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26.リラの決断力

last update Last Updated: 2025-06-15 16:00:00

「待ちなさい」

 はぁ〜。防具屋の壁一つで被害が済んだじゃない。それとも瀕死の人でもいた ? グラスボーン相手にこれだけの被害で抑えたのよ ? 嫌になるわ。

 振り返ったセロの坊ちゃんが、思いっきり動揺してるし。この子戦闘では役には立たないのね。

 つられてわたしも振り返る。

「発つのかい ? 」

「武器屋と装備の女将さん……。

 また騒ぎになりそうなんで……」

 セロくん苦渋の決断か。まぁお宿も高級だったしね。名残惜しいか。

「流石だ……。グラスボーンを倒したのだな。たまげたよ……」

 何よ。上から目線じゃない。

「あのね ! そんな言い方無いと思いますけど ? 」

 ──ちょ、やめてよ ! 武器屋夫婦にはお世話になったし、本当にいい人よ ! 

 いい人ねぇ ? 

「山賊やグラスボーン。どうして男爵は警備をここに置いてくれないの ? 」

「し、申請はしてるんだが……返事はなく……」

「頼りないわね冒険者は全員が有能じゃないのよ」

 セロくんはやっぱり気付いて無いのか。ぽかんとしてる。

 先が思いやられるわ。

「村長の貴方が動かなければ、この村に発展はない」

「村長 !? 」

 ──まさか !? 

 そりゃあそうでしょ。雪山の村の村長が紹介状を、なんで武器屋個人に書くのよ。ギルドや聖堂なら分かるけど、武器屋に直接っておかしいのに。

「村長は長らく父がしておりまして……。亡くなってからは、継承はしましたが、何から手をつけていいか……」

 まったく……。

「まず、村の中や生活圏である周辺に魔物がいたのでは人口は減る一方。雪山の村と比べて過疎化が進んでいます ! 」

「あんた、やっぱり村長の仕事も兼業では……」

 装備屋の妻が亭主を見上げている。

「男爵に話はしたんですよね ? このままでは観光も冒険者も、何より住民が安心して暮らせません。何も無い場所からはお金は湧きませんよ。

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