Share

43.乳母

last update Dernière mise à jour: 2025-07-23 17:00:00

    ルキが片足をあげて、踵から靴の中の水を流す。

「ぐっちょぐちょ。靴くらい脱がせてくれてもいいでしょう。高いのにー」

「知ったことじゃないわ。なんなのその格好。相変わらずおかしな事してたんでしょ……」

「仕事だからさ」

「あんた昔から嘘が下手よね。その血は仕事じゃないでしょ ? ケイくんかぁ。可愛いわね〜。

 いい事考えた ! あの子を連れて隠居しちゃえば ? 」

「彼も仕事の……半分は仕事の付き合いですし……彼には彼の生活がありますよ」

「あ〜ヤダヤダ。その隙の無い返事。

 それじゃあ、いつまでもあの子と恋人にならなくない ? あんたに恋人が必要とは言いきれないけど。

 だいたい何 ? なんでゴースト ? あんなのおっさんが乗る車じゃん。趣味悪 ! マセラティにしなさいよ」

「言いたい放題ですね……」

 真理は一度煙草を消すと、今度はミントタブレットを口の中に流すようにしてボリボリ噛み砕く。

「ふん。あんたがあたしの生活を奪ったんだもの。恨みたらたらよ」

「貴女をMから離したかった。仕方が無かったんです」

「別に……頼んでないわ。あんたをこんな馬鹿なイベント担当にだけはさせたくなかった」

「……引退する時、御自身が暴れて過激なショーをしたせいでしょう ? 俺はそのままのスタイルを引き継いだだけです。

 ……ケイには真理さんの事は言わないで置こうかと思ってたんです。でも気が変わって……」

「ふぅーん。珍しい事もあるものね。あんた、他人に執着するんだ。

 ねぇ……あの人も日本に来てるの ? 」

 不意に真理の表情が曇る。

「ええ。でももう日本を発ちましたよ。十日前です」

「そう……

Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Latest chapter

  • PSYCHO-w   4.運命共同体

    「は、はい。ブラックね」「ありがとう真理さん」 ルキは真理をMの妻として礼儀をわきまえていた。 それを大人の自分から裏切る。 毒殺という方法で。 だがカップに唇が触れる寸前。 ルキは微笑み、真理をまっすぐ見詰めた。「僕が、Mといると不安なの ? 」「え ? ……な、なんで ? 」「だって、死んで欲しいって事は、そういう事じゃん」「……」 匂いだけでバレてしまった。 何故 ? 鼻がいいのか。だとしても訓練は必要なはずだ。訓練…………。誰がルキに教えてるのか…… ? だとしたら、それはM意外にありえない。「あの人は……あなたと二人で出掛けて、何をしてるの ? 」「こういう時にうっかり飲まないように、とか ? 必要な毒の味は覚えた。耐性も付いてきたよ。痛みには元々強いしね。 他にも色々……。あとは土地、株、銃器の扱い……」「子供にさせることじゃないわ ! わたしが言ってあげる ! 」「…… ??? 真理さん。言ってることとやってることが合ってないよ」「あ……。 そうよね……ごめん。そのコーヒー、捨てて。ごめん……」 真理は今、殺すはずの獲物に同情したのだ。 相反した心理。自分でも知らずのうちに、ルキに情が湧いていたのだ。「……あの人が、分からないの……」 Mはルキを跡継ぎにしようとしている。「本当に……ごめんなさい」「別にいいよ。僕の母さんはもっと危険な人だった。真理さんみたいな人が母親だ

