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6.詠唱

last update Last Updated: 2025-05-03 10:00:41

 太陽が雲にかかり、白く光る。

 雪の反射でチカチカしなくて、このくらいが歩きやすい。

 手付かずの綿のような雪が真ん丸と河原の岩に乗っている。

 温薬樹と言う木を煎じた物を持たされて来た。その煮出す前の物も。これは人間の体感温度を調整するもので、雪国では重宝されている。飲むだけで寒さを体感しにくくなるほど体温維持が出来る。わたし、こういう知識は残ってるんだよね……。他の雪国にも、旅した事……あったのかもな。

 セロは相変わらず無言モード。

 でもこれが彼の普通だから、もう既に慣れてきた。さっきの会話もそうだけど単純に不器用なんだな。

「出発が昼過ぎだったし、今日は早めに場所を考えないとね。きっとこの雪山じゃあ、暗くなるのも早いもん」

「ああ。麓の村まで早い人でも一日はかかるのらしいからな。

 そういえば、魔法で焚き木に火とか……出来る ? 」

「無理無理。魔法の使い方覚えてないもん」

「あ、そうか……。大丈夫だ。火打ち石は持ってるし。食料は ? 」

「遭難してもこれ一本みたいなクッキーをね。村長の奥さんに貰ったよ」

 袋から取り出して見てみるけど、どうにも成人のわたしたちが満足するような量じゃない。

 そばの清流を見ると薄氷の隙間から魚影が見える。

「あの魚……釣れないかな ? 」

「前にジルがやってたけど、釣りは慣れないと難しいらしい。一日粘って釣果は一匹だったよ。レオナが勝ち取って……あの時はすごく怖かった……」

「あの二人って……」

「多分、網か何かで仕掛けを作らないと無理だ。素人の垂らした餌なんか見向きもしない。

 俺、なんか食えそうなもの探してくる」

「え、最強クッキーじゃ駄目かな ? 」

「それはいざと言う時の物だろ ? 」

 いざと言う時……に、なりたくないけど。

「分かった。じゃあ、わたし火を起こしておく。火打ち石貸してくれる ? 」

「そうしてくれ。戻る時も目印になってありがたい」

 セロはわたしに剥き出しの火打ち石を渡すと、藪の中に入ってい

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