罪の鎖に繋がれた没落令嬢は猟奇領主の執愛に溺れる~ローレライの夜想曲~

罪の鎖に繋がれた没落令嬢は猟奇領主の執愛に溺れる~ローレライの夜想曲~

last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-17
Oleh:  日蔭スミレBaru saja diperbarui
Bahasa: Japanese
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殺人犯の娘・イルゼは、義兄の庇護で外の世界から隔離され、孤独に暮らしていた。 しかしある日──義姉の理不尽ないびりで髪を切り落とされ激昂したイルゼは、肉切り包丁を振り回し、意図せず義兄を傷つけて絶望の淵へ落ちる。 そこで手を差し伸べたのは、悪しき噂が尽きぬ「猟奇領主」ミヒャエルだった。 背中に残る傷、銀に変わる瞳──領主の秘密をイルゼは知る。 領主は、かつてイルゼが激流を望む崖の上で救った“自殺志願者の少年”だった。 「ねぇローレライ。歌ってよ」 孤独を抱えた二人は、不器用に寄り添い距離を縮める。 やがてイルゼは彼からの執着的な愛に溺れ、初めての“幸せ”を見つけるが……。 ヒストリカル×狂愛執着ロマンス。

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Bab 1

プロローグ 私を呪う血の音

 まるで厚い硝子がらすをひとつ隔てて音を聞いているかのよう。大嫌いな女の耳障りな悲鳴は、彼女の耳にどこか遠く、底冷えする水底から響くように届いていた。

 それは視界も同じだった。

 すべてが色彩を失い、ぐらりと歪み、四隅が血の色に滲んでいく。空気は重く、肺に絡みつくような粘り気を帯び、息をするたびに鉄の匂いが鼻腔を刺した。

 地面に散った家畜の餌──湿った麦と豆が土に混じり、踏みつけられてねばつく。そこへ鶏たちが、羽をばたつかせながら騒ぎ立てる。羽音と鳴き声が脳裏に反響し、鼓膜を震わせた。

 そして、罵倒と悲鳴を同時に吐き散らしながら逃げ惑う、下品なほど派手な装いの女。黒地の衣服が泥にまみれ、裾を引き裂かれながら這う滑稽な姿が、視界の端で蠢く。

 ──あぁ、目障りだ。大嫌いだ。こんな女のために私は。

 どうして私ばかりが我慢し、嫌な思いをし、胸の奥を抉られるような苦しみを味わい続けなければならないのだ。どうして、こんな立場に追いやられねばならないのだ。〝私自身〟が何をしたというのだ。

 どうして、どうして、どうして!

 これまでに、これほどの強い怨嗟えんさと殺意を抱いたことがあっただろうか。

 肉切り包丁を握る手が、汗で滑る。刃は鈍く光り、指の関節が白くなるほど力を込めた。

 彼女──イルゼ・ジルヒャーは、川底のように暗く澱んだ双眸そうぼうで、逃げ惑う女を捉えて離さない。瞳の奥に、復讐の黒い炎が揺らめいている。

 取り返しのつかない行為をしているのは分かっている。けれど、自分でも、この激情はもう止められなかった。

 喉の奥がひどく熱く、唾液が鉄の味を帯びていた。心臓がひどく荒く脈打ち、耳の奥で耳鳴りが鳴り響く。

 日々の罵倒。度を超えた意地悪の数々。そして今日は、唯一の誇りである大切な髪を、根元から無造作に切り落とされた。

 そのすべては、何年も昔、父が殺人を犯したという理由で。

 この女──義姉の母親を、父が殺してしまったという理由で。

 ──蛙の子は蛙。

 あの父親と同じ血が流れていること自体、吐き気を催し、胃の底がねじれるような嫌悪で胸が締め付けられる。けれど、もう、この激情は止められそうにない。

 許せない。許せないから殺してしまいたい。許せないから壊してしまいたい。

 ああ、神様どうか、私に最後の情けを。そして幸運を。

 そんなふうに心の奥底で、血の味のする祈りを捧げたその瞬間だった。

 ぐらぐらと揺れた赤く歪んだ視界の先──義姉が石に足を取られ、地面に転んだ。

 膝が泥に沈み、両手で這いながら悲鳴を上げる。その白い喉が震え、涙と泥が混じって頬を汚す。

(ああ、神様は私を見放さなかった……)

