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10年愛した彼に捨てられ、幽霊になった私

10年愛した彼に捨てられ、幽霊になった私

بواسطة:  安西随مكتمل
لغة: Japanese
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白川明里(しらかわ あかり)が意識を取り戻したとき、真っ先に目に飛び込んできたのは二人の男女だった。 男は、10年間愛し合ってきたにもかかわらず、たった1日前に突然別れを告げてきた桐生悠真(きりゅう ゆうま)。 そして女の方は、悠真の心を奪った相手であり、今は悠真の恋人となったーー篠原若菜(しのはら わかな)だった。 二人は寄り添いながら、何かを手に小声で話し合っている。だが、明里の存在に気づく様子はまるでない。 明里はそっと視線を落とした。そこにあったのは、透けていて実体のない自分の手。その瞬間、ようやく思い出す――自分は、もう死んでいるのだ。

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الفصل الأول

第1話

白川明里(しらかわ あかり)が意識を取り戻したとき、真っ先に目に飛び込んできたのは二人の男女だった。

男は、10年間愛し合ってきたにもかかわらず、たった1日前に突然別れを告げてきた桐生悠真(きりゅう ゆうま)。

そして女の方は、悠真の心を奪った相手であり、今は悠真の恋人となったーー篠原若菜(しのはら わかな)だった。

二人は寄り添いながら、何かを手に小声で話し合っている。だが、明里の存在に気づく様子はまるでない。

明里はそっと視線を落とした。そこにあったのは、透けていて実体のない自分の手。その瞬間、ようやく思い出す――自分は、もう死んでいるのだ。

ふわりとその場を離れようとした明里だったが、悠真から3メートルほど離れたところで、不意に見えない力に引き戻されてしまった。どうやら彼のそばから離れることはできないらしい。仕方なく二人のもとへ戻った明里の耳には、嫌でも彼らの会話が聞こえてきた。

若菜がカレンダーを手に、ある日付を指差して甘えた声を出す。「悠真、今月の7日は大安だから、結婚式、この日にしない?悠真が盛大な式を用意してくれようとしてるのはわかってる。でも私、そんなことより早く悠真のお嫁さんになりたいの」

若菜を見つめていた悠真が、優しく微笑んだ。「お前の好きにするといいよ」

明里は愕然とした。まさか、結婚式の日取りを決めていたとは。

悠真……結婚するんだ。

おかしいな。自分が10年待ち続けても叶わなかったのに、悠真は出会って3ヶ月の女とは、こんなにもあっさり決められるなんて。

別れたのはつい昨日のことなのに、自分たちが愛し合っていた思い出は、ひどく遠い記憶のように感じられる。

明里と悠真は幼馴染で、幼い頃から共に育ってきた。

悠真が明里に告白したのは、18歳の時。告白を受け入れてくれた明里に、悠真は耳を真っ赤に染めながらキスをし、「一生、お前を大切にする」と、誓った。

二人が最も愛し合っていた頃、悠真は明里を腕に抱き寄せながら、友人たちに向かってこんなことまで言っていた。

「俺は一生、明里だけだって決めてる。もし最後に俺が結婚する相手が明里じゃなかったら、その結婚式には絶対来るなよ。いや、来ないどころか、俺を半殺しにしてくれたっていい」

そんな二人だったからこそ、今年は籍を入れる予定でいた。

だがしかし、若菜が現れた。

かつての悠真は、明里に余計な心配をさせないよう、秘書課のスタッフは全員男性で揃えていた。けれど、いつからだっただろう。秘書課の中に、若く愛らしい一人の女性が加わっていた。

明里が気にすると思ったのか、悠真は自らこう説明した。

「取引先の娘なんだ。立場的に雑な扱いはできないけど、会社の機密に関わる部署にも置けない。だから秘書として俺のそばに置いてるだけだよ」そして彼は、何度も言った。「俺が愛してるのは明里だけだ。俺の心は、最初から最後まで明里のものだから」

