로그인「達彦ちゃんに会いたい。ぼちぼち結婚の話も進めたいなぁ~」 友紀から2ヶ月振りにきたメールがこの内容だった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 確かに俺もぼちぼちだなぁ~っていうか1年前にこの境地になっていたんだよなぁ。 今となってはよかったのか、悪かったのか。 友紀の提案で結婚が1年延びたわけなんだが、延びたこの1年余り友紀が他の男との子を身ごもり、暮らしていた事実を知ることになる。 どう考えても俺が保険代わりにされていた事実は消えない。 惨めだ……惨め過ぎる。 こうなると友紀のおやっさんにも腹が立ってくる。 あんたが結婚までは清い身体でと拘ってたあんたの娘、とんでもないビッチじゃないかよって、言ってやりたい。 小学生の頃からの長い付き合いの相手にこんな仕打ちをされて、結婚できるほど俺はできた人間じゃない。 現実を知った当初は衝撃的過ぎて驚きと戸惑いが勝り、友紀に対してどういう対応をとればいいんだ、なんて腑抜けでヘタレなことを考えていたような気がする。 ……が、どういう対応もこういう対応もないじゃないか。 答えはひとつだ、と自分のヘタレ具合を戒め固く決心。 例え自分の心がまだ友紀を好きであったとしても……離れるのがつらいと感じたとしても……ここは人としての筋道を通さなければ、いつか後悔することになるんじゃないかと思う。 友紀は俺を裏切ってたんだよ? なのに黙って俺と結婚しようなんて、いけしゃあしゃあと言える人間なのだ。 俺を男と破局した時のための保険にした女だよ。 よもや自分がこんな最悪な経験をするとは、夢にも考えたことなどなかった。 悔しくて情けない。 こういう時はあまり先を見据えない方がいいのかもしれない。 ひとまずは、1つずつだ。 1つずつ片付けていけばいい。 俺は仲間友紀に会いに行った。
「茂兄《しげにぃ》、それ俺の子じゃないよ200%」「……?」「俺一度も友紀と性交渉したことないから。 あいつの親父さんが厳しい人で、籍を入れるまではそういうことはしてくれるなって俺たち言われてたから、今日までその約束守ってる。 一体誰の子を流産したんだろう? 参ったな」*「お前さぁ、1度興信所使ったほうがいいかもな」 ◇ ◇ ◇ ◇ 従兄弟には白黒はっきりつけたほうがいいと進められていたけど、勇気がなくて結局調べたのはつい最近になる。 クロ、真っ黒だった友紀。 そして追い討ちをかけるようにそのあとの友紀からの『結婚しよう』発言。 興信所からの報告には同棲相手とのいざこざや別れたことまでは調べられてなかった。 ちょっとした時間差っていうヤツかな。 きっと別れたのほんの少し前なのだろう。 揉めず、相手の男とこのまま暮らしていたとしたら、俺との婚約の件はどうしたんだろうな。 まっ、そんなことは今更だ。 どう返事しようか俺は迷いに迷った。 それはこんなことをされても友紀のことが好きだったからだ。 こういうところも友紀に舐められて付け込まれてる一因なんだろうな。 迷ってた俺が決心できたのは茂兄のお陰だ。『まだ達彦も友紀ちゃんも若いじゃないか。 お互いすっきりと別の道を探したほうがいいような気がするぞ』 と言われた。「友紀ちゃんはあんなだからすぐに新しい相手見つけるさ。 お前にはこの俺様がいい子探してやんよ? 友紀ちゃんに縋られてもちゃんと跳ね除けろよ? 結局はお互いのためなんだから」「茂兄、ありがと。 茂兄のお陰ですっぱりと友紀と別れる決心がつきそうだ」 ◇ ◇ ◇ ◇ 茂兄の言ってたとおり、婚約は取り止めにすると言ったら想像以上に友紀になんでだと縋られてびっくりした。 茂兄のアドバイスがなかったら、押しまくられ寄り切られていたかもな。 なかなか諦めてくれなかったから、妊娠して流産してたことや男と暮らしてたこと、バレてんだぞって言った。 友紀の反省の言葉がなかったことが、俺にとっての修羅場だった。 結局最後まで言い訳ばっかしてた。 謝罪の言葉がなかったことが決めてになったかな。 俺の心は1mmも友紀に動かなかった。 何か女性不信になりそうだ。
