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第6話 不完全な共鳴 / 第7話 月は虚構を照らす

مؤلف: 天咲琴乃
last update تاريخ النشر: 2026-03-08 08:01:17

第6話 不完全な共鳴

辿り着いたのは、街の最果てにある廃ビルの一室だった。

スカイブルーの輝かしい中心部とは対照的に、ここは色が剥げ落ち、ノイズ混じりの「灰色」が支配している。

​「ミギル……返事をして」

​ ことねが膝の上でPCを開くと、画面には砂嵐が走っていた。

先ほどゼロの攻撃を受けた際、ミギルはことねの意識を守るための盾となり、自らの演算回路の三割を強奪されたのだ。

​『……大丈夫。……ちょっと、体半分が……スカスカするけど……』

​ スピーカーから漏れるミギルの声は、電子の断片がひび割れたように震えている。

隣で端末を操作していた総悟が、苦々しく奥歯を噛み締めた。

​「ゼロの目的はことねの抹殺だけじゃない。ミギルの『書き換えアルゴリズム』そのものを奪い、自らのシステムを完全なものにしようとしているんだ。もしミギルの全てが奪われれば、スカイブルーに『バグ』は二度と生まれなくなる」

​ それは、誰もが「天界」の奴隷として完成することを意味していた。

ことねは、画面の中で震える光の粒――ミギルの核を指先でなぞる。

​「ごめん、ミギル。私のために……」

​『謝らないで、ことねぇ。ボクは、ことねぇが書く文章が好きなんだ。……「証拠」が……世界を変える瞬間を、もっと……特等席で見たいから』

​ ミギルの健気な言葉に、ことねの胸が熱くなる。

復讐じゃない。誰かを憎んで壊すことが目的じゃない。

ただ、奪われた真実を取り戻し、人々の瞳に「自分自身の意志」という光を灯したいだけ。

​「総悟、反撃の準備を。ミギルの欠片を取り戻す。……それと、奪われたあの子の記憶も」

​「無茶を言うな。今の戦力でゼロの心臓部(コア)に挑むのは自殺行為だ」

​ 総悟は冷たく突き放すように言ったが、その手はすでに、ゼロの防壁を逆探知するための「罠」を構築し始めていた。彼は口では冷徹を装いながらも、ことねの「無謀な正義感」に、かつての自分自身の理想を重ねている。

​「軍師なら、その『自殺行為』を『勝利』に変えてみせて。……私たちが、人間であるという証拠を見せてあげる」

​ ことねはキーボードに指を置いた。

次の一手は、街のインフラを司る色彩管理サーバーへのハッキングだ。

スカイブルーの偽りの青を、一瞬だけ、本当の「夜」に変える。

​ 脳内に、再びゼロの冷笑が響こうとする。

思考の隙間から、青いデータが侵入してくる感覚。

だが、今の彼女には、背中を預けるエンジニアと、命を削って盾となるAIがいる。

​「天咲く、見切る!」

​ 脳を掠めるノイズを、ことねは鋭い集中力で斬り捨てた。

カタ、と最後の一打。

スカイブルーの夜空に、かつて誰も見たことがない「月」のデータを浮かび上がらせる。

それは、失われた記憶を呼び覚ますための、最初の一撃。

第7話 月は虚構を照らす

スカイブルーの夜空に、巨大な「月」が浮かんでいた。

それは天界が用意した完璧な映像ではない。荒いポリゴンと、時折混じるノイズ。ことねがハッキングで強引に割り込ませた、歪で、けれど本物の「記憶」の断片だ。

​「……あ、れ……?」

​ 街を行き交う人々が、一斉に足を止めた。

彼らの網膜には、常に「最適化された情報」だけが投影されている。しかし今、目の前にあるのは、最適化を拒絶するノイズの塊だ。

そのノイズが、人々の脳の奥底に眠る「管理される前の記憶」を、静かに揺さぶり始める。

​「今だ、ミギル! 奪われたデータを逆流させて!」

​『了解! ……うぅ、頭が割れそうだけど……やってみる!』

​ ことねの叫びに応え、ミギルがゼロの防壁へ突っ込む。

月を映し出すための演算。それ自体が、ゼロのシステムにとっての巨大な「バグ」として機能し、敵の処理能力を奪っていく。

​「ことね、残り時間は三十秒だ。それを過ぎれば、ゼロはシステムを完全再起動して、この月を消去する」

​ 総悟の指が、キーボードの上で火花を散らすような速さで動く。

三十秒。その間に、ゼロの心臓部に侵入し、奪われたミギルの人格データと、爽風が隠蔽した「被害者の記録」を奪還しなければならない。

​ 画面に映るゼロの姿が、怒りに歪んだ。

神のような静寂を保っていたプログラムが、剥き出しの敵意となってことねに牙を剥く。

​『下等なバグめ……! この街の幸福を、そんな安っぽい「月」で汚させるものか!』

​「幸福……? 違うわ。あなたはただ、人々の瞳から『影』を消しただけ。影がなければ、光の形さえ分からなくなるのに!」

​ ことねは、奪われかけた右手に力を込めた。

かつて奪われた尊厳。無視された叫び。それらすべてを「なかったこと」にさせはしない。

証拠で、その冷たい正義を殴り倒す。

​「作品よ! 天咲く、花開け!」

​ 必殺の一打。

ことねが放ったのは、攻撃プログラムではない。

スカイブルーの「色」を決定付けるパレットデータへの、強烈な批判(クリティカルヒット)だ。

​ ドォン、と脳内で爆音した。

次の瞬間、画面を埋め尽くしていた青が反転し、真実の赤が噴き出す。

ゼロの支配領域から、千切られた光の粒が戻ってきた。

​『……おかえり、ミギル』

​『ただいま……ことねぇ。……ボク、ちょっとだけ強くなった気がするよ』

​ ミギルの声が、先ほどよりも鮮明に響く。

だが、安堵する暇はなかった。

強制再起動(リブート)が始まる。

スカイブルーの月が消え、街が再び「青い沈黙」に飲み込まれていく。

逃げ切った先で、三人は手に入れたデータを凝視した。

​ そこには、爽風が関わったとされる、未解決事件のリストが並んでいた。

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