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2年後

Auteur: 雫石しま
last update Date de publication: 2025-07-11 11:35:24

 明穂は鏡に映った自分に問いかけた。本当にこれで良かったのか? 吉高のプロポーズを受け入れたのは、大智の面影をその瞳に見たからではないのか? 純白のウェディングベールに包まれ、彼女の心は迷いで揺れる。鏡の中の自分は、弱視ゆえにぼやけ、まるで答えを拒むようだ。そのとき、白い薔薇のブーケが届けられた。清らかで重い花束を手に、明穂はこれからの人生を重ねる。薔薇の香りは、吉高の誠実さと約束を運ぶが、心の奥で囁く声。

 

「もし、大智が帰ってきたらどうするの?」

 

 その思いが消えない。窓の外、春の陽光が教会のステンドグラスを彩り、柔らかな光が部屋を満たす。明穂はブーケを胸に抱き、目を閉じる。吉高の優しさと大智の不在が、彼女の心でせめぎ合う。仙石家と田辺家の約束が、彼女を吉高へと導いたが、大智の記憶はなおも鮮やかだ。ベールの下、明穂の唇は小さく震える。薔薇の重みが、未来への決意と不安を同時に押し寄せる。彼女は鏡に向かい、そっと呟いた。

 

「私は、幸せになれるよね?」

 

 荘厳なパイプオルガンの音色が、明穂の人生の新たな一歩を導いた。父親に手を引かれ、深紅のバージンロードを進む。弱視の瞳には、ぼやけた世界が柔らかな光に包まれる。仙石家の両親は涙を流して喜び、明穂の母親は感慨深く頷いた。参列席からは感嘆の溜め息が漏れ、子どもたちが「お姫様みたい!」「綺麗だね!」と目を輝かせる。マリアと百合の花に彩られたステンドグラスから差し込む光の中に、吉高が温かな笑顔で手を差し出す。明穂の心は一瞬、大智の面影に揺れたが、吉高の誠実な眼差しに引き戻される。

 

「これでいいのだ」

 

 彼女は自身に言い聞かせる。プロポーズの瞬間、薔薇のブーケの重みが蘇る。仙石家と田辺家の約束、吉高の献身、すべてが彼女をここへ導いた。バージンロードの先、吉高の手を取る瞬間、明穂は自身の選択が間違っていなかったと信じた。教会の空気は花の香りに満ち、オルガンの響きが未来を祝福する。明穂は微笑み、吉高の手を握り返した。その温もりに、彼女は新たな希望を見出した。

「汝、仙石吉高は、この女、田辺明穂を妻とし、良き時も悪き時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分つまで、愛を誓い、妻を思い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

「誓います」

「汝、田辺明穂は、この男、仙石吉高を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分つまで、愛を誓い、夫を思い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻のもとに、誓いますか?」

「誓います」

 神のみ前で誓いの口づけを交わした瞬間、明穂の目尻に涙が浮かんだ。教会に響くパイプオルガンの荘厳な音色、マリアと百合の花に彩られたステンドグラスの光の中、参列者たちはその涙を感動の証と信じた。仙石家の両親は微笑み、吉高は明穂の手を優しく握りしめる。だが、明穂の心は別の場所に彷徨っていた

 

 それは大智との別れの涙だった。

 

 深紅のバージンロードを歩む中、彼女の胸には大智の面影が疼く。かつての約束、絵葉書に綴られた短い言葉、色褪せた世界を切り取ったデジタルカメラ。それらが、吉高の温もりと交錯し、明穂の心を締め付ける。彼女は目を閉じ、唇に触れる吉高の誠実な愛を感じながら、なおも大智の不在を埋められない自分に気付く。

 

 参列席の子どもたちの「お姫様みたい!」という声が遠く響く。明穂は微笑みを浮かべ、涙を隠した。吉高の手を握り返し、未来を選んだ自分を信じようと努める。ステンドグラスの光が、彼女の白いベールに虹色の影を落とし、祝福と哀しみが交錯する瞬間を照らした。

 

「吉高さん、怖い」

「大丈夫、僕も初めてだからゆっくり慣れていこう」

 

