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1万メートルの空から、愛は墜ちた

1万メートルの空から、愛は墜ちた

By:  流星群を抜け出したらCompleted
Language: Japanese
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私、折原夏葉(おりはら なつは)が羽鳥透也(はとり とうや)と人目を忍んで付き合い始めて、7年目。 透也は多くの乗客の命を救った機長として、一躍ネットで話題になった。 飛行機が突然、激しい悪天候に見舞われたのだ。 それでも透也は、優れた操縦技術でなんとか緊急着陸に成功し、乗客を無事に帰還させた。 私はライブ中継を見守りながら、立っていられないほど泣いた。 ところが、そのわずか10分後。 空港での取材中継に、3歳の男の子が飛び込んできた。 男の子は規制線を越え、泣きながら透也の胸に飛び込んだ。 「パパ!」 続いて、私の一番の親友、浅羽小春(あさば こはる)が目を赤くして駆け寄ってきた。 透也は全国に流れるカメラの前で、小春と男の子を抱きしめた。 何が起きたのかわからず呆然としていると、今度は見慣れた2人の顔が画面に映った。 母は目を赤くして小春を抱きしめ、声を詰まらせた。 「小春、もう大丈夫よ。 透也が生きて帰ってきたんだから、あなたにも子どもにも、透也がついてるわ」 父もほっとした顔で透也の肩を叩いた。 「家族3人、こうして無事にそろったんだ。それが何よりだ」 その瞬間、全身から血の気が引いた。 この7年間、私は透也のために3度もお腹の子を諦めてきた。 そのたびに彼は目を赤くして私を抱きしめ、誓った。 「夏葉、周りに何を言われるかわからない。お前を未婚の母親にするわけにはいかない。 機長になったら、必ず結婚しよう」 思わず笑いがこぼれた。 けれど、笑っているうちに涙で目の前がにじんでいった。 透也だけじゃなかった。 父も母も、とっくにあの2人の味方だったのだ。 私だけが、誰にも言えない関係のまま、7年間も彼を待ち続けていた。 私はライブ配信の画面を開き、一文字ずつコメントを打ち込んだ。 【2人とも、おめでとう】

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松坂 美枝
松坂 美枝
主人公の影に隠れて家族が裏切ってた話 主人公は三回流産してるのにこの裏切り おばあちゃんまで殺されてボロボロ 最後だけ後悔して謝られても許せないよね
2026-10-31 11:50:25
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11 Chapters
第1話
【2人とも、おめでとう】そう書き込むと、祝福のコメントが次々と流れてきた。【大勢の人を救った機長さん、幸せになってほしい】【男の子が駆け寄って「パパ!」って呼んだところ、ほんと泣いた】私の書き込みも、あっという間にその中に埋もれてしまった。誰の目にも留まらないまま。そのとき、スマホが鳴った。透也からだった。電話に出ると、向こうは騒がしかった。空港のアナウンスに混じって、子どもの泣き声も途切れ途切れに聞こえてくる。けれど、透也の声はひどく冷たかった。「今日は見てる人が多いんだ。こんなときに騒がないでくれ。小春と子どもはもうカメラの前に出てしまった。あの2人に恥をかかせるわけにはいかないんだ」スマホを握る手に、少しずつ力がこもる。「じゃあ、私は?」透也は答えなかった。長い沈黙のあと、疲れたようなため息が聞こえてきた。「夏葉、俺たちのことはまた今度話そう。でも、星真はもう全国の人に顔を知られてるんだ。小春とあの子には、ちゃんとけじめをつけないといけない」星真(せいま)。その名前を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。透也と付き合って間もない頃、2人で山の上へ星を見に行った。私は彼の肩にもたれ、笑いながら尋ねた。「ねえ、いつか私たちに子どもができたら、何て名前にしようか?」透也は私を見下ろすと、そっと額にキスをした。「星真。星空の『星』に、真心の『真』。夏葉も、いつか生まれてくる子も、俺にとっては神様からもらった一番大切な贈り物だから」けれど、その後、私のお腹に宿った3人の子どもは、誰1人生まれてこなかった。