LOGINそこで、ふ、と一匹が鼻をひくつかせる。
「ゲギャギャ」「……ゲェ」
ナイフを持った一匹が、勝手にしろと顎をしゃくる。
何かに気付いたゴブリンは運搬を二匹に任せ、再びトイレへと走って行った。
(……行ったか?)長く続いた緊張からの解放に、東条が身体を弛緩させた、
直後、「ギゲァッ!!」
「――っ!?」唐突に鼓膜を叩いた奇声にビクリと固まる。
手当たり次第に殴りつけ、陶器が壊れる音がする。しかし音には間隔があり、複数匹いるようには感じない。
(バレてるな、これ……)
彼は一度深く息を吸い込み、覚悟なんてできていないまま、思いっきり蓋を開いた。
ゴブリンが此方を向くのが見え、東条は急いで個室の中に飛び降りる。途中棍棒が飛んできたが、運良く扉に当たって防がれた。
地面に降りた彼はすぐさま扉を閉める。
しかし扉は先ほどの男を狩る経過でグラグラ。バリケードにはならない。ゴブリンは棍棒を拾い、新しい得物に歓喜し、扉に殴りかかっーー
「好、都合ッ!」
「グべっ!?」
た矢先、鼻っ面に扉が衝突し押し飛ばされる。
東条に最早隠れる気などない。内側から扉を蹴り飛ばしたのだ。
「ギッ、ゲアッ!!」
ゴブリンは自分にのしかかる扉を苛立たし気に退け、得物を探す、が、
「ゲッばッ!?ゴひゅっ!!かひゅっ――」
反応が遅れるゴブリンの顔面にフライパンの縁を叩き込んだ東条が、間髪入れず馬乗りになり喉を横から刺し貫いた。
すぐさま引き抜きゴブリンから離れる。うるさい心臓を押さえつけ、耳を澄まし、顔を少し出し外の様子を窺う。
こちらに走ってくるゴブリンと目が合うと、彼は迷わずトイレを飛び出した。
「フッフッフッ――はッはははっ……」
走っている途中も、刺した感触が熱を帯び体中から冷や汗が噴き出している。
何より、気を抜くと乾いた笑い声が腹から止めどなく溢れてくる。様々な情動がごちゃ混ぜになり、色々な感情を駄々洩れにしながら、走る、走る、走る――
「ギャッ!!ゲギャァッ!!」「グゲッ!!グゲァッ!!」
「チィッ」
東条は舌打ちし、進行方向を右にずらす。
今までいた場所はフロアの角、追い詰められれば秒で詰む。やり過ごすも迎え撃つも、四方を囲まれてないフロアの中央だ。
反転する際に相手の武器を確認し、心の中でもう一度舌打ちをした。
一匹はさっきと同じ棍棒、もう一匹はナイフ型の石器だった。
――運のいいことに奴らは足があまり早くなかった。東条はジグザグに商品棚の間を走り、一番デカい棚の裏に隠れる。そして息を殺し、通り過ぎるのを待つ。
「ゲギャっ!!ゲッゲッゲッ」「グゲァ」
見失った二匹が何か言い合いながら近づいてくる。
その足取りは慎重ながら、迷いがない。確実にこちらとの距離を詰めている。
(なにやって……臭いかっ)
鼻をひくつかせているのが見えた、瞬間、東条とナイフ持ちの目が交差する。
「っ!!らァッ!!」
彼は咄嗟に全力で棚を押し倒し、辺りに轟音が響かせた。
「ギャッ!?グエェッ、ゲアッゲアッ――」
棍棒持ちは巻き込むことに成功したが、ナイフ持ちには躱された。厄介な方に逃げられ悪態をつきたいが、相手がそれを許さない。
「ゲアアァァッ!!」
「――ッ!!」東条は振り下ろされたナイフを間一髪フライパンで受け止め、牛刀を振り抜くも空振りに終わった。
相手との間に二m弱の距離が空き、膠着状態となる。
「……スゥゥゥゥ、フゥゥゥゥ――」
彼はゴブリンから目を逸らさず、一つ深く息を吸い、吐き出す。体もだいぶ動くようになってきた。
今日ほど自分の身体能力に感謝したことはない。