  • PSYCHO-w   3.毒婦

     十六年前。 ホテルの窓から大通りを見下ろすと、現地のアジア人とは違う、どう見ても日本人であろう観光客がちらほら見えた。広いホテルだが、そう階数の高い建物ではなく、いつにも増して真理は街の様子を眺めていた。 Mと確かな愛を育みながらも、真理の生活はすっかり制限されたものになっていた。 消えたアイドル。 それが街中で見つけられたら……。マスコミが怖い。何もかもをそのままに日本を出た真理を心配する者も多かった。しかし今から顔を出す気も無い。 このままで幸せなはずと自分に言い聞かせ、いつも目深に帽子を被り、夜間だけの外出。 ショッピングがしたい。部下に頼むお使いの品ではなく、気ままに街を歩き、屋台で食べ物にかぶり付き、日差しを浴びてビーチで肌を焼き自然を感じたい。 Mの仕事が立て込むと、それがどんどん遠のく。 顔を変えるのにMは必要ないと真理を説得し、少ないスキンシップも姫のように丁重に扱われた。 危険な場所に飛び込んだ真理にとって拍子抜けするほど、Mの周囲は統制が取れており、身内に入った真理が危険な目にあう事は一度もなかった。 そんな時、Mの腰巾着であったクロウの一人が、ホテルから出ていくのが見えた。ビア樽の様な腹のペンギン姿。不愉快な事に、小児性愛の男だった。 忌々しい気分で見下ろす真理の視界の中、ペンギンに近付いて来た白いドレスの少女が走り出したのが見えた。「あら ? スリかしら ? 」 ペンギンの体に張り付いたかと思ったら、次の瞬間ペンギンが倒れ込む。周囲の少年達も一瞬だった。 少女の頭からウィッグが落ちる。「何あれ……っ !? 奇襲 ? 」 真理は慌てて部屋を出ると黒服を呼ぶ。「敵が ! ホテル入口よ ! 子供の姿をしている ! 油断しないで ! Mは !? 護衛はいるんでしょうね !?」「真理様、落ち着いて下さい。Mはそのお子様を……」「何っ !? はっきり言いなさい !! 」

  • PSYCHO-w   ケイの犯行についての分類について

    ケイはシリアルキラーなのか シリアルキラーっていうのはいわゆる連続殺人犯。 定義は、複数の被害者がいること。 犯行後に一定期間が空き、また犯行を始める。 被害者が三人以上いる事。 これらが判断基準です。ゾディアックやアンドレイ・チカチーロがこのタイプかと思われます。マスマーダーってのもあって、大量殺人犯の事です。 一日に四人以上殺す者を言うんです。通り魔なんかが町中で大量殺人を犯すのがこのタイプ。 チャールズホイットマンがまさにそうでした。鐘楼からライフルで撃ちまくる……。 ふらっと出かけてさっくり殺るケイに、このタイプには当てはまりません。 三章で蛍は、一度に中野を含めた四人を殺めましたが、動機や何を主体に動いたかは連続殺人犯の衝動的な波によるものです。多く殺ろうとか、そういう意思は無関係です。 シリアルを食べるようにお手軽に犯行を犯してしまう、という事でシリアルキラーという事ですね。スプリーキラーってのもいて、それは短時間で場所を移動しながら殺し回る者である。津山三十人殺しがそうです。マスマーダーに近いかと思われますが、場所を移動しまくる、という点が違いますね。シリアルキラーの中でも分類があって、オーガナイズド型とディスオーガナイズド型があります。後者のシリアルキラーは衝動的で、その場にある物を使いったり、遺体を隠そうともしない。一匹オオカミタイプで友人も少なかったりする。しばしば精神障害があったり、犯行に決まった手口ないといった具合。で、しばしば過剰な暴力と、ときに屍姦などの性的暴行を伴う……と。 そうなると、蛍はシリアルキラーであり、ディスオーガナイズド型ということになるのかもしれませんね。ナイフは愛用してますが、無ければこだわらないし、性倒錯からの犯行でもあります。あくまでフィクションですから「混合型です」と言ってしまえば早いのですが、少しプロファイルや社会分類などの文献を参考にているので、折角なので書いてみました( *´꒫`)

  • PSYCHO-w   2.白い烏

    「ニューヨークのライブスタジオで歌ったことがあってね。その日、舞台裏でマネージャーが殺されたの。強盗が入って……わたしがステージで身に付けてた宝石が目当てだったそうよ。 事情聴取も英語がままならないし、四苦八苦でさぁ〜。やっと日本語の分かるお巡りさんが来たけど、強盗が来たって全然信じてくれなくて。マネージャーと仲が悪かったから余計に。わたしがギャングに殺しを依頼したんじゃないか〜とか、馬鹿な事を疑われてさ。 やっとこ宿泊してるホテルに戻れたんだけど、もうフラフラで……」「そこでMに ? 」「そう。エレベーターホールで『お嬢さん、大丈夫ですか ? 』って。わたしもスタッフと離れてて、食べてないし寝てないし一人だし、憔悴してたのね。話の流れで、顔も知らないその男に、めちゃくちゃ愚痴ったのよ〜ふふふ。 食事を奢って貰ったの。それがさ、とにかく凄くゴージャスだったの。でも、わたしもまだ子供だったのね。品なくガッツいちゃったのよねぇ ! あははっ ! 思い出すだけで恥ずかしいわ ! スタッフも警察から開放されて……その直後、わたしたちを取り調べてた分署に、盗まれた宝石と、強盗の生首が送られてきた……」「首…… ? 余計に疑われそうですけど…… ? 」「だよねー。 でも仲間を殺られたギャングも同じ。わたし達が強盗を探して殺した、と思ったんでしょうね。ギャングのリーダーの逆鱗に触れて、わたしは誘拐されたの」「……」「全て失ったと思った。女性としての何もかもが奪われると覚悟してね。 死体が出れば幸運。バラバラにされて捨てられるんだろうなって思った頃、鉄のドアを思い切り蹴り開ける足が、光と共に入ってきた……。白いスラックスに、長い足と革靴……今でも忘れない」「Mがギャングのとこに助けに来たの ? 自分で ? 」

