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3◇不埒な虫

Auteur: 設樂理沙
last update Date de publication: 2025-12-19 22:57:20

 娘の美誠が3才、息子が生後8か月の頃、私は会社のイベントで

バーベキューに参加した。

 毎回参加しているわけではなくて、この時は3回めの参加だった。

 子連れなので、多少何度か話したことのある水谷あかねという女子社員

が子供を見てくれたり、料理の準備など私のサポートをしてくれた。

 彼女は既婚者で子供のいないDinksのキャリアウーマンだそうで

このことは、以前参加した時に本人から直に聞いている。

 彼女は私より年上で、常識を持ち合わせた安心感のある人だ。

 話をしていると分かる。

 今回たまたま夫が娘を抱いて離れた場所へ行ったことで、この彼女と

ふたりきりになる時間があった。

 息子は上手い具合にバギーの中で寝ていた。

 私たちは野菜を次々に切っていかなくちゃならなくて、ふたりで

手分けして野菜を洗った。

 その時、彼女から次のような言葉を掛けられた。

「由宇子さんも綺麗だからモテるでしょうけれど……」

 えーっ、お世辞合戦なの?

 お世辞合戦はきらい。

 思ってなくても相手のことをいろいろ持ち上げないといけなくなるから。

 はっきりいって既婚者で子持ちになってまで、そういうのは

勘弁だなぁ~なんて、思った。

 だけどそうじゃなかった……そうじゃなかったのだ。

 話は私が想像だにしてなかったことだった。

           ◇ ◇ ◇ ◇

「ご主人の大倉さんも、なかなかモテるみたい」

「そうなんですか?」

 そっか、まだまだ夫……いけるんだ。

 ふ~ん。

「由宇子さん、ごめんなさい。

 もったいつけた言い方はもうやめますね。

 奥さんを不安にさせたり煽ったり面白半分で言うのじゃないことだけは

最初に言っておきますね。

 これから私がお話することはあまり愉快な内容じゃないんです。

 今回たまたま奥さんがイベントに参加されたこと……

しかも、私がなんとなく一緒に側でお手伝いするような役回りに

なったことで、踏ん切りがつきました。

 そう言って彼女は話を続けた。

 話すつもりはなかったようだけれど、事件簿が起きてからそんなに日が

過ぎていないことと、今日私が会社のイベントに参加したこと、そして

2人目が生まれていたことなどを知り、本当に迷ったが、話しておくべきか

と思ったのだそうだ。

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  • 『パラレル』─ 愛の育み方を間違え相手の気持ちを理解できず、愛を失くした男の物語 ─   67. ループしない  (最終話)

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  • 『パラレル』─ 愛の育み方を間違え相手の気持ちを理解できず、愛を失くした男の物語 ─   64 ◇元妻と今の夫、そして子供たちの姿を見て……からその後 ②

     それは単身赴任を受ける話をした日の、元妻の姿と反応だった。 俺は妻のことを知らず知らずのうちに、蔑にしてたのだろう。 あの時、由宇子は俺に何かをポソッと呟いてた。 俺はソコを華麗にスルーしていた。 どうして今になってそのシーンが蘇ってきたのだろう。 大事なことだからかもしれない。 俺は由宇子の呟きを思い出そうと努力した。 何度か記憶を手繰り寄せてはその声無き声を聞き取ろう、思い出そうとした。 まずは前後の会話を思い出すことからはじめてみた。                     ◇ ◇ ◇ ◇「ねぇ、会社からの強制じゃないなら単身赴任はやめてもらえない? 私も子供たちを連れて一緒に行ければいいけれど、こちらで自営(税理士)のお客様もたくさんついてるし、子供のこともあるし。 何年で帰ってこれるかだけでも確定していれば、策も練られるけれど、それも分からないでしょ? 中途半端でまたこちらに帰ってくることを考えたら、就学時期を跨ぐ形になる子供たちにも大きな負担を強いることになるし……。 だからってあなたにすぐにひとりで行かれたら私、不安だわ。 いろいろと……」*「今までだって単身赴任のようなものじゃないか! 申し訳ないとは思うけど、長時間勤務や出張で子育てには参加できてないし、ただ寝に帰ってるようなものだしね。 心配しなくてもあんまり君たちの環境は変わらないと思うよ?」 あっ、そうだった。 俺のこの台詞のあと、元妻が何かぼそっと言ったんだった。 俺は頭の中で繰り広げられる過去の会話の中の肝心の元妻の次の台詞をじっと待った。「そっか、ならいいや。もういらないや」 あの時は聞く耳持たずスルーしていた元妻の言葉が、すっと耳にはっきりと入ってきた。「ならいいや、もういらないや」 あの時、元妻は俺のことをもういらないとはっきり言っていたのだった。 大切な元妻《ひと》からの大事な言葉を、いとも簡単にスルーしてた自分の態度に、頭を抱えたくなった。 頭の中がガンガンしはじめ、胸が苦しくなってきた。 

