大衆中華  八本軒〜罪を喰う女〜

大衆中華 八本軒〜罪を喰う女〜

last updateLast Updated : 2025-12-13
By:  神木セイユUpdated just now
Language: Japanese
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路地裏に佇む、大衆中華 八本軒。その店に入ったが最後、必ず罪は裁かれる。 ある日、三人の殺人を終えた男が自主をする前に八本軒に立ち寄った。男の他にも凶悪な仲間がいると知った女店主 黒月 紫麻は犯人を待ち伏せする為に擬態する。 海洋生物の守護天使 カシエルが、ミミックオクトパスの姿で堕天したのが紫麻である。 蛸特有の能力を活かし、今日も中華鍋を振りながら獲物を待ち構える。 クリーチャー×痛快リベンジ ※本作品はフィクションです。暴力行為、私刑、過激な自警行為を推奨するものではありません。

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0.後悔の洋葱肉絲
「おい ! おめぇ、何者だ !? 」 暗い屋敷の廊下。 押し入り強盗の懐中電灯で照らされたソレは、光りに気付きゆっくり振り返る。 顔は女人。 首下も人間。振り返った拍子に、裸体の豊満な乳房が上下に弾む。 だが男はその不可解な異形に、思わず懐中電灯を落とし声を漏らした。 「ヒッ !! 」 女の瞳の瞳孔は山羊のように横長で妖しく吊り上がり、玩具のように真っ赤な唇が笑みを浮かべる。その唇は何かを咀嚼している。転がった懐中電灯が照らす女の口の端に、まだピクりと動く人の小指が引っかかっていた。 一緒に来た強盗仲間の青年に馬乗りになり、血肉を咀嚼しながら、人間とは思えぬ冷笑を浮かべる。 女の下肢は大きな蜘蛛のようで、床に粘膜を撒き散らしながら這いずる。黒々とした縞模様が蠢いて、青年の臓物を次々と口に運ぶ。 壁に当たって止まった懐中電灯が、天井にまで飛び散った血飛沫を照らした。 男は堪らず腰を抜かして尻もちを付いて命乞いをするのだった。 「頼む !! 命だけは !! 」 「……今まで老人達にそう言われた時、あなたは命を助けたか ? 藻屑め」 「……んな事、言われたって…… !! 」 「とは言え、とても美味そうだ」 □□□□□ 海の日。 七月のその日、洗ったばかりでペトペトのシャツを着た中年男性がふらふらと歩いていた。 男の背のベルトには、たった今使用したばかりの包丁が挟まれていた。 都会から程遠い田舎町だが、新幹線の駅街が出来るとたちまち人口が増えた市街地になった。 駅前通りは華やかではあるが、駅裏は些かまだ商業施設は少なく、代わりに市役所や警察署が大通りに建ち並んでいる。 交差点の教会を住宅地方面へ曲がれば、すぐに地元民しか立ち寄らないような寂れた路地裏が四方に伸びている。 男性は一度立ち止まり、辺りを見渡す。 その路地裏の一角に町中華の看板が見えたのだ。 真っ赤な下地に黄金色の筆字で書かれた『大衆中華 八本軒』という、ケバケバしくもどこかレトロな存在感。 店先に並んだプランターの朝顔が、何本も綺麗に軒先まで延びてグリーンカーテンになっている。 男性は古くても手入れの行き届いていそうな店だと思った。背の包丁を黄ばんだシャツで簡単に隠し、暖簾をくぐった。 「いらっしゃいませ」
last updateLast Updated : 2025-10-24
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一章+++1.海の底から来たモノ
