LOGIN「そんなんじゃねぇって、そこまで執着してないし」「執着、いい言葉ですよねぇ。橋本さんは気づいてるんでしょ。宮本さんがどんどん格好よくなってること」「イケメンの恭介が褒めても、信ぴょう性がないぞ……」 そんなことを言ったものの橋本自身にも心当たりがあるせいで、語尾にいくにしたがって声が小さくなった。「はじめて逢ったときの宮本さんと、橋本さんと付き合いだしてからの宮本さんを比較したら、明らかに垢抜けた印象ですよ。優しい性格が雰囲気で伝わるから、女性受けしそうな気もします」「恭介、何が言いたいんだ。雅輝のいいところくらい、俺だって分かってるのに」 会話の最中に信号が青に変わり、アクセルを踏み込む。橋本は周囲の車の流れを気にしつつ、ルームミラーに映る榊の顔色を窺った。「ダブルデートしたときは、宮本さんを名字で呼んでいたのに、今は下の名前で呼んでますよね」「そうだったか?」「和臣ラブの俺にまで牽制するなんて、橋本さんってば可愛いなぁ」 ハンドルをぎゅっと握りながら、必死になっていいわけを考えた。肯定しても否定しても、宮本にぞっこんだというのを証明しそうで、安易に口を開くことができない。「……ったく、そんな細かいとこに気がつくなんて。余計なお世話だ、クソガキ!!」「アハハ。マンション探しに協力しますから、怒った勢いで俺のオデコを叩かないでくださいね」 そろそろ榊が住むマンションに到着する。先手を打ったのか、何かあると教育的な指導になっている、オデコの殴打を止める言葉を告げられた。「叩かないから真面目に頼む。よろしくな」 橋本はいつものようにマンション前にハイヤーを停車させて、振り返りながら苦笑いを浮かべた。「よろしく頼まれました。早く橋本さんが宮本さんをひとりじめできるように、精いっぱい尽力しますよ。それじゃあまた明日!」 眩しいくらいの爽やかな笑みを振りまき、車から降り立った榊の背中を、橋本は無言のまま見送った。(恭介に図星を指されまくりで、頭が上がらないじゃねぇか。和臣くんネタでやり返そうと思っても言葉がひとつも出てこないなんて、情けないにもほどがある……)
「へぇ! 橋本さんが宮本さんと一緒に暮らすマンション探しに、そこまで苦労していたなんて。もっと早く、相談してくれたら良かったのに」 橋本がハンドルを握るハイヤーの車中で、仕方なくこぼした言葉を聞いた榊は、ここぞとばかりに満面の笑みを浮かべた。「俺としては、恭介が住んでるマンションに住みたいところなんだけどさ」「ですよね。行きも帰りも一緒なら、お互い楽ですし」「残念なことに、雅輝のデコトラを駐車するところがないんだ」「あ~、確かに……。近場には見当たりませんね、うんうん」 いつもより反応が淡白な榊の返答に違和感を覚えた橋本が、ルームミラーで背後を見ると、熱心にスマホを弄っている姿が目に留まった。「おまえ、もしかして地図で探してくれてる?」「それは10秒前に済んでます。今は駐車場を管理していそうな、顧客に目星をつけてるところで……。チェックするお客様は、わりと限られる感じです。橋本さんの力になることができたらいいんですけど」(仕事早っ。俺が頼む前に、恭介自ら動きだしちまうなんて)「恭介、サンキューな。自分の手で探したかったのに、さっぱり上手くいかなくて」「俺としては橋本さんの行動力に、結構驚いているところですよ」「何か変なところでもあるのか?」 目の前の信号が、タイミングよく赤になった。橋本は振り返って榊を見つめたら、胸ポケットにスマホをしまうところだった。「宮本さんと進展するまで、うだうだして時間をかけているのを見ていたから、付き合いも慎重にいくかと思っていたんです。同居するマンション探しに奔走する、橋本さんが意外だなぁって」「それはただ単に、行き来するのが面倒になっただけだ。それ以上も以下もない」 眉間に皺を寄せた橋本に、榊は口元に意味深な笑みを湛えた。「またまたぁ、そんな心にもないこと言って。宮本さんを、ひとりじめしたいだけなんでしょ?」 厄介なやり取りになる前にと橋本は慌てて前を見据え、信号が変わるのを待った。