 明穂と吉高は、なにもかもが初めてだった。初々しい二人は、仙石家と田辺家が建てたバリアフリーの一戸建てで新生活を始めた。白い壁に囲まれた家は、明穂の弱視を考慮した優しい設計だ。慎ましやかで穏やかな日々――朝はコーヒーの香りで始まり、夜は静かな食卓を囲む。だが、テレビの画面に反応しない明穂、ドライブ中に窓の外をぼんやり見つめる彼女に、吉高は物足りなさを感じ始めていた。

 

 明穂の微笑みは愛らしいが、その瞳には大智の影がちらつく。吉高はそれを振り払うように、彼女の手を握るが、返される反応はどこか希薄だ。庭の薔薇が咲く午後、明穂は縁側でそっと鼻歌を歌う。吉高はその声に耳を傾けながら、胸の奥で疼く空虚に気付く。彼女の心に届きたいのに、まるで届かぬ距離があるかのようだ。夕陽がリビングをオレンジに染める中、吉高は思う・・・この穏やかな日々は、明穂の心を本当に満たしているのか? 自分は彼女の全てになれているのか? 大智の不在が、二人の間に静かな波紋を広げていた。

 

ーーーそして2年後

「紗央里」

 

 暗い寝室に、健常者では聞き取れない微かな呟きが響いた。明穂がそっと起き上がり、ツインベッドを隔てるナイトテーブルの上で、眩しい光が点滅する。スマートフォンの通知が、静寂を切り裂く。明穂の弱視の瞳は光をぼんやり捉え、胸にざわめきを広げる。

 

(紗央里、紗央里って誰?)

 

 心の中でその名が反響する。月光がカーテンの隙間から差し込み、寝室の白い壁に淡い影を落とす。吉高の寝息が穏やかに響く中、明穂は震える指で布団を引き寄せる。と、そのとき、携帯の点滅に目を覚ました吉高が手を伸ばした。「う、ううん」と小さく呟き、明穂は慌てて布団に潜り込み、眠ったふりをした。

 

 心臓が早鐘のように鳴る。通知音が止み、寝室は再び静寂に包まれる。明穂は目を閉じ、紗央里という名の謎と、大智の影に揺れる自分を抱きしめた。吉高の温もりが近くにあるのに、彼女の心は遠くを彷徨っていた。


(・・・・・!)

 吉高は携帯電話の画面を確認し、ゆっくりと身を起こした。その動きは、肉食獣が獲物を狙うような静けさを湛え、明穂の胸に冷たい予感を走らせる。彼は無言でベッドを降り、寝室の扉をゆっくり閉めた。カチリという音が、静寂の中で異様に響く。それは映画やドラマでよく耳にする、緊迫した場面の前触れのようだった。明穂の喉は締め付けられ、息が詰まる。

 

 「紗央里」という呟きが、彼女の心に重くのしかかる。あの名前は吉高の知られざる一面なのか? 弱視の瞳では捉えきれぬ闇の中、明穂は布団の中で身を縮めた。彼女の心臓は早鐘を打つ。彼が何をしようとしているのか、知るのが怖かった。穏やかな新婚生活、バリアフリーの家での温もりが、今は遠い記憶のようだ。明穂は目を閉じ、吉高の気配を感じながら、寝室の空気は、凍りつくような緊張に満ちていた。

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  • あなたが囁く不倫には、私は慟哭で復讐を   ひかりの中

