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6.医者

last update Dernière mise à jour: 2025-04-19 07:54:59

 観覧者はモニター越しに皆、ルキの側近に着信を入れ始めた。特に男性観覧者を中心に、ルキに取り次ぐよう話が来る。

 美果の作ったデスマスクが欲しいのだ。

 それほど、希少な物だからだ。

 そもそも現代においてデスマスクの製造は違法では無いものの、貴重な物な事には変わりは無い。正しく作れる者も多くは無い。

購入した観覧者も、飾るには身内のマスクでは心が痛むし、客人が来た時も心象が悪い。

 だが、あれはどうだ ?

 美果の作り上げた女性のマスクは、まさにレリーフのように美しい。

 遺体の女性が誰もが認めるほどの美女だった為、余計にだ。

 二体目は男性。恐らく日本人だろうシワの多い、老年の男だ。

石膏がシャツに付くのも構わず、美果は作業を開始する。しかし、この老人にはエンバーミングは施さない。苦悶の表情で息絶えた時のままだった。

 やがて出来上がったそのマスクは、正確に男性を写す。

神経質そうなシワの入り方と毛量の多い上向きの眉。堅物そうなへの字口がガバッと開き牙を剥くかのような表情。

 それがマスクにすると、まるで仁王の様に仕上がった。東洋独特の男性神の強い畏怖のイメージ。和のテイストが好きな観覧者達は次々と連絡を入れ始める。

それだけ綺麗な美しさが無くとも、作品の個性は色濃く仕上がったのだった。

 三体目は子供を選んだ。男女の双子で、この子らもまさに天使のようだ。

 必死に型を取り石膏の準備をする美果は、自身の信じた芸術の道を行く……アーティストだった。しかし目の前にあるのは紛れもなく幼子であり、嫌でも死因を想像してしまう。並の人間なら精神的に摩耗が激しいはずだ。現に美果も作業は進むが、目の下が窪み、顔色は決していいとは言えない状態だった。

 ルキは校長室の椅子に凭れ、美果をモニターで観ていた。その側には二人の黒服が立っていた。

「随分、反応あるね」

 二人のプリペイドスマートフォンに、ひっきりなしに来る観覧者からの着信。ルキが鬱蒼しそうに、音のなる黒服のポケットを一瞥する。

この二人は他の黒服達とは装いが違う。タイがシルバーで、武装も充実している。

「はい。購入希望の話が立て続けに来ています……」

二人のうち、ルキに報告をしたのは褐色肌の大柄な男性の方だ。

「……ま〜、
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