剥き出しの刃物に動じる事なく、店主の女は真っ赤な口紅をペロりと舐めただけだった。 微笑を浮かべたまま、静かに男の次の言葉を待つ。 「俺がよ……。食い終えたら……ちょっと電話貸してくんねぇか ? 警察呼びてぇんだ」 「自主でしょうか ? 」 「ああ。そういうことだ」 「分かりました。 どうぞ、ゆっくり召し上がって下さい。ご飯はおかわり可能です」 「あぁ……じゃあ、もう一杯頼むよ。 ……姉ちゃん、驚かねぇんだな。なんつーか、ここにパトが来られちゃ迷惑だろうに」 動じる様子の無い女店主に、男性の方が拍子抜けし気を緩めてしまう。 「ここで待たせて貰う事にしようとしてるんだが……いいのかい ? 」 「ふふ。大通りの警察署と教会、この先の国道から数キロ先には刑務所。 こういったお客様は、よくお見かけしますので」 「マジかよ。世も末だな」 「そうですね。まさに世界の終末でございますね。 人間はとても身勝手な生き物で……。しかしわたしはこうも思います。 人をそう創った神も疑問だ、と」 「ほんと。そうだよなぁ……はは。違いねぇ。だがよ。全部が全部を、神や仏のせいにしてらんねぇだろうよ。 実は俺ぁ、ここに来るまで三人殺ってんだ」 男性は下を向きながらも、血走った目をしていた。 「そうでしたか。ですが、自主の判断は素晴らしいです」 犯行後に『素晴らしい』等と言われても気休めや、気が変わらないようにする為の言葉だと、男は思わず苦笑いを女店主へ向けた。 「いやいや、素晴らしいとは言わんだろ。 でも……逃げたところで……時効が無い今、人生詰んでんだろ……」 「事情を聞いても ? 」 「なぁに簡単な事だ。歳の割にゃ釣り合わねぇ話に乗っちまったのよ。去年職場が倒産してな。SNSで『ドライバー募集』なんてDMしてくる怪しいアカウントに誘われて話に乗っちまった」 「闇バイトと言うものですか」 男性は頷くと、再び目の色が変貌する。 「奴ら…… ! 俺を消そうとしやがったんだ ! どの道共犯だってのに、強盗で押し入る先で誰が行くか揉めに揉めて。ドライバーが運転だけで、現場に行かねぇのはおかしいだろって言い出しやがった。俺が運転だけの仕事だと言い張ると、激昂して俺を殺そうとしやがった」 「では
last updateLast Updated : 2025-10-24
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2.油淋鶏と中華そば
「まぁ、お巡りさん」 件の事件から数日後、二人の刑事が八本軒を訪れていた。いつにも増して柔らかな口調が藍色のチャイナドレスと相まって妖艶に見える。チャイナドレスと言ってもなにかイヤらしさのないデザインだ。 「刑事課の鏡見と」 「柊と申します ! 」 どちらも若い刑事だ。有り余るエネルギーを制服で抑えているような印象。 「店主の黒月 紫麻さんで間違いないですか ? 昨日の崎森の自主の件で、もう一度経緯をお伺いしたいのですが」 「ご苦労様です。どうぞ、暑いので中に」 「あ、お気遣いありがとうございます」 警察署から近い立地だ。勿論二人もこの店を知っていた。 だが、実際に入店したのは初めてだった。 店内には客がいない。 現在は16:00。 八本軒は15:00〜17:00までは中休憩がある。 紫麻は仕込みの手を止め、鏡見と柊をテーブル席へ案内し冷水を差し出す。 「外は暑いでしょう。温暖化は深刻な問題です」 「ええ〜。もう本当に真夏は日差しが強いですね」 柊がケラケラと話す。 一方、鏡見は仕切りに指で背広の胸元を擦りながら、銀縁眼鏡の鋭い瞳で店内をチラチラと観察。神経質そうな男──というのが、世間一般での鏡見の印象だろう。 鏡見がふと、雑誌置き場にある風変わりな物に目を止めた。紫麻はそれを敏感に察知し鏡見へと話を振った。 「春画は違法ですか ? 」 「え ? あぁ、少し気になっただけです……。 あ……。まぁ。ここは食堂なので似つかわしくはないかと……見方によっては猥褻物になる可能性もありますが……。 いや、しかし春画は文化的なものですからね……どうでしょう」 「これは残念な事なのですが、この店にはお子様連れのお客様は滅多にいらっしゃらないので、つい。 配慮が足りませんでしたね。すぐ別な場所に移動しますので」 「え、ええ。でも、凄い量ですね」 「常連客の方で、お読みになる方がいますので。芸術的観点で興味があるようです」 「そ、そうですか。 ところで黒月さん、実はこの女性はご存知ですか ? 」 鏡見が懐から一つの写真を取り出す。 紫麻は即答した。 「一ヶ月程前にここへ。夜間は二十二時まで営業しています。閉店の頃、暖簾を下げようと外に出ましたら、裸足で立っていらしたので驚きました」 「
