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作者: 美桜
last update 公開日: 2026-01-02 18:27:03

3年生の終わり、相変わらず仲良くしていた華子が慌てたように教室に駆け込んで来て、周りをキョロキョロと警戒した後、コソッと麻沙美に耳打ちした。

「真田くん、卒業するんだってっ」

「え…!?」

麻沙美は信じられないことを聞いたというように少し身を引き、マジマジと華子の顔を見た。

「どういうこと?」

真剣な顔で尋ねる麻沙美に、華子も真面目な顔で口を開いた。

「真田くん、この前の試験、進級試験じゃなくて卒業試験受けたって」

「伯父さんが言ってたの?」

そう訊くと、華子は大きく頷いた。

そして麻沙美は、それを見て呆然とした。

嘘でしょ?卒業なんて…。確かに彼なら試験にも受かるだろうけど、そんな…。あと、一年あると思ってたのに…。

麻沙美は今まで、准とは良くも悪くもない関係を維持してきていた。

彼は基本的に人を寄せ付けないし、話しかければ応えるけれど、だからといって特に親しくなったような感じは抱かせなかった。

昔、ちょっとだけ2人の仲を噂された時に少しばかり気不味い雰囲気になりはしたものの、その後は普通だったので麻沙美としても特にそれを引きずることもなかった。本当は進展したかったけど、無理だった。

だから、彼女はこの一年にかけていた。

卒業してしまえば、これまでのように頻繁に顔を合わせることなどなくなるだろう。彼は真田グループの後継者としてきっと、今まで以上に忙しくなるし、自分だって、父親による嫁ぎ先探しで学生の頃のようには自由に誰かと交流などできなくなる。

どうしよう…。積極的に声をかけていくべき?でも…。

准はいつもボディーガードたちに守られていた。彼にとって適当にお喋りする友人など必要ないのだというように、それはもう、徹底的なガードをされていたのだ。

といっても、本人に積極的に友人を作る気があればここまでガードされることはなかったと思うので、それがないということは、言わずもがなということだ。

麻沙美はいろいろと考えた末、〝決めた〟とばかりに顔を上げ、一人頷いた。

*

休日ー。

「准」

父親の呼びかけに、芽衣のお絵かきに付き合っていた准が振り返った。

彼は使用人に彼女を見ているよう言って立ち上がると、リビングのソファに座っている怜士の下へと向かった。そして父親の向かいに座ると、目の前に出された物に目を走らせた。

「なんですか、これ…?」

その眉は不快げに顰められ、尋ねる声にも険が含まれていた。それが何か、彼にはすぐに分かったのだ。

「釣り書だ」

そう答える父親をきっと睨み、手にした書類をバサッと投げ出した。

「そんなことは言われなくても分かりますよ。僕が言いたいのは、なぜこんなものが僕に来るのか?ということです」

「……」

怜士はカチ…と煙草に火をつけ、一口深く吸い込んだ。

それを見た准は「父さん」、と芽衣のいる所での喫煙を窘めた。

「……」

怜士は手を振ることでそれを了承し、吸い込んだ煙を吐き出すとすぐに灰皿にそれを押し潰した。そして面倒くさそうに口を開いたのだった。

「俺に言われてもな。昨日、慈善パーティーに行った時、目の前に突き出されて思わず受け取っちまったんだよ」

「思わず、ですか…」

呆れたように怜士を見て、准はため息をついた。

書類と一緒に渡された、いわゆる〝お見合い写真〟にはよく見知った女性が写っていた。

有賀麻沙美。同じピアノ科のクラスメイトだ。

写真の中の彼女は名家の令嬢らしく、華やかな色合いでありながら落ち着いた柄の美しい振袖を着て、優しく慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。

だが准はそれを見ても特に感想もなく、興味なさげにその見合い写真から目を逸らした。

「気に入らんか?」

怜士は薄っすらと嗤い、息子の顔を観察した。

准もそれをわかった上で深くため息をつき、口を開いた。

「彼女自身のことを仰っているのなら、〝興味ない〟としか言えません。ですが、このやり様はとても腹立たしいです」

「ほう…?」

父親が片眉を上げて続きを促すのに、准は苦々しい思いで答えた。

「彼女とは、高校を卒業するまでずっと同じ学校に通っていました。…それはご存じですよね?」

確認すると、やはり怜士は肯定した。

「小学部を卒業するまでは、本当に普通の、ただの同級生だったんです。でもー」

中等部に上がってから、彼女は変わった。同じクラスになった時はいつも、違うクラスの時も休み時間になるといつも気がつけば准の視界に入るところにいて、目が合うと意味深な微笑みを浮かべていたのだ。

始めは何か用でもあるのかと思ってこちらから声をかけていたのだが、そんなことは全くなく、それどころか〝麻沙美に気が付くといつも准が声をかけてくる〟とあらぬ噂までたてられる始末だった。

それには思春期だった准も若干慌ててしまい、焦って否定したはずが誤解を助長する結果を招き、ほとほと困ってしまった記憶がある。

そういった噂が大好きな年頃の同級生たちが2人を囃し立て、それを一方の麻沙美が否定しないものだから益々彼らも増長して、遂には担任に注意までされてしまったのだ。

「節度を持ったお付き合いをしなさい」

と。

冗談じゃなかった。准はこの手の女が昔から一番嫌いなのだ。

「もう僕に近づかないでほしい」

職員室を出た所でそう言うと、麻沙美は目をパチパチと瞬き、言った。

「どうして?私たちいずれ婚約するんだから、少しくらい噂されても別にいいじゃない?」

「は…?」

これには准の方が驚いてしまった。思わず被っていた猫がずり落ちるほどだった。

「誰が婚約するって!?冗談じゃない!寝言は寝て言えよっ」

「え……」

麻沙美は一瞬にして青褪めた。

だって、お父さんがそう言ってたし…。他の人だって、皆私たちは釣り合いが取れてるって言ってたのに…。

彼女は穏やかで優しくて、紳士だと思っていた准の突然の激昂に、ぶるぶると震えた。

准はマズイな…とは思ったが、この単なる思い込みだけで自分に迷惑をかけた彼女が腹立たしくて、もうこれ以上話したくないと思ってしまった。

そこで彼はプイッと彼女を置き去りにして、教室へと戻ったのだった。

「わかってますよ。そんなことがあったのに報告もせず、放置してたのは悪手でした…」

咎めるような父親の視線に、准はまたため息をついた。

それからしばらく、彼はとても微妙な立場に立たされた。

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