武器を持ち替え、掌にべっとりついた汗を拭い、眼前の敵を睨みつけた。
生憎敵方と同じで目つきの悪さには定評がある。筋肉を収縮し、限界まで引き絞り――
「グウゥゥ!!」ナイフ持ちは苛立たし気に唸り威嚇する。
今まで殺してきた同種は、ここまで手強くはなかった。きっと、こいつを殺せば褒美を沢山貰えるはずだ。
ナイフを握り直し、喉元に狙いを定め――
「ォゥルァアッ!!」 「グゥウアッ、ッ!?ガハァッ」同時に踏み込み、
瞬間東条が全力でぶん投げた鋼鉄のフライパンが、斜めに回転しながらぶっ飛んでいく。ナイフ持ちはとっさにガードしようとするも、投擲された距離が近すぎる。ナイフを弾き顔面に直撃した。
ナイフ持ちは鼻血をまき散らしながら、霞む脳裏で驚愕する。
この距離で武器を手放す奴があるか!?と。 たたらを踏み、睨みつけ、目の前に迫る血を靡く銀光に目を見開いた。 ――彼はフライパンを全力でぶん投げた勢いそのまま、牛刀を右に持ち替え敵に向かって突進、相手が咄嗟に盾にしたナイフを、袈裟切りで指ごと弾き飛ばす。パタタっと頬に血が飛び、ナイフ持ちが恐怖に一瞬の硬直を見せた。
「フッッ!!」
裂帛の呼気の下、袈裟切りの勢いを利用し、敵の喉笛を横薙ぎに切り飛ばした。
「ふうッふうッふうっ――」
目の前では、ゴブリンが夥しい量の血を散らしながら声にならない悲鳴を上げている。
生に足掻く姿は悲痛ではあるが、しかし数秒もすると動かなくなった。
「ふぅぅぅ――……だぁー気持ちわりぃっ」
濃厚な鉄臭さが辺りを包んでおり、殺しの感触が気分の悪さに拍車をかける。
東条は一先ず生き残ったことを素直に喜ぼうとし、ふ、と思い出す。
(そういえばもう一っぴ……)
後ろでカサッと音がして振り返り、
血走った目で飛び上がるゴブリンと、自分の側頭部の真横まで迫った棍棒を見つめる――
「あっ」
死んだ。無意識に理解し、ただただ茫然と迫りくる棍棒を眺めることしかできない。
近づいて、近づいて、近づいて、耳の産毛に触れ、耳に当たろうかという瞬間、
棍棒が逆方向にぶっ飛んだ。
「……は?」
死んだと思ったら、振り抜かれた棍棒がゴブリンもろとも逆方向に飛んでいった。 突然のこと過ぎて頭が回らない。左の方ではゴブリンが叫びながら右肩を抑えて転がっている。空中でいきなり起動が変わったから肩でも外れたのだろう。
彼は誰かが助けてくれたのかと考え、首をひねる。
と、目の前にそれはあった。黒い、どこまでも暗い黒。全てを飲み込んでしまいそうな、漆黒の『円』がそこにはあった。
そして、直感した。これは自分だ。
他の誰でもない、自分が出し、自分がゴブリンを吹き飛ばしたのだと。
段々と死の淵から浮かび上がってきた東条の思考力が、今やるべきことを即断する。
牛刀をもう一度強く握りしめ、残った一匹に向かって地を蹴る。
痛みに顔をゆがめたゴブリンは、向かってくる人間を見て無事な方の手で棍棒を拾い上げた。
ゴブリンが間合いに入り棍棒を振るも、利き腕とは比べ物にならないほど精度が落ちている上、本来両腕で使う武器を片腕で扱えるわけがなく、身体が持っていかれる。
「ラァッッ!!」
東条はバランスを崩した敵を見て、距離を詰めおもっきし顎裏を蹴り上げる。
砕けた歯が中を舞う中、倒れるゴブリンにまたがり胸に刃を突き立てた。 ごぼごぼと不快な音を立てて数度藻掻いた後、ゴブリンは糸が切れた様に動かなくなった。「……ふぅぅぅ――」
感覚がマヒしているのか、単なる慣れなのか、身体の強張りが全くない。
