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999回輸血し死亡。死に戻った私は夫を捨てる
999回輸血し死亡。死に戻った私は夫を捨てる
Author: にゃー

第1話

Author: にゃー
結婚して7年、高木凛音(たかぎ りんね)は、高木海斗(たかぎ かいと)の初恋の人・中島景子(なかじま けいこ)のために、999回も輸血用の血を抜かれた。

すべては、景子が血液凝固障害という持病を抱えており、少しの傷でも命にかかわる出血をしてしまうからだ。

しかも、景子は希少なRhマイナス血液型で、東都中を探しても、輸血で完璧に適合するのは凛音ただ一人だった。

一度目に景子のために輸血したとき、凛音は結婚を条件として持ち出し、海斗はそれを受け入れた。

二度目の輸血のとき、凛音が「愛してる」と言ってほしいと求めると、海斗はその通りにした。

三度目の輸血のとき、凛音が「私を抱いて」と望むと、海斗はそれすらも受け入れた。

……

999回目となる輸血で、凛音は顔を真っ青にして意識が遠のきかけたとき、看護師の緊迫した声が聞こえた。

「高木さん、もうすでに1000ccも抜いています。これ以上は無理です、本当に命にかかわりますよ」

処置室は静まり返っていた。海斗が中止を命じない以上、凛音の体から輸血用の針を抜く者はいなかった。

凛音はチューブの中を流れる自分の血を見て、体中に寒気が走るのを感じた。

鼓動が弱まり、ゆっくりと止まっていく。意識も薄れていった。

死が迫る中、最後に聞こえたのは、海斗のひどく冷淡な声だった。

「なら死なせておけ。俺は景子さえ無事ならそれでいい」

その言葉を最後に、果てしない闇が押し寄せ、凛音を完全に呑み込んだ。

ふたたび目を覚ました時、時を遡っていた。

景子に初めて輸血することになった、あの日……

凛音は処置室の椅子に座っていた。太い針が腕に刺さり、思わず身震いする。隣にはすでに600ccを採り終えた血液パックがあった。

看護師がいたたまれなくなり、口を開いた。

「あの、こんなに血を採るなんて……自ら進んでのことなのでしょうか?」

凛音が返事をするより早く、聞き慣れた声が静かに響いた。

「彼女本人の意思だ」

凛音は顔を上げた。真っ先に目に入ったのは、海斗の冷たく整った端正な顔だった。

目が合う瞬間、胸が激しく締め付けられ、無数の記憶が脳裏に溢れ出た。

前世、高校入学初日に凛音は、誰もが憧れる存在だった海斗に一目惚れした。

3年間思い続けたが、海斗は冷たく、何度告白しても凛音を拒んだ。

凛音はS大学まで追いかけたのに、入学初月に海斗と、清楚な女子学生の景子が付き合っているという噂を聞かされた。

誰もが「あの人、今回は本気だから」と言い、凛音を諦めさせようとした。

凛音は何度努力しても忘れることはできず、自分の気持ちを隠したまま、海斗が景子を愛するのを見つめるしかなかった。

校庭の木の下で、海斗が景子を抱き寄せ、何度も口づける姿も、街中で盛大な花火を上げ、周囲に景子への愛を公言する姿も、凛音はただ眺めていた。

家同士が決めた縁談に逆らい、景子と添い遂げるためなら、どんなに重い罰でも受け入れた海斗の姿も見てきた。

二人の熱烈な恋愛を目に焼き付けながらも、凛音は諦めきれなかったのだ。

だからこそ海斗が初めて輸血を頼んできた時、凛音は結婚を提案した。

あの日、海斗が見せた表情が今も忘れられない。

驚きと拒絶、そして嫌悪感。それが最後には、愛する人を救うための妥協に変わっていった。

海斗は言った。「いいだろう、結婚してやる。だから今すぐ血を提供しろ。景子は待てない」

その後、念願通りに結婚できた。

でも、それがなんだというのか?

結婚しても海斗の心は、ずっと景子のものだった。

部屋中を景子の写真で埋め尽くし、情事の最中に景子の名前を呼ばれ、最後には凛音の命も顧みず、体中の血を搾り取って景子を救った。

死ぬ瞬間にようやく、自分がどれほど愚かな選択をしてきたかを思い知った。

間違っていたのだ。

海斗と景子は愛し合っていた。自分が割って入り、二人を引き裂くべきではなかった。

海斗が愛しているのは景子だけだった。自分が愛されるなど、愚かな夢に過ぎなかった。

無理やり結んだ縁に、実りはなかったのだ。

一つの命と引き換えにして、やっと悟ったことだった。

凛音はぼんやりしているうちに、輸血が終わっていた。

海斗が輸血パックを持って立ち去ろうとしたので、凛音は声をかけた。

「海斗、結婚のことだけど……」

海斗は足をとめ、せかされていると誤解して冷ややかに吐き捨てた。

「分かっている。一度言った以上、約束は破らない。役所にはもう話を通してある。必要な書類を持って行けば手続きできるはずだ。俺はここで景子が目を覚ますのを待つ。お前に付き合っている暇はない」

前世、たった一人で役所へ向かった自分を思い出した。

指輪もプロポーズもなかったが、それでも、あの頃の自分は幸せだと思い込んでいた。

遠ざかる背中を見つめ、凛音は目を伏せ、自嘲気味に笑った。

言いたかったのは、そんなことじゃない。

私が言いたかったのは、この結婚はもうやめにしよう、ということだった。

この人生では、二度とあなたを好きにはならないから。

しばらく休憩してから立ち上がろうとすると、凛音は看護師に呼び止められた。

「あの、バッグが落ちてますよ」

凛音は受け取ろうとして取り落とした拍子に、バッグの中身が散らばった。

見慣れない柄とデザインのバッグだった。海斗が取り違えてここに置いた、景子のバッグだった。

鏡や口紅と一緒に、景子のマイナンバーカードまで落ちている。

その瞬間、凛音の頭に一つの考えが浮かんだ。

彼女はそのまま役所へ行き、婚姻届を出した。

しかし書類に記入したのは、海斗と景子の名前だった。

並んだ二人の名前を見て、凛音の口から、ようやく胸のつかえが取れたような笑みが漏れた。

この世ではもう、自分に縁のないものに執着したりはしない。

二人を結ばせ、海斗の人生から完全に姿を消そう。

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