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第6話

Author: 安西随
実は、明里と悠真もかつてここに来て、一緒に誓いの南京錠をかけたことがあった。

当時、悠真はまだ起業したばかりで余裕がなく、プレゼントを買って明里を喜ばせるということもできなかったので、恋人の橋の噂を聞きつけ、明里を連れてきてくれたのだった。

二人は誓いの南京錠を買い、一文字ずつ丁寧に二人の名前を書き込んだ。

あの時、悠真は明里を抱きしめ、真剣な眼差しで言った。「明里、一生大切にするからな」

しかし今、その男は別の女と全く同じ誓いの南京錠をかけている。

これまでの自分と悠真の時間は、一体何だったのだろうか?

答えはすぐに返ってきた。

若菜がベンチで休憩している隙に、悠真は水を買うと言い訳をして、再び恋人の橋の方へ向かった。

最初は彼が何をするか分からなかった明里だったが、彼が工具を持った作業員を呼び、かつて自分と一緒にかけた誓いの南京錠を探し当てたのを見てすべてを悟った。

作業員は誓いの南京錠をすんなりと外し、悠真に渡すとそのまま立ち去った。

次の瞬間、悠真が勢いよく腕を振り上げ、「悠真&明里」との文字が書かれた南京錠が、深い山の下へと消えていった!

それが完全に見えなくなるのを確認して、悠真はようやくほっと息をついた。

この瞬間、明里は全てを察した。彼がわざわざここに来たのは、若菜が以前、タイムカプセルを見つけた時みたいに、この誓いの南京錠を見て、傷つくことを恐れたからなのだろう。

この山は深い。悠真があれだけ遠くに投げたのだ。あの誓いの南京錠が二度と見つかることはないはずだ。

悠真はこれほどまでに若菜を愛していたらしい。それも、自分がいたほんの少しの過去すらも許せず、全てを跡形もなく消し去るほどに。

明里は、悠真がしてくれた「一生大切にする」というあの約束をまだ覚えていたのに、彼の心はとっくに他の女のものだった。

その約束もまた、捨てられた誓いの南京錠と共に、彼の過去の残骸となって谷底へ消えたのだ。

だが、明里は悲しむことはなく、なぜだか笑いが込み上げてきた。

ねえ、悠真。

これから先、守れない約束はしないほうがいいと思うよ。

自分は、なんと馬鹿だったのだろう。こんな男を信じて、一生を捧げてしまったなんて。

二人が山を下り、家についた頃には、もう真っ暗になっていた。山の風に吹かれ冷えたせいか、家に着くなり高熱を出した若菜。

すると悠真は一口の水も飲まず、すぐさま車で若菜を病院へと連れて行った。

若菜に点滴が打たれ、医者から解熱剤を飲めば大丈夫と言われて、悠真はようやく胸をなでおろす。

熱でうなされる若菜を落ち着かせながら、彼は優しく囁いた。「薬をもらってくるから、大人しく待ってて。すぐ戻ってくるから」

「早く戻ってきてね……」

心細そうに掠れた声でそう言う若菜を見つめ、悠真は頷き、何度か安心させるように背中をなでてからようやくその場を離れた。

まるで今生の別れのように離れた二人だった。薬をもらった悠真が若菜の病室に戻ろうと廊下を歩いていると、ある医師が悠真を呼び止めた。

薬を持つ悠真を見て、その医者は驚いた顔をした。「ご家族が熱を出されたんですか?」

悠真はこの医者を覚えていた。3年前、彼が事故に遭った時の担当医、近藤だった。

彼に呼び止められたことに対して、特に不快感は示さず、悠真はただ静かに頷いた。「ええ、婚約者が高熱を出してしまいまして」

それを聞いた近藤が笑みを浮かべる。「明里さんとご結婚なさるんですね!それはおめでとうございます。あの時から、とてもお似合いのお二人だなって思ってたんですよ」

「明里」という名前に、悠真の表情が少し険しくなり、少し間を置いた彼は、否定した。「彼女じゃないんです。彼女とはいろいろあって、別れてしまいました。だから、今の婚約者は別の人で……」

そう言われ、言葉に詰まったのは近藤の方だった。

戸惑いを隠せずに、近藤は口を開く。

「別れた?一体どうして……

3年前、あなたが交通事故に遭われたときのことを、僕は今でも覚えているんです。全身血まみれの状態で搬送されてきたあなたに、彼女は震えながら付き添っていました。

そして、あなたが大量出血により輸血を必要としているのに、病院の血液が不足していることを知ると、彼女は何も言わず採血室へ向かわれました。

通常、一度に採血できる安全な上限は400ccです。しかし、あなたに必要な血液量はそれをはるかに上回っていました。すると、彼女はご自身の体を顧みることなく、看護師に頼み込んでそれ以上もの採血を受けられたのです。

ご自身の血液の大半を、あなたのために差し出されたと言ってもいいでしょう。採血が終わった頃には、立っているのもやっとの状態でした。それでも休もうとはなさらず、ずっと手術室の前に跪いて、あなたの無事を祈り続けておられました。

だからこそ、僕はあなたのことを覚えてたんです。それに、彼女の一途な想いが天に届いたのかもしれません。あれほど重傷だったにもかかわらず、あなたは無事に手術を乗り越えられ、その後の回復も驚くほど早かったんですから。

彼女はそれほどまでにあなたを愛していました。ですから僕はてっきり、お二人はいずれ結婚されるものだと思っていたのですが……」

心から残念そうに話していた近藤だったが、もうすでに過去のことになってしまったのなら仕方がないとでもいうふうに、頭を下げてその場から去っていった。

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