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答え合わせと再び生まれる謎

Author: 液体猫
last update Last Updated: 2025-05-12 13:37:33

 |黄《き》と|黒《こく》族の会合場に、予想もしなかった人物が現れた。

 それは|黄《き》族に|潜入《せんにゅう》していた男、|爛 春犂《ばく しゅんれい》である。しかし彼の正体は|黄《き》族ではなかった。|禿《とく》王朝の前皇帝、|魏 曹丕《ウェイ ソウヒ》の|命《めい》で動いていたのだ。

 その証拠として|黄《き》族用のものではなく、薄い青色を主体とした|漢服《かんふく》を着ている。

 腰に巻きつけてある|紐《ひも》に、小さな八角形の八卦鏡(パーコーチン)がぶら下がっていた。中心には【正一位】と書かれたものがはまっている。

 そんな見慣れぬ|装《よそお》いをする|爛 春犂《ばく しゅんれい》は、にこりともしなかった。黄でも黒でもない場所……部屋の奥にある大きな机の横に腰かける。

 ともに来ていた|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》はといえば、彼は大きな机を前に|鎮座《ちんざ》した。

 すると彼の右側に、黒い|漢服《かんふく》を着た男が立つ。巻物を広げ、つらつらと読み上げていった。

「──ただいまより|黄《き》族、ならびに|黒《こく》族の会合を開始いたします。それでは皆様、各々席に着いて……」

 ふと、黒い|漢服《かんふく》の男の横に座っている|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》が立ち上がる。部屋の中を一周するように見回し、唯一の青を持つ|爛 春犂《ばく しゅんれい》を見やった。

「話の前にひとつ。伝えておかねばならぬ事がある」

 |爛 春犂《ばく しゅんれい》を机の前まで誘う。彼はうなずいて腰を上げ、静かに|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》の前で足を止めた。

 右手を拳の形に変え、左手で包んで|会釈《えしゃく》をする。それは、お手本とすら思えるほどに|洗練《せんれん》された|拱手《きょうしゅ》であった。軽く|拱手《きょうしゅ》を済ませ、|黄《き》と|黒《こく》族の者たちにも会釈をする。

「この男……|爛 春犂《ばく しゅんれい》がここに呼ばれたのは他でもない。こいつが目的とするものに、我らがこれから話す事が、深く関わっているからだ」

 会合場が一気にざわついた。

 それでも彼らは気にする様子はなく、淡々と話を進めていく。

 第一声として|爛 春犂《ばく しゅんれい》が口を開いた。

「……ご存知の方もいるように、私は|爛 春犂《ばく しゅんれい》という名で通っております。しかしそれは
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  • 鳥籠の帝王   答え合わせと再び生まれる謎

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  • 鳥籠の帝王   決意とけじめ

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  • 鳥籠の帝王   写し鏡

     |全 思風《チュアン スーファン》の手の中にあったはずの|彼岸花《ひがんばな》が、光の|粒子《りゅうし》となって|消滅《しょうめつ》していった。 彼は|悔《くや》しさを|壁《かべ》にぶつけ、何度もたたく。そのとき、壁がガコンッという鈍い音をたてて前へと倒れてしまった。「うわっ! ……っ!? これは……隠し通路か!?」 奥へ続く道が現れたが、明かりひとつもない場所となっている。しかし彼は元々|夜目《よめ》が利く。明かりなど必要ないと|云《い》わんばかりに、暗黒しかない空間へと足を|踏《ふ》み入れていった── □ □ □ ■ ■ ■ 部屋の|隅《すみ》に、大きな台座がひとつある。台座のいたるところには札が貼ってあり、常に光っていた。 部屋の中を見渡せば、食器棚や勉強机も置かれいる。 そして何体もの|殭屍《キョンシー》が、部屋を囲うように|等間隔《とうかんかく》に立っていた。この者たちには一枚ずつ、札が|額《ひたい》に貼られている。それが、やつらの動きを封じているようであった。 |殭屍《キョンシー》らに囲まれるようにして部屋の中央では、男がふたり。互いに剣をぶつけ合っていた。  ひとりは扉側に、もうひとりは台座を背にしている。『……安心しろよ。|黄《こう》家の|跡取《あとと》りは、俺がしっかりとやってやるからさ』 上は|黄《き》、下にいくにつれて白くなる|漢服《かんふく》を着るのは|黄 沐阳《コウ ムーヤン》と、もうひとり。彼とまったく同じ顔をした男が語りを入れてきた。 難しい顔など一度もせす。人を|小馬鹿《こばか》にするような笑みを浮かべ続けていた。勝ち|誇《ほこ》ったようにケタケタと笑い、|黄 沐阳《コウ ムーヤン》を力任せに剣ごと|薙《な》ぎ払う。 そんな男の後ろ

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