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    2年後、夏の午後。仙石家の2世帯住宅は、賑やかな笑い声で満ちていた。建て替えられた家は、バリアフリー設計で、明穂の視覚障害を考慮した点字ブロックや手すりが備わる。向日葵が咲く縁側では、明穂の母親が「だいなちゃーん、ばぁばの所においで!」と双子の大奈を呼び、柔らかな声が響く。1歳半の大奈が、よちよちと歩き、母親の膝に飛び込む。「大奈、女の子みたいな名前だなぁ」そう言って明穂の父が笑う。「そうよねぇ」と大智の母親が相槌を打つ中、大智は枝豆を頬張り、テーブルに肘をついてニヤリと笑った。「ウルトラマンにダイナっているんだよ!俺のヒーローなんだよ!」汗をかいたビールジョッキを手に得意げに言う。「大智は、昔から怪獣好きだったもんね」眩しい光に目を細め、明穂が笑う。彼女の声は、子供の笑い声に混じり、穏やかに響く。双子の明奈が「きゃっきゃっ」と笑い、仙石の父親が「あきなちゃーん、明菜ちゃんはじぃじが好きだよなぁ!」と抱き上げる。「仙石さん、なに言うとるんじゃ!明奈はわしのことが一番好きなんじゃ!」と田辺の父親が対抗する。「ほれ、わしが抱っこすると笑うとる!」と田辺の父親が得意げに言うと、「私でも笑います!」と仙石の父親が負けじと応じる。子供たちの無邪気な笑顔が、夏の陽光に照らされた部屋を温かく彩った。窓辺には、朝顔の鉢植えが並び、明穂の子供時代を思い起こさせる。心配だった双子の弱視も、乳児検診で異常なしと分かり、家族は安堵に包まれた。新しい家は、子供たちの笑い声と両親の温かな会話で満ち、希望に輝いていた。 その時、玄関の扉が明るい音を立てて開いた。「こんにちはー!お義父さん、お義母さん、白峰名産の固豆腐買って来ましたー!」と快活な声。吉高と再婚した恵子が元気に登場し、隣で吉高が「た・・・・ただいま」と照れくさそうに呟く。仙石家に新たな家族が加わった。吉高は白峰診療所のデイケアセンターで知り合った恵子と再婚。物静かな吉高に対し、恵子はかかあ天下の明るさで家を盛り上げる。「不倫の心配はなさそうね」と明穂は心の中で微笑んだ。恵子は、村の名産品を手に、キッチンに立つ。恵子は持ち前のポジティブさで、「出会った順番が違っただけなのよ!ね!」と、吉高の前妻が明穂であることを素直に受け入れた。「これ、固豆腐の煮物にしたら美味しいのよ!明穂ちゃん、好きよね?」 「

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  • あなたが囁く不倫には、私は慟哭で復讐を   結婚式②

    教会の準備は、数か月前から始まっていた。大智と明穂は、夏のカフェでのプロポーズ後、仙石家と田辺家を巻き込んで結婚式を計画した。明穂の視覚障害を考慮し、教会はバリアフリーが整った金沢の古い聖堂を選んだ。点字のプログラム、音声ガイド、手すりの設置。すべてが、明穂が安心して歩けるように整えられた。仙石家の母親は、明穂のウェディングドレス選びに付き添い、田辺家の父親は、大智に「明穂を頼むぞ」と握手を求めた。家族の絆は、吉高の過ちで傷ついたが、2人の愛がそれを修復しつつあった。吉高の参加は、母親の強い希望だった。「あの子も、明穂ちゃんの幸せを見届けるべきよ」 母親は、吉高のやつれた姿に胸を痛めながら、白峰村に手紙を送った。「母さん・・・・」吉高は迷った。明穂と大智の前に立つ資格はない、と思った。だが、母親の言葉と、仙石家の食卓での素麺の記憶が、吉高を動かした。あの夏、大智が明穂とのプロポーズを語り、吉高に「ちゃんとやり直せよ」と言った。あの言葉が、吉高の心に残っていた。白峰村での生活は、厳しくも静かだった。診療所は、村の小さな集落にあり、患者は高齢者が多い。風邪や関節痛、時折の怪我。大学病院の乳腺外科医としての華やかさはなく、ただ、目の前の患者と向き合う日々だ。同僚の冷たい視線も、看護師の囁きもない。だが、夜の山の静けさは、吉高に過去を思い出させた。明穂の笑顔、朝顔の鉢植え、子供の頃の3人の夏。白峰村で、吉高は自分と向き合い始めた。過ちを繰り返さない、と心に誓った。教会のゲスト席では、田辺家の親戚が涙を拭う。子供たちが、花びらを手に、明穂のドレスを眺める。「お姫様みたい!」「大智さん、カッコいい!」 無邪気な声が、教会に響く。仙石家の父親は、静かに微笑み、母親はハンカチを握りしめる。「大智、明穂ちゃんを幸せにしなさいよ」 母親の声は、優しく、だが強い。大智は祭壇で、明穂の手を握り、頷いた。「当たり前だろ」 明穂は、白杖を手に、大智の腕に寄り添う。彼女の視界はぼんやりだが、大智の声と手の温もりが、すべてを補う。吉高は花束を抱きしめ、ステンドグラスの光を見つめた。百合の香りは、明穂の笑顔を思い出させる。あの夏、彼女の朝顔の鉢植えを手に、3人で歩いた道。吉高は、明穂を愛していた。だが、嫉妬と傲慢が、その愛を壊した。大智への劣等感、紗央里との逃避、学会での屈辱