 どこか安堵した面持ちで、唇に甘い微笑みを乗せ、イルゼは肉切り包丁を振り下ろす。

 双眸そうぼうにとらえた義姉の青ざめた怯えに歪んだ顔。震える肩が、まるで小鳥の翼のように小さく跳ねる。

(ああ、いい気味だ)

 刹那──つんざくほどの耳障りな悲鳴が響き、視界の端に赤々とした鮮血が飛び散った。

 その瞬間、イルゼの脳裏にふと浮かぶのは、誰よりも大好きだった唯一の母の姿だった。

 イルゼと同じ豊かな金の髪。川の水面のような青い瞳。

 父にどやされれば、真夜中に家を抜け出し、崖の上から川を眺めて歌う母。

 涙は流しても、ここで苦しみを歌にして叫んでしまえば、川の流れの音がすべてを呑み込んでくれると。

『人生ってとても苦しいときもあるけど、素晴らしいものだと思うわ。私はイルゼのお母さんになれた。それだけで幸福なの。今は辛い状況だけど……前を向いて生きていけば大丈夫。イルゼはきっと幸せになるのよ』

 ──いつか、お父さんだってきっと〝もとの優しいお父さん〟に戻るわ。

 そういって笑う顔が、ぼんやりと浮かぶ。

 前を向いて歩んでいけば、きっと幸せに繋がっている。

 いつも気丈にそう語っていた、そんな母はある日、行方不明になってしまった。

 朝、ベッドは冷たく、部屋に残るのは母の匂いだけ。

 父は酒をあおり、イルゼは母の枕を抱き締めて泣いた。   

 そして、数年後。再婚した父が殺人容疑で捕縛されたとき、前妻──イルゼの母の殺害を吐露したのであった。

 その遺体は、大雨の日に崖から川に投げ捨てたと……。

(お母さん、私……私は……)

 殺人犯、トビアス・ジルヒャーの娘。

 イルゼ・ジルヒャーはその日、大きな罪を犯した──

 

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プロローグ 私を呪う血の音
 まるで厚い硝子をひとつ隔てて音を聞いているかのよう。大嫌いな女の耳障りな悲鳴は、彼女の耳にどこか遠く、底冷えする水底から響くように届いていた。    それは視界も同じだった。  すべてが色彩を失い、ぐらりと歪み、四隅が血の色に滲んでいく。空気は重く、肺に絡みつくような粘り気を帯び、息をするたびに鉄の匂いが鼻腔を刺した。    地面に散った家畜の餌──湿った麦と豆が土に混じり、踏みつけられてねばつく。そこへ鶏たちが、羽をばたつかせながら騒ぎ立てる。羽音と鳴き声が脳裏に反響し、鼓膜を震わせた。    そして、罵倒と悲鳴を同時に吐き散らしながら逃げ惑う、下品なほど派手な装いの女。黒地の衣服が泥にまみれ、裾を引き裂かれながら這う滑稽な姿が、視界の端で蠢く。    ──あぁ、目障りだ。大嫌いだ。こんな女のために私は。    どうして私ばかりが我慢し、嫌な思いをし、胸の奥を抉られるような苦しみを味わい続けなければならないのだ。どうして、こんな立場に追いやられねばならないのだ。〝私自身〟が何をしたというのだ。    どうして、どうして、どうして!    これまでに、これほどの強い怨嗟と殺意を抱いたことがあっただろうか。  肉切り包丁を握る手が、汗で滑る。刃は鈍く光り、指の関節が白くなるほど力を込めた。    彼女──イルゼ・ジルヒャーは、川底のように暗く澱んだ双眸で、逃げ惑う女を捉えて離さない。瞳の奥に、復讐の黒い炎が揺らめいている。    取り返しのつかない行為をしているのは分かっている。けれど、自分でも、この激情はもう止められなかった。  喉の奥がひどく熱く、唾液が鉄の味を帯びていた。心臓がひどく荒く脈打ち、耳の奥で耳鳴りが鳴り響く。    日々の罵倒。度を超えた意地悪の数々。そして今日は、唯一の誇りである大切な髪を、根元から無造作に切り落とされた。    そのすべては、何年も昔、父が殺人を犯したという理由で。  この女──義姉の母親を、父が殺してしまったという理由で。    ──蛙の子は蛙。  あの父親と同じ血が流れていること自体、吐き気を催し、胃の底がねじれるような嫌悪で胸が締め付けられる。けれど、もう、この激情は止められそうにない。    許せない。許せないから殺して
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