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同行者

Author: 液体猫
last update Last Updated: 2025-05-18 11:06:00

「貴殿は何のためにここにいる? 誰のためだ?」

 |瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》の渋く、|厳《きび》しい声が場を凍りつかす。視線を|全 思風《チュアン スーファン》から離すことなく、青い|漢服《かんふく》の|袖《そで》をバサリとはためかせた。

「……お前なんぞに、何がわかる」

 |全 思風《チュアン スーファン》の声は弱々しい。いつものように自信に満ちた、誰にもおくさないような強者の気迫がなかった。|朱《あか》に染まった瞳、ぽつぽつと呟くように吐かれた声。そのどれもが、普段の気高い彼からは想像もつかぬほとに|脆《もろ》い。

 面と向かって|叱咤《しった》する|瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》を見る瞳には、怒りなど|微塵《みじん》もなかった。美しいけれど|哀《かな》しげな、捨てたられた仔犬のよう。

「わかるはず、ありません。私はあなたではないのですから。ただ……」

 ふうーと、諦めに似たため息を|溢《こぼ》した。  

「あの子が望んでいるのか。喜ぶのか。それを、今一度考えてみなされ」

 それだけ伝えると、腰を抜かしている|黄 沐阳《コウ ムーヤン》の腕を引っぱって立たせる。側にいる少女に頭を下げ、彼を連れてどこかへと行ってしまった。

 そんな男の背中を、|全 思風《チュアン スーファン》は追う。それでもすぐに興味がなくなったようで、呼吸を整えてから地図へと視線を向けた。

 コツコツと、歩く音だけが|響《ひび》く。ほうけていた|雨桐《ユートン》を呼びつけ、どうするかと相談を持ちかけた。

「悔しいけどさ……あの男の言う通りだ。ここで暴れて、|蘆笛巌《ろてきがん》に力だけで乗りこむ。そんなの、あの子が望んでいるとは思えない」

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