LOGIN横山寧々(よこやま ねね)という名を与えられたあやかしのチェシャ猫。命の恩人に恩返しするため、人間の姿に化けて陣内直樹(じんない なおき)の傍に寄り添っていた。 最後の命を使い果たしても直樹の心は温まらず、彼女はついに、彼のもとを去る決意をした。 だが、今さらになって直樹がすがりついてきた。「ずっと俺のそばにいるって言ったじゃないか」
View More奈津美は言えば言うほど取り乱し、体から黒い影が強く立ち上った。霊能者はニヤリと笑った。「そうだ。お前のその憎しみが強ければ強いほど、俺の力も強くなる」その憎しみの力が、勲に向けられた鋭いナイフへと流れ込んだ。勲は全力を尽くしたが及ばず、血を吐いて倒れた。「妖狐の分際で、なかなかいい腕じゃないか」勲に勝負ありと見た霊能者は、ターゲットを寧々に切り替えた。「次は、化け猫の番だ」直樹は、寧々に刃が向くのを見て、身を投げ出して寧々をかばった。「やるなら俺を相手にしろ!」「直樹さん、あいつの妖術にでもかけられてるのよ!霊能者が化け物を追い払ってくれたら、元通りに戻るわ!どいて!」奈津美がいくら説得しても、直樹は聞く耳を持たなかった。待ちきれなくなった霊能者は、直樹がいつまでもどかないことに怒りを爆発させた。「なら、後悔しても知らんぞ!」霊能者は奈津美の怨念で作り上げたナイフを、容赦なく直樹に向けて突き刺した。そのとき異変に気づいた奈津美が、本能的な動きで直樹の前に飛び出した。奈津美からの供給が断たれ、霊能者の力は一気にしぼんだ。勲はその隙を逃さず反撃に転じ、霊能者の心臓を目掛けて強力な一撃を放った。霊能者が地面に倒れ伏して動かなくなると、やがてその姿が変わっていった。まさか人間ではない。その正体は、妖力のために同族を次々と屠ってきた卑劣な化け鼠だった。勲は、直樹の腕に抱かれたまま倒れこむ寧々を受け止め、手当を始めた。今は勲の力にすがるしかない直樹は、2人を見守るしかなかった。しかし、息絶えたと思われた化け鼠が最後の力を振り絞って蘇り、治療中の2人に刃を向けた。治療に全力を注ぐ勲は気づくのが遅れたが、直樹がそれを察知し、生身の体で勲たちの前に立ちはだかった。「……集中を途切らせるな。寧々を助けるんだ」黒い煙が直樹の胸を侵食しても、直樹は一歩も動かなかった。寧々の手当を終えた勲が戦線に復帰し、激しい戦いが始まった。意識を取り戻した寧々は、死闘を繰り広げる勲に加勢し、渾身の妖力で化け鼠の心臓を打ち抜いた。化け鼠は黒い煙となって散り、二度と戻ることはなかった。そして寧々も、先ほど直樹が自らの命を犠牲にして自分たちを救ったこと、彼がすでに致命傷を負っていることを悟った。化け鼠が消えた後、
結婚式は、雪が舞う冬の日に決まった。明かり窓の向こうでは、山々が真っ白な雪に覆われている。暖炉で燃える薪が爆ぜる音だけが室内を優しく包み、窓の外は銀世界が広がっていた。会場には、歴史を感じさせる静かな庄園を選んだ。それは寧々の希望だった。勲の本来の姿が白狐だと知っていた彼女は、冬を好む彼のために特別な思い出を残したかったのだ。勲も彼女がそこまで言うならと、快く承諾した。結婚式の日、2人が「あやかし」だとする告発記事がネットに流れた。当初は誰もがただのデタラメだと相手にしていなかった。直樹は、式の途中でその報告を受け取ると、警備員たちに厳戒態勢を指示した。関係者以外を絶対に近づけるなと命じた。彼の胸中には、言いようのない不安が渦巻いていた。直樹は手元の招待状を見つめながら、意を決した。どうしても、ウェディングドレスを着た寧々の姿を見たかったのだ。たとえ、そのウェディングドレスが自分のためのものではなかったとしても。彼は一着のスーツを選んだ。かつて寧々が彼のために用意していたあのドレスに、ぴったりと釣り合うスーツを。壇上へと歩んでいく寧々の背中を、見つめ続けた。式は滞りなく進んでいた。誓いの言葉のとき、席にいた直樹は、小さな声で2人より先に「はい」と呟いた。指輪の交換に移ったとき、突如として、寧々の胸元が締め付けられるように痛んだ。「寧々!どうした!」勲はすぐさま寧々を控え室に運び込むと、司会者には客たちを安心させるよう指示を出した。しかし、寧々の胸から漏れ出る異常な黒い光を目にし、それが何らかの邪術によるものだと即座に理解した。呪いを払おうと手をかざした瞬間、勲は強い力で弾き飛ばされてしまった。寧々の息が荒くなり、窒息するような苦しみに見舞われる。「無駄よ。あの女は終わり。あんたも、すぐに後を追うことになるわ」苦しむ寧々を見て高笑いする奈津美は、連れていた霊能者に向かって命じた。「お願い、2人を早く始末して!」勲が見ると、奈津美の体から溢れ出した強烈な怨念が、隣の異様な男に吸い込まれ、邪悪な形を成していくのが分かった。「愚かな妖狐め!大人しく観念しろ!」霊能者が放った怨念の刃が、まっすぐに勲へ向けられる。勲は寧々を床にそっと置くと、自らその霊能者の男に応戦するしかなかっ
