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第7話

Author: 安西随
悠真が薬を持って病室に戻ると、若菜はすでに眠っていた。

ベッドのそばに座っていた悠真の頭にあるのは、若菜ではなく……明里のことだった。

あの時、事故に遭った自分のために、明里がそれほどのことをしてくれていたなんて。悠真は考えた末、スマホを取り出し、明里とのトーク画面を開いた。

履歴を遡ると、自分のメッセージばかりが残っていて、別れてからというもの、明里からは一度も返事が来ていない。

複雑な気持ちを抱えながら、打ち込んでは消し、消しては打ち込み……そうしながら、ようやく送信ボタンを押した。

【近藤先生から聞いたんだけど、3年前の事故の時、お前は安全量以上の血液を俺にくれたのか?】

しかし、今まさにメッセージを送った相手が、すぐそばにいることを彼は知らない。そして、そのメッセージを見た明里が、思わずふっと鼻で笑ったことも。

本当だろうが何だろうが、そんなことはもうどうでもいいではないか。

彼がどれだけ埋め合わせをしようとも、もう自分には関係ない。なぜなら、自分はもうこの世にいないのだから。

返信がいつまでたっても来ないので、悠真は苛立ちを覚えてスマホをしまった。もう明里のことは考えないことにしよう。機嫌が直って返信が返ってきたら、少し金を送っておけばいい。

そう自分に言い聞かせた悠真は、気持ちを切り替えて若菜の世話に専念しようとした。

だが皮肉なもので、明里を人生から消し去ろうとすればするほど、生活の至るところに彼女の面影がつきまとうようになった。

行きつけのレストランへ若菜を連れて行くと、顔なじみの店員に尋ねられた。「今日は、明里さんと一緒じゃないんですか?」それに加え、以前、悠真の胃の調子が悪かった時、明里が厨房に入って熱心に胃に優しいスープを練習していた話まで聞かされる羽目になった。

仕事の打ち合わせに行けば、取引先も明里の話を持ち出す。まだ彼が会社を立ち上げる前、商談を成立させるために明里が取引先と無理をして酒を飲み、胃潰瘍で運ばれたという話は、当時の仲間内で知らない者がいないほど有名だったから。

明里がしてきたこと、その一つひとつがすべて悠真のためだった。それは誰もが知っている事実だったのに、当の本人である悠真だけが、最後まで気づかずにいたのだ。

悠真が家に戻ったその夜。彼は門をくぐるなり、無意識に庭へ目を向けた。そこにはかつて、明里が丁寧に植えたひまわりが咲いていたのに、今はもう一輪たりとも残っていなかった。

家の中へ入ると、白い照明が室内を明るく照らし出した。悠真はゆっくりと部屋を見渡す。かつて明里との写真が飾られていた場所には、いつの間にか若菜とのツーショットが掛けられていた。

さらに、明里が気に入ってよく座っていたハンギングチェアも姿を消し、その代わりに華やかなインテリアが置かれている。

明里と何年も共に暮らしたこの家には、もう……彼女がここで生きていた痕跡は、どこにもないらしい。

そんな複雑な思いを抱えながら、ソファにおとなしく座り、自分を待ってくれていた若菜を見つめた。すると、悠真が帰ってきたことに気づくや否や、若菜が甘い笑みを浮かべ、すっと駆け寄って抱きついてきた。

「おかえり!ずっと待ってたんだから」そのとき悠真は、ふと思った。明里がこれまで自分のために尽くしてくれたことは紛れもない事実だ。しかし、自分だってそれ相応の見返りは与えてきただろう、と。

それに、足りなければいつでも言ってくれと伝えてあるのに、意地を張って勝手に姿をくらましているのは、明里の方なのだ。

しかし、それでも何か分からない拭いきれない思いがあった。若菜を寝室へ送ったあと、悠真はそっと書斎へと向かう。

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