INICIAR SESIÓN卒業旅行で雪山へ出発する当日、恋人の西森葵(にしもり あおい)と突然連絡がつかなくなった。 空港で焦りながら彼女を待っていると、ルームメイトから意味深なメッセージが届いた。 「隼汰、そんなに焦るなって。もうすぐ大サプライズがあるから」 俺・小林隼汰(こばやし はやた)はほっと胸を撫で下ろした。 葵は遅れているだけで、きっと着飾るのに時間がかかっているのだと思った。 彼女は以前、こう言っていた。卒業したら、すぐにウェディングドレスを着て俺のもとへ嫁ぐ、と。 ところがその直後、クラス委員長がグループチャットに祝福のメッセージを送ってきた。 【西森葵さんと佐藤玄一(さとう げんいち)さんの婚約パーティーにお越しいただき、ありがとうございます!3年間の交際を経て、ついに結ばれました!】 そのメッセージはすぐにグループ内の全員の注目を集め、クラスメイトたちは次々と祝福の言葉を寄せた。 そして、ようやく誰かが異変に気づいた。 【うわ、委員長。隼汰をグループチャットから外すって、忘れたの?】 その一言で、グループチャットは一瞬にして静まり返った。 直後、みんなが一斉に俺をメンションし始めた。 【隼汰、絶対に会場へ乗り込んで騒ぎを起こすなよ。2人は三年間も密かに付き合ってたんだ。ここまで来るのだって大変だったんだから】 【お前、普段から束縛が強すぎるだろ。玄一なんて、この3年間、顔を出すことすらできなかったんだぞ。あいつも可哀想だよ】 挙げ句の果てには、指導教員の関先生まで俺を諭してきた。 【この件は、もう水に流そう。君も男なんだから、もう少し大らかになりなさい。騒ぎを起こさず、あの二人にせめて顔を立ててやってくれ】 一言、また一言と追い詰められていくうちに、息が詰まり、問いただす気力すら失っていた。 どうやら、結婚の約束だけが嘘だったわけではないようだ。 この4年間に俺が経験したすべてさえも、最初から全部、偽物だったのだ。
Ver más真相が明らかになった後、前の会社の上司から直接連絡が来た。「小林さん、以前君を解雇したのは、会社の配慮が足りなかった。いつでも戻ってきてくれていい」俺はパソコンを閉じた。「結構です。貴社が必要としているのは社員じゃない、何をしても問題を起こさない人間です。俺には向いてません」大家も果物を手に、俺の部屋を訪ねてきた。「兄ちゃん、ドアのペンキはもうきれいに塗り直してもらったよ。安心して住みな。家賃も半額にしてあげる」俺は彼女を責めるつもりはなかった。「ありがとうございます。でも、もう引っ越すつもりです」「どこへ行くんだい?」「海外へ」大学時代、俺は海外の研究プロジェクトに応募したことがあった。ネットで起きた一連の騒ぎを知った担当教授が、改めて俺にメールを送ってきた。教授は俺の枠をそのまま残してくれるだけでなく、奨学金の申請まで手伝ってくれた。メールの最後には、こう書かれていた。【あなたの成績と能力が、たった一つの噂によって埋もれてしまうべきではありません】俺はその合格通知を受け取った。出発の前日、葵が俺を訪ねてきた。以前よりずっと痩せていて、手には祖母が残した古いマフラーを抱えていた。「隼汰、これ、田中さんから預かったの」俺は玄関に立ったまま、彼女を中へ入れなかった。「話が終わったら帰ってくれ」彼女はマフラーを差し出した。「これは、前におばあちゃんが私に編んでくれたもの。私には、もう持っている資格がないから」俺はマフラーを受け取った。「確かに、お前にはその資格はない」彼女の目が、一瞬で赤くなった。「玄一とは、もう終わったの。彼が連れて行かれた日から、一度も会ってない」「俺には関係ない」「隼汰、毎晩、おばあちゃんの夢を見るの」彼女は俯いた。「夢の中で、おばあちゃんに聞かれるの。どうしてあなたをちゃんと支えてあげなかったのって。私……何も答えられない」俺はマフラーを強く握った。「なら、答えなくていい。お前が祖母にしたことは、この一生かけても償いきれない」彼女は突然、玄関先に跪いた。「私が悪かった。もう一度だけ、チャンスをちょうだい。私たち、4年間も一緒にいたじゃない。あなたは昔、あんなに私を愛してくれてた。そんな簡単に忘れられるはず
あの音声が公開されると、ネットは一瞬で大騒ぎになった。それでも玄一の支持者たちは、まだ強気だった。【声なんてAIで生成できる】【小林は汚名を晴らすためなら、何だってやるんだ】だが、谷川先生はすぐに一連の記録を公開した。祖母のスマホにメッセージが届いた日時、電話番号、内容まで、すべてがはっきりと記録されていた。田中さんも動画を撮って公開した。「その日、私があの人を病院へ連れて行ったんです。倒れる前、スマホにはずっと誰かから孫を罵るメッセージが届いていました。隼汰くんはその時、電車に乗っていて、何が起きたのか知る由もありませんでした」病院の支払い記録と電車の領収書も、すべて一致していた。あの日、俺は故郷へ戻るために移動していた。俺が自分の手で動画を見せて祖母を刺激したなんて話は、最初から成り立たなかった。続いて、警察側から鑑定結果が公表された。玄一が公開したチャットのスクリーンショットには、改ざんされた痕跡があった。プロフィール画像は合成されたものだ。テキストも他人のチャット記録を参考に組み合わせて作られたものだ。玄一が言っていた「元の記録」など、最初から存在していなかった。世論の流れは、完全に変わった。【じゃあ、本当におばあさんを死なせたのは玄一なのか?】