  • PSYCHO-w   game-4 1.隠れ家

    トツン……  軽い音を立てたドアに気付き、蛍は目を覚ました。  暗いが大きな出窓から、月明かりが部屋を照らしていた。  真理の家の三階。  屋根裏の三角形の部屋。そこにはシングルベッドと少しの家具、消耗品だけしかない。  寝る前に軽食でトーストを真理に用意され、二人はこの部屋に通された。 □『まさか本当にアイスを買いに行かせられるとはね。いつも我儘なんだよ』『お疲れ様。寝ていい ? 』『ああ。昨日は車だったからね。ゆっくり休もうか。  俺も隣に。はは。あったかい』 掛け布団の中で笑うルキを、蛍は戸惑った気分で見詰める。  どうしてそんな笑って自分といられるのかと。『おやすみ、ケイ。お父さんにはいつまで美果ちゃんといることになってるの ? 』『シルバーウイーク中は……ずっと……』『なんだ……あと二日かぁ……』 ハンガーにかかっている上着と武装コルセット。コルセットの重みに、針金がしなっている。それほど重い装備と、キツく締める為のバックル。以前から長く付けているのだろう、現にルキの腰は細く身長ほどの厚みが無い。  今、ルキはシャツ一枚で目の前にいる。その腰つきは、蛍は獲物を見たような妙な気分になるのだ。  目を閉じようとするルキの腹をそっと撫でる。『なんだよケイ……ふくく。くすぐったいってば』『細いなって……』『それだけ ? ケイ、素直じゃないな』 そう言い、布団の中へ潜って行く。『はぁ ? 違っ ! そんなつもりじゃねーよっ ! 』『アダッ !! 』 暴れた蛍の膝が、ルキの顔面にヒットしてしまった。『あ……ごめ……』『痛ったァ〜。てっきり、そうかと思うじゃん』『思わないよ。寝るってば。おやすみ』 固く目を閉じる。自分から寝てしまったら、もう何も気にならない。そんな蛍を胸に抱き寄せ、そのままルキも目を閉じる。(なんだよ

  • PSYCHO-w   43.乳母

    ルキが片足をあげて、踵から靴の中の水を流す。「ぐっちょぐちょ。靴くらい脱がせてくれてもいいでしょう。高いのにー」「知ったことじゃないわ。なんなのその格好。相変わらずおかしな事してたんでしょ……」「仕事だからさ」「あんた昔から嘘が下手よね。その血は仕事じゃないでしょ ? ケイくんかぁ。可愛いわね〜。 いい事考えた ! あの子を連れて隠居しちゃえば ? 」「彼も仕事の……半分は仕事の付き合いですし……彼には彼の生活がありますよ」「あ〜ヤダヤダ。その隙の無い返事。 それじゃあ、いつまでもあの子と恋人にならなくない ? あんたに恋人が必要とは言いきれないけど。 だいたい何 ? なんでゴースト ? あんなのおっさんが乗る車じゃん。趣味悪 ! マセラティにしなさいよ」「言いたい放題ですね……」 真理は一度煙草を消すと、今度はミントタブレットを口の中に流すようにしてボリボリ噛み砕く。「ふん。あんたがあたしの生活を奪ったんだもの。恨みたらたらよ」「貴女をMから離したかった。仕方が無かったんです」「別に……頼んでないわ。あんたをこんな馬鹿なイベント担当にだけはさせたくなかった」「……引退する時、御自身が暴れて過激なショーをしたせいでしょう ? 俺はそのままのスタイルを引き継いだだけです。 ……ケイには真理さんの事は言わないで置こうかと思ってたんです。でも気が変わって……」「ふぅーん。珍しい事もあるものね。あんた、他人に執着するんだ。 ねぇ……あの人も日本に来てるの ? 」 不意に真理の表情が曇る。「ええ。でももう日本を発ちましたよ。十日前です」「そう……

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status