last updateLast Updated : 2025-10-25
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3.春画と神父
翌日。 早朝から仕込みを初め、それが終わり次第、十一時の開店まで紫麻の休憩時間だ。 『夏休みの学生さんが多いですね〜 ! 最高気温も三十五度越えですよぉ〜 ! 』 『暑そうですね〜 。CMのあとは、熱中症対策グッズの紹介 ! 今年はアレが目白押し〜 ! 』 この時間に遅めの朝食を摂り、ワイドショーを観ながら新聞を読むのが日課だ。 『高齢者住宅での殺人事件』 『面識なし、押収したスマートフォンから闇バイト仲間であった可能性』 『二日前に自主した崎森被告の共犯か、捜査滞る』 『「旅行中で良かった」と家主の夫婦がコメント』 「〜〜〜♩♩〜〜っ♩」 「随分ご機嫌じゃないか」 開店前の店内。L時型カウンターの一番影になるような席に男がいた。 大通りにある教会の神父である。 老齢で白髪と無精髭。ローマンカラーを付けたままのカソック姿。 常連を極めに極めたこの男は神父でありながら、開店前から酒を浴び、趣味の春画を眺めている。 「お腹が満たされたからな。気分がいい」 紫麻は唯一、この男にだけは素で付き合える間柄だ。先に自宅で読んで来た新聞の内容を思い出し、神父は紫麻へ声をかけた。 「カシエル……どうせ食うなら綺麗に食えばいいんだ。なんで食い散らかすかねぇ。昨日ここに、刑事が来てたろ ? 」 「美味しい部分だけ食べたいんだ、ヒズキエル。それに今は紫麻と名乗っている」 「俺もその名はもう名乗れねぇんだよ。今は人間、鹿野 敦夫だ。 長いな、俺たちも。人の世界に堕ちてから……」 紫麻は紙タバコに火を付けると、紫煙をくゆらせて新聞に視線を落としたまま。 「人間のルールは守るさ。 けれどわたしはこう考える。悪質な者は滅びるべき、とな。特に海にゴミを捨てるような者は特にだ。何故なのか、ゴミの不法投棄で人を殺していい法律は無いらしい」 「当然
last updateLast Updated : 2025-11-09
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4.青椒肉絲と麻婆豆腐の二人
「ヘヨン、お待たせ」『全然待ってないよ ! リカコ ! 』 紫麻はメニューを開く気の無さそうなリカコをにっこりと見つめたまま。  一方、カウンターには運悪く鹿野がいるのだ。「おー ! これ、あれだろ ? なんだっけ ? つまりテレビ電話だろー ? 今は会議とかもこれでやるんだよなぁ ? 」「そうです。  あ、そうだった ! お姉さん ! 天津飯をお願い ! 」「天津飯ですね。かしこまりました、少々お待ちください」 紫麻が大きな中華鍋を火にかけ、黒くギラつく表面がチリチリと音をたてた頃、卵のジュッ ! っと言う豪快な音が店内に響く。「あんたリカコってのかァ。  ほんで、これが彼氏さんかい ? いい男じゃねぇか」 鹿野の言葉にリカコとヘヨンは満更でもなさそうだった。  鹿野は散々ヘラヘラ絡んだ後、再びお気に入りの席へ戻った。これで泥酔レベル50%だ。『綺麗な所だね ? 今どこにいるの ? BAR ? 』「職場近くの中華屋さんなの」『へ〜、なんか中華版魔法使いの部屋って感じ』 そこへ紫麻が天津飯をサーブしてきた。「お待たせいたしました。