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第2話

Author: ジャイアン
蓮がすぐに続ける。

「ほら、聞いただろ?莉奈だってお前に気を遣ってたんだよ」

私は蓮を見た。

「じゃあ私、莉奈にお礼でも言えばいい?」

言葉に詰まった蓮は、それでもすぐに笑って、私の頭を撫でようとした。

「はいはい、俺の言い方が悪かった。だからそんな怖い顔で見るなって」

私はその手を避けた。

蓮は気にした様子もなく、莉奈のキャリーケースを持ち上げた。

「分かった。ホテルまで送ってくる」

私の横を通り過ぎる瞬間、声を落とす。

「帰りに甘栗買ってくるよ。昔からあれ食べたら機嫌直ってただろ。今さら効かないとか言うなよ」

二人が出ていったあと、私は一人で寝室を片づけ始めた。

ベッドサイドテーブルの裏に、一枚の引っ越し見積書が挟まっていた。

日付は5日前。

出発地はホテル。

届け先は、この家。

備考欄には――

【長期居住予定。荷物多数。取り扱い注意】

【依頼人――高橋 蓮】

裏返すと、引っ越し業者が赤ペンで一文を囲っていた。

【寝室の家具は撤去済み。そのまま搬入してください】

私は、その文字をじっと見つめた。

5日前。

私はグループチャットで、【新居の片づけ、みんな何日なら来られる?】と聞いていた。

三人とも、【忙しい】そう答えた。

つまり――

最初から「莉奈が帰ってきたこと」がサプライズだったわけじゃない。三人はとっくに、私の知らないところで全部決めていた。

あとは私が笑って受け入れる。そう思っていただけなのだ。

三日後。

私の26歳の誕生日。

午後6時40分。

蓮は時間どおりに現れた。私の好きな白いチューリップの花束を抱え、もう片方の手にはケーキ。

「ほら、約束の時間通りだ。遅刻してお前の機嫌を損ねるなんて、俺には到底できないからね。これで、お前の笑顔を拝めるかな?」

思わず、少しだけ笑った。

蓮が眉を上げる。

「やっと笑った。お前、この数日ずっと、暗い顔してたぞ」

兄と花乃も時間どおりにやって来た。

蓮がプレゼントを私の前へ差し出す。

ずっと欲しかったブレスレットだった。

「この前、店の前を通ったとき、ずっと見てただろ。あれで分かった」

蓮は自分の手で、私の手首にブレスレットをつけた。指先がそっと肌に触れる。

「美月、お前は男変えないほうがいいぞ。

だって、こんな面倒くさいクセだの習慣だのを全部覚えてくれる男、次はなかなか見つからないからね」

花乃が横から笑う。

「もう早く入籍しなよ。毎日毎日、こっちが恥ずかしくなるんだけど」

その瞬間。本当に、少しだけ迷った。

――新居のことは、もういいんじゃないか。そう思った。

ケーキにナイフを入れた、そのときだった。

蓮のスマホが鳴った。

画面を確認した蓮は、電話に出なかった。

二度目。それでも出ない。

スマホを裏返してテーブルに置く。

「今日は誰の面倒も見ない」

私は顔を上げた。

蓮は笑った。

「言っただろ?今日は誕生日の美月が一番」

けれど、その直後。今度は兄のスマホが鳴った。

電話を終えた悠真の顔色が変わる。

「……莉奈からだ。航平の結婚式の招待状が届いたらしい。今、ひどく酔っ払っていて…」

航平――あの黒田航平(くろだ こうへい)か?莉奈の元婚約者だ。

花乃のスマホにもボイスメッセージが届いた。

莉奈は息もまともにできないほど泣いていた。

「来なくていいから……ただ、なんか急に……私って本当に駄目だなって思って……」

兄はもう上着を手にしていた。

「俺、行ってくる」

花乃も一瞬迷ってから立ち上がる。

「私も行く」

蓮だけは動かなかった。

それどころか、私の皿に魚を一切れ載せる。

「二人いれば十分だろ」

胸の奥に残っていたわだかまりが、ほんの少しだけ消えた。

――けれど。

10分後。

蓮はまたスマホを持ち上げた。三度目に画面を確認したところで、私は言った。

「行きたいなら行けば?」

蓮が眉を寄せる。

「誰が行きたいって言った?メッセージ返してるだけだよ」

その5分後。

トイレから戻ってきた蓮の手には――車の鍵が握られていた。

「……ちょっと行ってくる」

私は蓮を見つめた。

「さっき、今日は誰の面倒も見ないって言ったよね」

「分かってる」

「じゃあ、なんで行くの?」

一瞬、苛立ちが顔に出た。けれど蓮はすぐにそれを押し殺し、私のうなじを軽くつまんだ。

「莉奈、相当酔ってるらしい。悠真じゃ押さえられないって。

花乃も莉奈がずっと吐いてるって言ってる」

そして、いつものように笑う。

「病院まで送るだけ。30分で戻る」

そう言って、私の額に軽くキスをした。

「ケーキ、一切れ残しといて。戻ってきたら、続きやろう」

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