それなのに透也は、あの名前を小春の息子につけたのだ。画面の中では、小さな男の子が大勢の人に囲まれていた。その姿を見つめていると、胸の奥がずきりと痛んだ。私が思い描いていた未来まで、あの2人の家族の幸せになっていた。そのとき、家族のグループチャットに母からメッセージが届いた。【夏葉、もう見たのね。それなら、お母さんもこれ以上隠しておけないわ。小春がずっと止めてたのよ。夏葉には言わないでって。透也のことをあんなに愛してるんだから、本当のことを知ったら耐えられないんじゃないかって心配してたの】画面に並ぶ文字を見つめたまま、体が固まった。
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第2話
全身から血の気が引いていった。あの子は、父と母を「じいじ」「ばあば」と呼んでいただけじゃなかった。両親はずっと前から、あの子を家に連れ帰って泊めていたのだ。3歳。星真が今年3歳なら、小春が妊娠したのは、ちょうど失恋した年だ。あの頃、小春は元彼に家を追い出され、スーツケースを引いて私の家の前まで来た。息もできないほど泣きじゃくっていた。そんな姿がかわいそうで、家に迎え入れたのは私だった。当時、透也はあまりいい顔をしなかった。「誰でもかれでも家に連れてくるなよ」眉をひそめた彼に、私は笑って小春をかばった。「誰でもいいわけじゃないよ。小春は私の一番の親友なんだから」結局、透也もそれ以上は反対しなかった。夜中に小春が胃の痛みを訴えると、透也が薬を買いに行った。街の南にある店の雑炊が食べたいと言えば、透也が車で買いに行った。仕事探しがうまくいかないときも、知り合いに頼んで履歴書を渡してもらっていた。当時の私は、それをうれしくさえ思っていた。好きな人が一番の親友のことまで気にかけてくれるのが、うれしかった。でも、今ならわかる。あの頃の気遣いは、ただの親切ではなかった。電話の向こうでは、透也がまだ話していた。「夏葉、聞いてるか?とりあえず、何日か頭を冷やしてくれ。騒ぎが収まったら、ちゃんと説明するから」私は何も答えず、もう一度、先ほどの空港中継の録画を開いた。画面の中では、父が星真を抱いていた。その首には、小さな銀のペンダントがかかっている。カメラが動いた瞬間、ペンダントがきらりと光った。思わず体が固まった。あのペンダントには見覚えがある。初めて流産したあと、母が自分の手で作ってくれたものだった。あの日、私は痛みで真っ青になり、病院のベッドに横たわっていた。涙がどうしても止まらなかった。母は私の手を握り、優しくなだめてくれた。「赤ちゃんは、きっとまた授かるからね。お母さんが銀のペンダントを作ってあげる。いつか透也との間に赤ちゃんができたら、その子につけてあげようね」それなのに、あのペンダントはとっくに小春の息子に渡されていたのだ。私は電話を切った。そして透也、父、母を1人ずつブロックした。あの人たちは、家族そろって幸せになればいい。
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第3話
透也の手が宙で止まった。一瞬、呆然としたあと、どうしていいかわからない様子で手を伸ばしてきた。悪いことをした子どものようだった。私はその手を冷たく払いのけ、口元についた血を拭った。すると、透也の目からさっきまでの申し訳なさが消え、冷たい目つきに変わった。透也は冷え切った声で言った。「小春がニュースを見て、手首を切ったんだ。さっき、ようやく助かったところだぞ。あいつを死ぬまで追い詰めないと気が済まないのか?」私はうつむき、鼻で笑った。「写真を流したのは私じゃないって言ったら、信じてくれる?」透也は眉をひそめ、怒りを押し殺すように答えた。「お前以外に誰がいるんだよ。あんな写真を出して、同情を引こうとするなんて」透也はさらに吐き捨てるように言った。「夏葉、お前、いつからそんなに底意地の悪い女になったんだ?」透也の顔を見ていると、笑いたくなった。透也と小春は全国中継で、子どもと3人、仲のいい家族として映っていた。私の両親までその子を抱き、親子3人の幸せを願っていた。みんなで7年間も私を騙しておきながら、最後には私が悪者になるなんて。黙っているのが気に入らなかったのか、透也の声がさらに冷たくなった。