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第3話

Author: みどりお茶
一晩中、吐き気がするほど気分が悪くて、何も食べられなかった。

翌朝早く、俺は関先生に呼び出され、研究室へ向かった。

彼は俺の大学院入学推薦状と優秀卒業生表彰状を指差し、不機嫌そうな口調で言った。

「隼汰くん、昨日の婚約パーティーで騒ぎを起こしたそうだな。かなり悪質な影響が出ている。

この優秀卒業生表彰状は、君のために用意されたものだ。葵もまもなく大手企業に就職することになっている。

もし君がこのタイミングで、彼女に不利になるようなことをあちこちで言いふらすなら、2人の将来を潰すことになる。

君の大学院推薦についても、学校側でもう一度会議にかけて検討する必要があるだろう」

俺は拳を強く握りしめた。

「……脅してるんですか?」

「君に、人としてどうあるべきかを教えているんだ」

関先生は湯呑みを手に取り、ゆっくりと一口飲んだ。

「玄一には私も会ったことがある。真面目で素直な青年だ。君は何もかも恵まれているんだから、もう少し大らかになって身を引くべきだろう。

男なら、恋愛ごときにいつまでも振り回されるものじゃない。たった一人の女のために、自分の将来まで台無しにするな」

俺は申請書をひったくるように取り上げ、冷たい目で彼を見た。

「俺の将来は、尊厳を売り渡してまで手に入れるものじゃありません」

これが、彼らにできる最も卑劣なことだと思っていた。

だが、キャンパスの遊歩道まで来たところで、銀行口座から出金されたという通知が届いた。

それは俺と葵が作った同棲カップルの共同口座だった。

そこには、俺がここ数年アルバイトをして貯めた100万円が入っていた。

祖母は最近、病状が悪化して、ずっと故郷の病院に入院している。

その金は、祖母の手術費として用意していたものだった。

俺はすぐに葵へ電話をかけた。

「口座の金、どうしてなくなってる?」

彼女は悪びれもせず答えた。

「玄一の妹が学費を払わないといけなかったから、急場しのぎに貸したの。

隼汰、あなたもしばらくそんな大金を使う予定ないでしょう。少しくらい、あの人たちを助けてあげてもいいじゃない」

怒りで全身が震えた。

「これは祖母の治療に必要な手術費だぞ。どうして勝手に俺の金を使った?」

彼女なら、少しは動揺すると思っていた。

ところが、彼女の声はますます苛立ったものになった。

「もう、何でもおばあちゃんを理由にするのはやめてよ。

おばあちゃんの病気だって、今日明日でどうにかなるものじゃないでしょう。手術が数日遅れたくらいで何が変わるの?

玄一の妹は学費を払えなかったら退学させられるの。それこそ一生に関わることでしょう。そんなに自分勝手にならないでよ」

俺は目を閉じ、必死に冷静さを保った。

「葵、今すぐ金を返せ」

彼女はため息をついた。まるで、聞き分けのない子供を相手にしているような口調だった。

「もう振り込んじゃったから、今さら戻せないよ。来月、アルバイトの給料が出たら返すから。もう騒がないで。今日は忙しいの。切るね」

電話が切れたあと、無機質な通話終了音だけが耳に残った。

俺はベンチに座り、大きく息を吐いた。

しばらくすると、またSNSの通知が届いた。クラス委員長が投稿した9枚の写真だった。

そこには、葵と玄一が抱き合い、幸せそうに笑っている姿が写っていた。それに、次のようなキャプションが添えられていた。

【真の愛に敵なし。愛し合う2人はついに結ばれた】

その投稿には、クラスメイトたちからたくさんの「いいね」と祝福のコメントが寄せられていた。

俺がコメント欄を眺めていると、突然、知らない番号からメッセージが届いた。

【小林さん、葵が、あなたにもらったカシオは子供っぽすぎるって言ってたんで、僕がもらって着けてます。気にしませんよね?】

その腕時計は、俺が葵の18歳の誕生日に贈ったものだった。

もちろん、もう気にしてなんかいない。

今の俺には、彼女という存在そのものが、もう必要ない。

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