婚約者の仲間友紀が怪しい行動を取っていることを知ったのは、従兄の茂さんからの連絡がそもそもの始まりで、その後いろいろ相談に乗ってもらってる。 それで友紀の結婚発言のことも相談した。「本当に分からないのか? 鈍いんだよお前! そりゃあ、今一緒にいる相手と上手くいかなくなったからに決まってるだろうよ。 きっとあれだな、1年前に本当のことをお前に言わなかったってことは、お前はその男と上手くいかなかった場合の保険だったんだよ。 ほんとにタチの悪い小賢《こざか》しい小娘だよ。 結婚はよく考えて決めろよ。 俺ならすっぱりやめるけどな」と従兄から辛口のコメントをもらった。 従兄と友紀も挨拶する程度には顔なじみで、ちょうど1年前の今頃、俺は従兄から妙な話を聞かされていた。 ── 1年前 ──「なぁ、達彦、友紀との結婚はどうなってんの?」「あぁそれね、友紀の希望で1年後に延びた」「ふ~ん! お前たちちょっと大変だったんだな」 妙なことを言うなぁと思った。 たいへん? なにが?「友紀ちゃんもお前も残念だったな」「何が? よくわからんけど」「友紀ちゃんから何も報告受けてないのか? 」「報告? え~と、結婚を延ばしてほしいっていうのは聞いたけど。 他に何かあったっけ? ふむ」「ふむって……ふむって、お前」「俺たまたま休みの日で、暇だから昼休み碁を打ちに医局に出向いたんだわ。 そしたらちょぅど病院前でタクシーから降りてくる友紀ちゃん見たのよ」「へぇ~」「婚約者が病院ってお前何か気がつかないのか?」「ぜんぜん! 」「まっいいわ。 何気に気になって受付に声かけたら受診先、産婦人科だった。 で、その日の外来が俺のダチでさ、身内がお世話になったみたいだけどって診断内容聞いたわけ」「そういうの確か、だめでしょ? メッ!」 「だめでしょって……おまっ……友紀ちゃん流産してたんだよ? なんでお前そんなに平静なんだよぉ……ってか、知らされてなかったんならしょうがないけどな。 あれか、友紀ちゃん赤ちゃんが上手く育たなかったから、言いづらかったんだな、きっと。 健気《けなげ》だねぇ~」
何なのあの私を馬鹿にしたような態度。 私、あんたが思うほど馬鹿じゃないんだから。 バァ~カ! こんなこともあろうかと婚約者の達彦ちゃんには、もう少し仕事したいからって婚約延期してもらってたのぉ──。 婚約破棄なんてしてませんから。 あんたみたいに何度もお金をせびってこられたら、いくらボンヤリさんの私でもおかしいって思うわよ。 達彦ちゃんを保険にとっといて良かった。 心の底からそう思った。 もともと達彦ちゃんと結婚するはずだったんだし、少し伸びただけのこと。 籍も汚れてないみたいだし、私にしたら万々歳だよ。 私はまだ若い。 やり直しなんていつでもできんのよ。 妻から捨てられたあんたとは違うんだよ。 私はそう毒づきながら捨てられた鬱憤を晴らし、その足で実家へと向かった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 実家に戻ってからしばらくして落ち着いた頃、これまでも怪しまれないほどには会ったり連絡を取ったりしていた達彦ちゃんに、会ってぼちぼち結婚の話も進めたいなぁ~ってことで電話してみた。 喜び勇んで駈け付けてくれると思ったのに、達彦ちゃんの返事はそっけなかった。 2か月前に会った時は私に会うことが決まると、すごく喜んでくれていたのに。 一体どうしたのだろう? ◇ ◇ ◇ ◇ 本当なら、約1年ほど前に結婚していたかもしれない幼友だちの仲間友紀という婚約者がいる。 同い年で若いこともあって婚約期間を1年延ばしてほしいとお願いされそれをのんだ。 俺としては一日でも早く結婚したかったんだけどね。 すっごい好きな相手で1mmも嫌われたくなくて、物分かりのいい顔をして了承したんだ。 それなのに友紀は年上のそれも既婚者とこの1年同棲してた。 一連の流れて興信所に頼んでた結果が、1週間ほど前に出たところだった。 だから突然昨日結婚したい、と結婚のことを仄めかす発言があってびっくりした。 今暮らしてる男のことは? どうするつもりなんだ?