むしろ、多少の嫌悪感はあるも、それを上回る昂揚感とでもいうべきか、一種の快楽物質が脳を、全身を駆け巡っている。東条が戦いの余韻に侵されながら辺りを見回すと、やはりある、というかついてくる。
一定の距離を保ってついてくる。この物体を検証したいのは山々だが、まずは一刻も早くこの場から離れるべきだ。
戦闘音に気付いて他のモンスターが来る可能性がある。
それに血の匂いが凄い。ゴブリンどもは鼻が利くように見えた。糞に群がるハエよろしく集まってくるかもしれない。
彼は急いでフライパンを拾い、隠れる場所を探す。
改めて見てみると、室内の至る所に木が生えているのが確認できる。
トレントという木型のモンスターを警戒するが、時間が惜しい。
物は試しだ、と少し離れた場所にある一際大きい一本に目をつけ、その場所まで小走りで向かった。
「やっぱ殆どいないな」 練り歩くも、檻や柵はどれも木々によって壊され、本来の動物の姿は無い。 加えてモンスターの姿も見えない。 理由は単純、「あの兄弟が強すぎる。皆怯えて近づかない」 先の二種は、東条からしても出会った中で二位と四位に入るほどのヤバさだ。 彼等の放つ魔力は、生半可なモンスターが近づくことを許さない。 ――そんな二人は西園を抜け、東園に行く為林の中の長い橋を歩いていく。「……」「……」 しかし次第に口数は減り、霧雨が葉を打つ音が静寂を際立たせていた。 ……二人は気付いたのだ。 入園前に感じていた圧倒的な気配は、あの二種のものではない。 あの二種の様な、凶暴で、攻撃的な殺気ではない。 もっと雄大で、静かで、堂々たるものだ。「ノエル」「ん」 乗せられる手をしっかりと握り返し、纏めて全身を漆黒で覆った。 万が一があっても、絶対に離さないように。 ……この先にいるのだ。その存在が。 二人の肌を、緊張と興奮が走る。 只のモンスターの気配なら、そこに必ず敵意と恐怖が付き纏う。 今感じている程の魔力にそれが付随していたなら、二人して迷わず逃げただろう。 しかしこの先に待つモンスターからは、それが一切感じられない。 東条が入口で不思議な感覚に襲われたのも、全く敵意のない魔力に晒されるのが初めてだったからだ。 あそこで大丈夫と思ってしまった時点で、何か普通とは違うモノがいることを察するべきだった。 他者の感情すら麻痺させるほどの、超常的存在。 ……ただ、危険でないと分かったら分かったで、彼等の探求心は抑えられなかっただろうが。 ――林道を抜け、薄霧にけぶる遠方が段々と姿を現していく。 一歩進むごとに汗に湿る掌。 好奇心と緊張に加速する心臓。 ――眼前が開け、遂に、『それ』は彼等の前にその威容を晒した。「……」「……わぁ」 ――『それ』は、正に山であった。 体高二十m。 全長四十m。 皮膚は苔や岩、樹木に覆われ殆ど見えないが、所々から白い唐草模様の肌が覗いている。 頭部に生える二対の牙は猛々しく。 三本の長い鼻が、ゆっくりとトレントを毟っては口の中に運んでいた。「……象」「象、ではないな」 デカすぎて初めは建物だと思っていたくらいだ。 ただ、真に特異なのはそのデカさではない。 辺
