ミサキは必死で祈った。しかし、その祈りが届くことはなかった。
ふいに、ざらついたコンクリートの地面に、誰かの足元から伸びる影が落ちる。ゆっくりと顔を上げると、倉庫裏の入り口に佇むマサトと目が合った。彼の視線は、ミサキの隣にいる男に向けられている。マサトの唇が小さく動いた。何かを呟いていたけれど、パニックと絶望感に襲われたミサキの頭には、その声は全く入ってこなかった。ただ、マサトの顔が、見たこともないほどに歪んでいたことだけが、脳裏に焼き付いた。
これで、わたしの人生は、マサトとの幸せな未来は終わってしまった。そう感じた瞬間、ミサキの全身から、さぁっと血の気が引いていく。寒気に襲われ、皮膚の毛穴がぶつぶつと粟立つ。体の力が抜け、膝から崩れ落ちそうになる。心の底から込み上げてくる恐怖と不安に、小さく体が震えだした。頭の中は警報が鳴り響くようにパニックに陥り、何も考えられない。
それでも、考えなければ……「どうしよう……」「終わった……」。いくら考えても、その言葉しか頭に浮かんでこない。そう、もう、これで、わたしは終わったんだ。ミサキはぎゅっと目を閉じた。瞼の裏に、楽しかった日々の思い出が、走馬灯のように次々と蘇っては消えていく。マサトと一緒に笑い合った校庭、夕焼けに染まる秘密基地、通学路で交わした他愛もない会話。幸せだったはずの記憶が、今はただ、鋭い刃となってミサキの心を切り刻む。喉の奥から、今にも嗚咽がこみ上げてきそうだった。
ああ……わたしの幸せなマサトとの将来は、終わってしまったんだな……。もう、いっそのこと死んでしまっても良いのかもしれない。ミサキはそう思い、小さく息を吐いた。マサトのいない人生なんて考えられない。この心の苦しみから解放されるのなら、死んで楽になりたい。胸の奥がぎゅっと締め付けられ、息を吸うことさえ苦しい。
その時、呆然とミサキを見つめていたマサトの目から、大粒の涙が流れ落ちた。それを見たミサキの目からも、堰を切ったように涙が零れ落ちる。
マサトは何も言わず、手に持っていたサマーベンチコートを、ミサキの肩に
「俺が見つけられなかったら、ずっと続いてたんだぞ……少しは信用してくれよ」 マサトの言葉に、ミサキは涙を流しながらも力強く頷いた。「うんっ」 その瞬間、マサトが「あっ!」と突然、大きな声を上げた。ミサキは心臓が飛び跳ねるのを感じ、恐怖に震えた。 なに!? 急に大声を出して……もしかして、他に問題があったの? 怖い……なに……? 血の気が引く。怖いよ……。「学校に休むって連絡してない!」「あ……わたしも」 二人は慌てて携帯を取り出し、学校に休む連絡を入れた。ミサキの母親には、マサトの家に迎えに来たミサキの具合が悪くなったので、自分の家で休ませていると電話で伝えた。母親はマサトにお礼を言い、ミサキのことは自分から学校に連絡しておくと話した。マサトが夕方には家まで送っていくと告げると、母親は再び安心したように、深く感謝の言葉を述べた。「さすが……マサトくんだね……。うちの親の信頼度が違うって感じっ♪」 ミサキはそう言って、ようやく笑顔を見せた。その声は弾むようで、まるで別人のようだった。「ようやく元気になったな」「当然だよっ。ストレスから解放された気分……地獄から天国に来た感じ〜♪ マサトくん……好きっ♡ ちゅっ♡」 ミサキは弾むような声でそう言うと、マサトの頬にキスをした。 あ……つい、キスしちゃった……。わたし、汚いのに……。 急に我に返ったミサキは、うつむいた。その表情の変化に、マサトはすぐに気づく。「なに、また急に暗い顔をしてんだよ……」「つい……マサトくんにキスしちゃって…&he
「それを両親が見て、顔が青ざめてさ……。先輩は父親にボコボコにされてた。俺には、土下座までして謝ってきたんだ」 マサトは言葉を選びながら続けた。「そのスマホは、父親にハンマーでぐちゃぐちゃに潰してもらった。メモリーカードもボロボロにしてもらったし、ネットに投稿したり、友達に送ったりした形跡も確認したけど、大丈夫だったぞ。もう、だれにも脅されることはないから、安心しろよ」 ミサキは、その言葉を理解するのに時間がかかった。マサトは、わたしの身代わりになって、一人で危険な場所に乗り込んでいってくれた。わたしのために、全てを終わらせてくれた……。その事実が、ミサキの心に深く重くのしかかった。 ミサキは、ただ呆然とマサトを見つめるしかなかった。え? マサト、そんなことまでしてくれてたの……? 