人の心というのは、なんて移ろいやすいものなのだろう。

若菜が現れた最初の月、悠真の車から明里が好きなレモン味の飴が無くなり、彼女が今まで絶対に選ばなかった苺味に変わった。

2ヶ月目、映画デートや散歩、それだけでなく寝るときに手をつなぐことすらなくなり、悠真はいつもスマホを見つめてばかりいるようになった。

3ヶ月目、悠真の携帯のアルバムには、明里の知らない写真が増え、彼は顔を綻ばせながらそれを見ていた。

そして、明里が海外出張から帰ってくるという日でも、悠真は迎えに来なかった。

一人で家に帰った明里。家具に薄く積もった埃は、彼女が出張に行っている間、悠真がいなかったことの何よりの証明。

その後、再び家に帰ってきた悠真は、何の前触れもなく別れを切り出した。

「明里、覚えてるか?前にお前が、言ってたよな。もし俺がいつかもっと心を惹かれる相手に出会ったら、隠したりせず正直に話してほしいって。そうなったら、自分から身を引くし、絶対に縋ったりしないって。

……ごめん。この数か月で、俺は出会ってしまったんだ」

悠真は本当に正直だった。明里の胸は無理やり引き裂かれたように痛んだというのに、あまりにも正直すぎる告白に、彼女は何一つ言葉を返せなかった。

どれほど深く愛しているように見えても、男の心が離れるのは一瞬らしい。

「悠真、本当に全部くれるの?」

若菜の声が明里の思考を引き戻した。何のことだかいまいち分からなかった明里だが、すぐに聞こえてきた悠真の声が、その疑問を晴らす。

「ああ。結婚したら、俺が持っている株は全部お前に譲るよ。だって、家のお金を管理するのは、奥さんの役目だろ?」

明里はこの言葉に聞き覚えがあった。なぜなら、以前悠真が明里にも同じことを言っていたから。

それは、明里が22歳だったあの頃。

悠真の会社が軌道に乗り始め、ようやくまとまったお金を手にした時、彼がまず初めにしたのは、通帳とキャッシュカードを明里に渡すことだった。

会社を始めたばかりの悠真が、今まさに資金の必要な時期だとわかっていたから、最初、明里は受け取ろうとしなかった。だが、悠真は引き下がらずに、こう言ったのだ。

「いずれ俺たちは結婚するんだ。それに、家のお金を管理するのは、奥さんの役目だろ?ただ渡すのが、少し早くなっただけだよ」

しかし、いつの間にか、通帳とキャッシュカードは悠真の管理下へ戻っていた。今思えば、それは若菜が現れてからのことのような気がする。きっとあの頃にはもう、悠真の中で自分と別れることは決まっていたのだろう。

悠真の言葉を聞いた若菜が、嬉しそうに抱き着いた。「嬉しい!ねえ、悠真。そのお金で野良猫の保護活動をしてもいいかな?」

悠真は感動したように目を細めると、若菜の頭を優しく撫でた。悠真の声から、若菜への愛しさが溢れ出す。「もちろんだよ。こんな優しいお前と結婚できるなんて、俺はなんて幸せ者なんだろうな」

二人のそばを離れられないまま漂っていた明里は、頬を染めてはにかむ若菜を見つめながら、死ぬ間際の凄惨な光景を思い出していた。そして、もう見ていられなくなり、そっと目を閉じる。

優しい?

悠真が「優しい」と愛を向けるその女こそが、自分が別れを受け入れたあと、自分を拉致するように人を雇った張本人なのに?それも、明里という存在を、悠真の前から完全に消し去るという目的で……

若菜の指示を受けた男たちは、明里をベッドに拘束した。そして明里は、逃げることも助けを求めることもできないまま、悪夢のような時間を過ごした。

何人目だったのか、何度繰り返されたのか……気がつけば、明里の涙はとっくに枯れ果てていた。

それでも、明里は最後の気力を振り絞り、必死に逃げようとした。だが、あっという間に捕まり、再び引き戻されそうになった瞬間、バランスを崩した彼女は、そのまま頭を床に強く打ちつけたのだった。あふれ出した血が、床を赤く染めていき……