「ったく……。雅輝のせいだっていうのに」 橋本がチラシを真剣に眺めて検討していると、隣にいる宮本の太い二の腕が腰に回される。『何か掘り出し物でもありましたか?』 顔を寄せてきたと思ったら、頬にキスを落とす。「真面目に探せって。この物件良さげなんだけどさ、青空駐車場が歩いて30分くらいかかる場所なんだ」『俺は別にかまいませんよ』「駄目だ。疲れた躰を引きずって、30分も歩かせるわけにはいかない。絶対に次の日に響いちまうだろ」 トラック運転手の仕事のつらさを知っているからこそ、宮本の躰を考えて探していた。それなのに――。『俺ってば陽さんに超愛されてますね、嬉しいなぁ』 橋本が持っているチラシを奪取し、がばっと抱きついて頬擦りしてくる。「ぉ、おい!」『陽さんに愛を返したいです。いいでしょ?』 反論を防ぐような笑みや、行為を断れないような潤んだまなざしに、橋本は簡単に押し倒されてしまったのだった。(縋ってくる感じの捨てられた子犬みたいな目は、絶対に反則だろ) しかもそれを無意識に発動させて、抵抗する橋本の動きを止めるあたり、天才的だと思わずにはいられない。 年上で腕力を伴うことなら橋本が絶対的に上なのに、それを易々と無力化する宮本の能力の恐ろしさを、改めて思い知った。「大好きな雅輝に殴る蹴るなんてことは、俺にはありえないしな。参った……」 参ったついでに、引越しのことを第三者に相談してみようと考えた。 一番手っ取り早い人物、それは――。
※ここからお話を現代に戻します(^_-)-☆ 隣から聞こえてくる宮本の寝息を橋本は愛おしく思いながら、閉じていた瞳をゆっくり開き、壁にかかっている時計に視線を飛ばした。「ぐっすり寝たと思ったのに、まだ6時前じゃねぇか。睡眠時間4時間で目覚めたくなかった……」 シルク素材でできたパジャマの袖を意味なくにぎにぎしながら、小さな声で呟いた。 宮本とお揃いのパジャマは色違いで、つい最近購入したばかりのものだった。ちなみに橋本はグレーで、宮本は濃紺。今まで揃いのものを買ったことがなかったのもあり、最初の内は身に着けるたびに、ふたりで照れてしまった。 ちなみにこのパジャマを購入した経緯は、朝方目が覚めた宮本が全裸で背中を丸めて眠る橋本を見て、思わず欲情したことだった。 本人曰く『あまりに可愛い陽さんの寝姿に、襲わずにはいられなかったんですぅ』という言葉のままに、エッチなことをはじめてしまったせいで、橋本の出勤時間が過ぎそうになった。 そんな宮本の暴走を防ぐためのパジャマだったりする。『脱がす手間があるのも、またいいかも☆』なんていうセリフは、聞かなかったことにして……。 橋本とイチャイチャしようと毎回試みる、宮本の存在は無視して、現在一番困っていることは、一緒に暮らすマンションがなかなか見つからないこと――集めたチラシを広げたり、ネットを検索して昨夜は遅くまでふたりで膝を突き合わせて語り合った。(とはいえ、語り合った時間の半分はイチャイチャしていたんだから、肌を合わせていたという言葉のほうが適切かもしれない) イチャイチャせず真面目にマンション探しに時間を当てたら、間違いなく早く決められるだろう。そして二番目にネックになっているのは、マンション近くに宮本のデコトラを停められる駐車場がないことだった。