パタパタ――と耳心地の良い律動が、並んで歩く二つのレインコートを叩く。 雫の重さで木の葉が頷き、大地に落ちては飛沫を上げる。 気怠気な空模様は昨夜と変わらず、降り続ける地雨は未だ止む気配を見せない。「ピッチャピッチャ」「チャップチャップ」「ラン、ラン、ルー」「……何か違くね?」 水溜りにジャンプする少女は、本日もカメラ片手に上機嫌。 天からの恵みを、余すことなく楽しんでいた。「もうすぐ?」「あぁ。……あれじゃね?」 煩わしい人間関係から解放された二人は、予定変わらず帝国大学に向けて進んでいた。 人がいるかいないかは関係ない。一応行ったという事実があればそれでいいのだ。 目の前に鎮座するのは、あの有名な赤門……ではなく、苔生し蔦生え木々に取り込まれた、緑門。 どうすればこうなるのか、年数を感じさせる風格は、宛ら異界の門である。「希望薄」「さっさと抜けちまうか」 植林地帯と化した校内に足を踏み入れる彼等は、生存者に期待せず、その先の目的地へ胸を高鳴らせるのだった。 ――スピーカーを回収し、跳ねる様に包囲網を突破する。 結論、生存者ゼロ。 緑に溢れかえる広大な敷地内、三か所に分けて試したが何れも反応なし。 二人は一番高い校舎によじ登り、屋上で休んでいた怪鳥を蹴り飛ばした。「大分騒いじまったからな」「わんさかわんさか」 眼下では、自分達の縄張りを荒らされ、怒りに震える有象無象が殺し合っている。 種族が違えば味方ではないのだろう。 そこに標的を見失った苛立ちが加わり、大乱闘が起きていた。 空から突撃してくるモンスターの嘴を掴み、叩き折る。「ん」「何だ、欲しいのか?」 両手を突き出すノエルに残骸を差し出すが、叩き落とされる。「違う。おんぶ」「……ガキかよお前」 あの時は最初だったから大事を取っておんぶしたのだ。 やり方が確立された今、甘やかす必要などない。「全力で身体強化すりゃ俺より早く走れんだろ」「強化苦手。ん」「……ったく」 中腰になる東条の背中に、バッタも斯くやな勢いで飛びつく。「ゴ―」「はいはいっ」 足部分を武装し飛び降りる東条に合わせ、ノエルが右手を振り上げる。 瞬間、地面が両側に抉れ、モンスターを巻き込み滑り落としていく。 後には一本のまっさらな道が出来上がった。「こりゃ
§『お前ら、プレミアム入ったか?』 『愚問』『愚問』 『愚問』『金払ってないのが悪いくらいだったからな』 『間違いない』『それじゃあ冒険に』 『レッツゴー‼』――『おい、まさかノエルちゃん、風呂にカメラ持ってく気か?』 『何も問題ない。日本はそういう文化だ』『そうだぞノエルちゃん。何も問題ない』 『ガンガン持ってこう』『クズしかいねぇ……』『ん?おい待てカオナシさん。何でノエルちゃんと一緒にいる⁉』 『まさかこいつ、一緒に入る気じゃ⁉』『女⁉』 『な訳あるか‼あ、余計な事言うんじゃねぇ‼』『カメラが⁉』『許さねぇぞカオナシ‼テメェだけは絶対に許さねぇ‼』『ああああぁぁぁあああ』『……クズしかいねぇ』――『何だあの生物。尻尾振ってるぞ?』 『めっちゃ可愛い』『モンスターなのか?』 『凶暴なのばっかじゃないんだな』『奥が深い』『次は女子大?』 『なぜ?』 『……成程。この動画を金稼ぎに使うなら、生存者を助けた方が好感度が上がる』『あーなる』 『お前頭いいな』『そこで女子大を選ぶカオナシさんは分かってる』 『さあJDを救いに行こう!』『おー』――『……おー……』 『すげぇ緑だな』『まぁ人が集まる場所は、必然的にモンスターも集まりやすいからな』『かと言って人探しの為に歩くなんて二人はしないだろうし』『大きな避難場所にいる人以外は彼等の施し受けれそうにないな』 『なむ』『南無』 『ん?スピーカー?』――『ノエルちゃん頭いい子』 『才色兼備』『将来有望』 『焼肉定食』『見た感じ人いなそうだが』 『スピーカーめっちゃ囲まれてるw』『見せてくれカオナシさん!』 『あんたの力を俺達に!』『いっけーーー!』 『はぇえええええ!』『体感速度やべぇ!』 『一撃で蜥蜴吹っ飛んだぞ!』『やっぱこの人バケモンだ』『次どこ行くと思う?』 『方向からして帝大かと』『あー。日本一の学生だ
