「ねぇ、今度こそ―――― 会社から打診されている仕事を受けようかと思ってるんだ」 「打診って……それって強制じゃなかったよね、確か。 別に今まで通り本社での仕事を続けていてもいいんでしょ? 単身赴任しないといけないなんて、私は応援できないわ」 以前にも夫から、一度昇進するためにも単身赴任の仕事を受けてみたいと 聞かされたことがあった。 本当なら子供もまだ未就学なのだから、思い切って子供を連れて 帯同すればいいのかもしれない。 しかし私たち夫婦には、現在、そして夫婦の結婚前からの将来設計などを 鑑みても、夫にくっ付いて行くということは選択肢になく、夫がどうしても その新しい仕事に取り組みたいとなれば、単身赴任は必至だった。 その夫の単身先の仕事というのは、家族にとってものすごく厄介だった。 あちらに居る期間がどれくらいなのか、全く決められていないのだ。 子供を持つ既婚者がするような仕事じゃないわよ全く。 会社も会社よね。 どうして出先に出ないと出世ができないような仕組みにするのか? 社長に文句言ってやりたいくらい。 こんな仕事形態《勤務形態》なので、出世を捨てて安定した家族との生活を 選んでいる社員も少なくはないのだとも、夫からは聞いている。 就職してからすぐに頭角をめきめきと現し、会社に将来を嘱望される ようになった夫は――――。 私と結婚した時には、すでに激務をこよなく愛するモーレツ仕事人間《社員》になっていた。 それでも恋愛中、そして新婚時代、第一子妊娠中、娘が3才になるか ならないかの頃まで……まぁ、第二子出産辺りまでは、それでも土・日は家に 居られるような生活だった。 夫は、娘のことも可愛がってくれたし、家族に目が向いてたように思う。 そんな私たちの結婚生活は、6年が過ぎようとしていた。
Last Updated : 2025-12-19 Read more