「ちゃんと説明しろって言ってたよな?わかった。今ここではっきりさせてやる」透也はスマホを取り出し、私の目の前でSNSの投稿を書き始めた。数分後、彼のアカウントが再び更新された。添えられていたのは、婚姻届受理証明書と、寄り添って写る2人の記念写真だった。写真の中で、小春は穏やかに微笑んでいた。いつもの淡々とした顔だったが、小春を見る目には、私の知らない甘さがあった。投稿には、長い文章が添えられていた。【皆さま、ご心配いただきありがとうございます。私と小春は4年前に婚姻届を出し、正式に夫婦になっています。夏葉は妻の友人ですが、個人的な事情から、長年私に必要以上に依存していました。精神的に不安定なところもあるため、私たちはこれまでできる限り受け止めてきました。ところが彼女は、昔の写真をAIで合成し、わざと世間の誤解を招いて、私の妻と子どもを傷つけました。今後、法的措置を取ることも検討しています】私はその文章を1文字ずつ目で追った。喉が詰まったようで、息をする
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第4話
透也が婚姻届受理証明書を公開してから、ネットには私への誹謗中傷があふれ、息が詰まりそうだった。上司に呼ばれて部屋に入ると、退職に関する合意書を目の前に差し出された。「折原さん、会社としてはネットの騒ぎに巻き込まれたくないんだ。悪いけど、退職してもらえないかな」私は目の前の書類を見下ろした。7年間の恋が終わり、両親にも見捨てられ、とうとう仕事まで失ってしまった。ビルを出ると、入口でスマホを向けられた。撮っている人たちは、みんな冷たい目をしていた。私は帽子を目深にかぶり、逃げるように霧葉町行きの小さな路線バスに乗り込んだ。それでも、この世にはまだ、何があっても私を信じてくれる人が1人だけいた。子どもの頃と同じように、おばあちゃんが庭の門の前で待っていた。その姿を見た途端、涙がこらえきれなくなり、胸に飛び込んだ。おばあちゃんは震える声で、私の背中を優しくさすってくれた。「うちのなっちゃん、こんなに痩せちゃって……ばあちゃんがいるからね。もう泣かなくていいんだよ」その夜、私はようやく眠ることができた。けれど翌朝早く、庭の外から聞こえてくる騒ぎ声で目が覚めた。慌てて外へ飛び出すと、門の前に小春が立っていた。星真は顔を上げ、かわいらしい声で挨拶した。「おばあちゃん、こんにちは!」おばあちゃんはきょとんとした。「あら、どこの子かしら?」小春はしゃがみ込み、星真の頭をなでた。「星真、おばあちゃんに教えてあげて。パパは誰かな?」私は顔色を変え、慌てて口を挟んだ。「小春、何しに来たの?」小春は顔を上げ、得意げに私を見た。「もちろん、夏葉の顔を見に来たのよ」私はぎゅっと拳を握り、冷たく言い返した。「私がどれだけ惨めになったか、見に来たわけ?小春、私、何か悪いことした?昔、ご両親が離婚して誰も面倒を見てくれなかった頃、私はよく家に呼んで、一緒にご飯を食べたよね。彼氏と別れたときだって、うちに泊めてあげた。私はずっと、一番の親友だと思ってた。なのに、どうしてこんなことするの?」小春は片眉を上げ、鼻で笑った。「夏葉ってさ、自分のこと、すっごくいい人だと思ってるでしょ?あんなに親切にしてくれたのも、私が一生感謝して、あんたに頭が上がらなくなるのを期待して
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第5話
ライブ配信の視聴者数は、みるみる増えていった。最初に入ってきたのは、ほとんどが私を叩きに来た人たちだった。【折原夏葉、よくまだ配信なんてできるね】【奥さんが手首を切るほど追い詰めておいて、今度は被害者ぶる気?】【機長さんが乗客全員を救ったばかりなのに、早速話題に便乗してる。マジで気持ち悪い】次々と流れるコメントを見つめていると、気持ちはかえって静かになっていった。この数日、もっとひどい言葉を散々浴びせられてきた。不倫女だの、恥知らずだの、親友の旦那にまで手を出した女だの。けれど、どんな悪口も、おばあちゃんが目の前で倒れたときの、あの鈍い音ほど私を苦しめることはなかった。私は頬に残っていた涙を拭った。「まず、写真のことからお話しします。羽鳥透也は、以前私と撮った写真はAIで作った偽物だと言いました。