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第2話

Author: 二つの愛
だが結果として、それからしばらくすると圭佑は猛烈に私を口説き落としにきた。

だから私は、彼に愛されているのだと思っていたのに。

加奈子が戻ってきてからすべてが変わった。

圭佑は家に帰ってこなくなるどころか、ほんの少しの空き時間さえも加奈子に費やすようになった。

8年という歳月が加奈子の裏切りを忘れさせ、愛だけが再燃したのだろう。

私は、加奈子がいなかった間だけの、つなぎでしかなかったのだ。

ベッドの横に置いたスマホを取り、私は圭佑にメッセージを送る。

離婚届を出しに行きたいから、帰ってきたらすぐに知らせてほしい、と。

珍しいことに、圭佑からは即座に返信がきた。

【体調を崩した加奈子を、置いていけるわけがないだろ?】

【いい加減にしてくれ。家で大人しく待ってて】

しかし、私は大人しく彼の帰りを待つ気などさらさら無い。

絶対安静と言われたので、とりあえず入院の手続きを済ませる。

父の看病でここには2ヶ月通っていた。だから、今では看護師のほうが、夫の圭佑よりもずっと身内のような存在だった。

もともとは、圭佑が私に思いを寄せてくれたから、夫婦になった。

それに、私には父しかいないことも、そしてその父でさえ本当は血のつながりがなく、私が拾われた子供だということも……彼はすべて知っている。

それでも彼は、迷いなくこう言ってくれたのに。これからは自分が私の家族になって、ずっとそばにいてくれる、と。

しかし8年経った今、気づけば結局、また一人になってしまった。

なんとも皮肉な話だ。あれほど将来のことを語り、いくつも約束をしてくれたのに。結局、私たちは子供すら授かることはなかった。

……

1週間ほど入院し、検査でも異常が無かったので家に帰ることにした。

入院している間、圭佑から一度も連絡はなかったが、彼が加奈子とどこで何をして遊んでいるのか知るために、インスタを覗こうなととは一切思わなかった。

玄関を開けると、ちょうど圭佑がリビングに立っていた。

スマホを手にしたまま、怪訝そうな顔で私を見つめてくる。

「家で待ってろって言ったのに。どこへ行ってたんだ?」

圭佑はスマホをしまった。おそらく、家にいなかった私に電話でもかけるつもりだったのだろう。

私がもう自分に従順ではないと感じて、こんなふうに慌てて電話をかけようとしたことは容易に想像がつく。

「階段から落ちたから、入院してたの。それが何か問題でも?」

圭佑は何か言いかけたが、結局は何も言わなかった。

そして、ソファに深く座り、こめかみを揉む。

「腹が減った。飯にしろ」

しかし、私はそんな圭佑を無視をして、そのまま階段を上がった。

かっとなった圭佑はスーツケースを蹴り飛ばし、怒鳴った。「楓!何なんだ、その態度は?俺の妻としての自覚を持て!」

私は階段の手すりに掴まり、軽く圭佑を振り返る。「私に言ってるの?てっきりあなたの奥さんって中島さんだと思ってた。だから、あなたのお腹が空こうと、私がご飯作らなきゃいけない理由ってないよね?」

私はそのまま階上へ向かったが、下からはテーブルを蹴るような音が聞こえてきた。

だが、私は気にせず寝室に鍵をかけた。圭佑がこの部屋に入らなくなって、もうずいぶん経つ。

少しだけ仮眠をとるつもりだったのだが、気づけばいつの間にか翌朝になっていた。

以前なら、大慌てで圭佑の出社準備を手伝っていただろう。

それでも、彼は私の粗探しをしてばかりだった。

服が気に入らないだとか、料理が庶民的だとか。

どうせ品がないとか、育ちが悪いとか、そんなふうに思っていたのだ。

ここまで言われるなら、もう私だって、わざわざ機嫌を取ろうなんて思わない。

下に降りると、予想外なことに圭佑が昨晩荒らした部屋を、自分で片付けていた。

私の足音に気づいたのか一度顔を上げた圭佑だったが、すぐに私から目を逸らす。

「お父さんのことで悲しいのはわかる。でも、わざわざ昨日のために、俺は帰ってきたんだぞ?それでも、まだ加奈子のこと気にしてるのか?」

昨日?

「5日も経っているのに、『わざわざ』帰ってきた?」

圭佑はホウキを投げ捨てた。「昨日が何の日か忘れたのかよ?俺たちの結婚記念日だろ?」

圭佑は顎でソファのプレゼントボックスを指す。「そんな態度をとるくせに、加奈子と比べて……」

しかし、言葉の途中で圭佑の動きが止まる。

静かに笑う私に気づいたのだろう。だから私は、淡々と告げた。「圭佑。一昨日だよ」

気まずくなったのか、圭佑が話題を変えた。「そういえば、昨日、階段から落ちたって言ってたけど、何があったんだ?」

「別に何でもないよ。お父さんの葬儀の手配とかで、ずっと忙しかったでしょ?それに、海岸で一晩中潮風に吹かれて、何も食べてなかったら貧血で倒れただけ」
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