天津飯でございます」「わ、早っ ! ありがとうご……ざいます……」 リカコの視線が天津飯に釘付けになる。  リカコの挙動に気付いた紫麻が思い出したように、張り紙を指さす。「そうでした。最初に言っておくべきでした。  わたしがアレルギーでして、うちに海産物のメニューやお出汁はありません。故に……餡かけに蟹などは入れることが出来ないのです。  別なメニューを作り直しましょうか ? 」「あ、いいえ ! 大丈夫です ! お、美味しそうだし ! 」 リカコはレンゲを持つと、少し躊躇った様子でトレイを自分の方へ寄せる。  天津飯──とは言い難い。例えるなら巨大なおむすびに大きな卵焼きを乗せて餡をかけただけの……何かだ。 事実、紫麻の料理は八割が不味いのだ。
last updateLast Updated : 2025-11-10
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5.人気キャラクター オクトパックス
 八本軒には定休日はない。ほぼ紫麻の気まぐれで決まる。  客足の無い店故に、困る客と言えば鹿野くらいだ。 その日、早朝のアラームで目を覚ました紫麻は僵屍の如くザフっと布団から跳ね起きた。  洗面台に行くと、小さめの歯ブラシに海水塩をのせ、それを咥えながら長い髪を梳いていく。「〜〜〜♪」 ふとクローゼットを開く手が止まり、一度口をすすいでから再びクローゼットの前で首を捻る。「店内でチャイナドレスを着るのはとても喜ばれるが……。街歩きであまり見かけないのは何故だ。この町で見ないだけか ? 中華の街では沢山いたんだが。鹿野の言う通りコスプレという行為なのか……謎だな」 いつものドレス陣を掻き分け、奥の棚から新品のTシャツを取り出す。「オクトパックスの限定シャツ……服を買いに行く服がない。くっ…… ! 仕方ない……」 智天使は言わば中間管理職。信仰心の薄れた現代で、天使の雇用もコストカット。大天使 ガブリエルのそばにいながらにしてリストラされた智天使 カシエル。人間界でも暫くは堕天使のなりを潜めて海底で暮らしていたが、兎にも角にも住みにくい。  海の神の一人として蛸の化身となったが、膨れ上がっていく人間への恨み辛みが神にバレると、すぐに堕天する運びとなった。「最初にいた島は、オシャレという概念が無かった故にとても難しい。……だが、無理やりにでもオスとペアリングさせようとする文化がないこの国は住みやすい。それとも時代のせいなのか」 鏡を見詰め、ベージュピンクの唇が一瞬でスカーレッドへ変わる。紫麻のメイクはいつも擬態として色味を変えているのだ。「準備よし。それではいざ」 ハンドバッグを片手に、本日は午前休業の札を店に掛け路地を出た。  シャツにプリントされたオクトパックスは、マダコ、メンダコ、ヒョウモンダコ、コウモリダコ、ミミックオクトパス、六匹のファンシーキャラクターである。 □□『完売』 赤文字で大きく書かれたプレートを大きく掲げるスタッフに紫麻は呆然と衣料量販店の紙袋を地面に落とした。「完売しました〜。あ、もう商品ないです〜。いや、特典だけじゃなくて、商品も完売です〜。  モバイルバッテリーオクトパックス限定モデル売り切れです〜」「何故だ !!!! 」「う、うわっ !? 」 紫麻は紙袋を投げ出すと、店員に掴みかかる。「何
last updateLast Updated : 2025-11-12
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6.レモンティとアイスコーヒーのときめき