ですから、最初にその写真が本物だということを証明します」私はパソコンを操作し、1つのフォルダーを開いて、配信画面に映し出した。中には、7年前から4年前にかけて撮った、透也との写真がまとめて入っていた。1枚目は、彼がまだ機長になる前、私が空港まで迎えに行ったときの写真だった。副操縦士の制服を着た透也が、少しかがんで私の額にキスをしている。2枚目は、透也の誕生日の夜に撮ったものだ。私を抱き寄せる透也の後ろには、私が手作りしたケーキが写っていた。ケーキには、こんなメッセージが書かれている。『大好きな羽鳥機長へいつも安全に飛んで、無事に帰ってきてね』3枚目は、透也が初めて長距離便の審査を受ける前、ホテルの部屋で撮った写真だった。透也は緊張した面持ちで私の手を握り、その隣で私は笑顔でピースサインをしていた。写真の右下には、撮影当時の日時がそのまま残っていた。続けて、クラウドに保存されていたバックアップの履歴や、元画像の撮影情報、位置情報も開いた。「これらの資料は、すでに弁護士に渡してあります。AIで作られた画像かどうかは、専門機関に調べてもらえばわかることです」コメントが流れる速さが、少しずつ落ちていった。疑問を口にする人も出てきた。【元画像のデータまであるなら、偽物には見えないけど】【これが本物だったら、羽鳥透也が出した声明は何だったの?】【夏葉は精神的に不安
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第6話
私は、母があとから送ってきた音声メッセージを再生した。穏やかな母の声が聞こえてきた。「夏葉、もう泣かないで。赤ちゃんは、きっとまた授かるからね。お母さんが銀のペンダントを作ったの。いつか透也との間に子どもができたら、その子につけてあげてね」音声が終わると、今度は空港でのライブ中継の映像を流した。画面には、父に抱かれた星真が映っている。その首には、あの銀のペンダントがかかっていた。私は2枚の写真を並べて映した。1枚は、あの日、母がペンダントを私の手のひらにのせてくれたときの写真。もう1枚は、星真がそのペンダントをつけ、両親を「じいじ」「ばあば」と呼んでいた中継映像を切り取ったものだった。「これは、最初の子を失ったあと、母が手作りしてくれたものです。でも今は、小春の息子の首にかかっています。いつ、あの人たちが持っていったのか、私にはわかりません。あの子を抱いて『せいちゃん』と呼ぶたびに、私のお腹にも子どもがいたことを思い出したんでしょうか。私には、それもわかりません」コメント欄から、私を罵る言葉はすっかり消えていた。けれど、まだ終わりにはできなかった。一番つらいことは、まだ話していなかった。私は最後の動画を開いた。おばあちゃんの家の門の前にある、防犯カメラの映像だった。映像では、小春がおばあちゃんにスマホを突きつけ、透也が公開した婚姻届受理証明書と、両親が私を罵るインタビュー動画を見せていた。「おばあちゃん、人の旦那を奪うような女が大嫌いだったよね?一番かわいがってた孫が、7年間も人の男と不倫してたなんて、知らなかったの?」次の瞬間、おばあちゃんがその場に倒れた。動画はそこで止まった。私は顔を上げ、カメラを見つめた。こらえていた涙が、とうとう頬を伝った。「祖母は、人の夫を奪うような女を何よりも嫌っていました。若い頃、祖父がほかの女性のところへ行ってしまったからです。それでも最期まで私の手を握り、『なっちゃん、ばあちゃんは信じてるよ。なっちゃんはそんな子じゃない』と言ってくれました。この世で最後まで私を信じてくれたのは、祖母だけでした」とうとう声が詰まり、うまく話せなくなった。「その祖母も、もういません」コメント欄は、驚きと謝罪の言葉で埋め尽
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第7話
