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36.月詠見の悪巧み①

Author: 霞花怜
last update Last Updated: 2025-07-06 18:00:20

 広い部屋の中で、四人は膝を突き合わせて小さく纏まって話をしていた。

「淤加美からしたら、確かに気に入らないさ。蒼玉の謁見なしに番にした挙句、自分に御披露目する前に、私らの加護を貰ってくる状態だからね」

 日美子の言葉に、蒼愛と紅優は同じように息を飲んだ。

「しかも蒼愛は一人で色彩の宝石を作れる異才だ。絶対に欲しがるだろうねぇ」

 続いた月詠見の言葉に、二人して顔が下がる。

「だから最初から、あげちゃえばいいのさ」

 飛び出した月詠見の提案に、蒼愛と紅優は揃って顔を上げて首を横に振った。

「それじゃ、相談に来た意味がありませんよ」

 紅優が前のめりになっている。

 いつもの紅優らしからぬ、というより、普段の蒼愛みたいだなと思った。

「番や神子としてあげるんじゃなくってさ、側仕として働くんだよ。あくまで紅優の番としてね」

「それ、良いかもしれないねぇ」

 月詠見の提案に、日美子があっさり同意した。

「蒼愛が色彩の宝石を作れる以上、行く行くは紅優と均衡を保つ役割を担っていくようになる。国の中の状況を覚えるための勉強とでも話せばいいし、自分たちもそう思えばいい」

 月詠見の説明が、蒼愛には納得できた。

 だが、紅優の顔は晴れない。

「俺としては、淤加美様の近くに蒼愛を置くのが不安です」

 紅優の耳が寝ている。

 本当に不安なんだと思った。

「そんなに嫌いかい? 淤加美は、まぁ、お世辞にも付き合い易いとは言わないけどさ。そこまで嫌な奴でもないと思うよ」

 日美子が引き気味に淤加美を擁護した。

「嫌いではなくて、なんというか。只でさえ蒼愛は蒼玉で、本来なら淤加美様の元に在るべき存在です。一緒に過ごしたら、蒼愛自身の善さまで教える羽目になってしまう気がして、淤加美様に余計に気に入られてしまうのではないかと」

 日美子と月詠見が同じタイミングで吹き出した。

 紅優が何とも言えない表情で二人を見詰める。

(紅優は日美子様と月詠見様の前だと、子供みたいだなぁ

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     日ノ宮で月詠見たちと悪巧みのような取引のような話合いをした後。 次の日には月詠見より報せがあり、その次の日には水ノ宮に行く流れになった。 月詠見の根回しの速さは圧巻だ。さすが神様だと思った。(月詠見様は、こうなるって、わかっていたのかな) 紅優が黒曜に、日ノ神と暗ノ神に繋ぎを作ってくれと話してからの流れも速かった。 もしかしたら紅優の思考を読んで待ち構えていたのかもしれないと思った。(月詠見様って、紅優のお父さんみたいだった) 緩くてニコニコしていながら本心がわからない感じの、かなり癖が強い神様ではあったが。 父親というものがいたら、あんな感じなのかもしれないと思った。 内容がどうでも常に軽い話口調も、普段の紅優と似ている。(日美子様は、物語とかに出てくるお母さんぽかったもんね) そんなことを考えながら、紅優が待つ居間へ向かう。「蒼愛、今日の着物は大人っぽいね。落ち着いた色味も似合うよ」 紅優が頬を撫でてキスしてくれる。 今日は水ノ神様に会いに行くということで、青と白を基調にした着物を着ていた。 柄や色味を合わせたので、紅優とお揃いのように見える。 嬉しくて、照れ臭い。「紅優も、似合ってる。お揃いみたいで、嬉しい」 相変わらず俯いてしまう顔で、目だけを上げる。 紅優が蒼愛の額に口付けた。「髪も綺麗に整えたのに、頭を撫でたら崩れてしまうからね。今日は額に、あとは、こっち」 唇が重なって、妖力が流れ込む。 代わりに霊力を吸い上げられて、気持ち良くてうっとりした。「水ノ宮は、街を通り越した大きな湖の上にあるんだ。ちょっと遠いから、最初から空を走ろう」 玄関を出ると、紅優が早速、妖狐の姿になった。 背中に乗ると、空へと駆け上がる。 あっという間に屋敷が豆粒のように小さくなった。「うわぁ! 紅優、速いね! すごいね!」「ふふ、蒼愛はこの姿を怖がらずに喜んでくれるから、嬉しいよ」