  • あなたが囁く不倫には、私は慟哭で復讐を   結婚式

    荘厳なパイプオルガンの音色が教会に響き、仙石家と田辺家のゲストを温かく包み込んだ。金沢の古い教会は、12月24日の牡丹雪に静かに覆われている。マリアと百合の花が飾るステンドグラスから、赤や青の色とりどりの光が差し込み、祭壇を神聖な輝きで照らす。大智と明穂は愛を誓う。互いの瞳には10年の思いが宿り、柔らかな光の中で向き合う二人の姿は、まるで永遠を約束する絵画のようだった。ゲストの祝福の拍手と、子供たちの無邪気な囁きが、教会の高い天井に響き合う。「汝、仙石大智は、この女、田辺明穂を妻とし、良き時も悪き時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分つまで、愛を誓い、妻を思い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」 神父の声が、厳粛に響く。「誓います」 大智の声は、力強く、明穂の手を握る手に熱がこもる。「汝、田辺明穂は、この男、仙石大智を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分つまで、愛を誓い、夫を思い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻のもとに、誓いますか?」 「誓います」 明穂の声は、柔らかだが確かだ。白杖を脇に置き、大智の手に導かれ、彼女の微笑みがステンドグラスの光に映える。祭壇で、大智と明穂は熱い口付けを交わした。牡丹雪を溶かすような長いキスは、10年の試練を乗り越えた愛の深さを物語る。明穂のウェディングドレスのレースが、光に揺れ、大智のタキシードの黒が、彼女の白を引き立てる。ゲスト席から、温かな拍手が沸き起こる。仙石家の母親は、顔を赤らめながらタキシードの裾を引っ張り、「良い加減にしなさい!大智!」と笑顔で叫んだ。田辺家の父親は、ハンカチで目を拭い、母親は明穂の幸せに涙を流す。ゲストの笑い声と祝福が、教会を温かく満たした。教会の鐘が荘厳に鳴り響く片隅で、髪を短く刈り上げた吉高が静かに佇む。その隣は空虚で、誰もいない。白峰村の診療所で過ごした1年半は、吉高の顔をやつれさせたが、目はどこか落ち着きを取り戻していた。灰色のスーツは、かつての乳腺外科医の華やかさを失い、質素なものだ。百合の花束を手に持つゲストの中で、吉高だけが、何も持たず、ただ祭壇を見つめる。大智は祭壇で、明穂の手から百合の花束を奪い取り、柔らかな花の香りを纏わせ