透也があのライブ配信を見たのは、病院にいるときだった。小春は手当てを受けたばかりで、手首にはガーゼが巻かれていた。母は卵がゆの器を持ってベッド脇に座り、小春をなだめながら、ひとさじずつ口に運んでいた。「もう泣かないの、小春。夏葉は私たちが甘やかしすぎたのよ。騒ぎが落ち着けば、あの子もそのうちわかってくれるわ」父は窓際に立ち、険しい顔をしていた。「まだ騒ぐようなら、透也に訴えてもらえばいい。うちにあんな恥さらしの娘はいらん」透也はそばに座ったまま、ずっと黙り込んでいた。そんなとき、スマホにライブ配信の通知が届いた。透也は何気なくその通知を開いた。だが、おばあちゃんが倒れる場面が映ると、透也の顔からみるみる血の気が引いた。「小春、お前たち、夏葉のおばあちゃんのところに行ったのか?」小春の体がびくりとこわばった。病室にいた全員の視線が、一斉に小春へ向けられる。母は震える声で尋ねた。「小春……どうして、うちの母のところに行ったの?」小春の目から、たちまち涙がこぼれた。「私はただ、ちゃんと説明したかっただけなの。あんなにショックを受けるなんて思わなかった。本当に、そんなつもりじゃなかったの……」その瞬間、母の手から卵がゆの器が床に落ちた。熱い卵がゆが辺り一面に飛び散った。母は立ち上がり、真っ赤な目で小春を見た。「私はね、あなたがかわいそうだったのよ。ご両親が離婚して、誰にも構ってもらえなかったとき、家に連れてきたのは夏葉だったでしょ。あの子はあなたを本当の姉妹みたいに思ってた。私たちだって、娘も同然にかわいがってきたのに。それなのに、あなたは何をしたの?夏葉の恋人を奪って子どもまで産んで、私たちにも夏葉には黙っていろって言ったじゃない!そのうえ、あの子のおばあちゃんまで追い詰めて、死なせるなんて!」父も勢いよく透也のほうを振り向いた。「お前もだ、透也。ちゃんと何とかするって、何度も言ってたよな。これがその結果か?娘は3人も子どもを失った。あの子のおばあちゃんまで亡くなったんだぞ。透也、お前が夏葉の人生をめちゃくちゃにしたんだ!」その言葉に、透也は胸を突かれたようだった。顔を上げ、目を真っ赤にして私の両親をにらんだ。
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第8話
あのライブ配信のあと、世間の反応は一変した。多くの乗客の命を救ったとして称賛されていた透也は、一転して世間の非難の的になった。勤務先の航空会社はすぐに、透也の乗務を当面見合わせ、社内調査を進めると発表した。あわせて、乗務に必要な心身の状態についても評価が行われることになった。大好きだった空から、透也はひとまず遠ざけられた。小春はさらにひどいことになっていた。小春が手首を切った件について、病院の内部から情報が漏れた。傷はごく浅く、命に別状はなかったという。もう少しで死ぬところだったという話も、透也の同情を引き、世間の批判を私に向け続けるための嘘だった。さらに、小春が何年も前から裏アカに意味深な投稿をしていたことも見つかった。【人の場所にいつまでもいられるわけないのにね】【結局、愛されてるほうの勝ちなんだよね】そんな投稿が次々と見つかり、誰の目にも明らかになった。小春はずっと我慢していたわけじゃない。最初から、人の恋人を奪っているとわかっていたのだ。それどころか、何も知らない私を見て、楽しんでさえいた。父と母も、批判を免れなかった。インタビューで私を恥知らずだと罵った動画が、何度もSNSで拡散されたのだ。コメント欄には、非難の声があふれていた。【実の娘が3回も流産してるのに、親は娘の恋人とその浮気相手の入籍に付き添ってたの?】【娘の赤ちゃんのために作った銀のペンダントを、その親友の息子につけさせてたとか……マジで無理】【おばあちゃんが亡くなってから後悔したって、もう遅いでしょ】母は勤め先から停職を命じられた。父の会社でも、取引先との共同事業がいくつも相次いで打ち切られた。母からは何度も電話がかかってきた。けれど、私は1度も出なかった。その後、長い音声メッセージが届いた。【夏葉、お母さんが悪かったわ。あの日、あんなに痛かったなんて、本当に知らなかったの。透也と小春は、本当に愛し合ってるんだと思ってた。夏葉がどうしても透也を諦めきれないだけなんだって……】母は泣きじゃくり、まともに言葉も続けられない様子だった。【お願い、帰ってきてくれない?お母さん、夏葉の顔が見たいの……】最後まで聞いて、あきれてしまった。私の顔が見たい?今までずっと、
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第9話