  • 『パラレル』─ 愛の育み方を間違え相手の気持ちを理解できず、愛を失くした男の物語 ─   63 ◇元妻と今の夫、そして子供たちの姿を見て……からその後 ①

     あんなに仕事が好きだった俺。 なのに、どうにも意欲が湧かない。 独身になったのだから……身軽になったのだから……もう子供のことや家庭のことにも時間を割いて欲しいと懇願されることもなくなり、煩わしさから解放され思い切り仕事ができるというのに、全くヤル気が出ない。 おかしいじゃないか! 単身赴任と同じようなものじゃないか。 この8年間シングルと同じような生活でガンガン仕事をこなしてきたのに。 いや、違う。 同じなんかじゃないことは、己が一番よく知ってるだろ? 確かに独り身で子供や妻のために時間を割く必要もない。 だけど大きく違うものがあった。 父親として慕い夫として頼りにしてくれてた子供や妻が、もう俺とは違う誰かを慕い、頼りにしているっていうこと。 他所に幸せを求めて俺の元から去って行ったということ。 今の俺は誰かに慕われることもなく、頼りにされることもない。 そう、愛してくれる家族がいないっていうこと。 俺はこんなことになるまで、こんなにも家族の存在が俺を元気付け、安心感をもたらしてくれるものだとは気付けなかった。 仕事を思い切りするには、家族のことは足枷にこそなれプラスにはならないと傲慢なことも考えていたけれど、ものすごい勘違いもいいとこだった。 子供たちと妻がいたから仕事に生きがいを感じることができ、ヤル気も出ていたのだ。 そんな風に自分の大いなる思い違いを後悔している時に、あるシーンが唐突に蘇った。

  • 『パラレル』─ 愛の育み方を間違え相手の気持ちを理解できず、愛を失くした男の物語 ─   62 ◇元夫が帰還したその後で ⑥

     元夫はどうしても単身赴任したかった。 私はどうしても行ってほしくなかった。 私たちの元に居て欲しかった。 だけど、私は好きな夫《ひと》の邪魔もしたくはなかった。 どうしようもないじゃないの。 だから別れた。 異性関係の心配ばかりしているような生活は嫌だった。          ◇ ◇ ◇ ◇  俺はあっち《単身赴任先》でもやらかして、由宇子はきっと自分の選択は間違ってなかったと改めて思ったことだろう。 自分としては微塵も浮気心はなかったとの想いが、胸の内にあるが。 微塵も? 自分の胸に今一度問うてみる。 異性と同じ部屋にいることに対する心地よさは? ゼロだったとは言いがたいかも。 しようがないじゃないか。 若くて綺麗な同僚と1つ同じ部屋にいたのだ、少しくらいうきうきした気持ちになっても。 だが由宇子はそういうのも嫌だったのだろう。 まさしく浮かれた気持ちさえも。 俺の気持ちは全部、由宇子に向けていて欲しかったということ。 それは裏返して突き詰めてみれば、俺は由宇子からそれほど愛されてたってことだ。 今なら分かる。 こちらに帰って来て事情を知った同僚から言われた言葉。*「奥さんも付いて行ければよかったのにね」 当時俺は逆にそこには拘っていなかった。 むしろ喜んでた節があるくらいだ。 思い切り独身のように仕事ができるって。 俺って詰んでたんだな。