【恋愛に割り込んでおいて、逆に罪をなすりつけたの?】【西森葵はおばあさんの手術費まで盗み出して、佐藤玄一に使わせたの?】銀行の取引履歴を調べた人が、あの高級腕時計まで特定した。玄一が妹の学費に使うと言っていた100万円の大半は、ブランドショップに流れていた。残った金も、ホテルの予約に使われていた。葵から、ついに電話がかかってきた。今度は、その声が震えていた。「隼汰、ネットに出てる記録……本当なの?」俺は聞き返した。「お前、今までずっと俺のことを信じなかっただろ」「玄一に聞いたの」彼女は一度、息を整えた。「あの番号は自分のものじゃないって……でも、そのうちの一つは見覚えがあるの。前にあの番号から私に連絡してきたことがある」俺は何も言わなかった。彼女はかすれた声で尋ねた。「おばあちゃんは……本当に、彼に追い詰められて死んだの?」「そうだ」「じゃあ、あの100万円も、妹の学費には使って
弁護士からの通知書が送られたその日、葵から電話がかかってきた。電話に出た瞬間、彼女は口を開くやいなや、俺を責め立てた。「隼汰、いい加減にしてよ。玄一はあなたに追い詰められて、外にも出られなくなってるのよ。もともと体が弱いのに、あなたは玄一を死なせるまで気が済まないの?自分の祖母を死なせるようなことをしておいて、今度は他人まで巻き込むの?どうしてこんな人間になっちゃったの?」俺は冷笑した。「弁護士からの通知書もろくに読まずに、よくもまあ必死になってあいつの肩を持てるな」彼女は俺の言葉を遮った。「読む必要なんてない。スクショには全部はっきり写ってる。あなたが玄一に何を送ったか、自分でも分かってるでしょ。今すぐ通知書を取り下げて、玄一に公の場で謝って。そうしないなら、昔の私たちのチャット履歴を全部公開する。みんなに見せてあげる。あなたが普段、私にどこへ行くのか報告させて、ほかの男に近づくことすら許さなかったって」俺は一瞬、黙り込んだ。「じゃあ、好きにしろ。ちょうどいい、みんなに見てもらおうじゃないか。俺と恋人同士になりながら、裏では3年間も別の男と付き合ってたってことをな」彼女は言葉に詰まった。「話をすり替えないでよ」「話をすり替えてるのは、俺じゃない」俺は電話を切り、そのまま彼女をブロックした。ほどなくして、クラスのグループチャットに再び俺が追加された。クラス委員長がすぐに俺をメンションした。【隼汰、みんなに弁護士からの通知書を送ったのはどういうつもりだ?】凱斗もすぐに続いた。【俺たちが言ってるのは全部事実だ。自分で恥知らずなことをしておいて、他人に言うなっていうのか?】関先生からもメッセージが届いた。【隼汰、人として、もう少し相手に逃げ道を残しなさい。同級生も先生も、みんな君のためを思って言っているんだ。これ以上事を大きくしても、君には何の得もない】俺は一言だけ返した。【なら、話をつけるべき場所で会いましょう】クラス委員長がすぐに食いついてきた。【誰を脅してるんだ?俺たち何十人も、お前の人間性に問題があるって証言できる。そこまで言うなら、俺たち全員を訴えてみろよ】俺は返した。【いいよ】グループチャットが一瞬、静まり返った。すると凱斗が、玄一が点滴
その投稿はますます拡散され、勢いを増していった。俺のスマホには、ひっきりなしに電話がかかってきた。昔の同級生たちまで、次々とコメント欄に現れて、俺が悪いと証言し始めた。最初に書き込んだのはクラス委員長だった。【僕は小林さんと大学4年間、同じクラスだった。小林さんは束縛がかなり強くて、いつも西森さんに行動を報告させてた。ほかの男と関わることも許さなかった】凱斗もすぐに続いた。【俺は隼汰と4年間、一緒に暮らしてた。成績が良くて実家が裕福なのをいいことに、ずっと周りを見下してた。佐藤さんはあいつにひどくいじめられてた】挙げ句の果てには、関先生までネットメディアの取材を受けた。カメラに向かって、彼はため息をついた。「小林さんは成績こそ優秀でしたが、残念ながら人間性に問題がありました。卒業を目前にして、同級生の婚約パーティーで大騒ぎし、あわや暴力沙汰になるところだったんです。学校側も何度も指導しましたが、本人は最後まで反省しませんでした」あまりにも具体的に語られるものだから、ネット上ではますます俺を悪者だと信じる人間が増えていった。俺が近所の店へ麺を食べに行くと、店主は俺の顔を見るなり、手にしていたメニューを奪い取った。「出ていけ」俺は呆気に取られた。「まだ注文もしてないんですけど」「お前には売らない」店主は入口を指差した。「自分の祖母の命を盾にして恋人を脅したような奴、店に置いとくだけで縁起が悪いんだよ」隣にいた客がスマホを掲げ、俺を撮り始めた。「見ろよ、あのネットで騒がれてる束縛男だ」「面の皮が厚いな。よく外を歩けるもんだ」俺は俯き、その場を立ち去った。アパートに戻ると、玄関のドアは赤いペンキで一面汚されていた。そこには大きな文字でこう書かれていた。「クズ」廊下では、大家が俺を待っていた。「兄ちゃん、もう出ていってくれ。あいつらが毎日のように騒ぎに来るんだ。こっちだって、もう耐えられない」俺は鍵を取り出した。「3日だけください」大家はため息をついた。「できるだけ早く頼む」俺は部屋に入り、ドアを閉めた。そして、祖母の遺骨を納めた骨壺のそばに座った。「ばあちゃん、みんな俺が悪い人間だって言ってる。でも、ばあちゃんは知ってるよな。俺は何もし
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