透也が初めておばあちゃんの家を訪ねてきたのは、葬儀から7日後だった。その日、私は庭に面した和室で、おばあちゃんの遺影に手を合わせていた。きれい好きだったおばあちゃんのために、新しい服を何着か用意し、遺影のそばに置いてある。香炉から細い煙が立ちのぼっていた。そのとき、門の外からかすれた声が聞こえた。「夏葉」私は振り返らなかった。透也は庭を横切り、縁側から和室に上がると、遺影の前で膝をついた。「おばあちゃん、ごめんなさい。俺のせいで、こんなことになって……」私は冷たい目で透也を見た。「おばあちゃんなんて呼ばないで。あんたにそんな資格ない」透也の体がびくりとこわばった。顔を上げた彼の目は、ひどく充血していた。ほんの数日で、ずいぶん老け込んだように見えた。以前はカメラの前に立つたび、背筋をぴんと伸ばし、身だしなみもきちんと整えて、いつも自信に満ちあふれていた。今では無精ひげが伸び、目の下には濃いくまができている。大勢に称賛されていた頃の機長とは、まるで別人だった。「夏葉、今さら何を言っても遅いのはわかってる。でも、小春がおばあちゃんに会いに行くなんて、本当に知らなかったんだ。あいつがあんなにひどい女だったなんて、知らなかった……後悔してる。夏葉、どうか……」「知らなかった」ばかり繰り返す透也に、思わず笑ってしまった。「透也。1度目に流産したときは、仕事が大事な時期だからって言ったよね。2度目は、私の世間体のため。3度目は、機長になるまで待ってくれって。いつだって、もっともらしい理由をつけてたよね。なのに、小春が妊娠したときは、すぐに入籍したんだ」透也はひざまずいたまま、何度も喉を鳴らした。「俺が悪かった。夏葉、本当にすまなかった。これからは、ちゃんと償うから」私はおばあちゃんの遺影に目を向けた。写真の中のおばあちゃんは、穏やかに微笑んでいる。今にも「なっちゃん、お腹すいてないかい?」と声をかけてくれそうだった。私は静かに口を開いた。「償う?じゃあ、私の3人の子どもを返してくれる?おばあちゃんも返してくれるの?」透也は何も言えなくなった。私は新しい線香に火をつけ、香炉に立てた。「できないなら、帰って」透也は
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第10話
母も、私に会いに来たことがある。両手にいくつも袋を提げ、目を真っ赤にしていた。「夏葉、これ、取り戻してきたの。汚いと思うのはわかってる。でも、お母さんの手で返したくて……」差し出されたのは、あの銀のペンダントだった。きれいに磨かれて、ぴかぴかに光っている。けれど、私には気持ち悪くて仕方がなかった。「捨てて」母の手が宙で止まった。「でも、これはお母さんが、夏葉の赤ちゃんのために作った……」私はその言葉を遮った。「私の子どもは、もういないよ。それ、小春の息子が首にかけてたでしょ。あんたたちが家族そろって幸せそうに見せるためにも使ったじゃない。もういらない」母の目から、たちまち涙がこぼれ落ちた。「夏葉、お母さん、本当に悪かったと思ってる。あのときは小春に騙されてたのよ。夏葉は透也のことが好きすぎて、本当のことを知ったら生きていけないって、あの子が何度も言うから……自分は何も望まない、ただ子どもが元気に育ってくれればそれでいいって言ってたの。お母さん、あのときはどうかしてて……」聞いているうちに、笑いそうになった。「だから、みんなで私に黙ってたんだ。小春の子どもの面倒を見て、あの3人を家族として祝福して、そのくせ、私のことは恥知らずの不倫相手だって罵ったんだね」母の顔から血の気が引いた。「そんなつもりじゃなかったの……」聞き覚えのある言葉だった。小春は、そんなつもりじゃなかった。透也は、知らなかった。両親は、あのときどうかしていただけ。みんな、それぞれ言い訳がある。傷つけられて当然なのは、私だけらしい。私は静かに母を見つめた。「お母さん、おばあちゃんが最期に何て言ったか知ってる?」母がはっと顔を上げた。私はゆっくりと、一言ずつ告げた。「私のこと、信じてるって言ってくれたの。お母さんは私の実の母親でしょ。それなのに、おばあちゃんほどにも私を信じてくれなかったんだね」母の体がぐらりと揺れ、今にも倒れそうになった。口元を押さえ、腰を折るようにして泣き出した。「夏葉……」私は一歩下がり、ドアを閉めた。母は外で長いこと泣いていた。けれど、私はもうドアを開けなかった。6か月後、透也は正式にすべての
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