎では、藤木署長が不安そうに長い時間を待っていた。冬城の姿を見かけると、すぐに駆け寄って口を開いた。「冬城総裁、本日の件はご愁傷様です。田沼さんのお腹の赤ちゃんは……」

だが、冬城はその感情的な言葉を途中で遮り、冷ややかに言い放った。「今日のことは、外部に漏らしたくない。わかっているな」

「わかっております!家庭の恥は外には晒せません!よくわかっております!」

藤木署長が勢いよくうなずいていると、冬城はふいに言った。「明日、浅井みなみを逮捕しろ」

「はい……えっ?」返事をしかけた藤木署長は、

思わず耳を疑って顔を上げた。

今日、子どもを失ったばかりなのに――なぜ、自分の女を逮捕しようとするのか?

「それは……冬城総裁、厳密に言えば、自ら故意に流産した場合、それ自体は刑事犯罪にはあたりません。逮捕には正当な理由が必要ですし、先ほど外部には知られたくないとおっしゃったばかりです。もし彼女を連行すれば、大々的に報道される可能性が……」

責任を恐れて言いよどむ藤木署長を、冬城は冷たい視線で一瞥した。「今日、あの女は冬城家で騒ぎを起こし、真奈を誣告した。お前はただ、派手に彼女を連れて行けばいい。あとは関わらなくていい。人もその日のうちに釈放すれば済む話だ」

藤木署長は何がどうなっているのか読みきれなかったが、冬城はすでに、どう動くべきかを明確に示していた。しばらく考え込んだ藤木署長は、やがてはっと気づいたように言った。「承知しました。明日、病院へ伺って、田沼さんに通常の手続きを踏む形で事情聴取を行います。形式上の流れとして、です。もし今回が田沼さんの単なる事故での流産であれば、誰の責任でもない。でももし、そうでなければ――」

藤木署長は、自分は冬城の考えを読み取ったつもりでいた。てっきり、冬城が真奈に罪を着せ、浅井の流産を彼女のせいにさせたいのだと思い込んでいた。もし真奈が手を出し、浅井の流産が故意でなければ、真奈は故意傷害罪で訴えられる可能性がある。

だが、彼の言葉がまだ終わらないうちに――冬城は突然手を伸ばし、藤木署長の襟をがしっと掴んだ。その目は底冷えするような冷たさを宿し、怒気を含んだ声音で
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