寧々が勲と交際しているという噂はずっとあったけれど、2人はそれを肯定も否定もせず、公然の秘密のような状態だった。だからこそ、みんなの前で勲からプロポーズされるなんて、想像もしていなかった。寧々の頭をよぎったのは、かつて死ぬほど愛した直樹のことだった。あれだけ尽くし、期待していた人。直樹と結ばれ、花嫁になる自分を何度夢見た。でも、どれほど命をかけても、望みは叶わなかった。そんな中、目の前の勲は、その真っ直ぐな愛で自分の心の傷を少しずつ癒やしてくれた。「はい」返事をした瞬間、会場から拍手が湧き上がった。ずっと噂されていた二人の熱愛が、公の場でのプロポーズという形で実を結んだことで世間からも大いに祝福され、瞬く間にトレンド1位に躍り出た。寧々は、指に輝く大きなダイヤモンドの指輪を見て言った。「ねえ、そんなに結婚を急いでるの?」もしかして、自分に夢見ていた結婚式を挙げさせてあげたかっただけなのかな。彼女はかつて、直樹が自分を娶ってくれる日を心待ちにし、夢にまで見たウェディングドレスを着ることを切望していたからだ。勲はもう一度彼女の指輪をはめ直すと言った。「人間界の年齢で言えば、俺はもう三十代だ。立派な適齢期だよ」寧々は思わず笑った。勲の方が彼女より早く人間としての姿に成長していたのだから、彼の言うことは正解だった。2人が結婚すると知った直樹は、深夜まで泥のように酒を飲んでいた。そして、かつての寧々の部屋へと向かった。ドレッサーの上には、彼女が以前使っていたアクセサリーが、当時のまま整然と並んでいる。壁には、仲睦まじい2人の写真。あの頃はまだ奈津美が帰国しておらず、彼も確かに寧々に対して心からの愛情を抱いていたのだ。ベッドのそばでは、寧々のお気に入りのぬいぐるみが、主人の帰りを待っているかのようだった。それなのに今、寧々は他人の腕の中にいるのだ。彼はクローゼットを開けた。そこには一着の真っ白なウェディングドレスが掛けられていた。本来なら彼のために着るはずだったそのドレスを未練がましく見つめると、彼はハサミを手に取り、それをズタズタに切り裂いた。そうか、寧々はずっと前、自分と結婚するつもりだったんだな。自分がそのチャンスを潰し、何度も彼女を傷つけてきたんだ。本当に最低だ。勲がプロポーズした時の幸
あの病院での出来事以来、しばらくの間、寧々は直樹と顔を合わせることはなかった。寧々は勲との穏やかで幸せな日々を満喫していた。ただ、ここ最近になってからというもの、寧々の周りでは妙なことが増えていた。雪の降った翌朝、家の前の雪がいつの間にかきれいに片付けられている。深夜、仕事から帰宅すると、玄関先に温かい雑炊が入った弁当箱が置かれている。それに、夜道を歩いていると背後に感じる足音……身の危険がないことを確認した寧々は、特に深く考えないことにした。勲と過ごす時間が増えるにつれ、寧々は本当の愛とは何かを学び始めていた。授賞式の日。長年頑張ってきた証としての初受賞、勲も隣で見守ってくれると寧々は思っていた。だが勲は仕事だと言って断ったため、寧々は一人で式場へ向かった。授賞式当日。新人からベテランまで、緊張の面持ちで賞の行方を見守っていた。寧々は黒のドレスを纏い、細かなダイヤモンドがちりばめられた裾が照明を浴びてキラキラと輝いている。会場の席に静かに座りながら、寧々は緊張と期待に胸を躍らせていた。「続いて、最優秀新人賞の発表です。受賞者は……横山寧々さんです!」会場中から拍手が湧き起こる。寧々は立ち上がると、軽やかで迷いのない足取りで、スポットライトを浴びながらステージ中央へ進んだ。これからは自分のために生きようと心に決めて。ステージでトロフィーを受け取ろうと顔を上げた寧々は、驚きで目を見開いた。プレゼンターとして目の前に立っていたのは、勲だったからだ。勲は優しい微笑みを浮かべ、栄光の証であるトロフィーを手に取り、直接寧々の手に手渡した。2人の視線が絡み合った瞬間、空気の中に目には見えないけれど甘い熱気が漂った。「横山寧々さん、受賞おめでとうございます」「ありがとうございます」勲さん、本当にありがとう。あなたが本当の愛を教えてくれて、本当の自分を見つける手伝いをしてくれて。そのすべてに感謝したい。ライブ中継の画面を通して、2人のやり取りを見たファンたちは大盛り上がり。細かな動作一つ一つがネット上で話題になった。「勲さんがプレゼンターなんてラッキーすぎる。羨ましい!」「てっきり勲さんはこのまま生涯独身かと思ってたよ」「2人で見つめ合ってる時の視線が甘すぎて溶けそう」……ス
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