「うわぁー !! 凄い ! 綺麗〜 ! 」  ヒロミと呼ばれた少女はウォーターサーバーでグラスを握りながら八本軒の店内を満面の笑みで見回す。 「外観普通の食堂かなって思ったけど、中は高級中華じゃん〜 ! 」 「そう言っていただくと嬉しいです」  何も聞いてこない紫麻にヘヨンは遂に痺れを切らして、自ら話し出した。 「あの、リカコには言わないんで欲しいんですけど……」 「勿論です。お客様の個人情報を誰かにお話することはございません。  ですが、一つ疑問が」 「なんです ? 」 (お名前はどうお呼びすれば ? わたしは黒月 紫麻と申します) 「紫麻さんですね。大丈夫ですよ小声じゃなくても。  俺は……木村 祐介……です。 本当は日本人なんです」 「気が付きませんでした。人は皆同じに見えます」 「いや、でもおじいちゃんは韓国人なんですよ。だから全く嘘では……。  いや、リカコには嘘ついてますね」 「彼女様は ? 」  紫麻はセルフサービスにいるヒロミを見る。 「あいつは……妹です。宏美って言います」 「まあ、そうでしたか。宏美さん。可愛らしいです事 」  宏美が焙じ茶を持って戻ってきた。カウンターで話す二人の会話に混じる。 「宏美です ! よろしくです ! 」 「紫麻です。ご兄妹でお買い物とは仲がよろしいのですね」 「……。いーや全然〜。今日はユウ君がどうしてもって言うから様子見に来たの ! すぐなんだから」 「いや、うん。でも今回のは頼まれてたしね」 「とにかくあたしもそんなお金無いからね ! もうさぁ、弁護士とか相談しなよ ! 」  突然、毛色の変わった会話に変わる。  オーダーも入らないため、紫麻もついついそのまま話し込む。 「なにかトラブル事でしょうか ? 」 「聞いてよ紫麻さん。ユウ君の彼女って市役所にいるらしいんだけど、今日のオクトパックスのイベントとかさぁ。こういうグッズ凄い好きなの」 「……わたしも人の事は言えませんが……」  宏美は紫麻のTシャツを見てニヤリと笑う。 「紫麻さんは全身から推し活オーラ出てますもんね ! 」 「い、いつもは制服を……」 「それも聞きました ! ユウ君が隠れ家的名店見つけたーって言ってきた時に。  紫麻さん、普段は凄い綺麗なチャイナドレス着てるんでしょー ? い
last updateLast Updated : 2025-11-13
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7.仮面の下
「お待たせ !」梨花子の住まいは駅前だった。  ヘヨン──祐介とのデートは二回目になる。「こないだはごめんねぇ ! よっと……」「何 ? その荷物」「おばあちゃんがね……老人ホームにいるんだけど、家族の顔を見たいんだろうね。宅配じゃダメって駄々こねちゃって」「そう……その歳で介護を」「これからオムツ持って顔見せてって流れ……。仕方ないけど、面倒臭いの」 それからも色々なことを話した。懸念は祐介の嘘の事だけだ。「ヘヨンは今回はどのくらいいるの ? 」「えっと、長期滞在なんだ。東京から青森までを行ったり来たりするんだ」 祐介自身、我ながらしょうもない嘘を並べていると自覚はしている。しかし今更言い出すことは出来ない。何より梨花子は過剰な愛情表現をしてくる様子がない大人の女だった。「実は明日、ゲームショップで新しいゲームの発売だったんだけど……今日休んじゃったから明日は仕事になっちゃった」「ゲーム ? 好きなの ? 明日発売って……あの続編のヤツ ? 」「そう ! わたしすっごく好きなの ! 今回ゲームの中でオクトパックスってキャラクターがコラボしててね。そのオマケが欲しかったの」「ゲームソフトならネット予約とかすれば購入できるんじゃないの ? 」「ん〜。そうなんだけど……店によってキャラのデザインが違うし」 祐介には理解出来なかった。何種類かを手に入れるにしても、A書店、Bゲームショップ、アニメグッズショップC、それぞれでネット予約をして代金支払い、商品は郵送にでもしておけばいいのだから。「明日か……じゃあ、僕が買って来ようか ? 」「い、いいの !? 」「明日暇だしね。この辺りはどこに店舗あるの ? 」「えっとね ! 」 この時はほんの親切心と、何とか梨花子の気を引こうとしたのだ。  まさに安請け合い。 実際、次の日。開店五分前にゲームショップへ行った祐介は甘かった。  店には長蛇の列。それもほとんどが外