「快人?そんなに警戒する必要あるの?」 壁に小さな穴を作り、外を覗く彼にキララが尋ねる。(見ていれば奴の能力のヒントが分かると思ったけど、皆目見当がつかない。 奴は僕の能力に気付いている節があった。僕と同じ部類と見るのが妥当か? じゃあ、あの黒いのは何だ?クソっ)「快人?」「あ、あぁ。ごめん」 心配気な彼女に、無理矢理笑顔を作る。「もし何かしてきたらぶっ飛ばしちゃえばいいじゃん!」 言い切るキララは、彼の強さを疑っていない。 そんな健気な姿に、快人の笑みが引き攣る。 快人は気付いているのだ。あの得体の知れない何かが、自分より格上だという事実に。 黒い男だけではない。魔力量で言ったら、女の方がずば抜けて高い。 肌を伝う冷や汗と鳥肌は、初めてモンスターに襲われたあの時を思い出させる。 大学の帰り、彼はいつも通りネカフェで漫画を読んでいると、突如叫び声が聞こえモンスターが雪崩れ込んできた。 店内を必死に逃げるが、追いつかれ、傷を負わされてしまう。 目前に迫る鋭い牙。目を見開く自分。逃げたくても動かない身体。 瞬間、恐怖に付随する、死にたくないという叫びにに呼応したのか、床が盛り上がりモンスターを天井に打ち上げた。 固まる彼だが、ふ、と気付く。 店内にいるモンスターの位置が分かるのだ。一匹一匹、鮮明に。 彼はそれから個室に隠れ、近づいてくるモンスターを察知して圧殺しまくった。 掃討する頃には、彼を慕う仲間もでき、外から避難民もやってきた。 皆が彼を頼り、彼に畏怖していた。 ……順調だったのだ。全てが順調だった。 友達もできず、毎日を一人で過ごし、気力もなく生きていた自分が、遂に主役になれる時がきたのだ。 それだというのに、いきなり来た奴らが自分の領域を犯そうとしている。 邪魔するものは敵、皆敵だ。 ……いざとなったら……、「……僕よりは弱い。うん。僕よりは弱い。……行こうキララ」「うんっ。次は何のゲームする?」「好きなので良いよ」 ただただ、彼は自分の城を取られたくないだけだったのだ。 人を見下し、顎で使うことに快感を覚え、異を唱える者は切り捨てる。 さながらそれは、自らを王と錯覚した、愚者の様であった。「まささん、有難うございました」「「「ごちそうさまでしたっ」」」大勢の者に頭を下げられる東条は
「君達、心優しい旅人が食事を恵んでくれるようだ。一度外に出てくれ。早く」 突然の指示に狼狽える避難民だが、抵抗する意思もない彼等は怯えながらも快人についていく。 外に出た総勢二十数人の集団は、自分達の先に四人の若者がいるのを見て安堵した。 普段から素っ気なくも、優しく接してくれるα、β隊の八人は、快人なんかよりもよっぽど信頼できる人達だ。 そんな四人の方に歩き出す集団を確認し、……快人は背を向けた。「キララ、もう少し下がってくれ」「わかった」「……あれ?快人さ「グランドウォール」 立ち去る快人に気付いた一人が名前を呼ぶも、声は届く前に堅牢な土壁に阻まれる。 一瞬にして拠点を囲む様に自分達とを分断した五mの壁に、誰もが唖然とする。 そして脳裏を過る。囮の文字。「嘘だろ⁉」「お願い助けて!」「子供だけでも!」 大騒ぎになる、寸前、「落ち着いて下さい!大丈夫ですから!」 快人が壁を張ると同時に開けた穴を通り、中年が声を張り上げた。「リーダーはこの方を信頼していないだけです!