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    「これで蒼愛は六つの属性の力総てを使えるようになったわけだけど。もう一度、色彩の宝石を作ってみる?」 月詠見の提案を日美子が慌てて止めた。「何言ってるのさ。あれだけ集中力が必要な力をそう何度もやらせたら、蒼愛が疲れて動けなくなるだろ」「そうかなぁ。蒼愛なら出来ちゃいそうだけど」「自分が見たいからって無理させるんじゃないよ」 月詠見と日美子が言い合いを始めてしまった。 蒼愛は、おずおずと手を上げた。「えっと、あの……、大丈夫だと思います」 二人が黙ったまま蒼愛を見詰める。 居た堪れなくて、蒼愛は紅優を振り返った。「出来そうな気がするんだけど、やってみてもいい?」「蒼愛ができると思うなら、いいよ」 蒼愛の髪に口付けて、紅優が頷いてくれた。 途端に安堵が広がる。「ほらね、出来そうだって。紅優もいいってさ」 月詠見が得意げに日美子に捲し立てた。「日美子様、心配してくださって、ありがとうございます。でもきっと、大丈夫です。お二人の力はとても温かいから。日美子様は温かくて優しいし、月詠見様は適当そうだけど、優しい神様なんだって、神力で感じました」 蒼愛の話を聞いて、日美子が吹き出した。「そうかい、なら、反対しないよ。やって見せておくれ、蒼愛」 日美子の目が、月詠見に向く。 ちょっとだけ拗ねたような顔は、子供っぽく見えた。「じゃぁ、作ってみます」 最初と同じように、自分の手を重ねる。 目を閉じて集中する蒼愛を、後ろから紅優が包んでくれる。とても安心できた。 手を少しずつ開いて、霊力を練り、集中する。 直径二㎝ほどの大きさの玉が、蒼愛の手の中に現れた。 七色に輝くその宝石は、先に作った玉より明るい光を放って、強い霊気を帯びていた。「どうでしょうか」 宝石を乗せた両手を月詠見に差し出す。 蒼愛の手の中の石を摘まんで、月詠見がまじまじと観察する

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     月詠見の提案で、蒼愛にはすぐに日の加護と暗の加護を与えられる運びになった。 大きな卓をどかして、蒼愛は紅優と並んで座り、月詠見と日美子に向き合った。 「まずは蒼愛が全属性の力を使えるようになるのが先決だ。今でも四つの属性は使えているようだね。日と暗も紅優の妖力で補えているが、弱い。俺たちが加護を与えれば、より確実に使えるようになる」 月詠見がさっきまでとは打って変わって真面目に話し始めたので、驚いてしまった。 真面目な顔の月詠見が、掌を上に翳す。 手の中に黒い神気が浮かび上がった。 隣の日美子の手には白い神気が浮いている。 二人が、もう片方の手をぴたりと重ねた。 白い球体と黒い球体が合わさった。 球体の中で白と黒の色がマーブル模様を作っていた。(白と黒の万華鏡みたいだ。綺麗だなぁ) 日美子と月詠見の神力を、蒼愛はぼんやりと眺めていた。「日と暗の神力を、蒼愛の霊元に沁み込ませるよ。最初は衝撃が強いと思うから、紅優が後ろでしっかり支えるように」 月詠見に促されて、紅優が蒼愛の後ろに回り込んだ。 小さな体を大きな手が支える。 蒼愛は後ろを振り返って、紅優に笑いかけた。「ありがとう、紅優」「頑張ってね、蒼愛」 前に向き直ると、月詠見が蒼愛の肩に手を掛けた。「それじゃ、入るよ」 掌の白黒の神気が蒼愛の胸に押し当てられる。 まるで吸い付くように、月詠見の神力が蒼愛の中に入り込んできた。「ぁ……温かい」 体中に広がった神力が霊元に吸い込まれる。  優しい温かさが体を巡って、意識が薄れる。「蒼愛!」 紅優の声で、閉じかけた目を開いた。 月詠見の手が伸びて、蒼愛の顎を掴まえた。「仕上げだね」 唇が重なって、大量の神力が流れ込んでくる。 胸の奥の方から、大きな力が湧き上がってくる感覚がした。「んっ&hell

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