last updateLast Updated : 2025-11-14
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8.チーズ春卷
「転売ヤー……。ニュースでよく観る方々ですね」 紫麻の相槌に宏美は身を乗り出す。「ですよね !? 」「はい。よく見ますね」「ほぉ〜ら ! 言ったじゃん !  別に行列に並ぶくらいあたしでもするよ ? 限定スイーツとかさぁ。 でもそれは違くね !? 」「でも犯罪じゃないだろ。転売に関する法律は無いんだから」「犯罪だよ ! 最近凄く厳しいの、知ってるでしょ !?  紫麻さん、ユウ君を止めて ! なんか言ってやって ! このままじゃ…… ! 」 紫麻はヘヨンへ視線を落とすと、微笑んだまま問いかける。「まず、祐介さんとヘヨンさん……どちらでお呼びすれば ? 」「……ヘヨンでお願いします」「ユウ君 !!? 」 祐介は宏美の意見より、梨花子との運命を選んだ。 いや、金を選んだのだ。「でも、転売はもう辞める。 けれど、リカコとは離れたくないんだ」 もしもそれが本当なら問題は無い。「梨花子さんがそれを望めば、二人円満に行きますね」「そういう問題かな…… ! 信用出来ないよ !  リカコって人、信用できない !! そもそも本当に市役所にいるの  ? 」「え  ? いや、いつも市役所から出てくるし、迎えに行った事もあるよ」「働いてんのは見てないんでしょ ? それなりの格好して市役所にいたら、誰でもそう見えない ? 職場の人を紹介されたり、親にあったりした ? 」「してない……」 宏美が頭を抱えた頃、貸切中の札を無視して入ってくる客がいた。「ぅおーい。なんだなんだ。『貸切中』なんて見栄張ってんのかぁ ? ここにそんな客……あ……
last updateLast Updated : 2025-11-15
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9.木須肉定食
「少し落ち着きましたか ? 」「ええ。そうですね。 出来ればユウ君には問題にならないうちに辞めてもらいたいです」「まぁ本人曰く、転売辞めるってんだから、少し様子を見たらどうだ ?  そういう人生を兄貴が望んでるなら仕方ねぇがな」「……そですね。 紫麻さん、神父様、ありがとうございます。そうですよね。子供じゃないんだし……あたしが何を言っても……。 紫麻さん、今日は休業日なのに、本当にありがとうございました ! 」 紫麻は宏美の顔をジッと見つめると、ただ普通に。何も無かったかのように柔らかな笑みを浮かべた。「ヒロミさん、またいらして下さいね」「はい ! えっと……チーズ春巻きおいくらですか ? 」 レジに向かった宏美が紫麻を制する。「わたしがお招きしたんです。これはお茶菓子ですよ。商品ではありません」「え !? いいんですか !?  紫麻さぁん ! 好き ! 」 宏美は店を出ると紫麻が見えなくなるまで手をふりふり帰って行った。「……人間というものは……」 紫麻はシガレットケースから煙草を取り出し人を付ける。「何故こうも個体によって違うのか……分からん……。 さてと……鹿野、自由にしていろ。着替えてくる」 二階ヘ上がるとクローゼットを開く。「Tシャツはいいが、このスキニーというものは窮屈だ。 それに……今日はこれだな」 紫麻は深紅の生地に金糸の刺繍があるチャイナ風ドレスを取り出した。 現代において、チャイナドレスを普段着する者は観光地など、特殊な場所のみだが紫麻は上半身の露出がなく、ミミックになった時も大きく入ったドレスのス
last updateLast Updated : 2025-11-16
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