※これは一緒に暮らして、初めて迎えたクリスマスのお話になります。「うへぇ、うんざりするくらいに疲れた。だけど家に帰ったら大好きな陽さんがいるんだって考えるだけで、そんな疲れが吹き飛んじゃうんだから不思議」 デコトラのハンドルを握りしめながら、自然とクリスマスソングを歌ってしまう宮本。その歌が上手なのか下手なのかは、皆様の想像におまかせします。 マンション近くの駐車場にトラックを停めて、助手席に置いてあった荷物を手に、急ぎ足で帰宅する。 甘いものが苦手な橋本を考えて、イチゴのショートケーキ1個とクリスマスプレゼントを持ってる宮本は、まんまサンタの気分だった。「ただいま~! ってあれ?」 玄関には、橋本の靴が揃えて置いてあった。なので在宅しているのは間違いないのに、リビングにその姿がない。 宮本は手に持っていた荷物を一旦テーブルに置き、トイレやバスルームを探して歩いた。「いない。どうしてだ?」 首を捻りながら寝室の扉を開けると、ベッドヘッドの小さなライトがつけっぱなしだった。そんな状態で普段は寝ていないので、ついていること自体が謎に満ちあふれ、宮本の眉間に深い皺を作った。「むう?」 背後から漏れるリビングの明かりと、ベッドヘッドのライトの明かりで、その存在にやっと気がついた。 ベッドの上に赤いリボンで括られている、とても大きな白い布袋があった。 何だこりゃと思いつつ近づいたら、足裏で思いっきり何かを踏みつけた。ガサリと音がしたので、薄い紙を踏んだのはすぐに分かったが、訝しく思いながら拾い上げ、リビングの明かりでそれをしっかり確認してみる。『みやもとまさきくんへ いつもいいこにしてるきみに、サンタさんからプレゼントをあげます。にるなりやくなり、すきにしてあげてくださいね。 サンタクロースより』 クレヨンでカラフルに書かれた、妙に達筆なひらがなの羅列に、宮本は思わずプッと吹き出した。「陽さんってば、何をやってるんですか!」 慌てて赤いリボンを解き、大きな袋を開けてやる。すると中から赤い三角帽子をかぶった、困り顔の橋本が出てきた。「ぉ、おう……」「いったいいつから、その袋の中に入って――、うわっ、もしかして全裸!?」 袋から橋本を脱出させようと、思いっきり袋をズリ下ろしたら、見慣れたものがババンと目に入ってしまった。「紙に書いてあ
狼狽える宮本の額に目がけて、橋本は笑いながらちゅっとキスを落とした。「陽さん、無理してない?」「くどいぞお前。俺がいいって言ってるんだから、思いっきりヤりやがれ!」 顔のすぐ傍で喚いたせいか、橋本の怒鳴り声が鼓膜まで響いた。「ひ~っ、これから手を出させていただきます!」 しなくてもいい宣言をしつつ、橋本が着ているシャツのボタンを外していった。「雅輝はやっぱりドМだよな」 かけられた声に、ボタンを外している手が止まった。 これからソファでおこなわれる行為を考えただけで、嬉しさのあまりに手が震えるせいで、外すだけでも一苦労していたところだった。「そのことについては否定しませんけど、俺ってば何か醸してます?」「俺に怒られてビビった声を出したくせに、顔は思いっきり笑ってるっていう、おかしなことになってるぞ」「それはだって、ねえ。これから普段しないようなコトをいたすんですし、陽さんがどれだけ感じてくれるかを考えたら、ニヤニヤが止まりません」 何とかボタンを外し終えて、橋本の素肌に触れる。「おいおい。張り切りすぎるあまりに、痛いコトだけはすんなよ。インプと違って、俺はヤワなんだからな」 呆れた声に首を何度も縦に振りながら、顔を寄せた。「大好きな陽さんに、傷つけることはしません。誓います」「そろそろ大好きって言葉よりも、愛してるって言って欲しいんだけどさ」 唇を塞ぎかけた宮本の動きを止める、橋本のセリフ。