再び目を開けると、自分はもう死んで、幽霊になっていた。そして今、悠真と若菜の背後で、二人の結婚の相談を聞かされている。

明里がふと視線を落とすと、カレンダー上で丸をつけられた日付が目に入った。

なんという偶然だ。

二人の結婚を祝福しようとしているその日が……自分の初七日なんて。

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第1話
白川明里(しらかわ あかり)が意識を取り戻したとき、真っ先に目に飛び込んできたのは二人の男女だった。男は、10年間愛し合ってきたにもかかわらず、たった1日前に突然別れを告げてきた桐生悠真(きりゅう ゆうま)。そして女の方は、悠真の心を奪った相手であり、今は悠真の恋人となったーー篠原若菜(しのはら わかな)だった。二人は寄り添いながら、何かを手に小声で話し合っている。だが、明里の存在に気づく様子はまるでない。明里はそっと視線を落とした。そこにあったのは、透けていて実体のない自分の手。その瞬間、ようやく思い出す――自分は、もう死んでいるのだ。ふわりとその場を離れようとした明里だったが、悠真から3メートルほど離れたところで、不意に見えない力に引き戻されてしまった。どうやら彼のそばから離れることはできないらしい。仕方なく二人のもとへ戻った明里の耳には、嫌でも彼らの会話が聞こえてきた。若菜がカレンダーを手に、ある日付を指差して甘えた声を出す。「悠真、今月の7日は大安だから、結婚式、この日にしない?悠真が盛大な式を用意してくれようとしてるのはわかってる。でも私、そんなことより早く悠真のお嫁さんになりたいの」若菜を見つめていた悠真が、優しく微笑んだ。「お前の好きにするといいよ」明里は愕然とした。まさか、結婚式の日取りを決めていたとは。悠真……結婚するんだ。おかしいな。自分が10年待ち続けても叶わなかったのに、悠真は出会って3ヶ月の女とは、こんなにもあっさり決められるなんて。別れたのはつい昨日のことなのに、自分たちが愛し合っていた思い出は、ひどく遠い記憶のように感じられる。明里と悠真は幼馴染で、幼い頃から共に育ってきた。悠真が明里に告白したのは、18歳の時。告白を受け入れてくれた明里に、悠真は耳を真っ赤に染めながらキスをし、「一生、お前を大切にする」と、誓った。二人が最も愛し合っていた頃、悠真は明里を腕に抱き寄せながら、友人たちに向かってこんなことまで言っていた。「俺は一生、明里だけだって決めてる。もし最後に俺が結婚する相手が明里じゃなかったら、その結婚式には絶対来るなよ。いや、来ないどころか、俺を半殺しにしてくれたっていい」そんな二人だったからこそ、今年は籍を入れる予定でいた。だがしかし、若菜が現れた。かつて
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第2話
結婚式の日取りが決まると、悠真は若菜に唇を重ねた。二人は激しく絡み合い、服が床に散乱する。だが、最後の瞬間、悠真は若菜が寒くないようにと、そっと抱きかかえて寝室へと連れて行った。すぐに、寝室からは甘い吐息が聞こえてきた。だが、明里はかえって胸を撫で下ろしていた。彼らが寝室に行ってくれたことで、直接見ずに済んだから。翌朝、悠真はスマホの着信音で目を覚ました。彼は電話に出ると、腕の中でまだ寝ぼけている若菜をそっと抱き寄せてから、口を開いた。「もしもし?」「桐生悠真様でお間違いはないでしょうか?」「はい」悠真が答えると、電話の相手はそのまま用件を話し始めた。「実はですね、悠真様が明里様と一緒にお預けになったタイムカプセルが10年経ちましたので、本日はお電話させていただきました。もうすでに、ご自宅の方へ発送いたしましたので、お受け取りくださいね」電話が切れる。そしてその電話一本で、悠真と若菜の眠気は完全に吹き飛んだ。その時、ちょうどインターホンが鳴り、すぐに家政婦が寝室の外まで荷物を届けに来た。若菜を気にして、中身を見るのを躊躇った悠真だったが、若菜が一緒に見ようと彼の手を引いた。箱を手にリビングへと向かう二人に、明里もふわりと付いていく。