皆さん普通に戻れますので心配しなくて大丈夫です!」 前に出る東条に数人が怯えるが、お構いなしに洗濯機を地面に下ろす。「こん中に食べ物入ってるんで、好きなだけどうぞ」 そう言って再び下がる東条は、彼等を怖がらせないよう、なるべく距離を取って地べたに腰を下ろした。 大量の食料を配っていく中年と、その周りに広がる食事風景を遠目に見る。「ガリガリ」「あぁ。まともに食わせてもらってないんだろうな」 コンビニで聞いていたため、然程驚きはしない。「可哀想?」「別に」 東条は大して興味も無い、と空を見上げ、ふわふわと揺蕩う綿雲を眺める。「何もできないし、何もしないし、何もしようとしてないんだろ?じゃあ戦える人間優先に飯配んの当然だろ」 嘗て自分がいた場所では、皆が一人一人出来ることを探し、互いに尊重し合い助け合っていた。 全力で生きていたからこそ、誰も卑屈にならず、自暴自棄に陥らなかった。 自らの存在意義を確立するというのは、集団の中では必須のスキルだ。それで心持も変わるし、活力も湧いてくる。 ただそれも、上に立つ者によって大きく左右されるのは否めない。 もし自分が最初からあの場にいて、有り得ないがリーダーをしていたら、きっとここと似たような環境になっ
「……あのおっさん達無事かな」「……」 ネットカフェの外、バリケードの内側。 軽食を食み、休憩をする四人の若者達がいた。 彼等の表情は一様にして暗く、充満する空気もどことなく重い。「強く言い過ぎたかな」「そんなことねぇよ。あっちも俺らを売ろうとしたんだ。 ……どっちが間違ってたとかじゃねぇんだよ。俺もあっちの立場なら同じことをした」 あまり話す間柄ではないといえ、こき使われる者同士今まで生き残ってきた仲だ。 なんだかんだ互いに共感し、心配し合っているのも事実だった。 だからと言って何かできるという訳でもないのだが……。「……俺達なら、四人でも特区出れんじゃないかな?」 いつも話題に上がる脱出計画。しかし出る答えも、いつもと同じ。「常に張り詰めて、夜もぐっすり眠れない中、いつ来るかも分からない襲撃に怯えるんだ。お前耐えれんのか?」「……」 全員が黙り込んでしまう。その沈黙が彼等の意思を代弁している。「……それに見たろ。リーダーが戦ってたホブってやつ。あんなのに勝てると思う程、俺は自惚れてねぇよ」 一度だけ見た事のある、快人の戦闘。 その時に戦っていた相手は、自分達では到底届かないレベルの敵であった。 そして快人は、そんな敵を圧倒していた。 策も無く出たら確実に死ぬ。非情な現実を、彼等はあの場で実感したのだ。「たまに出てはレベル上げ、持ってきたもんは全部自分とあの女の物。 そもそも何だよあのクソギャルっ、体で媚び売りやがって、余裕あんならガリガリに痩せたあいつらに分けてやれよっ「おい、……落ち着け」 感情的になる一人を、もう一人が冷静に宥める。「聞かれたら即追放だぞ。聞かれなくても不味い。その状態であいつの前に出るなよ?」「……分かってるよ。わりぃ」 ――雑談も区切りがつき、鍛錬に戻ろうと立ち上がった。矢先、「――おいっ、何が来た!」「え?」 ドアを開け、快人とキララが飛び出してきた。 初めて見る快人の焦燥に、隣にいる彼女も焦っている。「チッ、速く外を確認しろっ。何かいる」 命令を受けた四人は、慌てて土で造られた高台に上り、恐る恐るバリケードの外を眺める。「……んだよ、おっさんじゃねぇか。と、誰だあれ?」 β隊の後ろには、見たことのない顔が二つ並んでいた。「もしもしリーダー、今帰ったので