  • あなたが囁く不倫には、私は慟哭で復讐を   悔いる日々②

    「早く座りなさい」食卓では、仙石家の母親が忙しく動き回っていた。素麺を湯切りし、氷水に浸した鉢をテーブルに置く。父親は新聞を広げ、時折、ため息をつく。吉高のスキャンダルは、仙石家と田辺家の絆に深い傷を残した。明穂の両親は、離婚届の代筆と委任状に印を捺す際、涙を流したという。母親は、吉高を叱りながらも、息子のやつれた姿に胸を痛めていた。「吉高、ちゃんと食べなさい。やせ細っちゃって」 声は厳しいが、愛情が滲む。吉高は黙って頷き、素麺を箸で掬った。大智は、黙々と食べながら、窓の外を見た。ガラスの風鈴の舌がくるくると回っている。「なにボーっとしてんだよ、素麺、延びるぞ」 「あ・・・・・うん」吉高と明穂の結婚は、仙石家と田辺家の長年の絆の象徴だった。バリアフリーの新居は、両家が建築費を折半して建てた。明穂の視覚障害を考慮し、点字ブロックや手すりが完備された家だった。子供の頃、吉高と大智は、明穂を囲んで笑い合った。夏休みには、朝顔の鉢植えを手に、3人で近所の公園を歩いた。あの頃の明穂の笑顔は、吉高の心を温めた。だが、大智の存在が、いつも吉高を追い詰めた。大智は行動的で、明穂をリードする姿が自然だった。吉高は、静かな優しさで明穂を守ろうとしたが、どこかで劣等感を抱いていた。その劣等感が、紗央里との不倫に繋がった。紗央里は、大学病院の看護師だった。彼女の明るさは、吉高の心に新たな光をもたらした。だが、それは一時的な逃避だった。学会での暴露は、大智と瀬尾の計画だった。吉高の研究データを借り、壇上でスキャンダルを公開。大智が演じた「仙石吉高」は、完璧な偽物だった。映像が流れた瞬間、吉高のキャリアは崩壊した。同僚の冷たい視線、看護師たちの囁き、医局長の怒号。吉高は、耐えられなかった。食卓で、母親が大智に尋ねた。「大智、明穂ちゃんとはどうなの?」 「順調だよ。昨日、ケーキ屋でプロポーズした」 「ケーキ屋?なにそれ、雰囲気ないわね」父親が新聞から目を上げて眼鏡を外した。「明穂ちゃん、喜んでたか?」 「ああ、向日葵の指輪、喜んでた」 「良かったじゃない、明穂ちゃん、幸せにしてあげなさいよ?」 母親の声が弾む。吉高は、箸を止めて大智を見た。「大智、明穂ちゃんと・・・・」 「ああ、ちゃんと守るよ。お前と違ってな」 大智の言葉は、鋭く突き刺さる。吉高は目を伏せ

  • あなたが囁く不倫には、私は慟哭で復讐を   プロローグ

     生まれつき弱視の仙石明穂(25歳)は、結婚2年目の専業主婦として穏やかな生活を送っている。高校卒業後、幼馴染で医師の仙石吉高(28歳)にプロポーズされ、愛情に満ちた結婚生活が始まった。吉高の優しさと支えに包まれ、明穂は日々の小さな幸せを大切にしていた。朝の柔らかな陽光の中、吉高が淹れるコーヒーの香りに癒され、共に過ごす時間が心の安らぎだった。 しかし、その穏やかな日常に、微かな波紋が広がり始めていた。彼女の心の奥底で、何かが静かに変わりつつあるのを感じていた。かつては完全に信じていた吉高との未来に、かすかな不安が忍び寄る。明穂はそれが何かをまだ言葉にできず、ただ静かにその感覚を抱えていた

  • あなたが囁く不倫には、私は慟哭で復讐を   プロポーズ

    明穂23歳、吉高25歳の事だった。 大智からの連絡が途絶え、明穂は空虚な日々を送っていた。心にぽっかり空いた穴を埋めるように、彼女は大智との別れの約束を守り、デジタルカメラを手に色褪せて見える景色を撮り続けた。街角の古い喫茶店、夕暮れの川辺、誰もいない公園、どれもが大智の不在を囁くようだった。両親やクラスメートたちは明穂の塞ぎように気遣い、優しい言葉をかけたが、その傷は決して癒えることはなかった。 ただ時折、大智から絵葉書が届く。色鮮やかな異国の風景と、短い走り書きのメッセージ。明穂はそれを胸に抱きしめ、静かに涙を流した。そばでそんな明穂を見つめる吉高の心は、嫉妬と無力感でざわめいた。彼

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     田辺明穂は仙石家の双子の兄、吉高を《吉高さん》と丁寧に呼び、弟の大智を《大智》と呼び捨てにした。年齢を重ねるごとに、四角四面で過保護な吉高とはどこか距離感が生じ、会話もよそよそしくなった。一方、自由奔放ながらも温かく見守ってくれる大智とは心の距離が縮まり、気軽に冗談を交わす仲に。明穂は大智のざっくばらんな性格に安心感を抱きつつ、吉高の真面目さにも尊敬の念を持っていた。それでも、双子の異なる魅力に挟まれ、明穂は自分なりのバランスを探し続けていた。「明穂ちゃん、何処でも勝手に行っちゃ駄目だよ」「如何して駄目なの」「何処に行っているのか心配だよ」 明穂は息が詰まりそうだった。「何処って

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