タイムカプセル。あまりに遠い記憶で、明里も自分たちが何を埋めたのかを覚えてはいなかった。タイムカプセルを開けると、そこには二人の愛おしい思い出が詰まっていた。二人で撮ったプリクラ、全く同じ入学通知書、お揃いのグッズ。そして最後、底の方に入れられていたのは、悠真が明里に宛てた手紙だった。18歳のあの頃といえば、悠真が最も明里を愛していた時だった。そこに書き綴られていたのは、18歳の悠真が心に秘めていた想いばかり。【28歳の俺へ。お前は今、愛する明里と結婚したのか?今、俺は明里の家にあるガジュマルの木の下でこれを書いているよ。ここがあいつと初めて出会った場所だって、お前は覚えてる?あの日、白いワンピースを着ていた明里は、ポニーテールを揺らしながら、三日月みたいに目を細めて笑ってた。俺は一瞬で、心を奪われたよ。10年ってすごく長いから、今のお前はきっと、もう明里を連れて世界中の美しい景色を見て回っているんだろうな。それに、温かい家庭があって、家の壁に
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第3話
その夜、悠真は若菜を連れて、仕事上のパーティへ向かった。悠真から離れられない明里も、もちろんその後ろをついていく。このパーティーには悠真だけでなく、彼の友人たちも参加していて、悠真と若菜が姿を見せると、悠真の友人たちは、お互い目配せをした。そして、意図的なのか、それとも偶然なのかは分からないが、友人たちが次々と悠真の元へ集まってきて、若菜を悠真から遠ざけた。表向きは悠真と世間話をしているだけのようだったが、その言葉の端々からは、若菜に対する嫌悪が見て取れる。たとえば、彼女をいまだに秘書扱いして顎で使ったり、知り合いが酒を勧めに来れば、自分たちの代わりに酒を飲ませたりした。また、最近耳にした噂話だと言って、既婚者の男を奪った秘書を徹底的に罵り、まるで若菜を「愛人」とでもいうように、馬鹿にしていた。そして、若菜が涙目になってくると、悠真の顔色も曇り始め、我慢の限界になったのか、友人たちに対して、悠真が怒鳴った。「何してるんだよ!俺が若菜のことを好きになったんだから、文句があるなら俺に言え。若菜をいじめるな」そう言われた友人たちは更に嫌悪感を露わにし、険しい表情を浮かべる。そして、その中の一人が、苛立ちからシャンパンタワーを蹴り倒した。「いい気なもんだな、悠真!起業したばかりの、一番苦しかった時期をもう忘れちまったのか?明里さんが両親から遺された家を売って、その金でお前の資金を工面してくれたからこそ、今のお前があるんだろ?本当、明里さんが不憫でならないよ。まさか、自分が積み上げてきたもの全部、最後には他の女のためになるなんて、思わなかっただろうからさ」その言葉を聞いた瞬間、悠真は頭を殴られたような衝撃を受けた。起業したばかりで、一番資金繰りに困っていた頃、確かに明里が突然大金を自分にくれた。でもまさか、それが親の遺産を売ってまで作ってくれた金だったとは……心臓が締め付けられ、何とも言えない複雑な感情に襲われたが、隣で泣きそうな若菜を見ると、やはり、友人には冷たく言い返すことしかできなかった。「明里には、また金を返しておくから。でも、これからは若菜に対して、そんな失礼な態度をとらないでくれよ」そう言うと、悠真は若菜を連れてその場を離れた。明里もそのまま悠真に引っ張られ、彼の後ろをついていくしかなかったが
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第4話
