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第50話 休日③

Author: 霞花怜
last update Last Updated: 2025-07-02 19:00:35

「報告書の事件があった日、積木君は僕の講義を欠席している。晴翔君にメールして、部屋を出たのを確認してから、机に報告書を仕込むのは可能だ」

 あの時なら、警備員はまだ二階に常駐していない。

 誰もいない隙に入り込むのは、難しくない。

「でも、鍵……。そうだ、鍵。あの時、慌てて部屋を出たから、鍵を閉め忘れた気がする」

 思い出したように、晴翔が呟いた。

「講義が終わって帰ってきた時、鍵が開いていたんだ。あの時は、急用で忘れたのかな程度にしか、思っていなかったけど。仮に鍵が締まっていても、開ける手段はあったかもしれないね」

 理玖の研究室がスマートキーになったのは、報告書の事件の後だ。

 弁当窃盗の事件を受けて変えた鍵は同種の差し込み型で、型番を変えただけだった。

 慶愛大は大学の歴史と同じくらい建物も古い。建替え建増しはしているが、理玖の研究室がある第一研究棟は、現存する校舎の中で一番古い。

 鍵のピッキング程度、多少の知識があれば可能だったろう。

「じゃぁ、弁当の窃盗は? 金曜日の午前中に理玖さんが研究室を開ける時間なんて、講義くらいでしょ? その時は、積木君は講義に出席していましたよね?」

 4/18は金曜日で、午前中に講義があった。

 理玖が、弁当が鞄に入っていないと気が付いたのは、昼休憩の直前だ。

「十八日は、一年生の三回目の講義だよね。僕も記憶が曖昧なんだけど、積木君に、講義で使ってるパワポを資料で欲しいって言われたのが、あの日だった気がする。遅刻した時や欠席した時に聞き逃した分を知りたい、みたいな話をされたんだ」

 晴翔が思い出したような顔をした。

「紙ベースが良いか、データが良いかって相談してくれた、アレですか。確か……、四回目が間に合わなくて五回目から講義開始後の|D

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