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last update Date de publication: 2026-03-26 18:27:22

 カチンと来る。

 あまりにも当然のように投げつけられた言葉に、指先がピクリと動いた。

「じゃあ、男の仕事って何? あなた、今日家で何をしてたの?」

 思わず言い返すと、和也は今度こそスマホを置いた。馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

「外で働いて稼ぐことに決まってるだろ」

「私だってフルタイムで働いているわ。あなたと変わらないくらい」

「はあ? 俺の方が年収高いだろ。俺は450万、真由美は400万だろうが!」

 和也は胸を張って、勝ち誇ったように言い切った。

 たった50万の差である。

 税金を引かれたら、月の手取りなんて数万円の違いしかない。

(だいたい私の年収が低めなのは、陽菜を産んで産休育休の後、しばらく時短勤務をしていたからなのに!)

 いくら男女平等の社会をうたっていても、そうしたブランクがあれば不利に決まっている。

 時短勤務時に和也の協力があれば、昇進だって諦めずに済んだかもしれないのに。

 それなのに、まるで自分だけがこの家を支えている王様のようなふんぞり返っている。

 というか、その私の400万に、家事と育児の24時間営業が上乗せされているという計算は、彼の頭の中には存在しないらしい。

 マジか。本気で言っているのか。

 言い返す言葉は喉まで出かかっていたけれど、足元で陽菜が私の服を引っ張った。

「ママ、おなか、ぺこぺこ……。ごはん、まだぁ?」

 小さな声と、潤んだ瞳。

 ここで言い争いを始めても、虚しさが募るだけだ。

 私は奥歯を強く噛み締め、煮えくり返るような怒りを無理やり飲み込んだ。

「すぐ作るからね。待ってて」

 ため息1つ。私はキッチンへ向かった。

 ダイニングテーブルの上には、朝放置されたままのマグカップが、コーヒーの輪染みを作って残っている。

 廊下には、和也がさっきまで履いていたであろう靴下が、丸まったまま転がっていた。

 洗濯カゴ、そこから歩いて3歩なんだけど!

 この数メートルに、彼にしか見えない深い溝でもあるの?

 それとも、脱いだ瞬間に妖精さんが回収してくれる魔法でもかかっていると思っているの?

 私は無言でそれらを片付け、冷蔵庫を開けた。

 まな板を叩くトントンという規則正しい音だけが、今の私を繋ぎ止めてくれる唯一の味方だった。

 急いで作ったのは、肉野菜炒めと味噌汁だった。

 それと、陽菜が好きな甘い卵焼きだ。

 本当はもっと栄養バランスを考えて、何品も作ってあげたいけれど、今の私にはこれが限界だ。

 包丁を洗う暇もなく、次々とお皿を並べていく。

「できたよ、食べて」

 声をかけても、和也はソファから動こうとしない。

 スマホの画面から目を離さず、指を激しく動かしている。

 ピコピコという電子音が、やけに大きく響く。

「……和也、ご飯だよ。冷めちゃうから」

 二度目に少し声を荒らげて呼んで、ようやく彼はのろのろと立ち上がった。

 食卓についても、和也の片手にはスマホが握られたままだ。

 お箸を動かすよりも、親指を動かす方が忙しそうに見える。

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