数日後、悠真のスマホに、突然知哉から電話がかかってきた。前回とは違い、知哉の声には焦りが滲んでいる。「なあ、明里と連絡取れるか?俺たちが連絡しても、全然つながらなくてさ」「俺も取れない。別れてからは、ずっと避けられてる」悠真は眉をひそめたが、まだそこまで深刻には考えていなかったので、知哉が「一緒に探そう」と提案しても、すぐに断った。そして、何気なく知哉に聞いた。「知哉、お前はあいつのこと避けてたのに、どうして急に、そんなに気にするようになったんだ?」電話の向こう側で少しだけ沈黙が流れた後、知哉が鼻で笑った。「誰も彼もが、お前みたいに冷たいわけじゃないんだよ」その言葉に悠真の表情がふっと険しくなったが、彼が何かを言い返すよりも早く、通話は切られてしまった。気まずそうな悠真の姿に、明里は思わず笑ってしまったが、その後すぐに、少しだけ悲しくなった。日頃それほど付き合いのなかった友人でさえ、自分と連絡がつかないことを不審がってくれるのに、10年もの月日を恋人として過ごした男は、一度として自分を心配するようなそぶりを見せない。その時、明里はぐっと強い力に引っぱられた。どうやら、悠真が若菜を連れてジュエリーショップに向かうらしい。悠真が運転する車の屋根に乗り、見慣れた景色が後ろに過ぎていく。若菜を車で拾った悠真は、ここ盛沢市で一番大きな商業施設に向かった。若菜の手を引き、店中で仲睦まじそうにする二人の姿を、明里は背後からぼんやりと見ていた。いくつかの店を回り、ようやく若菜が気に入った品を見つけたので、悠真はカードで支払いを済ませる。その時に、なんとなく見た携帯の画面に、ニュース速報の通知が届いた。近くの山で女性の遺体が見つかったというニュース。その遺体は顔も分からないほど損傷し、服も着ておらず、さらには生前には暴行を受けた痕跡があるという。彼はそっと若菜の目を隠し、優しく言った。「お前は見ないほうがいいよ」ニュースは未だに犯人が捕まっていないことと、被害者女性の遺留品写真を公開していた。ニュースのコメント欄にはかなりのコメントがあり、かなりの話題になっていた。悠真も何気なく掲載された写真に目を通した。すると、その中の一枚に写っていた、少し色あせたブレスレットに目が止まる。決して、高価なものではなく、どこにでもあ
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第5話
あのニュースを見たばかりだったので、悠真は若菜を一人にしておくことが心配になり、急いで自分の家に連れてきた。悠真の家に入った途端、明らかに悠真のものではないものが、若菜の目につき、彼女は不満そうに口を尖らせる。「なんでまだ元カノの荷物があるの……」悠真は言われて初めて、明里の荷物をこれまで整理していなかったことに気付いた。「忘れてたよ。怒らないで。後で取りに来させるから」しかし、連絡を入れても、明里からの返事は一切返ってこない。悠真の独り言には、苛立ちが混ざる。「別れただけなのに、なんでこんなに怒ってるんだよ?まったく、一体いつになったら返信するつもりなんだ、あいつは!ここまで意地を張ってるなら、もう一生俺に連絡してくるなよ」そんな悠真の様子を見た若菜は、一瞬目を輝かせたが、すぐに健気なふりをして問いかけた。「悠真、明里さんからの返信、まだこないの?じゃあ、明里さんのもの……どうしたらいい?」「お前の好きにしていいよ」悠真はそう言い放つと、もう関心を示さなかった。悠真の許可を得た若菜はすぐさま部屋中を漁り始める。悠真と明里が二人で撮った写真を見つけた若菜は、明里の姿だけをハサミで切り取って、火の中に放り込んだ。その様子を、そばで見ていた明里。暖炉の火の明かりが悠真と若菜の顔を照らす。満足げな若菜と、感情が全く読み取れない悠真。まるで燃やされているものが、自分とは一切関係ないものだとでもいうように。明里は火の熱さも感じられず、思い出が消えゆくのを止めることもできなかった。ただ呆然と、灰となっていくのを見つめるだけ。この世界における、自分の痕跡が完全に消えていく様を……日が経つにつれ、明里は思った。自分の魂は、ずっとこの男に縛られ続けたままなのだろうか。それとも、彼が自分の死に気づけば、自然と離れられるのだろうか。悠真は一体いつになったら、気づくのだろう。明里は、却って興味を持った。だが、当の本人である悠真が、そんなことを知るよしもなく、彼は呑気に甘えてくる若菜の相手をしている。「悠真、恋人の橋っていう場所があるみたいなんだけど、一緒に行かない?そこで、誓いの南京錠をかけた恋人たちは、一生一緒にいられるんだって!」「恋人の橋」や「誓いの南京錠」という言葉を聞いた悠真は、一瞬たじろいだが、結局悠真