見捨てられたとか、もう終わりだとか思っていた自分が、ひどく恥ずかしい。 ミサキの知らないところで、マサトは自分のことを思って、動いてくれていた。怒りや絶望に打ちひしがれている場合ではなかった。マサトは、わたしのたった一人の味方でいてくれた。あまりにも優しすぎる。マサトのことが、大好きだ。「……え? えっと……ってことは……もう……先輩に会わなくても大丈夫なの?」 か細い声で、ミサキは震える唇を動かした。まだ、信じられない気持ちでいっぱいだった。その言葉を聞いたマサトは、静かに頷いた。その小さな仕草に、ミサキの目から再び涙が溢れ出した。今度は、安堵と感謝の涙だった。 マサトは、少し照れたように言った。「当然だろ。まさか、まだ会いたかったとか? 俺、余計なことしちゃったか?」「ばかっ! ばかっ! 会いたくないし、もう二度と見たくもないよ……! ありがとう……本当に……ありがとう……。大好き……マサト
家の門まで着くと、マサトはミサキを振り返り、改めて尋ねた。その表情は真剣で、どこか迷いを帯びていた。「嫌だったら無理に誘わないけど? どうする?」 どうしよう……。迷惑をかけてしまうし、これからもきっと嫌な思いをさせてしまう。だけど、それでも、マサトと一緒にいたい。彼の隣で、少しでも長くこの温もりを感じていたい。「マサトくんが良ければ……」 ミサキは、か細い声で答えるのが精いっぱいだった。 マサトは、顔をしかめて言った。「おい。声が小さくて聞こえないし……お前、ミサキだろ? 元気出せよ!」 ミサキは、俯いたまま掠れた声で答えた。「元気出るわけないじゃん……」 マサトは何も言わず、ただ静かにミサキを見つめていたが、やがてため息をついた。「まぁ……入れよ。両親は仕事でいないけどな」 その言葉に、ミサキはぼんやりと頷いた。「うん……知ってる」 マサトは玄関のドアを完全に開け、ミサキを中に招き入れた。ミサキは躊躇いながらも、その温かい空間に足を踏み入れた。玄関には、マサトの靴と、昔二人で遊んだ時に買ったマスコットのキーホルダーが、無造作に置かれている。その光景が、ミサキの心をチクリと刺した。 うわぁ……もう二度とマサトの家には入れないって思っていたから、嬉しい……。 ミサキは心の中で呟いた。玄関に漂う、マサトの家の匂い。マサトの私服からほんのりと香る、彼の匂い。全てを記憶に刻み込もうと、ミサキはマサトの後ろ姿をじっと見つめた。この光景も、もう見れない。これが最後だ。 きっと、この後、別れ話になるのだろう。だけど、それでも、ちゃんと、わたしに直接別れを告げてくれるんだね。マサトは、最後まで優しい。そう思うと、ミサキの胸に温かさと、そして鋭い痛みが同時に込み上げてきた。 部屋に着くと
うぅ……わたしが何をしたっていうの……? どうして、こんなことになっちゃったんだろう……。ただ、マサトくんと一緒に幸せに暮らしたいだけだったのに……。 せっかく付き合えることになったのに、会っていても幸せだと感じられず、不安と罪悪感で心は満たされなかった。マサトとの初めてのエッチも、全く幸せじゃなかった。本当なら嬉しくて、心も体もとろけるように気持ち良いはずなのに。あの先輩のことを思い出してしまい、罪悪感に苛まれて、気持ち良いと感じることもできなかった。わたしって、やっぱり最低だ。彼氏との初めてのエッチの時に、先輩のことを思い出してしまうなんて。先輩とは何度もイっていたのに、彼氏とのエッチではイけなかった。 ミサキは、ぐしゃぐしゃになった顔を両手で覆い、嗚咽を漏らした。胸の奥に渦巻く黒い感情が、体を蝕んでいく。これは罰なのだろうか。マサトを裏切ったわたしへの、当然の報いなのだろうか。 気が付くと、朝だった。結局、全然眠れなかった。学校に行きたくない。食欲も無いし、今日は休みたいな……。 そんなことを考えていると、事情を知らない母親が部屋に入ってきた。「朝よ。早く起きて学校に行く支度をしちゃいなさい」「うん……」 ぼんやりとした返事を返し、学校に行く支度を済ませる。制服に着替えて、カバンを手にすると、再び重い気持ちが押し寄せてきた。 どうしよう……。マサトの家に寄った方が良いのかな……。いや、迷惑だよね……。会いたくもないし、顔も見たくないはずだ。でも、少し待っていて、マサトが家から出てきた顔くらいは、見ても良いよね……。これから会うことはなくなると思うけど……陰から見守っているよ、マサト。大好きだよ……これからも、ずっと……。 ミサキは心の中でそう呟き、ゆっく
