His Sanctuary

His Sanctuary

last update最終更新日 : 2023-09-09
作家:  StayWdMe 連載中
言語: English
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概要

Because of Mr.Madrigal’s huge indebtedness to the businessmen with whom he was associated, he was able to betray and sold his daughter River to a businessman named Spencer Vilavide. Well known to be a billionaire and handsome but, has a Narcissistic Behaviour where it becomes manipulative and overly arrogant. So even though River was afraid of this man, she don’t have any other choice but to follow what her father's ordered. For the sake of her family, who needs to provide financially and physically for her. And during her stay in Vilavide’s mansion, she suffered a lot and endures the pain from Spencer's abusive hands. But as time went on. She also got used to his sadistic behavior and her fears of him, turn into a furious toward the man. Until she didn’t notice that she was gradually falling in love with the young man who was also gradually changing his treatment of her. Will two people shaped by cruelty and suffering stay together? Is there any chance that River can fall in love with a man who causes her pain and struggle in life? And Can Spencer change his narcissistic behaviour for love?

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第1話

First met

結婚6周年の夜だった。

紗月(さつき)が3時間かけて用意したヒレステーキは、フランス産のワインと並んだまま、すっかり冷めていた。

垂れた蝋が白く固まり始めたころ、ようやく玄関の電子錠が鳴った。時計の針は、もう日付を越えている。

ドアが開き、夫の一条雅人(いちじょうまさと)が入ってきた。

上質なオーダースーツから、いつものシトラスに交じって、覚えのない甘い花の香りがした。

「雅人さん、お帰り。遅くなるなら、連絡くらいくれても……」

エプロンをほどきながら歩み寄る。けれど雅人は紗月を見もせず、ブランド物のブリーフケースをソファに放った。

「仕事が忙しかったんだ。こういう日だからって、大げさに用意しなくていいって言っただろ」

食卓を一瞥した目にあったのは、喜びではない。隠そうともしない疲労と、面倒くささだった。

ほどきかけた紐が指から滑った。結び目の端が手首に引っかかっても、紗月はしばらく外せなかった。

夫のブランドが年商数十億円を上げるようになってから、こんな扱いは日常になっていた。

「花音は?」

「9時に寝たわ。パパを待つんだって、最後まで頑張っていたけど……」

「そう。疲れたから先にシャワー浴びる」

雅人は乱暴にネクタイを緩め、寝室のウォークインクローゼットへ向かった。

食卓を片づけようとした紗月の目に、ジャケットの内ポケットから滑り落ちた銀色の封筒が留まった。

厚みのあるエンボス紙に、南青山の高級プライベートジム『ルミナス』のロゴが金箔で押されている。

(プレゼント……?)

記念日を忘れていたわけではなかったのかもしれない。ほんの一瞬、そんな期待が胸をよぎった。

シャワーを終え、ガウン姿で戻ってきた雅人は、封筒を持つ紗月を見て鼻で笑った。

「もう見たのか。明日の朝、渡そうと思ってたんだけど」

「これ、何? プライベートジムの会員権……?」

炭酸水を飲み、雅人は食卓の向かいに気だるげにもたれた。

紗月の頭から足先までを眺める目は、売れ残りの商品を品定めするように冷たい。

「来月、うちのブランドのリニューアル記念ガラがあるだろ」

「ええ。半年以上かけて準備しているパーティーでしょう?」

「主要な投資家もインフルエンサーも、みんな夫婦で来るんだ」

雅人はボトルを食卓に置いた。硬い音がした。

「俺も妻を連れていかなきゃならない。だけど正直、今のお前のその格好で、あの人たちの前に出られると思うか?」

息が詰まった。

「その……格好って。どういう意味?」

「鏡を見ろよ、紗月。背中は曲がって、肩は内側に丸まって。歩くたびに足を引きずってる。子どもを産んで5年もたつのに、腹だってたるんだままだ」

口から出てくる言葉の一つひとつが、鋭い氷の針のようだった。

「1回3万円もする、最上級のVVIPパーソナルトレーニングだぞ。それを100回分、何のために契約してやったと思ってる? パーティーまでに、人前に出せるくらいにはまともになれってことだよ」

「雅人さん……言い方がひどすぎるわ。私がどうしてこうなったと……!」

悔しさで声が細かく震えた。

「花音を産んで、体も休められないまま、あなたの会社の最初のロゴとカタログを作ったのは私よ。開業資金が足りないとき、実家に頼んでお金を用意したのは誰? あなたの仕事が軌道に乗るまで、昼も夜もなく働いたのは私でしょう!」

「またそれか。いつの話を、一生恩に着せるつもりだ?」

苛立った声に遮られた。

「あのころは俺だって大変だった。今は俺の稼ぎで、そこらの人間の百倍も楽に暮らしてるだろ? 夫が成功したんだから、それに見合うように自分の手入れくらいしろよ。いつまでみっともないことを言ってるんだ」

雅人が近づき、紗月の顎を強くつかんで上向かせた。

冷たい瞳の中に、血の気を失った自分の顔が映っていた。

「ほかの奥さんを見習えよ。子どもを産んだって、独身のころの体形を保ってる。正直、今のお前は……女として見られない」

女として見られない。

青春も、仕事も、すべてを注ぎ込んできた妻への宣告だった。

雅人は手を払い、寝室へ入ると勢いよくドアを閉めた。

静まり返ったリビングで、紗月は崩れそうな膝をどうにか支えた。握りしめた封筒が、くしゃりと音を立てる。

クローゼットの姿見には、伸びたTシャツを着て、肩を丸めた女が立っていた。

結婚前、旧姓の『橘紗月(たちばなさつき)』として胸を張って仕事をしていたデザイナーの輝きは、どこにもない。

涙が込み上げても、歯を食いしばった。

(泣くな、紗月。泣いたら負けよ)

踏みにじられた羞恥の底から、冷たい意地が湧き上がってきた。

* * *

翌朝10時。

南青山のプライベートジム『ルミナス』で、重厚なガラスのドアが開いた。

ブラックウッドのアロマが漂う、VIP専用トレーニングルーム。

緊張に体をこわばらせた紗月が入ると、マシンの前にいた男がゆっくり振り返った。

息をのむほどの体格だった。

機能性Tシャツ越しにもわかる引き締まった筋肉。鋭い顎の線。そして、底の見えない涼しい瞳。

元日本代表強化選手のVVIP専属トレーナー、桐生怜司(きりゅうれいじ)だった。

彼の視線が、紗月の青白い顔からこわばった首筋、内側に入った肩へと下りていく。

夫の侮蔑とは違う。体が上げる悲鳴と、崩れたバランスを見抜くような目だった。

「一条紗月様ですね」

「……はい」

息をのみ込んだ紗月のすぐ前まで、怜司が歩み寄った。

188cmの長身が迫り、思わず一歩後ずさる。

その瞬間、彼の視線が、丸まった背中を捉えた。

「逃げないでください」

低い声で、はっきりと言った。

「奥様のお体は今、すっかり壊れてしまっています」

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