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第6話
実は、明里と悠真もかつてここに来て、一緒に誓いの南京錠をかけたことがあった。当時、悠真はまだ起業したばかりで余裕がなく、プレゼントを買って明里を喜ばせるということもできなかったので、恋人の橋の噂を聞きつけ、明里を連れてきてくれたのだった。二人は誓いの南京錠を買い、一文字ずつ丁寧に二人の名前を書き込んだ。あの時、悠真は明里を抱きしめ、真剣な眼差しで言った。「明里、一生大切にするからな」しかし今、その男は別の女と全く同じ誓いの南京錠をかけている。これまでの自分と悠真の時間は、一体何だったのだろうか?答えはすぐに返ってきた。若菜がベンチで休憩している隙に、悠真は水を買うと言い訳をして、再び恋人の橋の方へ向かった。最初は彼が何をするか分からなかった明里だったが、彼が工具を持った作業員を呼び、かつて自分と一緒にかけた誓いの南京錠を探し当てたのを見てすべてを悟った。作業員は誓いの南京錠をすんなりと外し、悠真に渡すとそのまま立ち去った。次の瞬間、悠真が勢いよく腕を振り上げ、「悠真&明里」との文字が書かれた南京錠が、深い山の下へと消えていった!それが完全に見えなくなるのを確認して、悠真はようやくほっと息をついた。この瞬間、明里は全てを察した。彼がわざわざここに来たのは、若菜が以前、タイムカプセルを見つけた時みたいに、この誓いの南京錠を見て、傷つくことを恐れたからなのだろう。この山は深い。悠真があれだけ遠くに投げたのだ。あの誓いの南京錠が二度と見つかることはないはずだ。悠真はこれほどまでに若菜を愛していたらしい。それも、自分がいたほんの少しの過去すらも許せず、全てを跡形もなく消し去るほどに。明里は、悠真がしてくれた「一生大切にする」というあの約束をまだ覚えていたのに、彼の心はとっくに他の女のものだった。その約束もまた、捨てられた誓いの南京錠と共に、彼の過去の残骸となって谷底へ消えたのだ。だが、明里は悲しむことはなく、なぜだか笑いが込み上げてきた。ねえ、悠真。これから先、守れない約束はしないほうがいいと思うよ。自分は、なんと馬鹿だったのだろう。こんな男を信じて、一生を捧げてしまったなんて。二人が山を下り、家についた頃には、もう真っ暗になっていた。山の風に吹かれ冷えたせいか、家に着くなり高熱を出した若菜。
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第7話
悠真が薬を持って病室に戻ると、若菜はすでに眠っていた。ベッドのそばに座っていた悠真の頭にあるのは、若菜ではなく……明里のことだった。あの時、事故に遭った自分のために、明里がそれほどのことをしてくれていたなんて。悠真は考えた末、スマホを取り出し、明里とのトーク画面を開いた。履歴を遡ると、自分のメッセージばかりが残っていて、別れてからというもの、明里からは一度も返事が来ていない。複雑な気持ちを抱えながら、打ち込んでは消し、消しては打ち込み……そうしながら、ようやく送信ボタンを押した。【近藤先生から聞いたんだけど、3年前の事故の時、お前は安全量以上の血液を俺にくれたのか?】しかし、今まさにメッセージを送った相手が、すぐそばにいることを彼は知らない。そして、そのメッセージを見た明里が、思わずふっと鼻で笑ったことも。本当だろうが何だろうが、そんなことはもうどうでもいいではないか。彼がどれだけ埋め合わせをしようとも、もう自分には関係ない。なぜなら、自分はもうこの世にいないのだから。返信がいつまでたっても来ないので、悠真は苛立ちを覚えてスマホをしまった。もう明里のことは考えないことにしよう。機嫌が直って返信が返ってきたら、少し金を送っておけばいい。そう自分に言い聞かせた悠真は、気持ちを切り替えて若菜の世話に専念しようとした。だが皮肉なもので、明里を人生から消し去ろうとすればするほど、生活の至るところに彼女の面影がつきまとうようになった。