ミサキは必死で祈った。しかし、その祈りが届くことはなかった。 ふいに、ざらついたコンクリートの地面に、誰かの足元から伸びる影が落ちる。ゆっくりと顔を上げると、倉庫裏の入り口に佇むマサトと目が合った。彼の視線は、ミサキの隣にいる男に向けられている。マサトの唇が小さく動いた。何かを呟いていたけれど、パニックと絶望感に襲われたミサキの頭には、その声は全く入ってこなかった。ただ、マサトの顔が、見たこともないほどに歪んでいたことだけが、脳裏に焼き付いた。 これで、わたしの人生は、マサトとの幸せな未来は終わってしまった。そう感じた瞬間、ミサキの全身から、さぁっと血の気が引いていく。寒気に襲われ、皮膚の毛穴がぶつぶつと粟立つ。体の力が抜け、膝から崩れ落ちそうになる。心の底から込み上げてくる恐怖と不安に、小さく体が震えだした。頭の中は警報が鳴り響くようにパニックに陥り、何も考えられない。 それでも、考えなければ……「どうしよう……」「終わった……」。いくら考えても、その言葉しか頭に浮かんでこない。そう、もう、これで、わたしは終わったんだ。ミサキはぎゅっと目を閉じた。瞼の裏に、楽しかった日々の思い出が、走馬灯のように次々と蘇っては消えていく。マサトと一緒に笑い合った校庭、夕焼けに染まる秘密基地、通学路で交わした他愛もない会話。幸せだったはずの記憶が、今はただ、鋭い刃となってミサキの心を切り刻む。喉の奥から、今にも嗚咽がこみ上げてきそうだった。 ああ……わたしの幸せなマサトとの将来は、終わってしまったんだな……。もう、いっそのこと死んでしまっても良いのかもしれない。ミサキはそう思い、小さく息を吐いた。マサトのいない人生なんて考えられない。この心の苦しみから解放されるのなら、死んで楽になりたい。胸の奥がぎゅっと締め付けられ、息を吸うことさえ苦しい。 その時、呆然とミサキを見つめていたマサトの目から、大粒の涙が流れ落ちた。それを見たミサキの目からも、堰を切ったように涙が零れ落ちる。 マサトは何も言わず、手に持っていたサマーベンチコートを、ミサキの肩に
「あ。あ。んっ。あっ。やぁっ……ダメ……ダメ……動いちゃイヤ! ……あぁんっ。いやぁっ。あぁっ……まだイッてるのに……あぁ……ダメ……動かないで……いやぁ……」 ミサキの悲鳴のような懇願は、先輩の耳には届かなかった。先輩はただ、ミサキの反応を面白がっているだけだった。「そんなに声を出して良いのか?」 その言葉は、ミサキの胸に突き刺さる。マサトが近くにいるというのに、自分はこんなにもみだらな声を上げてしまっている。羞恥と快楽の狭間で、ミサキの意識は混濁していく。「動かないで……! やぁ……動かないで……あっ……あっ……んっ。いやぁ……あぁん……あっ……んんっ……」 声を押し殺しながら、先輩の腰にしがみつく。しかし、先輩はわたしの声など気にも留めず、楽しそうに笑った。「静かにしてやってんだろ……セックス中だぞ……動かないと気持ち良くないだろ」 その言葉と共に、先輩は再び腰を動かし始めた。奥深くを突き上げられるたびに、全身に痺れるような快感が駆け巡る。「バレちゃう……いやぁ……いやぁ……だめ……」 わたしは頭の中が真っ白になり、ただただ先輩に身を任せることしかできなかった。遠くから聞こえるマサトくんの声が、さらにわたしの心を抉り、快楽と絶望の狭間に突き落とす。 先輩はミサキの悲鳴のような声を無視し、さらに激しく腰を動かした。ミサキは恐怖と快感でぐちゃぐちゃになりながら、マサトにバレてしまうのではないかと震えた。「出そう……お前が興奮して中がヒクッヒクッして気持ち良すぎ……彼氏が近くにいるから興奮してんだろ? そんでこの後、俺にたっぷり出された穴を彼氏に綺麗に舐めてもらうの想像して興奮してんだろ? お前最低だけど……最高だなっ」 先輩はそう言って、わたしを深く突き刺した。熱いものが、わたしの身体の奥に注ぎ込まれる。わたしは全身から力が抜け、身体を震わせた。その快感と、マサトくんへの罪悪感に、わたしは涙を流すことしかできなかった。「いやぁ……奥、気持ち良い……あぁん……奥に出されて、痺れちゃう……あぁ……気持ち良いよぉ……」 ミサキの口から漏れる喘ぎ声は、快感に満ちていた。先輩はミサキの腰を強く掴み、何度も中に出していく。ミサキは背中の冷たい壁に額を押し付け、快感に震える体を必死に堪えようとするが、もはや無意味だった。「ああぁっ。いやぁ……あぁん