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第4話

Author: 流星群を抜け出したら
透也が婚姻届受理証明書を公開してから、ネットには私への誹謗中傷があふれ、息が詰まりそうだった。

上司に呼ばれて部屋に入ると、退職に関する合意書を目の前に差し出された。

「折原さん、会社としてはネットの騒ぎに巻き込まれたくないんだ。

悪いけど、退職してもらえないかな」

私は目の前の書類を見下ろした。

7年間の恋が終わり、両親にも見捨てられ、とうとう仕事まで失ってしまった。

ビルを出ると、入口でスマホを向けられた。撮っている人たちは、みんな冷たい目をしていた。

私は帽子を目深にかぶり、逃げるように霧葉町行きの小さな路線バスに乗り込んだ。

それでも、この世にはまだ、何があっても私を信じてくれる人が1人だけいた。

子どもの頃と同じように、おばあちゃんが庭の門の前で待っていた。

その姿を見た途端、涙がこらえきれなくなり、胸に飛び込んだ。

おばあちゃんは震える声で、私の背中を優しくさすってくれた。

「うちのなっちゃん、こんなに痩せちゃって……

ばあちゃんがいるからね。もう泣かなくていいんだよ」

その夜、私はようやく眠ることができた。

けれど翌朝早く、庭の外から聞こえてくる騒ぎ声で目が覚めた。

慌てて外へ飛び出すと、門の前に小春が立っていた。

星真は顔を上げ、かわいらしい声で挨拶した。

「おばあちゃん、こんにちは!」

おばあちゃんはきょとんとした。

「あら、どこの子かしら?」

小春はしゃがみ込み、星真の頭をなでた。

「星真、おばあちゃんに教えてあげて。パパは誰かな?」

私は顔色を変え、慌てて口を挟んだ。

「小春、何しに来たの?」

小春は顔を上げ、得意げに私を見た。

「もちろん、夏葉の顔を見に来たのよ」

私はぎゅっと拳を握り、冷たく言い返した。

「私がどれだけ惨めになったか、見に来たわけ?

小春、私、何か悪いことした?

昔、ご両親が離婚して誰も面倒を見てくれなかった頃、私はよく家に呼んで、一緒にご飯を食べたよね。

彼氏と別れたときだって、うちに泊めてあげた。

私はずっと、一番の親友だと思ってた。

なのに、どうしてこんなことするの?」

小春は片眉を上げ、鼻で笑った。

「夏葉ってさ、自分のこと、すっごくいい人だと思ってるでしょ?

あんなに親切にしてくれたのも、私が一生感謝して、あんたに頭が上がらなくなるのを期待してたからじゃないの?」

私は言葉を失った。

「そんなこと、一度も思ったことないよ」

すると、小春はおかしそうに笑った。

「そりゃそうよね。あんたは何もかも持ってるんだから。

大事にしてくれる両親がいて、甘やかしてくれる彼氏もいて。

でも、私は?

あんたのお下がりを着て、譲ってもらった部屋に住んで、あんたの親がかわいそうだからって、気まぐれに優しくしてくれるのを受け入れるしかなかったのよ」

小春の目の縁は赤くなっていた。それでも、私を見つめる目には憎しみしかなかった。

「私が一番嫌いなのは、施しのつもりなんてないって顔で、何でもしてくるところよ。

でも、そのうちあんたの親は、夏葉より私のことを心配するようになった。

透也だって、私と結婚してくれた。

ねえ、夏葉。

私がどれだけいい気分だったか、わかる?」

おばあちゃんは全身を震わせながら私の前に立ち、小春を門の外へ押し出した。

「出ていきなさい!なっちゃんに、あんたみたいな友達はいらないよ!」

小春は鼻で笑うと、スマホをおばあちゃんの目の前に突きつけた。

「おばあちゃん、よく見てよ」

画面には、透也が投稿した婚姻届受理証明書と2人の記念写真が映っていた。

さらに、私の両親がインタビューに答え、私のことを思い込みが激しく、恥知らずな娘だと話している動画まであった。

「私と透也は、もう4年前に結婚してるの。

夏葉の親も友達も、みんな私たちが夫婦だって認めてる。

それなのに夏葉ったら、今でも恥ずかしげもなく私の夫に付きまとってるのよ」

おばあちゃんの息が、だんだん荒くなっていく。

「うちのなっちゃんは……そんな子じゃない……」

小春は目に涙を浮かべたかと思うと、急に声を張り上げた。

「おばあちゃん、人の夫を奪う女って、大嫌いだったよね?

一番かわいがってた孫が、7年間も人の男と不倫してたなんて、知らなかったの?」

その言葉を聞いた途端、おばあちゃんの体がびくりとこわばった。

おばあちゃんは若い頃、夫にほかの女のところへ出ていかれた。

それ以来、浮気相手になるような女を何よりも嫌っていた。

そのおばあちゃんに、小春は私が不倫していたと言い放った。

次の瞬間、おばあちゃんがその場に倒れた。

小春は一瞬顔を青ざめさせ、半歩後ずさると、星真を連れて逃げていった。

救急車はすぐに来てくれた。

けれど、おばあちゃんは病院に着くまで持たなかった。

息を引き取る直前、おばあちゃんは私の手をぎゅっと握りしめた。目尻から涙がこぼれ落ちた。

「なっちゃん……

ばあちゃんは、信じてるよ。

なっちゃんは……そんな子じゃないからね」

そう言い終えると、おばあちゃんの手から力が抜け、私の手を離れた。

この世で最後まで私を信じてくれた人まで、小春に追い詰められて死んでしまった。

私はだんだん冷たくなっていくおばあちゃんの体を抱きしめ、息もできないほど泣いた。

おばあちゃんの葬儀は、私1人で取り仕切った。

遺骨は、子どもの頃から好きだった大きな木のある霊園で、樹木葬のお墓に納めた。

ちょうどそのとき、透也からメッセージが届いた。

【夏葉、小春は今、精神的にかなり参ってる。

自分が不倫相手だったと認める動画を投稿してくれたら、今回のことはもう追及しない。俺たちも、また一緒にいられる】

その文字を見て、思わず鼻で笑った。

私はライブ配信アプリを開いた。

カメラが映り始めたとき、頬にはまだ涙が残っていた。

配信を見に来る人が、次々と増えていく。

私は画面をまっすぐ見つめ、ゆっくりと口を開いた。

「皆さん、こんにちは。

折原夏葉です。

羽鳥透也と羽鳥小春、それから私の両親について、

本当のことをお話しします」

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