行きつけのレストランへ若菜を連れて行くと、顔なじみの店員に尋ねられた。「今日は、明里さんと一緒じゃないんですか?」それに加え、以前、悠真の胃の調子が悪かった時、明里が厨房に入って熱心に胃に優しいスープを練習していた話まで聞かされる羽目になった。仕事の打ち合わせに行けば、取引先も明里の話を持ち出す。まだ彼が会社を立ち上げる前、商談を成立させるために明里が取引先と無理をして酒を飲み、胃潰瘍で運ばれたという話は、当時の仲間内で知らない者がいないほど有名だったから。明里がしてきたこと、その一つひとつがすべて悠真のためだった。それは誰もが知っている事実だったのに、当の本人である悠真だけが、最後まで気づかずにいたのだ。悠真が家に戻ったその夜。彼は門をくぐるなり、無意識に庭へ目を向けた。そこにはかつて、
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第8話
明里は、悠真がまだアルバムを持っていたことに驚いた。しかし、全く理解できない。自分を捨て、あれだけ若菜に心を奪われていた悠真が、どうして今になって、若菜に隠れるようにしながら、二人のアルバムを開いているのだろうか。今日の悠真は、何かが変だ。自分自身の行動がすべて明里に見られていることなど露知らず、悠真はそのアルバムを眺めていた。そこには、明里と悠真が歩んできたこの数年の思い出がすべて詰まっている。このアルバムの最初の1枚は、二人が18歳の時に撮ったものだと、悠真は未だに覚えていた。新年のカウントダウンイベントのあの日、ドローンパフォーマンスが夜空を彩る中、悠真は明里を強く抱きしめ、そのまま唇を重ねたのだ。そしてこう伝えた。「明里、大好きだよ。この人生で一番の幸せは、お前に出会えたことだ」2枚目は、付き合って1年の記念日に撮ったものだった。明里の顔にはクリームがついていて、とても可愛らしく、その手には悠真が不器用ながらも手作りしたケーキが乗っている。あの頃の二人が見つめ合う瞳には、愛しかなかった。「明里、俺たちはずっと一緒だからな」3枚目は、二人が付き合って3年の時撮ったものだった。悠真は明里にプロポーズをした。あの頃、悠真にはまだお金がなく、飾り気のないシンプルな指輪しか買えなかったのだが、それでも明里は嫌な顔ひとつせず、その指輪を受け取ってくれた。「明里、お前がこんなに素敵だから、誰かに奪われるんじゃないかって心配なんだ」そう言って、悠真は明里を抱きしめた。4年目、会社が軌道に乗り始めたお祝いに、少し贅沢なレストランに行った。その時、悠真は「俺がお金を稼いだら、お前に盛大な結婚式を挙げてやるからな」と誓った。……そのアルバムには、二人が恋人として過ごした9年間の軌跡が詰まっていた。誕生日も、記念日も、クリスマスやお正月も……どんな特別な日も欠かさず写真に残し、気づけばアルバムは思い出でいっぱいだった。悠真は記念日を大事にし、毎回違うサプライズを用意してくれ、それも9年間、一度たりとも重複することはなかったことを、明里は今でも覚えていた。もし心残りがあるとすれば、それはどれも10年目のことだろう。なぜなら、自分たちの10年目に、若菜が現れたからだ。そしてこの10年目、悠真は自分にしてくれた誓
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第9話
悠真と若菜の結婚式の招待状は、とっくに発送が済んでいて、色々なところから祝福のメッセージと共に出欠の連絡が届いていたが、結婚式前日になっても、明里と知哉たち数名だけからは、一切の連絡がなかった。しかし、悠真は気にも留めていなかった。どうせ参加するのだろうから、出欠の返事など重要ではない。結婚式当日、若菜を迎えにいくために、悠真は車を走らせていた。そして、若菜を車に乗せ結婚式場へ向かう。しかし、半分ほど走り、細い小道に入ったところで、反対側からきた霊柩車によって道を塞がれてしまった。幸せな結婚式へ向かう車と、霊柩車。悠真の顔色が瞬時に険しくなる。どちらも道を譲ろうとはしない。膠着状態の中、悠真の表情はさらに険しくなる。