「えっ、私できる限りのことしてきたつもりよ。 お店のために何百万円って払ってきたわ。 それなのにそんなのおかしいわよ。 じゃあって……じゃあって何なの? 」「おかしくてもおかしくなくても、お終いなんだわぁ~」「ふざけないでっ! 私と結婚したのはお金のためだったの? 」「そうだよっ、他に何があんだよ」「……」「勝手に離婚なんてできないんだから、バカじゃないの。 それに離婚、離婚って離婚したら困んのあんたなんだからね。 私から借りたお金全部請求させてもらうしぃ」「あっれえ~っ、私があなたからお金借りたっていう証明書……借用書でもあるんですかっ? 」「……」「そういうのないと、請求できないんでございますのよ。 馬鹿は騙しやすいわな。ハハハっ」「弁護士つけて、なんとかするわよ。見てなさい」「おぅおぅ、やってみろよ。 弁護士でも槍でも鉄砲でも持ってこいってぇ~の。 そもそも俺とお前は結婚してないんだから、どうにもならないんだよ」「結婚してないって、どういうこと? 」「だ・か・ら、そいうこと。 婚姻届出してませぇ~んでした」「騙したのねぇ~。死ね」「人を呪うんじゃなくて自分のオツムの緩さを呪いな。 よく考えてみろよ。 お前のせいで家庭を失くした俺が何でお前とホイホイ結婚するんだよって話。 こんな話誰にもしないほうがいいぞ! 自分がいかに馬鹿かっていうのを証明するようなもんだからな。 お前の親が何か文句言ってきたら、お前が俺にしたことで反撃させてもらうから。 人の家庭壊したヤツがそう簡単に幸せになれると思うなよ」「酷い、ひどい……人でなしあんたなんて、天罰が下るわよ」 今頃何言ってんだか。 もうとっくに天罰くだってんだよ。 下したの、てめぇじゃないか!
彼女には婚姻届を出したと言ってあるが、実はそんなもの出しはしなかった。 そう、最初から彼女と結婚するつもりなどさらさらなかったから。 仲間との結婚は、俺から妻と子どもを奪った彼女に復讐してやろうと考えての計画だったのだ。 復讐をコレ幸いと、実家が裕福らしい仲間友紀から店が出している赤字補填のためにちょこちょこ金を出させた。 幼馴染との婚約を破棄したのによく親がホイホイと金を出してくれるものだと思っていたが、どうもそうではなかったらしい。 俺の勝手な思い込みだったってわけだ。 成人した時に親からまとまった額を生前贈与で貰ってた金を、友紀が俺のために融通してくれてたようだ。 何度目かにそう聞いた。 何度目かの俺からの金の無心に、もうこれ以上は応えられなくなりそうで、とうとう、真実を語ったのだろう。 そんなもん、語られても語られなくても俺にとっちゃぁどうでもいいいことなんだがな。 金さえ、引っ張れればさ。 友紀と暮らすようになってから1年が経っていた。 この間に俺が彼女から引っ張った額は8桁に近付いていた。 正直こんなに引き出せるとは思ってなかった。 時を同じくして…… 1年前の今頃彼女は流産していたのだが、その心の傷も癒えたのか『そろそろ子供が欲しいね』と言うようになった。 その彼女の言葉が合言葉のように俺の最後の計画を、後押しすることとなった。 子供が欲しいなどと、ふざけた寝言を望まなければ もう少しやさしい良い夫を演じてやっても良かったのに。 欲張りな女は嫌いだ! これを最後にと、駄目元で再度金を用意できないか? と訊いた俺に……『店の赤字補填には親からの生前贈与を当てていたがそれも底をついた今、婚約破棄のことがあるから親には借りることができないの。 だから店へ投入するお金は自分にはもう支払えない』と友紀が悲しそうに言った日、俺は最大級の爆弾を落としてやった。 ◇ ◇ ◇ ◇「じゃあ、俺たちの関係もこれでお終いだな」