寄せていた顔を遠のかせて、目の前にある恋人の顔をじっと見つめた。「そういえば俺、大好きばっかり言ってた」「雅輝らしくていいんだけど、やっぱり愛してるって言われたい」 宮本の首に両腕をかけながら強請られた言葉は、いつも口走っている『大好き』と違って、宮本を緊張させるものだった。 自分の想う気持ちの重たさを示す言葉になるんじゃないかと、安易に口にできなくて、ごくたまに告げるだけにしていたものなれど――。「愛してます、陽さん」 橋本に想いを伝えるために、これからは積極的に使おうと考えた。「俺も雅輝を愛してる」 首に絡んだ腕が宮本を引き寄せて、橋本から唇を重ねた。 限られた時間を、濃密に過ごすことができたふたり。たまに遠回りしながらも、笑い合いながら楽しい休日を過ごしたのだった。愛でたし 愛でたし
その後のふたり アンドレア様の誕生日パーティーのあとで告げられた愛の告白について、本当の意味がわかり、驚愕してしまったのは仕方のないことでしょう。『おまえに窘められて、凹むくらいに叱られて、たまに褒められなきゃ、俺は生きてる意味はない』 しかも私限定という点において、そこにリアリティを感じてしまったのは、惚れた弱みなのかもしれません。 あのあと、たくさんの誕生日プレゼントをいただいた次の日から、予定どおりにアンドレア様は寝込まれた。 病人とは思えない幸せに満ち足りたお顔を、あえて指摘せずにスルーいたしました。まぁ三ヶ月も寝込めば、その状況に飽きて、しまいにはふて寝を決め込むのがわか
チューリップの赤い色を思わせる赤髪の下にある緑色の瞳は、屋敷の裏にある森の木々を水面に映した湖の色だった。「アンドレア様はじめまして! 私はカール・ドゥ・イタッセと申します。どうぞ仲良くしてくださいね」 透明感のある緑色の瞳に見つめられて、妙にドギマギした。表現のできないその感情を持て余した結果――。「おまえ男のクセに、下まつげが長くて、気持ち悪いヤツだな」 挨拶をすっ飛ばして、目についた事実を突きつけた俺を、カールは苦笑いを浮かべてやり過ごしたんだ。 カールにはじめて逢ったのは、俺が10歳のとき。それまでは母上が一番だった。だけど妹が産まれてからは、母上は俺に構う余裕がなくなり
♡♡♡ カールにはじめて告白する俺の誕生日、それを考えるだけで、無駄にテンションが上がり、パーティー会場でのことが、全然思い出せないレベルだった。 テンションが上がった勢いをそのままに、現伯爵の父上に次期当主にならないことを告げた。そこに行きつくまでに、長い時間をかけてダメ息子を演じていたゆえに、あっさりと許しをもらえたのは、本当にラッキーだと言える。 そんな話し合いを終えて、寝室にてカールとふたりきりでいる現状に、緊張しないほうがおかしい。なんとか落ち着くために、大きなため息を吐いた。「アンドレア様、お疲れでございますよね? ぐっすりお休みいただけるように、カモミールティーをご用意
「アンドレア様、お手を煩わせてしまいますが、一本だけ蝋燭に火を灯していただけますでしょうか」「五本じゃなく一本というところが、控えめなおまえらしいな」 カールの性格を表すオネダリに、すぐさま応えてやる。一本だけ蝋燭に火を灯すをと、少し離れたところにいるカールが、俺に優しくほほ笑みかけた。俺の大好きな顔――ずっと傍で見ていたいと思うそれに、胸が熱くなる。「ありがとうございます」「カールにお願いがあるんだ。今後のことなんだが」 穏やかな雰囲気に導かれて、考えていたことをすんなりと口にした。不思議顔をするカールをちゃんと見て、今後の展開を説明する。きっと驚くに違いない。「俺はこれから流