  • 『パラレル』─ 愛の育み方を間違え相手の気持ちを理解できず、愛を失くした男の物語 ─   14 ◇勇者

      出演していた妻たちは、大人しく控えめで健気に見えた。  何年も誘ってはこない夫を、身奇麗にして待ち続けていた。 そこから見えるモノ。 恐らく家庭でのいろいろなことに気配りし振り向いてもらうために、 頑張っているのだろうことが伺い知れた。 それを見ていた頃は、まさか我が身にそんなことが降りかかろうとは 露ほども思ってなくて……。 見ていてやりきれなくなったのを覚えている。 『そんなヤツ《旦那》身奇麗にして待つ必要なし。  捨ててやれっ』──なんて思いながら見てたったけ。  同じ身の上になってしまったけれど、考えは変わらない。 そんなやばいヤツ《旦那》……以下同文。 

  • 『パラレル』─ 愛の育み方を間違え相手の気持ちを理解できず、愛を失くした男の物語 ─   13 ◇拒絶の言葉

     昨夜は口から心臓が飛び出すんじゃないかと思うほど驚いた。 離れることになったとはいえ、約1年と数か月ぶりに夫が誘ってきたからだ。 動画の中で放たれた夫の言葉を聞いていなければ……私はきっと戸惑いながらも喜んで、夫の誘いを受け入れただろうと思う。 だけど、もう遅いのよ将康。 遅いの……。 私は気がつくと、ぴしゃりと拒絶の言葉を放っていた。 何も考えていなかった。 口が勝手に答えていたのだ。 どうしようもなかった。 良かったのか悪かったのか。 ただ、昨夜の件が今後の私たちの行く末を大きく暗示しているのではないか? そんな風に思えてならなかった。 悲しい夜だった。 

  • 『パラレル』─ 愛の育み方を間違え相手の気持ちを理解できず、愛を失くした男の物語 ─   12 ◇赴任前夜

     仕事をしながらの子育ては大変だろうけれど、今だって、激務の俺はなかなか家事育児は手伝えていない。 深夜帰宅することもあるから、考えようによっては、今の状況のほうが逆に大変だと思うのだが……。 朝食に夕飯、洗濯等1人分なくなると、随分楽になるんじゃないのか? 妻の仕事は義父の経営する事務所で、実家の義母も近くに居て子供たちのことは今まで通り頼めるし。 浮気のことを何やら言ってたけれど、本気でそんなこと気にしてるのか? 自分で言うのもなんなんだが、据え膳も喰わない男なんだ。 そこは心配しなくていいんだよって妻を説得したいところだが、あまり言うと薮蛇になって逆に心配させてもい

  • 『パラレル』─ 愛の育み方を間違え相手の気持ちを理解できず、愛を失くした男の物語 ─   11 ◇幸せが壊れようとしている

     毎日顔を見なくても平気なんだ。  私とまだ幼い子供たちを置き去りにして平気なんだ。  私が他の誰かのモノになるなんて、1mmも危惧しないんだ。  何年にも及ぶかもしれない単身赴任で、果たして…… 夫はきれいな身体で帰ってくるだろうか。  遠く離れた地で、そんな心配をして暮らすのなんて真っ平だ。 夫の強い希望で、今まで築き上げてきた穏やかで健やかな1つの家庭が、 離ればなれの不安定なモノに変わろうとしている。 今の幸せが壊れようとしている。  そんな考え方しかできない私。 夫は単身赴任で家を離れ、そして単身赴任を終え、またこちらに 帰ってきてからも、今と同じ家庭がある

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