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黄 茗泽(コウ ミャンゼァ)と白氏(はくし)

Auteur: 液体猫
last update Dernière mise à jour: 2025-05-09 17:10:00

 |全 思風《チュアン スーファン》の瞳から|溢《ほこぼ》れるのは、優しい眼差しだった。それは銀髪の子供に向けられている。

「|小猫《シャオマオ》、よく頑張ったね。もう、大丈夫だからね」

 低いけれど心にすっと|留《とど》まる声で、子供に話しかけた。そして腕に抱えている|華 閻李《ホゥア イェンリー》の体を|縛《しば》る|鎖《くさり》、これを強く握る。

 瞬間、彼の暗闇そのものだった瞳の色が|朱《あか》へと支配された。

 |鎖《くさり》をぐっと引っ張る。するとどうしたことか。|鎖《くさり》は音もなく|粒子《りゅうし》となって空気へと溶けていった。

 |全 思風《チュアン スーファン》は子供を横抱きにする。部屋の|隅《すみ》で|呆然《ぼうぜん》としている|黄 沐阳《コウ ムーヤン》の元へと進み、そっと床へと寝かせた。

 |黄 沐阳《コウ ムーヤン》は疲れつつある体にムチ打ちながらも、子供へと駆けよる。

「おい|華蘭《ホゥアラン》、大丈夫か!?」

 |華 閻李《ホゥア イェンリー》を|字《あざな》で呼びながら子供の肩を揺すった。|身綺麗《みぎれい》にしていたはずの見た目がボロボロになっていても、それよりも子供の心配をする。

 すると子供はゆっくりと腕を動かし、彼へと微笑んだ。霊力を|奪《うば》われ、苦しいはずなのに、微笑みかける。

 子供は意識すら|朧気《おぼろげ》なままに、|黄 沐阳《コウ ムーヤン》を「|黄哥哥《コウにいさん》」と、親しげに呼んだ。

 そんなふたりを見、|全 思風《チュアン スーファン》は瞳を細める。

 ──|小猫《シャオマオ》を|字《あざな》で呼ぶのか。|小猫《シャオマオ》も、この男を|哥哥《あに》と言っている。……ああ、私が離れていた年月が悔しい。

 |全 思風《チュアン スーファン》の中では、ど

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