その時、何かに反応したように、悠真の背後に浮かぶ明里の意識が激しく揺れた。それでも、悠真からは離れることができないため、霊柩車の方には近付けない。しかし、その瞬間、明里の頭の中で大きな音が鳴り響いた。すると、若菜が涙目でつぶやく。「もう、なんでこんな大事な日に、霊柩車なんかと遭遇しちゃったんだろ……」せっかくのめでたい日に、これ以上若菜を悲しませたくなかった悠真は腹をくくり、自分から車を降りて直接話をつけることにした。しかし、霊柩車に乗っている人間は決して窓を開けようとはしない。いくら悠真が窓の外からノックしても、完全無視を決め込み、対話する意思など毛頭ない様子だ。結局、悠真は何も解決できないまま憤慨して車に戻るしかなかった。その直後、少しだけ下りた後方の窓の隙間から、その車に座る人物の姿が見えた。それは——知哉だった。あいつに不幸が?それにしても、あいつはこっちが誰だか気づきながらも、降りてこなかったというのか?最終的に、悠真の方が譲る形で霊柩車の列を通した。そんなトラブルもあり、会場への到着は遅れてしまった。幸い結婚式自体は無事に終わったものの、披露宴が始まっても、友人たちが現れることはなかった。若菜が悠真の腕を抱き、不満げに尋ねる。「ねえ、もしかして私、あなたの友達に嫌われてるのかな?ふさわしくないとか思われてるのかも」重なる問題に、苛立ちを隠せなかった悠真だったが、ひとまず若菜をなだめ、全てが終わったら彼らの元へ行って問いただそう、と決めた。披露宴も終わったので、知哉たち
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第10話
ひどく殴られ、顔を腫らした悠真はその言葉を聞いて、一瞬動きを止めた。それでも信じられずに、震える声で尋ねた。「なんて言った?明里が死んだって?そんなはずは……」悠真は信じていないようだったが、知哉は彼の胸ぐらを掴んだまま、立ち入りが規制されている場所へと、悠真を無理やり引きずっていった。顔を上げた悠真が見たのは、黄色の立入禁止テープで囲まれた、血に染まる深い穴だった。彼は戦慄した。そして、何かを思い出したのか辺りを見回してスマホを取り出し、数日前見たばかりのニュース記事を何度も見返す。そしてついに、ここがそのニュースで報じられていた現場であり、目の前の深い穴こそが遺体の発見場所であると確信した。「嘘だ……あいつが俺を騙そうとしてるんだろ?」悠真は知哉の手中からもがき出ると、ずっと黙って隅にしゃがみこんでいた、明里と自分の共通の友人である朝比奈蓮(あさひな れん)と元木文哉(もとき ふみや)の方へと振り返った。よろめきながら二人の前に駆け寄り、必死に真実を問いただそうと縋り付く。「明里はまだ俺に怒っていて、お前らを使って騙そうとしているんだろ?」しかし二人は目を赤く潤ませ、しばらくしてから静かに告げた。「俺たちだって、あいつが怒ってるだけだって思いたいよ」沈黙した彼らを横目に、知哉は嗚咽しながら、一本のブレスレットを悠真の目の前に投げた。その悠真に向けられる知哉の眼差しからは、憎しみが溢れ出している。「悠真、あの時、勇気が出ずに、明里をお前に譲ったことを、俺は後悔してるんだよ……お前なんか、明里に相応しくなかったのに」その言葉を聞いて、明里は呆気に取られた。そして、なぜ知哉が自分を突然避けるようになったのか、やっと合点がいった。なんだ、嫌われていたわけじゃなかったのか……そう思えば、少し前の知哉の不可解な態度も説明がつく。若菜には初めて会ったにもかかわらず、厳しく当たっていた理由、連絡がつかなくなった自分を心配してくれたこと、そして自分の死を知ってこれほど深く悲しんでくれている理由も。同じように呆気に取られている悠真。だが、蓮と文哉が驚いていない様子を見て、自分たち二人だけが何も知らされていなかったのだと明里は気づいた。いや、もしかすると、当時の二人は互いしか見えていなかったせいで、知哉の気持ちに
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