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第3話

作者: べつに
「昨日、プレゼントを買ってくるって言ってたのにな。

時間がなくて買えなかったから、今日……その埋め合わせだ」

私は少し驚いた。

そういえば、昨日彼が出かける前に言っていた。

「夜帰る時、何かプレゼント買ってくるから」

まさか、彼がまだ覚えていたなんて。

だが、レシートに印字された時刻を見ると、つい三十分前だった。

おそらく、私が桜の投稿に「いいね」を押したのを見て、後ろめたさを感じたのだろう。

帰りがけに立ち寄った店で、埋め合わせ代わりにバッグでも買ってきたに違いない。

私は受け取らず、何も言わなかった。

湊はバッグをベッドに置き、少し口ごもりながら言った。

「そういえば、来月の事務所の優秀社員賞だけど、お前……」

「小野寺さんに譲れって?」

私から先に言い出すと思わなかったらしく、彼は気まずそうに頷いた。

「あいつはまだ入所したばかりだし、こういう評価が必要なんだ。お前はもう何度も取ってるし……」

なるほど、この「ついで」のプレゼントには、とっくに裏で値札が付けられていたというわけか。

私は頷いた。

「いいわよ」

彼は呆気に取られた。

私がこんなにあっさり承諾するとは思っていなかったのだろう。

「お前……怒らないのか?」

私は首を横に振った。怒る理由なんてない。

これから桜が欲しがるものは、優秀社員賞であれ、彼の特別扱いであれ、私にはもう必要ないのだから。

彼は安堵したように表情を緩め、さらに付け加えた。

「桜は俺の弟子だし、お前も一応先輩だからな。これくらい大目に見るのは当然だろ。

そういえば、明日の午前中、時間を空けて市役所へ婚姻届を出しに行こう」

私は彼を見つめたまま、黙っていた。

彼は何かを思い出したように言った。

「そういえば出張だったな。明日の飛行機、何時だ?」

「午後三時」

「なら間に合うな」

彼は自信満々に言った。

「明日の朝十時、市役所の前で待ち合わせよう。カメラマンももう手配して、前金も払ってある」

私は彼に「もういい、私たちが入籍する必要はない」と告げようとした。

だがその時、再び彼のスマホが鳴り出した。

画面には、相変わらず桜の名前が表示されていた。

電話の向こうから、甘えるような声が聞こえる。お腹がひどく痛いから、病院まで連れて行ってくれないかと言うのだ。

彼は電話を切り、珍しく少し躊躇うような表情を見せた。

私は言った。

「行ってあげて」

彼は肩の荷が下りたように、前に出て私を軽く抱きしめた。

「明日は綺麗に着飾ってきてくれよ。絶対に行くから。

今度こそすっぽかしたりしない」

そう言うと、彼はコートを手に取り外へ向かった。

ドアが閉まった瞬間、私はベッドの上のバッグに目をやった。

レシートがまだ隙間に挟まったままだ。

私はそれをそのままクローゼットの一番上の棚に置いた。

そこには、以前彼が「ついで」に買ってきた色違いの同じバッグが、もう二つ置かれていた。

……

翌日の午前九時半。

私は最後のスーツケースを閉じ、部屋を見回した。

クローゼットの中には、湊の服だけが整然と掛けられ、私のスペースはすっかり空っぽになっていた。

九時四十五分。彼が約束した入籍の時間まで、あと十五分。

私はタクシーを呼び、空港へ向かって出発した。

十時ちょうど。

彼とのトークルームは、依然として沈黙したままだった。

メッセージひとつ、電話一本も来なかった。

そして正午を過ぎても、私がなぜ市役所に来なかったのかを問い詰める電話は、彼からかかってこなかった。

午後、搭乗手続きを済ませ、搭乗口へ向かい、いざ飛行機に乗ろうとしたその時、ようやくスマホが震えた。

湊からのメッセージだった。

二件、立て続けに届いた。

【凜、桜が病院で一人じゃ不安だって言うから。今日入籍するのは無理そうだ】

【今回の出張から帰ってきたら、俺が空港まで迎えに行く。そのまま真っ直ぐ役所に行こう。今度こそ絶対にすっぽかしたりしない】

メッセージを見ても、私の心は少しも波立たなかった。

やはり、18回目の入籍も、彼はすっぽかしたのだ。

私は平然とした顔でスマホを持ち、返信を打ち込んだ。

【もう結構よ、湊。私はすでに事務所を辞めたわ。

これから海外の法律事務所に転職する。

今日を限りに、私たちはもう何の関係もないわ】

最後のメッセージを送信し終え、私はスマホの電源を切ろうとした。

だが次の瞬間、画面が突然明るく点灯した。

見慣れた番号が、狂ったように画面上で点滅していた。

何度も、何度も……

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